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第3節 

1 各分野における具体的な施策

(1)地球温暖化問題における取組
 ア 地球温暖化に関する科学的知見
 地球温暖化は、人間活動に伴って排出される温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、フロン等)の排出量の増加と二酸化炭素の吸収量の減少により大気中の温室効果ガスの濃度が高まり、地球の気候システムに大きな変動を生じさせるものです。
 2001年(平成13年)に取りまとめられたIPCCの第3次評価報告書によると、1990年と比較して地球の平均地上気温は、21世紀末までに1.4〜5.8℃上昇し、海面水位は9〜88cm上昇するとともに、自然生態系への影響、洪水と高潮の頻発、干ばつの激化、食料生産への影響等が生じると予測されています。

 イ わが国におけるこれまでの取組
 わが国は、従来より積極的な国内対策の推進に努めてきました。
 1997年(平成9年)12月のCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)で京都議定書が採択されたことを踏まえ、内閣総理大臣を本部長とする地球温暖化対策推進本部において、平成10年6月に「地球温暖化対策推進大綱」が決定されました。また、同年10月には「地球温暖化対策の推進に関する法律」が成立し、平成11年4月には「地球温暖化対策に関する基本方針」が閣議決定されました。
 このように、地球温暖化防止対策推進の基礎的な枠組みが整備されるとともに、これらに基づき、省エネルギーの推進、自然エネルギーの活用、安全性の確保を大前提とした原子力の推進等、エネルギー需給の両面にわたる対策をはじめとして各種の対策を推進してきました。
 その後、2001年(平成13年)10月にモロッコのマラケシュで開かれたCOP7(気候変動枠組条約第7回締約国会議)で京都議定書の運用に関する細則を定める文書が決定されたことを受け(図2-3-1)、平成14年2月13日には、地球温暖化対策推進本部において「京都議定書の締結に向けた今後の方針」が決定され、第154回通常国会における京都議定書締結の承認とこれに必要な国内担保法の成立に万全を期すことなどが決定されました。3月19日にはこの決定に基づいて新たな「地球温暖化対策推進大綱」が決定されるなど、京都議定書の早期締結・批准に向けた取組が進められています。



*共同実施
JI:Joint Implemen-tation
京都メカニズムの1つ。温室効果ガス排出削減等につながる事業を、削減目標を有する先進国間で実施するもの。その事業が実施されたホスト国で生じる削減量の全部又は一部に相当する量の排出枠を、その事業に投資した国がホスト国から獲得し、その事業に投資した国の削減目標の達成に利用することができる制度

*クリーン開発メカニズム
CDM:Clean Deve-lopment Mechanism
京都メカニズムの1つ。開発途上国において実施された温室効果ガスの排出削減等につながる事業により生じる削減量の全部又は一部に相当する量を排出枠として獲得し、その事業に投資した国の削減目標の達成に利用することができる制度。その事業が実施された途上国にとっても、自国に対する技術移転と投資の機会が増し、その持続可能な発展に資する。

 ウ 地球温暖化問題と経済との関係
 わが国の温室効果ガス排出量の約9割は二酸化炭素によるものであり(第2部第1章第1節図1-1-2)、その9割以上がエネルギーの使用に伴って発生しています(図2-3-2)。また、エネルギー消費量伸び率とGDP成長率は連動する傾向にあります(図2-3-3)。このようなことから、過度の二酸化炭素の削減対策を推進すれば、環境コストの上昇を通じ国際競争力の低下や産業の空洞化を招き、わが国の経済に対して悪影響を及ぼすのではないかという指摘がなされています。





 一方、地球温暖化防止対策は、エネルギー効率の改善や太陽光発電、風力発電等の自然エネルギーへの転換を促進するなど、環境産業における生産増加・革新的技術開発等への投資の増加・環境にやさしい消費へのシフトなどをもたらすことなどにより、経済対策にもつなげていくことができると考えられます。

 エ 温室効果ガスのさらなる削減に向けて
 (ア)1999年度(平成11年度)の温室効果ガス排出量
 現在、わが国は、第154回通常国会における京都議定書締結の承認と、これに必要な国内担保法の成立に万全を期すこととしていますが、わが国の1999年度(平成11年度)の温室効果ガスの総排出量は13億700万トンであり、京都議定書の規定による基準年の排出量(12億2400万トン)と比べ約6.8%の増加、前年度と比べると約2.1%の増加となっています(図2-3-4)。また、二酸化炭素排出量を部門別にみると図2-3-5のとおりであり、基準年である1990年度(平成2年度)からの推移をみてみると、民生、運輸部門の排出量が増加しています((第2部)図1-1-5)。





