第1部 総説 広がれ環境のわざと心


序章
 環境革命の時代へ

 便利さや快適さの追求により環境負荷が増加してきました。しかし、技術の進歩などで、生活の質を維持しながら環境負荷を減らす可能性が生まれています。日本の二酸化炭素排出量の中で、産業部門からの排出は引き続き最も大きな割合を占めているものの、産業活動が市場の需要に依存していることに着目すれば、消費者の行動によって、ものやお金の流れを変え、産業活動を変革する可能性があります。こうして、「産業革命」や「IT革命」に続く、いわば「環境革命」が生まれます。
 私たち一人ひとりが、社会経済の主人公として変革へのリーダーシップを発揮することで、時代を大きく変えることができます。

 第1節 便利さや快適さを追求したこれまでのくらし

1 増えるエネルギー消費と地球温暖化

 これまで私たちが求めてきた便利で快適なくらしは、エネルギー消費を増やしてきました。「自動車輸送統計年報」(国土交通省)によると、平成14年度の自家用乗用車の走行量は約6,344億kmで、平成2年度から20.2%増加しています(図序-1-1)。また、車両の大型化(重量化)などを原因として、走行キロをエネルギー消費量で除した実走行燃費も、平成2年度の9.46km/lから平成13年度の8.38km/lへと悪化しています(図序-1-2図序-1-3)。

自動車走行キロ数の推移(平成2年度から14年度)


自家用乗用車の実走行燃費の推移
車種別保有台数と車体重量平均値の推移

 自動車走行距離の増加と実走行燃費の悪化により、燃料の燃焼に伴うエネルギー消費量が増加しています。輸送機関別のエネルギー消費量の推移をみると、自家用乗用車のエネルギー消費が大きな割合を占めるとともに(平成12年度において全体の43.2%)、消費量が著しく伸びています(図序-1-4)。エネルギー消費は、燃料の燃焼による二酸化炭素や大気汚染物質の排出という環境負荷を生じさせています。
 家電製品についても、さまざまな製品の普及率が増加しています。29インチ型以上のカラーテレビの普及率は、平成4年3月時の30.5%から平成15年3月時の53.1%へと増加しました。また、パソコンの普及率は同期間に12.2%から63.3%へ、温水洗浄便座の普及率は同期間に14.2%から51.7%へと、急速に増加しました(図序-1-5)。
輸送部門における輸送機関別エネルギー使用量の推移

主要家電製品の世帯普及率


 家電製品の普及率の増加は、世帯数の増加と相まって、家庭からのエネルギー消費量の増加をもたらしています。家庭の需要電力量は、平成2年度の1,410.8億kWhから平成13年度の1,930.7億kWhへと大幅に増加しました(図序-1-6)。家庭からのエネルギー消費は、発電時の化石燃料の燃焼により二酸化炭素を排出させています。
 日本の2002年度(平成14年度)の二酸化炭素排出量は12億4,800万トン、1人当たり排出量は9.79トン/人で、1990年度(平成2年度)と比べ、排出量で11.2%、1人当たり排出量で7.8%増加しました。
 部門別にみると、産業部門からの排出量は468百万トンと最大です。一方、1990年度比でみると、産業部門が横ばいからやや減少傾向にあるのに対し、運輸部門、家庭部門、業務その他部門(卸小売、事務所・ビル等)からの排出量が大きく増加しました(図序-1-7)。個々の機器の効率向上の一方で、エネルギー需要は年々増加しています(輸送部門における輸送機関別エネルギ-使用量の推移用途別世帯あたり二酸化炭素排出量)。
従量電灯A・B(家庭用電力)の電力需要量の推移

日本の二酸化炭素排出量


 エネルギー消費による二酸化炭素排出の増加は、地球温暖化の一つの要因になっています。平成13年にまとめられた気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3次評価報告書によると、20世紀中、地球の平均地上気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)は0.6℃±0.2℃上昇したものと評価されています。さらに、平均地上気温は1990年から2100年の間に1.4~5.8℃上昇すると予測されています(図序-1-9)。

用途別世帯あたり二酸化炭素排出量
地球の地上気温の変動

2 ごみとして廃棄されるプラスチック製容器

 くらしから、多くのごみが排出されています。平成13年度のごみの総排出量は5,210万トン、国民1人当たりで1日に約1.1kgでした。このうち、生活系ごみが約67%、事業系ごみが約33%で、生活系ごみのうち、容器包装が容積比の約61%、湿重量比の約24%を占めています(図序-1-10)。
 近年、プラスチック製容器の生産量が増えました(図序-1-11)。プラスチック製容器は、軽くて持ち運びやすい、強くて丈夫、加工しやすいなどの特長があります。その一方で、プラスチック製容器は容積比でみると生活系ごみの約4割を占めており、便利な生活をもたらすプラスチック製容器が廃棄された場合には、廃棄物として環境へ負荷を与えることとなります。
プラスチック容器生産量の推移

