平成16年度環境の状況


第1部 総説 脱温暖化─“人”と“しくみ”づくりで築く新時代


第1章 京都議定書で地球の未来を拓く


 平成17年2月に京都議定書が発効しました。これにより、日本をはじめ、温室効果ガス排出量の削減を約束した先進国及び市場経済移行国(京都議定書でいう附属書I国)にとっては、その数値約束を守ることが法的な義務となりました。附属書I国はそれぞれ、2008年(平成20年)から2012年(平成24年)までの第1約束期間に向けて温室効果ガスの削減対策を進めていかなければなりません。
 京都議定書は、温室効果ガスの排出量を削減し、大気中の温室効果ガス濃度を一定水準以上に上昇させず、安定化させるという人類の長きにわたる挑戦の第一歩に過ぎません。しかし、京都議定書の約束達成に向けた着実な取組は、脱温暖化社会の構築に向けた重要な意味を持ちます。

第1節 京都議定書が動き出した


1 京都議定書が発効した


 平成9年12月に京都で開催された、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3。以下「京都会議」という。)において、日本が議長国として取りまとめ、全会一致で採択された京都議定書が、平成17年2月に発効しました。これを機会に、京都議定書とは何かを振り返り、発効の意味を考えます。

(1)数値約束を定めた京都議定書
 京都議定書は、気候変動に関する国際連合枠組条約(以下この章において「条約」という。)に明記されている、「共通だが差異ある責任及び各国の能力に従い」「先進国が率先して気候変動に対処すべき」との考え方に基づき、先進国及び市場経済移行国(附属書I国)の温室効果ガス排出量の削減に関する具体的な数値約束を初めて定めた画期的なものです。この議定書は、目標達成のための政策・措置の選択が各国に委ねられたこと、各国の数値約束が差異化されたこと、森林等の吸収源による二酸化炭素吸収量を算入すること、京都メカニズムが導入されたことなどの点でも重要な意味を持っています(表1-1-1)。


表1-1-1 京都議定書の概要


(2)多くの国が締結して発効した
 京都議定書の具体的運用ルールは平成13年に開催された条約の第7回締約国会議(COP7)において、マラケシュ合意として正式に文書化されました(表1-1-2)。

 マラケシュ合意により、各国では議定書批准の準備が整い、EUや日本などの主要な先進国の締結が進みました。そして、平成16年11月にロシアが批准したことにより、発効の要件が満たされました(図1-1-1)。


表1-1-2 マラケシュ合意の概要

図1-1-1 京都議定書の発効条件と締結状況


2 京都議定書発効の意味


 京都議定書が発効したことにより、附属書I国には数値約束を守る義務が生じました。また、クリーン開発メカニズム共同実施といった京都メカニズムが本格的に動き出します。国際社会は重要な一歩を踏み出したことになります。
 一方、附属書I国の中でも、世界の二酸化炭素排出量の約4分の1を1か国で占める米国や、オーストラリア等が議定書に参加していないという課題があり、こうした国々に対し引き続き参加を働きかけていくことも重要です。

(1)約束の三つの側面
 京都議定書の約束には、三つの側面があります。
 ア 国際社会との約束
 京都議定書の数値約束は、条約の考え方を具体化するものとして、国際社会が合意した唯一のものであり、附属書I国は温室効果ガスの削減を国際的に約束しました(表1-1-3)。


表1-1-3 附属書I国の温室効果ガスに関する数値約束


 イ 地球との約束
 地球温暖化は、人類だけでなく、生きとし生けるものすべてに影響が及ぶ深刻な問題です。京都議定書は、人類が地球の生態系全体を守るための約束をしたものといえます。
 ウ 未来との約束
 気候変動の影響はすでに世界各地で顕在化しつつあると考えられています。京都議定書は、気候変動の将来の世代に及ぶ影響をできるだけ少なくするために、現在の世代が将来の世代に対して温室効果ガスの削減を約束したことになります。
 これらの側面は、議定書の発効により「コンセプト」から「現実」となりました。

(2)先進国の温室効果ガス排出の現状
 1990年(平成2年)と直近の先進国の温室効果ガス排出の状況を比較すると、京都議定書に参加していない米国、オーストラリアをはじめ、日本、カナダなどで排出量が増加しています。EUは全体ではやや減少しており、ロシアなどの市場経済移行国では大幅に減少しています(図1-1-2)。


図1-1-2 主な先進国の温室効果ガス排出量の変化


 日本では、2003年度(平成15年度)の温室効果ガスの総排出量が13億3,900万トン*となっており、京都議定書の基準年(1990年。ただし、HFC、PFC及びSF6については1995年。)の12億3,700万トン*に比べると8.3%上回っています。日本の第1約束期間の数値約束は6%削減であり、その差は14.3%と拡がっています(図1-1-3)。(*は二酸化炭素換算の数値)


図1-1-3 日本の温室効果ガス排出量




コラム 「京都」からのメッセージ

 平成17年2月16日、京都会議の会場であった国立京都国際会館において、京都議定書発効記念行事を開催しました。
 京都会議の議長であった、大木浩元環境庁長官などの基調講演が行われたのをはじめ、世界各地から京都議定書の発効を祝福するリレーメッセージが寄せられました。
 基調講演では、ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイ ケニア環境副大臣が「一人ひとりの行動が議定書を実り多いものにするかどうかを決める。」と述べました。リレーメッセージでは、小泉総理大臣が「日本は、世界の先頭に立って地球温暖化対策を進めていく。」と決意を表明しました(http://www.kyoto-protocol.jp/)。

写真 ワンガリ・マータイ ケニア環境副大臣による基調講演



 また、記念行事でも資源の有効利用の重要性を訴えたマータイ女史は、日本語の「もったいない」が3Rの精神を表すのに分かりやすいとして、同年3月に開催された「国連婦人の地位向上委員会」などで世界に向けてアピールしました。


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