 このように、わが国の温室効果ガスの排出量は依然として増加しており、また、現行の対策・施策だけでは、2010年の温室効果ガスの排出量は基準年比7%程度増加になると予測されていることから、京都議定書の約束を達成することは決して容易なことではありません。
 このため、取り返しのつかない事態が生ずる前に、いわゆる「後悔しない対策(温暖化防止効果以外の面でも大きな効用があり、仮に温暖化が起こらなくても後悔しない範囲の対策)」を実施してきましたが、IPCCの第3次評価報告書でも述べられているように、温暖化の影響がより確かなものとなった現在では、それを超えた対策を実施していくことが必要となるといえます。
 (イ)地球温暖化対策推進大綱
 地球温暖化防止への取組は、京都議定書に定められた2008年から2012年までの5年間の第1約束期間での達成によって終わるものではなく、21世紀全体を見通して、さらなる温室効果ガスの削減に向けた長期的な取組に対応できるよう、温室効果ガスの排出削減を促す仕組みが組み込まれた社会、すなわち「脱温暖化社会」の構築が課題となってきます。
 新しい地球温暖化対策推進大綱においても、地球温暖化対策の目指すべき方向として、6%削減約束の達成のために必要と考えられる地球温暖化防止のための取組について、今日の段階で実施可能なものは直ちに実施し、早期に減少基調に転換した上で削減約束の達成を図るとともに、さらなる長期的・継続的な排出削減へと導くため、個々の対策を計画的に実施していくと同時に、21世紀のわが国の社会経済動向を踏まえ、各分野の政策全体の整合性を図りつつ、温室効果ガスの排出削減が組み込まれた社会の構築を目指すこととされています。
 また、対策の策定・実施に当たっての基本的な考え方として、1)温暖化対策への取組が、経済活性化や雇用創出などにもつながるよう、技術革新や経済界の創意工夫を活かし、環境と経済の両立に資するような仕組みの整備・構築を図ること(「環境と経済の両立」)、2)節目節目(2004年、2007年)に対策の進捗状況について評価・見直しを行い、段階的に必要な対策を講じていくこと(「ステップ・バイ・ステップのアプローチ」)、3)京都議定書の目的達成は決して容易ではなく、国・地方公共団体・事業者・国民といったすべての主体がそれぞれの役割に応じて総力をあげて取り組むことが不可欠であり、かかる観点から、引き続き事業者の自主的取組の推進を図るとともに、特に、民生・運輸部門の対策を強力に進めること(各界各層が一体となった取組の推進)、4)米国や開発途上国を含む全ての国が参加する共通のルールが構築されるよう、引き続き最大限の努力を傾けていくこと(「地球温暖化対策の国際的連携の確保」)を提示したところです。
 こうした対策の目指すべき方向性や考え方の下、エネルギー需給両面の対策を中心とした二酸化炭素排出削減対策の推進や、国民各界各層によるさらなる地球温暖化防止活動の推進、温室効果ガス吸収源対策の推進、京都メカニズムの活用等、さまざまな対策を国・地方公共団体・事業者及び国民が一体となって進めることとしています。
 (ウ)ポリシーミックスの活用
 効果的かつ効率的な温室効果ガスの排出削減のためには、自主的手法、規制的手法、経済的手法等、あらゆる政策手法の特徴を活かして、有機的に組み合わせるというポリシーミックスの考え方があります。
 費用対効果の高い削減を実現するため、市場メカニズムを前提とし、経済的インセンティブの付与を介して、各主体の経済合理性に沿った行動を誘導するという、いわゆる経済的手法がありますが、税、課徴金等の経済的手法については、他の手法との比較を行いながら、環境保全上の効果、マクロ経済・産業競争力等国民経済に与える影響、諸外国における取組の現状等の論点について、地球環境保全上の効果が適切に確保されるよう国際的な連携に配慮しつつ、さまざまな場で引き続き総合的に検討します。

(2)廃棄物・リサイクル問題における取組
 廃棄物・リサイクル問題については、最終処分場のひっ迫や大量の資源消費によりもたらされる資源枯渇等が経済活動への制約になるのではないかとの懸念があり、循環型社会の構築を進め、資源採取量の抑制や環境負荷の低減等を図る必要があります。
 具体的な取組として、拡大生産者責任の導入・強化や、適正な費用負担方式の導入、グリーン購入の推進等社会経済システム自体を改革する動きがすでに始まっており、これらを踏まえ最近の新しい考え方の動向について考察します。

 ア 廃棄物・リサイクル問題の現状
 わが国の廃棄物量は、昭和40年代以降の急激な増大を経て、昭和50年代に緩やかに増加し、平成元年以降はほぼ横ばい傾向にあります(図2-3-6図2-3-7)。これらの廃棄物は、焼却を中心とした中間処理を経た後、最終処分場に処分されています。
 近年、中間・最終処分場からの有害物質の排出、漏出などの懸念から、廃棄物処分場建設反対運動や高度処理への要請が高まっている一方で、廃棄物処分に係る費用の高騰、自治体や事業者への負担増、不法投棄といった問題が引き起こされています。





 また、新たに設置が許可された処分場数は近年減少しており、新規施設数も大幅に減少しています(図2-3-8)。最終処分場の残余年数は平成11年度末現在の推計で一般廃棄物12.3年、産業廃棄物3.7年とひっ迫し、早急な対策が必要となっています。



 一方、資源採取に関しては、第1章第1節でみたとおり、現在の社会経済活動を維持するためにも、環境から多くの物質投入を必要としており、また、投入された資源の5割程度が消費、廃棄に向かい、資源として再利用されているのは総物質投入量の約1割程度に過ぎません。
 他方、リサイクルへの取組は年々進められていますが、再生資源によっては、取引の際に一次資源との相対的な価格差競争条件により処理費用を支払って引き取られる、いわゆる逆有償の状況がおこるなどの問題も生じています(図2-3-9)。



 このため、天然資源に大きく依存し、大量の廃棄物の発生と環境への負荷を前提としてきた大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムから、廃棄物の発生を抑制し、資源としての循環的利用の促進、さらにエネルギーとしての利用などにより環境に与える影響が最小化された社会経済システムへの転換が必要となっています。

 イ 廃棄物・リサイクル分野における施策の展開
 循環型社会に向けた取組には、国民一人ひとりが「環境」の価値を認識し、環境に配慮した経済活動が適切に評価されていく仕組みづくりが重要となります。そのためには、資源の循環的利用や環境負荷の低減を円滑に市場に組み入れることにより、廃棄物の発生抑制を図ることが必要となります。また、静脈産業の高度化等の推進とともに、動脈産業においても、分離・選別が容易な製品設計や、廃棄物の発生を抑制する生産工程、さらに多様な長寿命化商品の生産やメンテナンスサービスの提供など「産業のグリーン化」を推進し、資源生産性の向上を図ることが重要となります。

 (ア)資源循環システムの構築
 天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される循環型社会の形成のためには、大量廃棄されるものをリサイクルするのではなく、廃棄物の発生を抑制(リデュース)し、製品・部品として再使用(リユース)した上で、それでもなお排出される廃棄物については原材料としての再生利用(マテリアルリサイクル)を行い、再生利用ができないものであって熱回収可能なものについては熱回収し、最後にこうした利用ができないものについては適正処分するということを基本とする物質循環の仕組みを、合理的なものとして社会に定着させることが必要です。なお、循環型社会形成推進基本法では、このような循環資源の利用及び処分の原則について、環境への負荷の低減に有効と認められる場合にはこの順位によらないこととしています。例えば、再生利用を熱回収より常に優先すると、エネルギー消費の増加を招き、むしろ熱回収の方が環境負荷の低減をもたらす場合もあることから、再生利用と熱回収をLCA等の客観的な評価に基づき適切に選択することも考えなければなりません。
 また、不法投棄を発生させないよう排出者責任を徹底し、廃棄物の排出者がその処理に必要な費用を適正に負担することや、有害物質等環境リスクの高い廃棄物の処理については安全性を最重視し、関係者の合意形成の下で役割分担を行い適切な処理システムを選択することなど、さまざまな視点に留意しつつ対策を進めることが重要となります。