生活系ごみに占める容器包装廃棄物の割合(平成13年度)


3 最終処分場のひっ迫と不法投棄

 リサイクルの進展などによる最終処分量の減少にもかかわらず、依然として最終処分場はひっ迫しており、その確保が大きな問題となっています。平成13年度末の一般廃棄物最終処分場の残余容量は1億5,261万m3で、前年より2.9%減少しました。残余年数は全国平均で12.5年です。
 また、平成13年度末の産業廃棄物の最終処分場の残余容量は1億7,941万m3で、前年度より332万m3増加しました。残余年数は全国平均で4.3年です。
 最終処分場のひっ迫とともに不法投棄も多くみられ、生活環境への悪影響が懸念されています。

コラム
 産業廃棄物の不法投棄

 産業廃棄物の不法投棄については、ここ数年、毎年約900~1,000件程度の新たな事例が判明しています。
 平成9年に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(昭和45年法律第137号。以下「廃棄物処理法」という。)が改正され、事業者等の拠出による産業廃棄物適正処理推進センター基金が作られましたが、平成9年の廃棄物処理法改正の施行前からの不法投棄も残っています。このため、これらの不法投棄について都道府県等が自ら支障の除去等の事業を行う場合の必要な経費の国庫補助等を定めた「特定産業廃棄物に起因する支障の除去等に関する特別措置法」(平成15年法律第98号)が施行されました。この法律に基づき、香川県の豊島や青森・岩手の県境で以前行われた不法投棄について、除去を行うことになりました。
(※不法投棄の詳細については、平成16年版循環型社会白書の序章参照。)

序章1節コラム 青森・岩手県境不法投棄現場写真

 第2節 環境革命の胎動

 産業活動は需要に依存していますので、消費者の日々の選択に応じて事業者の環境配慮の取組が変わると考えられます。私たち一人ひとりが社会経済の究極の主人公・主権者として環境保全に取り組むことは、産業を含めた社会全体の大きな変革につながります。
 近年、環境負荷を低減させるさまざまな技術が盛り込まれた製品が見られるようになりました。変革への胎動が始まっています。

1 低公害車

 最近、ハイブリッド自動車をはじめとする低公害車の普及が進んでいます。(社)日本自動車工業会によると、低公害車(電気自動車、ハイブリッド自動車、天然ガス自動車、メタノール自動車)、低燃費かつ低排出ガス認定車「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(昭和54年法律第49号。以下「省エネ法」という。)に基づく燃費目標基準値早期達成車で、かつ低排出ガス車認定実施要領に基づく低排出ガス認定車)の平成14年度(2002年度)出荷台数は、全車種合計で3,646,949台、対前年度比153%となりました。特に、低燃費かつ超-低排出ガス(☆☆☆)認定車は1,639,782台、対前年度比676%(1,397,337台増)と高い伸びを示しています。これを同期間の四輪自動車国内出荷台数比でみると、低公害車、低燃費かつ低排出ガス認定車合計は国内出荷台数の65.8%、低燃費かつ超-低排出ガス認定車は国内出荷台数の29.6%を占めています(図序-2-1)。
 買い換えの際、こうした低公害車を選ぶことで、二酸化炭素や大気汚染物質などを減らすとともに、環境負荷を低減させる技術の一層の進歩を呼び起こすことができます(図序-2-2)。

四輪自動車総出荷台数に占める低公害車の割合
ガソリン自動車と低公害車の二酸化炭素排出量

コラム
 自動車の環境ラベル

 4つ星マークのステッカーが付いた車は、自動車排出ガスがNOx、PM等の有害物質の排出を平成17年基準値より75%以上低減した自動車(3つ星マークは、同基準より50%以上低減した自動車)であるとして、低排出ガス車認定制度に基づき認定を受けた車であることを示すものです(図序-2-3)。
 また、新たに自動車の燃費性能を公表・表示する制度(自動車燃費性能表示制度)が平成16年1月から始まりました。燃費性能の表示として「燃費基準達成車」、「燃費基準+5%達成車」は、それぞれ図序-2-4のステッカーを貼り付けることとしています。
 自動車を選ぶ際に、環境ラベル(ステッカー)を参考にして、低排出ガスで低燃費の車を選ぶことが、環境負荷の削減に役立ちます。


