アセスメント制度

今後の環境影響評価制度の在り方について(答申)



平成8年6月28日付け諮問第35号をもって中央環境審議会に対してなされた「今 後の環境影響評価制度の在り方について」の諮問について、別紙のとおり結論を得たの で答申する。
当審議会における審議に当たっては、関係省庁、経済団体、環境関係NGO等から環境 影響評価の実施状況の説明や今後の環境影響評価制度の在り方についての意見を直接聴 取するとともに、全国6ヶ所でのヒアリング、郵送、電子メール等による一般意見受付 を行って、国民各界各層の意見を聴取し、これらを審議にできる限り活かすように努め た。
本答申は、国の制度としての環境影響評価制度について、新たな制度が備えるべき基本 原則を明らかにしたものである。 政府においては、環境影響評価に係る法制度の確立の重要性を認識し、また、国民各界 各層から当審議会の審議に対して寄せられた期待に応えるために、本答申に即して、速 やかに環境影響評価の法制度化を図られたい。



I.はじめに

1.環境影響評価をめぐる経過と現状

環境影響評価制度は、1969年(昭和44年)にアメリカにおいて世界で初めて制度 化されて以来、世界各国で、その制度化が進展してきている。
我が国においても、昭和47年の「各種公共事業に係る環境保全対策について」の閣議 了解を嚆矢として、環境影響評価の考え方の重要性が認識され、各種の制度化が進めら れてきた。

昭和50年、環境庁長官は、当審議会の前身である中央公害対策審議会に対し「環境影 響評価制度のあり方について」の諮問を行い、同審議会は昭和54年に、速やかに環境 影響評価の法制度化を図られたい旨の答申を行った。これを受け、政府は昭和56年に 環境影響評価法案を閣議決定し、国会に提出した。しかしながら、同法案は、昭和58 年の衆議院解散に伴い廃案となり、当面の事態に対応するため、実効ある行政措置を講 ずるべく、同法案をベースとして、昭和59年に「環境影響評価の実施について」の閣 議決定が行われ、環境影響評価実施要綱(以下「閣議決定要綱」という。)が定められ た。

閣議決定要綱は、多様な事業に関し包括的に環境影響評価手続を規定するものである が、現在、公有水面埋立法、港湾法等個別法に基づく環境影響評価手続、「発電所の立 地に関する環境影響調査及び環境審査の強化について」(通商産業省省議決定)や「整 備五新幹線に関する環境影響評価の実施について」(運輸大臣通達)による環境影響評 価手続も行われている。 閣議決定要綱の制定以来、10余年を経過し、環境影響評価の実績は着実に積み重ねら れてきている。

また、地方公共団体においては、平成9年1月末現在、都道府県・政令市計59団体 中、条例制定団体6、要綱等制定団体45、計51団体が、独自の環境影響評価制度を 有するに至っている。このように、国における閣議決定要綱に基づく環境影響評価制度 の導入の後、地方公共団体における制度化がほぼ全国的に広がり、定着してきている。

近年、環境問題は、社会の持続可能性の確保の問題、地球環境問題、事業者や国民の通 常の活動に起因する環境負荷の集積の問題など、時間的、空間的、社会的に広がりを有 するものとなっている。平成5年に制定された環境基本法は、こうした環境問題の様相 の変化に対応できるよう、環境の保全の基本的理念とこれに基づく基本的施策の総合的 枠組みを示すものであり、その中において、環境の保全に関する基本的な施策の一つと して「環境影響評価の推進」が位置づけられた。

環境基本法に基づき平成6年に当審議会の答申を受けて策定された環境基本計画におい ては、「我が国におけるこれまでの経験の積み重ね、環境保全に果たす環境影響評価の 重要性に対する認識の高まり等にかんがみ、内外の制度の実施状況等に関し、関係省庁 一体となって調査研究を進め、その結果等を踏まえ、法制化も含め所要の見直しを行 う」との方針が示された。これを受けて、平成8年6月28日、今後の環境影響評価制 度はいかに在るべきかについて、内閣総理大臣から当審議会に対して意見が求められた ところである。
2.制度の見直しの基本的考え方

環境影響評価制度は、以上のように推移してきたが、近年、環境基本法の制定により環 境の保全の基本的理念とこれに基づく基本的施策の総合的枠組みが示されたこと、行政 手続法の制定により行政運営における公正の確保と透明性の向上が求められるように なったこと、地方分権推進法の制定により国と地方の役割分担等についての考え方が示 されたことなど、環境影響評価制度をめぐり、新たな状況が生じている。また、当審議 会に寄せられた国民各界各層の意見には、法制化をはじめ現行制度の改善を求める意見 が数多く見られたところである。環境影響評価制度は、こうした状況に対応して、適切 に見直されるべきである。