 (イ)産業のグリーン化
 廃棄物を循環資源として最大限に活用するためには、製品別・産業別の取組だけでなく、廃棄物の分解・解体過程で発生する素材ごとに効率的な利用を行うシステムが必要です。このようなシステムの構築に当たっては、異分野の産業間の連携や横断的取組を促し、各種製品の寿命に基づく廃棄物の発生見通しや、素材別の経済的価値と需給構造等、循環資源の全体像を踏まえた取組が重要となります。
 このため、静脈産業の高度化とともに動脈産業についても、製品設計や生産工程において消費後の再資源化が容易となるような生産構造の転換が必要となります。これらの具体的な取組として、LCA*やDfE*等が企業に取り入れられつつあり、これらをさらに進展させながら、「産業のグリーン化」を推進する必要があります。

*LCA
ライフサイクルアセスメント。原材料採取から製造、流通、使用、廃棄に至るまでの製品の一生涯(ライフサイクル)で、環境に与える影響を分析し、総合評価する手法。製品の環境分析を定量的・総合的に行う点に特徴がある。

*DfE
Design for Environ-ment:環境保全のための技術開発や、環境に配慮した製品・サービスの開発・設計のこと。環境配慮型設計

 (ウ)地域循環システムの構築
 わが国は、人口分布や産業立地、土地利用状況などの点で地域ごとに多様性を有しており、廃棄物の種類や発生規模、再生資源の受け皿となる地域の状況の差異も大きくなっています。循環型社会を構築するためには、地域の特性に応じ、住民の選択・参画の下で実施される地域循環システムを構築することも重要となります。
 具体的には、ゼロ・エミッション構想推進のための「エコタウン構想」により全国各地でハード・ソフト両面からの取組が行われているほか、食品廃棄物のたい肥化や、農村・中山間地域における未利用の間伐材等のバイオマス資源としての活用等を推進していくことも考えられます。バイオマス資源の活用は、これまで廃棄物として処理されるなど利用されていなかった有機物を資源として利用することにより、資源の循環利用と最終処分量の減量につながることが期待されるとともに、地域における雇用増、経済の活性化につながることも期待されます。

 ウ 社会経済システムの改革へ向けた取組の推進
 市場経済へ循環型社会の形成への取組を織り込んでいくためには、拡大生産者責任の導入・強化や、適正な費用負担方式の導入、経済的手法の導入、グリーン購入の一層の推進等を通じ、社会経済システムの見直しを図っていく必要があります。
 (ア)拡大生産者責任
 拡大生産者責任*(EPR:Extended Produc-er Responsibility)とは、生産者が、その生産した製品が使用され、廃棄された後においても、当該製品の適正なリサイクルや処分について一定の責任を負うという考え方であり、具体的には、廃棄物等の発生抑制や循環資源の循環的な利用及び適正処分に資するよう、1)製品の設計を工夫すること、2)一定の製品について、それが廃棄された後生産者が引取りやリサイクルを実施すること等が挙げられます。拡大生産者責任を適切に導入することにより、生産からリサイクルまでの総コストが市場において適切に反映されるとともに、再資源化が容易な製品設計等の対応を促し製品のライフサイクル全体において最適化が図られることとなります。これまでみてきたように、現在の廃棄物問題の解決のためには、物の生産段階まで遡った対策が必要となっていることから、拡大生産者責任の考え方は循環型社会の形成のために極めて重要な視点となっています。

*拡大生産者責任
製品の製造者等が物理的又は財政的に製品の使用後の段階まで一定の責任を果たすという考え方

 OECDでは、1994年(平成6年)から環境対策の政策ツールの一つとして拡大生産者責任の検討を始め、2001年(平成13年)、OECD加盟各国政府に対するガイダンス・マニュアルが策定・公表されました。このマニュアルでは、拡大生産者責任を(表2-3-1)のようにまとめています。



 一方、わが国においても、循環型社会形成推進基本法において製品等の製造者等が果たすべき責務を規定するとともに、これに関する措置の実施を国に義務付けるなど拡大生産者責任の概念を明記しています。また、個別のリサイクル関連法において具体化が行われてきています。今後は、従来導入されていなかった分野についての導入を図るとともに、既に導入されている分野についても、その強化を図る必要があります。
 (イ)費用負担
 廃棄物・リサイクル対策の基本的な原則の一つに排出者責任があります。排出者責任とは、廃棄物等を排出する者がその適正なリサイクルや処理に関する責任を負うべきであるとの考え方で、具体的には、廃棄物の排出の際の分別及び廃棄物のリサイクルや処理を、排出者自らが行うこと等が挙げられます。
 廃棄物処理に係る適正な費用負担方式の導入に当たっては、この排出者責任の考え方を排出者に徹底する必要があります。一般廃棄物の処理費用はそのほとんどが税金でまかなわれていることから、排出者の負担意識が生まれにくく、発生抑制やリサイクルへの動機付けが働きにくくなっています。このため、地域の実情に応じて、不法投棄の防止対策等を講じながら、有料化も検討する必要があります。
 平成13年4月に施行された家電リサイクル法では、廃棄物の排出時点で消費者が費用を負担することとされていますが、他方、現在第154回国会に提出された自動車リサイクルに関する法案では、販売時点での費用負担が検討されています。
 リサイクル費用の負担方法の検討に当たっては、資源の循環システムが市場経済に円滑に組み込まれることが重要です。
 (ウ)経済的手法の活用
 廃棄物問題は、通常の事業活動や日常生活そのものから発生する廃棄物に起因するため、大規模な発生源やある行為の規制を中心とする従来の規制的手法による対応では限界があります。このため、対策に当たっては、規制的手法、経済的手法、自主的取組等の多様な政策手段を組み合わせ、適切な活用を図っていくことが必要です。
 経済的手法には、ごみ処理手数料、税・課徴金、預託払戻制度(デポジット制度)等が挙げられ、市場メカニズムを通じて事業者や国民の行動様式を環境負荷の少ない方向へ誘導し、最も少ないコストで最適な資源配分が可能となる等の効果がありますが、その措置を講ずる必要がある場合には、排出抑制効果とともに不法投棄などの不適正処理の増加の可能性等を考慮に入れる等、幅広い観点からの検討が必要となります。
 なお、平成12年4月施行の地方分権一括法によって法定外目的税の制度が創設されたことなどから、廃棄物に関する税制等の検討が各地で行われており、三重県においては、平成14年4月1日から「産業廃棄物税条例」が施行されました(表2-3-2)。



