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第2節 

1 企業の変化とその背景

 近年、企業の活動においては、従来の社会貢献の一環としての環境保全活動のみならず、経営方針に環境保全を織り込み、環境保全を経営戦略の重要な一要素と位置付ける動きがみられます。規制の遵守はもちろんのこと、社会的な環境問題の関心の高さも背景に、環境保全に積極的に取り組む構造が醸成されつつあります。

(1)企業の考え方の変化
 環境省が毎年行っている「環境にやさしい企業行動調査」(環境省、平成13年度)によると、企業の環境に関する考え方は、近年、より積極的なものへと変化しています。環境に関する取組については、「社会貢献の一つ」から、「企業の業績を左右する重要な要素」又は「企業の最も重要な戦略の一つ」ととらえて企業活動の中に取り込んでいく動きに変わろうとしています(図2-2-1)。また、環境に関する経営方針を制定している企業(上場企業)の割合は、平成10年度調査の56.5%から13年度調査71.4%へ、環境に関する具体的な目標を設定している企業(上場企業)の割合は平成10年度45.3%から13年度68.3%へと、それぞれ増加しています。



(2)変化の背景
 このような企業の考え方の変化の背景を、市場の変化、市民の変化、政府の変化に分けて考察します。

 ア 市場の変化への対応
 企業の考え方の変化の背景の一つとして、ISO14001認証取得の広がり、グリーン購入の進展、環境報告書・環境会計の取組の普及など、市場のグリーン化を挙げることができます。

 (ア)ISO14001認証取得の広がり
 平成8年(1996年)9月、環境マネジメントシステムの国際規格ISO14001*が発行されました。事業者が経営管理の一環として環境保全の取組を進めていくためのシステムを提示したISO14001は、PDCAサイクル(Plan(計画)→Do(実施)→Check(点検)→Act(見直し))を継続的に実施することにより、取組の改善を図っていくものであり、企業が環境経営*を進める基盤となるものです。

*ISO14001
環境マネジメントに関する国際規格で、企業活動、製品及びサービスの環境負荷の低減など継続的な改善を図る仕組みを構築するための要求事項を規定

*環境経営
地球環境への負荷を削減して社会に貢献するとともに、環境を新たな競争力の源泉ととらえ、効率的に企業活動を行うこと。環境保全への自主的取組を経営戦略の一要素とし、環境に関する経営方針の制定、環境マネジメントシステムの構築やグリーン購入、リサイクルの促進、環境報告書・環境会計の公表などを行う。

 日本では、当初、電気機械・一般機械・化学工業といった輸出型の業種でISO14001認証取得が伸びをみせましたが、最近では、環境マネジメントシステムの構築を通じた環境経営の実践、取引先の要請などからさまざまな業種に広がりをみせ(図2-2-2)、ISO14001認証取得件数は、平成14年2月末現在で8,444件になっています。



 ISO14001認証取得は、企業の経営者に環境保全の取組について考える機会を提供するものであり、トップダウンの意識改革を進める契機となります。平成13年度環境にやさしい企業行動調査によれば、企業等が認識しているISO14001認証取得の効果は、「環境への意識向上」が最も多く、次いで「環境負荷低減」、「コストの削減」、「対外的な信用向上」となっています(図2-2-3)。



 (イ)グリーン購入の広がり
 平成13年4月から施行されたグリーン購入法では、国等の機関にグリーン購入を義務付けるとともに、地方公共団体や事業者・国民にもグリーン購入に努めることを求めており、こうした動きも反映して、グリーン購入取組団体数や(図2-2-4)、環境配慮型製品の販売額は、近年、大きな増加をみせています(図2-2-5)。





 環境配慮型製品の広がりを受けて、自らが使用するオフィス用品の購入以外にも、グリーン調達基準書やグリーン調達ガイドラインを作成し、製品の製造に使用する資材の購買活動に当たってグリーン調達を実施している企業もみられます。取引先の選定に当たって、ISO14001認証取得や環境報告書の作成、環境活動評価プログラム*の実施を求めている企業は約1割にのぼり、選定基準を設けてはいないが考慮はしている企業もあわせると、約6割の企業が取引先の選定に当たって環境配慮を考慮しています(図2-2-6)。また、原材料等の選定に当たり、約5割の企業が取引先の環境配慮を考慮しています(図2-2-7)。

*環境活動評価プログラム
二酸化炭素や廃棄物などの環境負荷の状況と環境保全の取組の状況についての自己評価の手法を示すとともに、その結果をもとにした環境行動計画づくりの方法を示すことにより、中小規模の事業者を含む幅広い事業者を対象に、環境保全の取組を広げていこうとするもの。平成8年9月に環境省が策定し、平成11年9月に改訂した。





 グリーン購入に当たっては、エコマークに代表される環境ラベル*が環境保全に配慮している製品を識別するための重要な情報源となっています。環境ラベルには、ISOの規格にもあるように3つのタイプがあり(表2-2-1)、エコマークのほかにもさまざまなマークが用いられています。