低排出ガス車認定制度のステッカー自動車燃費性能表示制度のステッカー


2 省エネ家電

 (社)日本電機工業会によると、平成13年に販売された各社主力冷蔵庫の平均の定格内容積は442lで、20年前と比較すると2倍近くになりましたが、内容積1l当たりの年間消費電力量は20年前の1/3以下へと小さくなりました(図序-2-5)。平成15年10月時点の最小消費電力量の機種は、定格内容積458lで年間消費電力量は180kWh/年(内容積1l当たり0.39kWh/年)です。これは、真空断熱材の採用、硬質ウレタンフォームの断熱性能の飛躍的向上やインバータ制御のコンプレッサー搭載などの技術革新が、消費電力を削減したからです。
 省エネ冷蔵庫は増えています。国内メーカーが生産し販売している冷蔵庫のうち、省エネ基準達成率100%以上の機種数の割合をみると、平成15年10月には省エネ基準(省エネ法に基づき定められた基準エネルギー消費効率)を達成するか、それ以上に省エネの機種が87.4%を占めています(図序-2-6)。
 家庭で使用される電力のうち冷蔵庫の占める割合は、平成13年度において16.5%を占めています。買い換えの際、年間消費電力量の少ない冷蔵庫を選ぶことは、二酸化炭素の排出低減に貢献します。

冷凍冷蔵庫の省エネ性能の推移
冷蔵庫の省エネ基準達成機種数の推移

コラム
 省エネルギーラベリング制度

 省エネルギーラベリング制度は、現在、電気冷蔵庫、電気冷凍庫のほか、エアコン、蛍光灯器具、テレビ、ストーブ、ガス調理機器、ガス温水機器、石油温水機器、電気便座の10品目が対象になっています。省エネ性能の優れた製品(省エネ基準達成率100%以上の製品)は、緑色のマークを表示することができます(図序-2-7)。
 ラベルは、カタログや製品本体などに表示されています。


省エネ性マーク


3 ペットボトル

 回収されたペットボトルは、粉砕しフレーク又はペレット化して、ポリエステル繊維などの原料として再商品化しています。平成15年秋には、ペットボトルを化学的に分解して原料に戻し再び樹脂を作る施設が操業し、ペットボトルを再びペットボトルとして再生することができるようになりました。
 「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」(平成7年法律第112号。以下「容器包装リサイクル法」という。)が本格施行された平成9年度におけるペットボトルの市町村回収率は9.8%でしたが平成14年度には45.6%に上昇しました。
 また、事業系回収率を含めると、ペットボトルの回収率は53.4%(PETボトルリサイクル推進協議会調べ)になりました。
 廃棄物を減らす生活をし、各市町村ごとの分別・収集方法に従って分別・収集に協力することは、資源の消費を抑制し、環境への負荷を減らす上で重要です。

コラム
 買い物には袋を持って

 福井県武生市が設置した知的障害者通所授産施設「ひまわり作業所」では、ペットボトルの再生布を用いた買い物袋を縫製しています。環境を考えてビニール袋に代えて使う買い物袋は、地域によりマイバッグ、エコバッグ等と呼ばれます。武生市は、市を挙げて環境保全に取り組んでおり、このような袋を持って買い物に行くことを勧めています。

序章2節コラム ひまわり作業所で製作された買い物袋1序章2節コラム ひまわり作業所で製作された買い物袋2


 第3節 環境の世紀を生きる

 豊かさを維持しながら、発生する環境への負荷を減少させる(環境効率性を高める)とともに天然資源の消費を削減する(資源生産性を高める)ことが、持続可能な社会を実現させることにつながります。
 日本の環境効率性は、排煙脱硝装置、脱硫装置の設置台数及び処理能力の増加によりNO2、SO2では向上しました。エネルギー、二酸化炭素では、近年、オフィス面積の増加などによって、個別の機器のエネルギー効率の上昇による改善が相殺されています(図序-3-1図序-3-2)。一方、資源生産性は高まりつつあり、天然資源の消費が抑制され環境への負荷が低減される社会は、徐々に近づいていることがわかります(図序-3-3)。

環境効率性の推移(NO2平均濃度、SO2平均濃度)

環境効率性の推移(最終エネルギー消費量、CO2排出量、一般廃棄物排出量)


 環境からより多くのものを得ようとして環境に大きな負荷を与えてきた20世紀は、終わりました。21世紀は、環境の持つ価値を重視し、環境と共に生きる「環境の世紀」にしていかなければなりません。環境負荷を減らし、世代を通じて生活の質を高めながら将来世代と環境の恩恵を分かち合うという意識革命や、これが生み出す技術革新等によって、くらしや社会経済活動にさらに大きな発展が生まれます。こうした発展を「産業革命」や「IT革命」に続く「環境革命」と呼ぶことができます。私たち一人ひとりが行動することで、環境の世紀に新たな可能性が開けます。 資源生産性の推移

コラム
 環境効率性と資源生産性

 環境効率性とは、財やサービスの生産に伴って発生する環境への負荷に関わる概念です。同じ機能・役割を果たす財やサービスの生産を比べた場合に、それに伴って発生する環境への負荷が小さければそれだけ環境効率性が高いということになります。図序-3-1は、国内総生産をNO2、SO2等の環境負荷で割ることによって算出しています。
 資源生産性とは、豊かさを増大させながら資源消費の削減を目指す指標です。GDP(国内総生産)を天然資源等投入量(国内・輸入天然資源及び輸入製品の総量)で割ることによって算出しています。