 (エ)グリーン購入の推進
 循環型社会の形成のためには、再生品等の供給面の取組を強化することに加え、その再生品等に対する需要が確保されることが重要となります。
 このため、平成12年5月にグリーン購入法が制定され、平成13年4月全面施行されました。この法律に基づき、国等の機関において、個人・事業者に率先して環境負荷の低減に資する物品等の購入が進められているほか、地方公共団体においても、独自のガイドライン等を策定し、グリーン購入の積極的な推進が図られています。
 これらの背景もあり、第2章第1節でみたように、グリーンコンシューマーと呼ばれる、環境に配慮された商品を進んで購入する消費者も増加しています。こうした環境配慮型商品に対するニーズの高まりが、企業活動にも影響を与え、相乗効果が期待できます。

(3)土壌汚染問題における取組
 公害問題については、自動車排出ガス規制の事例のように、人の健康を守るためのルールの徹底を通じて、技術革新や新規ビジネスの振興が誘発されるという一面も有します。
 とりわけ土壌汚染については、近年問題が顕在化しており、対策ルールの早期策定が求められる一方で、対策の進展に伴って、取引の際のトラブル解消による土地の流動化や、関連ビジネスの振興等の経済的利益が期待されるとの見方もあります。
 ここでは、公害問題のうち特に土壌汚染問題を取り上げ、対策ルールの早期策定がもたらす経済的影響を中心に考察します。

 ア 土壌汚染問題の背景 
 土壌は、水や大気等とともに環境の重要な構成要素であり、人をはじめとする生物の生存基盤であると同時に経済活動の基盤である土地を構成しています。このように物質の循環や生態系維持の要である土壌が汚染されると、摂食又は皮膚接触の直接的な摂取や、地下水、農作物等他の媒体の汚染を通じた間接的な摂取により、人の健康や生活環境にさまざまな影響を及ぼします(図2-3-11)。また、土壌は水や大気と比べ移動性が低く、土壌中の物質も拡散・希釈されにくいことから、影響が長期にわたって持続する蓄積性の汚染であり、汚染範囲が局所的であるとともに、汚染が目視しにくいこと、土壌及び土地が所有権等の私権の対象となっていることといった点においても、水や大気等の他の環境媒体とは性質が異なります。これらのことが、土壌汚染問題を複雑にし、対策をむずかしいものにしています。



 わが国における土壌汚染対策は、富山県神通川流域において発生したイタイイタイ病の原因が、汚染された土壌で生産された米や水を介して摂取されたカドミウムによる慢性中毒であることが判明したこと等から、昭和45年に公害対策基本法の公害類型に「土壌汚染」が追加され、典型7公害の一つに位置付けられるとともに、同年「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」が制定され、汚染地に関する調査、客土等の対策がなされてきました。
 一方、工場跡地等の市街地等における土壌汚染については、汚染土地のほとんどが私有地であること等から、これまであまり明らかになることがありませんでした。しかし、近年、工場跡地等の再開発・売却の際などに汚染調査を行う事業者が増加するとともに、自治体による地下水常時監視の拡充・強化に伴い、重金属、揮発性有機化合物(VOCs)等による土壌汚染が顕在化し、汚染事例の判明件数は著しく増加しています(図2-3-12図2-3-13)。これらの背景には、近年の国民の環境に対する関心の高まりはもとより、経済状況の悪化に伴う土地の放出圧力の高まり、自治体における土壌汚染対策の強化等の社会経済的な要因があります。
 こうした市街地等の土壌汚染に関し、環境庁は平成11年1月に「土壌・地下水汚染に係る調査・対策指針」を策定し、事業者に対して土壌汚染の調査、対策等についての自主的な取組を指導しているほか、同年7月、ダイオキシン類対策特別措置法が制定され、汚染土壌が直接摂取される暴露経路について環境基準が設定されました。また、条例、要綱、指導指針等により独自に土壌汚染対策を実施している地方公共団体もあり、平成13年6月現在で217の団体が策定しています(表2-3-3)。







 これらの有害物質による土壌汚染は、過去における有害物質の不適切な取扱い、排水の地下浸透等により生じた環境上の「負の遺産」であり、速やかな土壌汚染の状況の把握と措置等の実施が必要とされています。また、土壌汚染をこのまま放置すれば、まず人の健康に影響が及ぶことが懸念されます。
 さらに、土壌汚染が判明した場合に、対策に関するルールがないこと等から、土地の流動化の阻害要因として経済取引に影響を与えるおそれもあり、速やかな汚染の状況の把握と環境リスクを適切に管理するための措置の実施が必要となっています。

 イ 土壌汚染対策の制度化
 土壌汚染の問題については、前述したとおり公害対策基本法において典型7公害に位置付けられるとともに、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律、ダイオキシン類対策特別措置法による個別対策、土壌の汚染に係る環境基準の設定及びその達成・維持に向けた事業者等による自主的な取組の促進等を中心に進められてきました。しかしながら、近年、有害物質による土壌汚染事例の判明件数の増加が著しく、土壌汚染による健康影響の懸念や対策の確立への社会的要請が強まっています。
 これらの背景から、環境省では、土壌環境保全対策の制度のあり方について検討会を設置し検討を進めて中間取りまとめを行い、その結果を踏まえてさらに平成13年10月には中央環境審議会に諮問し、平成14年1月に答申がなされました。この答申を踏まえ、第154回通常国会に「土壌汚染対策法案」を提出し、5月1日現在審議が進められています(表2-3-4)。