*環境ラベル
製品の環境側面に関する情報を提供するものであり、「エコマーク」など第三者が一定の基準に基づいて環境保全に資する製品を認定するもの、事業者が自らの製品の環境情報を自己主張するもの、LCA(Life Cycle Assessment)を基礎に製品の環境情報を定量的に表示するものなどがある。



 (ウ)環境報告書・環境会計の広がり
 企業は、投資家・金融機関・地域社会・取引先・消費者・従業員など、企業を取り巻いているステークホルダー(利害関係者)から評価されます。企業は、社会の支持を受けながら事業活動を行っていく上で、ステークホルダーの意思決定に役立つ情報を開示していく説明責任が求められています。環境面からも企業が評価されるようになってきた今日、企業側でも環境コミュニケーション*の重要性が認識されつつあり、環境報告書作成企業数は年々増加しています(図2-2-8)。

*環境コミュニケーション
持続可能な社会の構築に向けて、個人、行政、企業、民間非営利団体といった各主体間のパートナーシップを確立するために、環境負荷や環境保全活動等に関する情報を一方的に提供するだけでなく、利害関係者の意見を聞き、討議することにより、互いの理解と納得を深めていくこと



 環境報告書・環境会計*などによる情報は、企業内部にも外部にもメリットを生じさせます。環境報告書を作成する企業や団体が急増していることは、環境報告書が、単に企業の環境活動を総括したものという性格にとどまるものではなく、より積極的に活用するものとの企業の意図が読みとれます。積極的に環境情報を提供することによって企業のイメージアップにつながったり、さらに企業説明のパンフレットや社内の環境教育ツールとして利用している場合もあります。企業の環境対応自体が市場における競争要素になってきたことに伴って、環境報告書が市場及び社内に環境対応を説明し、アピールする重要なツールであるという性格が定着してきています。

*環境会計
企業等が、持続可能な発展を目指して、社会との良好な関係を保ちつつ環境保全への取組を効率的かつ効果的に推進していくことを目的として、事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を認識し、可能な限り定量的に測定し、伝達する仕組み

 イ 市民の変化への対応
 本章第1節で述べたように、企業と市民の環境へのかかわりは、商品を購入する消費者の意識に現れてきています。従来、消費者は主として品質と価格を商品購入時における意思決定の材料としてきたといわれています。しかし、今日、グリーンコンシューマーと呼ばれる消費者が増えてきており、こうした消費者意識の変化に対応して、環境に配慮した商品を開発し、消費者の購入に対するインセンティブを高めようとする企業が増えてきています。
 また、環境対策に関して積極的に取り組む企業が増加している中で、どの企業がどういう観点でどの程度努力をしているのか評価をしようという動きが出てきています。環境格付とは、客観的立場の第三者が企業の環境経営への取組を一定の基準で評価した新しい経営指標のことであり、環境格付が高い企業とは、自社にとっての直接・間接の著しい環境負荷や環境リスクが何であるのかを経営層が把握しており、それらの環境負荷やリスクを削減・回避するための仕組みを構築・運用し、さらに将来直面する可能性のある環境リスクに伴う偶発債務の回避・低減を行っている企業のことをいうとされています。また、グリーンインベスター*と呼ばれる、環境問題に対して十分な取組を行っている企業の株や債券を買いたいという投資家もみられます。

*グリーンインベスター
投資対象を選択する際に企業の環境配慮行動を考慮する投資家

 ウ 政府の変化への対応
 最近の環境保全関連法制の整備も、企業の環境経営の後押しとなっています。平成元年以降、改正省エネ法、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化学物質排出把握管理促進法)、循環型社会形成推進基本法を始めとするリサイクル関連法等の新たな環境法制が次々に導入されていますが、その中には、企業の自主的な環境保全活動を促す仕組みが数多く含まれており、企業が環境保全について取り組む機会を提供することとなっています。また、改正省エネ法において、gップランナー方式*の導入により、環境保全に向けた企業の技術開発が促進されている例など、環境規制に対応したビジネスも数多くみられるようになり(表2-2-2)、環境規制を遵守するだけでなく、むしろ、将来に予測される基準強化に向けて積極的に研究開発を行う動きもあります。

*トップランナー方式
省エネ基準を商品化されている製品のうちエネルギー消費効率が最も優れているものの性能、技術開発の見通し等を勘案して定める考え方



 このように、企業を取り巻く市場、市民、政府といったさまざまな要因が、確実に環境保全とのかかわりを深めており、企業自らの環境保全に関する考え方と、具体的な取組に大きな影響を与えることとなっています(図2-2-9)。

*エコビジネス
様々な分野における環境保全に関する事業活動。従来からの公害防止装置の製造メーカーや廃棄物処理業者などに加えて、砂漠緑化事業や環境調査・コンサルティング・サービス、地球の負荷の少ないエコロジーグッズを専門に扱う店など、新しいビジネスが生まれている。消費者や顧客も環境に優しい商品や企業を積極的に支持する傾向にあり、今後の成長分野として期待されている。

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