 土壌汚染について速やかな対策を講じることは、環境保全効果はもちろん、将来の対策コストの低減につながることが考えられます。汚染の除去等の措置の実施者において経済負担が生じる一方で、技術開発や土地の流動化に伴う経済の活性化などの効果をもたらすことが想定されます。
 このほか、対策の進展に伴い、技術開発の促進、土壌汚染に係る調査や対策に関するビジネスが安定的に拡大するとともに、保険や土壌汚染の観点からの土地の評価など関連部門における新たなビジネスが生じることも考えられ、すでに新たな動きとして企業において土壌汚染に係る調査や対策に関する技術開発が進められているほか(表2-3-5)、環境補償に関する保険なども商品化され始めています。



(4)自然保護問題における取組
 自然保護問題については、従来から保護か開発かという択一的議論が生じやすい傾向にあります。一方、近年の生活・生産様式の変化、人口減少など社会経済の変化に伴い、むしろ自然に対する人為の働きかけが縮小撤退することにより、里地里山等の地域において環境の質が変化し、種の減少ないし生息・生育状況の変化が進行しているという現実もあります。
 このため、平成14年3月27日に地球環境保全に関する関係閣僚会議で決定された「新・生物多様性国家戦略」では、保護地域等による規制的手法に加え、社会資本整備や生産活動における環境配慮、NPO活動の支援、地域振興・地域づくり、地域産業との連携、自然再生事業の推進、地域社会における合意形成の仕組みなど、さまざまな仕組みや手法を検討し、それらを有機的に組み合わせて活用していくことにより、「自然と共生する社会」を政府一体となって実現していくことが必要であるとされています。
 ここでは、いくつかの地域において行われている「自然と共生する社会」への取組を紹介し、環境保全と雇用や地域経済との関係について考察してみます。

 ア 自然保護に対する国民の意識の変化
 近年、国民の自然保護に関する意識は大きく変化しつつあります。平成13年度に内閣府が行った「自然の保護と利用に関する世論調査」によれば、約8割の人が「自然への関心がある」と回答しており、自然保護については、「人間が生活していくために最も重要なこと」と回答した人の割合は40.1%で、年々その割合は増加しています(図2-3-14)。また、自然公園内に観光施設をつくることは、利用者が便利になる反面、自然環境を損なうことも考えられ、自然保護と観光開発との関係について、56.8%の人が「自然を守るためにはこれ以上観光開発をしない」と回答しています(図2-3-15)。





 これらの国民の意識変化の背景には、里山や湿地など身近な自然環境の劣化、絶滅のおそれのある動植物の狽フ増加などが考えられます。
 このような社会状況の変化の中で、地域固有の文化や自然環境を保全しつつ、さまざまな主体との連携により、近代的な技術やノウハウとの融合を図り地域産業や観光業などの発展を図る事例も多くみられるようになりました。

 イ 自然と共生する社会を目指す各地域の取組
 自然との共生を目指す地域づくりの取組の中には、佐渡島のトキの保護や、屋久島の世界遺産の指定など全国的に知名度のあるものだけでなく、地域に根ざした事業も数多く推進されつつあります。
 (ア)佐渡島におけるトキの保護
 佐渡島では、佐渡トキ保護センターを中心として、国際保護鳥であるトキの保護増殖事業が推進されており、中国から贈呈されたつがいからの人工増殖、野生復帰を目指した取組が行われています。平成12年度から3か年の予定で実施されている「共生と循環の地域社会づくりモデル事業(佐渡地域)」では、トキと共存し得る地域社会を構築するため、トキを野生復帰させるための自然環境や社会環境の整備について関係行政機関、団体、専門家、地域住民等の各主体が取り組むべき課題とその手法について検討がなされています。
 また、かつてトキの餌場であった棚田の復元や、不耕起栽培と呼ばれる自然農耕法への取組、地元小中学生による自然環境調査など、地域の各主体の協働によるさまざまな取組が既に実施されており、これらの取組は農産物のブランド化やエコ・ツアー等による観光等の振興にもつながることが期待されます。


佐渡トキ保護センター 提供

 (イ)屋久島の自然遺産
 屋久島は、「洋上アルプス」と呼ばれ島の大半が山岳地域となっており、地形と海流の影響で年間を通じて雨が多く、また縄文杉に代表される杉の巨木群、亜熱帯性から冷温帯性までの植物の垂直分布、約1,300の植物種に代表される多様な生物相がみられます。このような多様な自然環境は、世界的にも特に貴重なものであるとして、1993年(平成5年)、屋久島全体の21%を占める約10,747haが世界自然遺産として登録されました。屋久島では、原生林保護運動などの歴史的背景や、島しょであるという地理的特性から住民の環境問題に対する意識は高く、このことも各主体が一体となった地域づくりを可能としている要因の一つといえます。
 現在も行政と地域住民等との協力による地域循環型社会構築のためのさまざまな取組が行われており、このような環境保全活動の成果が屋久島の自然資源の価値をなお一層高め、全国における自然公園利用者数が平成4年を境に減少傾向にある一方で、屋久島における観光客数は増加傾向にあります(図2-3-16)。



 (ウ)和歌山県における「緑の雇用事業」
 和歌山県では、平成13年度から、中山間地域における環境保全事業の展開による多様な雇用の創出を図ることを目的に「緑の雇用事業」に着手しています。この事業では、都市からの定住希望者等に対する情報提供、住宅整備や起業支援、資金融資などによる定住促進、林業等の技術習得、多様な環境保全事業による雇用創出、所得補償、地域における交流の促進や体験型観光の推進など横断的で多岐にわたる事業が計画されています。中でも、森林作業員の公的雇用については、県内外における就業相談会、研修を経て、平成14年3月現在で157名の新規雇用が図られています。これらの環境保全と雇用、地域振興を総合的に推進する取組は全国からも注目されています。
 (エ)長野県における「信州きこり講座」
 県の面積の78%を森林が占める長野県では、戦後に植林された人工林が間伐時期を迎え、民有林において約10万9千haの森林が間伐を必要としています。しかし、林業従事者の減少、高齢化や収益性の低下など林業をめぐる状況は一段と厳しくなっており、森林の維持、管理は困難な状況となっています。一方、多くの水源を擁する同県では、森林の持つ水源かん養、大気保全などの公益的機能を維持、増進する機運が高まっています。このため、「信州きこり講座」を愛称とする森林整備技術者養成講座を実施し、環境保全対策と雇用対策の両面からの取組を進めています。講座修了者には、森林整備事業の入札参加条件である専門技術者として認める等の制度的な後押しもあり、主に建設・造園業を中心に平成14年3月現在783名の受講者が登録されています。

 ウ 自然再生型公共事業への取組
 わが国は、国土が南北に長く、地形の起伏に富む上、四季の変化も相まって、多様で豊かな生態系を有しています。しかしながら、ここ数十年の間には、経済成長により生活水準の向上が実現された一方で、自然海岸や干潟の減少が進み、かつては身近な存在であった動植物が絶滅危惧種となるなど、わが国の生態系は衰弱しつつあります(表2-3-6表2-3-7)。





 こうしたことから、残された生態系の保全の強化に努めることはもちろん、それに加えて、衰弱しつつある生態系を健全なものに蘇らせていくため、失われた自然を積極的に再生・修復することも必要です。
 平成13年7月の「21世紀『環の国』づくり会議」の報告では、積極的に自然を再生する自然再生型公共事業の推進が提言されました。ここでは、都市と農山漁村のそれぞれにおいて、自然環境の観点に立った事前の十分な調査検討を行い、ハード整備にとどまらずさまざまな主体の参加によって自然を再生していくことが望まれるとされています。また、同年12月の総合規制改革会議の答申においても、自然の消失、劣化が進んだ地域において、多様な主体の参画による自然再生事業を推進すべきことが提言されています。また、自然再生の推進に向けた法的枠組みについても検討が進められています。
 自然再生事業は、人為的改変により損なわれる環境と同種のものを創出する代償措置としてではなく、過去に失われた自然を積極的に取り戻すことを通じて生態系の健全性を回復することを直接の目的とし、その対象としては、河川、湿原、干潟、藻場、里山、森林などさまざまな自然が考えられます。
 これらの具体的取組として、釧路湿原において直線化された河川の再蛇行化等により乾燥化が進む湿原の再生を目指す事業や、埼玉県所沢市くぬぎ山地区において産業廃棄物処理施設の集積等により失われた武蔵野の雑木林の再生を図る事業などが始められています。これらの取組は、緑化産業、土木技術産業等の新しい雇用機会として地域における雇用の促進や観光振興等経済の活性化も期待されています。

(5)化学物質問題における取組
 ア 今日の化学物質問題 
 現代の私たちの生活は、化学物質を原材料にしたさまざまな製品によって支えられています(図2-3-18図2-3-19)。日本国内だけでも流通している化学物質は約5万種あるといわれています。また、毎年数百種の化学物質が新たに製造・使用されています(図2-3-20図2-3-21)。









 化学物質は製品の中に含まれるだけでなく、日常生活のあらゆる場面、製品の製造から廃棄にいたる事業活動の各段階において、大気、水、土壌などの環境中に放出されたり人体に摂取されたりしています。環境中に放出された化学物質は、すぐに分解されてしまう場合もありますが、そのまま環境中に蓄積し、食物連鎖を通じて生物の体内に濃縮されていく場合もあります。
 化学物質は私たちにとって欠かせないものですが、現在流通している化学物質の中にはいまだ安全性の評価が行われず、人の健康や生態系への影響の大きさが分かっていないものが多く残されています。また、生産、使用、廃棄等の仕方によっては、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすおそれのあるものもあります。
 今日では、かつてみられたような高濃度の汚染事例は少なくなりましたが、人や生態系が極めて多くの化学物質に複合的に長期間暴露されていることから、化学物質による長期的な影響に対する懸念が高まっています。例えばダイオキシン類による環境汚染の問題、いわゆる環境ホルモンによる国民不安の増大などさまざまなタイプの問題が生じてきています。
 また、影響の発現までに長期間を要すること、発生の仕組みや影響の科学的解明が十分でないことなどが問題となっています。
 このように、今日の化学物質問題は、化学物質が膨大な数に及ぶことや、有害な影響の有無や有害な影響の発生の仕組みの科学的な解明が十分でないこと等から、対策を行うに当たっては、従来の規制的手法だけでなく、化学物質による環境負荷をより効果的・経済的に低減するための新たな手法が必要とされます。ここでは、こうした数多くの化学物質による環境への負荷を低減するための新たな取組について考察します。

 イ 環境リスクという考え方
 多種多様な化学物質とどう付き合っていくかを考える際に、有害な化学物質は完全になくし、全く無害な化学物質しか使わないという二分法でとらえると、現代の社会で使われる化学物質は利便性と有害性の二面性をもっていることから、私たちの社会生活が成り立たなくなってしまいかねません。したがって、実際に取組を進めるに当たっては、有害性のある化学物質についても、個々の(あるいは相互に作用する複数の)化学物質にはどの程度リスクがあるかを把握した上で、さまざまな手法を用いて、環境リスクを低減させるための措置を講じ、より効率的かつ効果的に環境リスクの管理を進めるとの考え方が重要になります。
 この考え方により、異なる化学物質の間の対策に優先順位を付けることや、異なる媒体による同一物質のリスクを総合的に評価して対策を検討することも可能となります。

 ウ 予防的方策
 化学物質の人の健康や生態系への影響の評価には、発生の仕組みや影響の科学的解明が必ずしも十分ではないこと、影響の発現までに長期間要することなどから、どうしても不確実性が存在します。しかし、不確実性があるからといって対策を遅らせていれば、いったん影響が生じたときは、取り返しのつかない甚大な被害が生ずるおそれがあります。このような不確実性の存在を前提とした上で取り返しのつかない影響の発生を未然に防止するためには、予防的方策を講ずる必要性があります。
 国際的にも、予防的方策(予防的な取組方法又は予防的アプローチとも呼ぶ)を講ずることの必要性がさまざまな場面で指摘されています。1992年(平成4年)の国連環境開発会議(地球サミット)において採択されたリオ宣言第15原則では「環境を保護するため、予防的方策は、各国によりその能力に応じて広く適用されなければならない。」とされ、「深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きな対策を延期する理由として使われてはならない」との考え方が示されました。この考え方は、その後、1997年(平成9年)にマイアミで開催されたG8環境大臣会合や、2000年(平成12年)4月に滋賀県大津市で開催されたG8環境大臣会合においても確認されています。
 国内においても、予防的方策の重要性は広く認識されており、環境基本計画においても、科学的知見が十分に蓄積されていないことなどから、発生の仕組みの解明や影響の予測が必ずしも十分に行われていないが、長期間にわたる極めて深刻な影響あるいは不可逆的な影響をもたらすおそれのある問題については、完全な科学的証拠が欠如していることを対策を延期する理由とはせず、科学的知見の充実に努めながら、必要に応じ、予防的な方策を講ずるとされています。
 わが国では、公害問題の発生を教訓に従来から人の健康等への被害を未然に防止するという考え方を基本として環境政策が進められてきていますが、この「未然防止」を達成する上で「予防的方策」の考え方が重要です。また、2001年(平成13年)5月22日にスウェーデンのストックホルムにおいて「POPs(残留性有機汚染物質)に関するストックホルム条約」が採択されました。同条約は、リオ宣言第15原則に規定する予防的方策に留意して、残留性有機汚染物質から人の健康及び環境を保護することを目的に残留性有機汚染物質の製造、使用、排出の廃絶又は削減を国際的に図ろうとするものです。わが国では、条約の早期の締結と適切な履行に向け、第154回通常国会において、5月1日現在審議が進められています。

 エ 自主的取組
 わが国は、これまで、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」、「農薬取締法」、「大気汚染防止法」、「水質汚濁防止法」などの法律に基づき、化学物質の生産、使用、廃棄・排出に関して必要な規制を行ってきました。
 個々の化学物質について適正な規制的措置を講じていくことの重要性は今後も変わりません。しかし、多数の化学物質が何らかの環境リスクをもっているということを考えると、限られた物質を個別に規制していくだけでは、人の健康や生態系の安全性を守るのに必ずしも十分とはいい切れません。できる限り多くの化学物質について速やかに環境リスク評価を行い、科学的知見を蓄積するとともに、さまざまな手法を用いて、環境リスクを低減させるための措置を講じ、より効果的かつ効率的に環境リスクの管理を進めることが必要です。
 行政あるいは企業において、化学物質による人の健康や生態系への有害な影響を未然に防止するため、化学物質を個別に法律で規制するというやり方にとどまらず、環境リスクの考え方を取り入れた自主的な管理による取組が始められています。
 平成8年の大気汚染防止法の改正で人の健康を損なうおそれのある大気汚染物質を「有害大気汚染物質」とし、特に優先的な対応が必要な優先取組物質(22物質)のうち12物質については企業による自主的な排出抑制を求めるとともに、20物質(ダイオキシン類を含む)については地方自治体による監視が行われています。また、水質汚濁についても、平成5年から要監視項目として22物質を継続的に調査しています。
 このような行政の動きに対して、事業者自らも化学物質の自主管理の促進を図っています。
 企業の事業活動に伴って生じるさまざまな環境負荷を低減するため、環境マネジメントシステムの導入や、環境報告書の発行を行っています。さらに、化学工業界では、平成7年に(社)日本化学工業協会が日本レスポンシブル・ケア協議会を設立し、レスポンシブル・ケア*活動を行っています。レスポンシブル・ケア活動とは、化学物質を扱うそれぞれの企業が化学製品の開発から製造、使用、廃棄に至るすべての過程で、環境保全と安全を確保することを公約し、安全・健康・環境面の対策を継続的に改善していこうというものです(図2-3-22図2-3-23)。

*レスポンシブル・ケア
化学物質を製造し、または取り扱う事業者が、自己決定・自己責任の原則に基づき化学物質の開発から製造、物流、使用、最終消費を経て廃棄に至る全ライフサイクルにわたって「環境・安全」を確保することを経営方針において公約し、安全・健康・環境面の対策を実行し、改善をはかっていく自主管理のこと。世界的に実施されており、わが国でも、平成7年に「日本レスポンシブルケア協議会」が設立され、開発された。





 また、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的とした「化学物質排出把握管理促進法」の成立により、化学物質排出移動量届出制度が平成11年に導入されました。この制度は、有害性のある多種多様な化学物質が、どのような発生源から、どれくらい環境中に排出されたか、あるいは廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを事業者が把握・届出を行い、国が集計し公表する仕組みであり、これにより、わが国においてもOECDでその導入が勧告されたPRTR制度*が導入されたことになります。

*PRTR制度
Pollutamt Release and Transfer Regis-ter
人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質について、その環境中への排出量及び廃棄物に含まれて事業所の外に移動する量を事業者が自ら把握し、行政に報告を行い、行政は、事業者からの報告や統計資料などを用いた推計に基づき、対象化学物質の環境中への排出量や、廃棄物に含まれて移動する量を把握し、集計し、公表する仕組みをいう。

 PRTR制度の先駆的なものは、1970年代にオランダで、また80年代にアメリカで導入されました。その重要性が国際的に広く認められるきっかけになったのは、1992年(平成4年)に開催された国連環境開発会議(地球サミット)であり、ここで採択された「アジェンダ21」や「リオ宣言」の中でPRTR制度の位置付けやその背景となる考え方などが示されました。その後、OECDによるPRTR制度の普及に向けた積極的な取組があり、現在は、OECD加盟国をはじめ、多くの国々がPRTR制度を実施したり、導入に向けた取組を進めています(表2-3-8)。



 PRTR制度は、企業による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、化学物質の排出の抑制につながる点がこれまでの有害な化学物質を一つひとつ規制していく方法とは根本的に異なっています。つまり、事業者が自ら化学物質の排出量を把握し、設備の改善や使用の合理化などのさまざまな取組を自主的に促進するという、環境保全上の支障を未然に防止する上で有効な手法であるといえます。
 また、膨大な化学物質が存在する現在においては、化学物質を一つひとつ個別に規制していく従来の規制的手法は、実効性の担保に膨大な費用を要することから、事業者の自主的管理の促進を通じた化学物質の環境リスクを低減する手法を組み合わせることは経済的であるといえます。
 PRTR制度は、行政にとって、環境保全上の基礎データとなること、化学物質対策の優先度決定の際の判断基準となることなどが期待されます。他方、事業者にとっても自らの化学物質の管理、排出状況を見直す機会をもつことができます。PRTR制度によって請求により開示された同業他社のデータと比較することなどで、自己の化学物質の管理、排出状況を客観的に評価し、化学物質の管理活動を改善することができ、その結果、化学物質の無駄な排出を抑えたり、原材料の節約をすることなどが期待できます。

 オ 情報公開とリスクコミュニケーション 
 これまでは、化学物質に関する情報は主に企業や行政の下にあり、市民はその一部を受け取るだけという立場でした。PRTR制度は、化学物質の排出に関する情報を公開することにより市民、産業、行政など社会全体で情報を共有し化学物質による環境の汚染を防止することを可能にする制度です。
 しかしながら、PRTR制度で情報が公表されても、関心をもってみなければ環境リスクの低減に活かすことはできません。市民、産業、行政のそれぞれが、積極的に情報を発信・受信する、疑問や意見を投げかけるといった「リスクコミュニケーション*」を進めていくことが重要です。

*リスクコミュニケーション
化学物質による環境リスクに関する正確な情報を市民、産業、行政等のすべての者が共有しつつ、相互に意思疎通を図ること。「リスクコミュニケーション」の推進により、環境リスクの削減が円滑に推進されることが期待される。

 リスクコミュニケーションが促進され、リスクに関する情報が適切に伝えられれば、市民は自らの判断でリスクをなるべく回避するような行動をとることが可能となります。このことは、事業者や市民が環境リスクを自主的、積極的に削減していくのを促す上で重要でキ。
 PRTR制度により地域の化学物質の排出量が公表され、また、請求により個別の事業所の排出データも公開されると、地域の住民にとっては、当該化学物質の排出がどの程度のリスクなのか、そのリスクに事業者がどのように対応してくれるのか、また、どのようなリスク情報を提供してくれるのかといったことが関心になるでしょう。
 こうしたことから、地域住民と適切にリスクコミュニケーションを行っていくことは、企業のイメージや経営にとって重要な問題の一つです。企業も化学物質の削減などの取組を地域住民への説明会や環境報告書などを通じて積極的にアピールすることで、環境保全に対する取組を評価してもらうことができます。さらに、最近の環境問題に関する国民の意識の変化により、ある程度のコストであれば環境問題への対応のために負担してもよいと考える消費者が増加しつつあることから、消費者による環境に配慮した企業の製品の購入も期待できます。

コラム 建設解体廃棄物
 わが国においては、経済発展に伴う生産及び消費の拡大、生活様式の多様化及び高度化による住宅・社会資本の整備や更新等に伴い、建設資材廃棄物の排出量が増大しています。
 とりわけ、首都圏における非木造建築物の解体に伴う排出量は、2025年には1995年比で約8倍程度となることが予想されており(図2-3-10)、処分量の増加による最終処分場のひっ迫や不法投棄の増大などが懸念されます。このため、関係者の適切な役割分担の下で、再生資源の効率的な利用や廃棄物の減量化を強力に推進していくことが重要となっています。



コラム バイオマス資源
 バイオマス(biomass)とは、生態学で「生物現存量」(生態活動に伴って生成する物又は植物、微生物体を物量換算した有機物)の意味で使われる専門用語でしたが、第一次石油危機以降、エネルギー等として利用できる、まとまった量の生物体由来の物質のことを指すようになっており、「生物資源」と訳されることもあります。
 バイオマス資源は、糖質系(サトウキビ等)等の作物系資源と副産物系資源に大別され、後者には農業関係資源(もみ殻、稲わら等)、林業関係資源(間伐材、林地残材等)、水産関係資源(貝殻等)、畜産関係資源(家畜排せつ物等)、生物系資源由来の商工業・都市関係資源(木くず、生ごみ等)等があります。
 バイオマスのエネルギー利用は、環境への負荷が低く、一定の潜在的な導入量が見込まれると考えられることなどから、発電分野における平成22年度導入目標は原油換算で平成11年度実績の約6倍が見込まれています。

コラム 釧路湿原における自然再生型公共事業
 釧路湿原は、約1万8千haに及ぶわが国最大の湿原であり、そのうちの約5千5百haが昭和42年(1967年)に天然記念物に指定され、昭和55年(1980年)わが国最初のラムサール条約*に基づく湿地として登録されました。釧路湿原に特有のタンチョウ、キタサンショウウオ、イトウ、カブスゲ群落(ヤチボウズ)などを含む多様で貴重な野生動植物が生息・生育しているほか、保水・浄化機能や遊水地としての洪水調節機能、湿原特有の景観資源、観光資源としての機能を有しています。

*ラムサール条約
「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」国際的に重要な湿地の保全と適正な利用を進めることを目的として、1971年(昭和46年)に作成署名、1975年(昭和50年)に発効し、日本は1980年(昭和55年)に加入した。

 しかしながら、近年の流域における経済活動の拡大に伴い、湿原面積は著しく減少し、湿原植生もヨシ−スゲ群落からハンノキ林への急激な変化がみられるなど乾燥化が懸念されています。昭和22年から平成8年までの50年間に湿原面積は約2万5千haから約1万9千haへと2割以上減少しました。
 これらの状況から、国土交通省、農林水産省及び環境省では、緊密な連携を図りながら、釧路湿原における自然再生事業に着手することになりました。具体的な事業内容としては、直線化された河道の再蛇行化とその周辺での湿原植生の回復、ヨシ原におけるタンチョウの営巣環境の整備、集水域での広葉樹植栽などによる土砂の発生抑制対策などが考えられます(図2-3-17)。事業の実施に当たっては、調査計画段階から地元自治体、専門

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