本答申では、このような視点に立って、現行制度を見直すべき点を中心に、新たな制度 が備えるべき基本原則を示すこととした。その基本原則の要点は次のとおりである。

1  環境影響評価に関わる広範な主体の役割や行動のルールを明確にするために、法律 による制度とすること。
2  環境影響評価制度は、事業者自らが広範な人々から意見を聴取しつつ環境影響評価 を行って、十分な環境情報の下に適正な環境配慮を行い、国が許認可等によって事業に 関与する際に、環境影響評価の結果を適切に反映させるという趣旨の制度であること。
3  事業者が事業計画の熟度を高めていく過程のできる限り早い段階から情報を出して 外部の意見を聴取する仕組みとすることにより、早い段階から環境配慮を行うことを可 能とすること。
4  制度の対象とする事業は、国の立場からみて一定の水準が確保された環境影響評価 を実施することにより環境保全上の配慮をする必要があり、かつ、そのような配慮を国 が許認可等の関与によって確保することが可能な事業とすることとし、このような観点 から現行閣議決定要綱よりも対象を拡大すること。
5  環境基本法に対応して、生物の多様性などの新たな要素を評価できるよう、評価対 象を見直すとともに、評価に当たっては、環境基準等の行政目標をクリアしているかど うかだけでなく、環境影響をできる限り回避し低減するという観点から評価する視点を 取り入れること。
6  予測の不確実性にかんがみ、環境影響評価後のフォローアップの措置を取り入れる こと。
7  国の制度の対象とする事業については、国の手続と地方公共団体の手続の重複を避 けるため国の制度に一本化する必要があるが、法律による手続の過程で地方公共団体の 意見が十分聴取され、反映されるような仕組みとすること。 なお、実効ある環境影響評価が行われるためには、効率性にも配慮しつつ事業の特性や 地域の実態に即した対応が可能な柔軟な仕組みとすることが求められるが、本答申はこ れらの点に配慮しており、こうした要請に応える場合も、本答申で示す基本原則に従っ て対応することが必要である。また、基本原則を具体化するに当たっては、統一的で、 透明性が保たれ、わかりやすい制度とするよう留意する必要がある。 以上の基本的考え方を踏まえ、以下に、今後の環境影響評価制度の在り方についての当 審議会の考え方を述べる。


II.今後の環境影響評価制度の在り方
1.制度の目的及び形式
(1) 制度の目的
環境影響評価制度は、事業者自らが、その事業計画の熟度を高めていく過程において十 分な環境情報のもとに適正に環境保全上の配慮を行うように、関係機関や住民等、事業 者以外の者の関与を求めつつ、事業に関する環境影響について調査・予測・評価を行う 手続を定めるとともに、これらの結果を当該事業の許認可等の意思決定に適切に反映さ せることを目的とする制度である。
(2) 制度の形式
立場の異なる広範な主体の役割・行動のルールを定める制度は、法律によって定めるこ とが基本である。環境影響評価制度を行政指導の形で実施することについては、行政手 続法の制定により許認可等への反映の限界が明確になったこと、地方の制度との調整の 観点で限界があること等が指摘されている。これらの点を勘案して、法律による環境影 響評価制度を設けることが適当である。

2.早期段階での環境配慮と環境影響評価の実施時期
(1) 事業に係る環境影響評価手続の開始時期
ア.環境影響評価のプロセスで得られる環境情報により、事業計画において適切な環境 配慮が行われるためには、事業計画のできる限り早い段階で、環境情報の収集が幅広く 行われることが必要である。

我が国の環境影響評価は、事業者による各種の調査等を経て関連情報が準備書にまとめ られ、準備書の提出によって、事業の関連情報が住民や地方公共団体に提供されること になっているが、その時点では、事業の立地地点や基本的諸元等事業の概略が事業者とし てほぼ固まっているのが現状である。

イ.早期段階での環境配慮の要請に応えるためには、主要諸国において広まりつつある ように、準備書の作成・提出前の事業者が環境影響評価に係る調査・予測を開始する際 に、その時点で提供しうる事業に関する情報、事業者が行おうとする調査等に関する情 報を提供しつつ、地方公共団体、有益な環境情報を保有する住民、専門家等から環境情 報を収集し、準備書に反映させるための意見聴取手続を導入することを基本とすべきで ある。

このような手続の導入に当たっては、事業の熟度を高めていく過程は各事業種ごとに異 なり、また、早い段階での情報提供が用地取得等に影響を与える場合もあることを考慮す べきである。したがって、事業者が環境影響評価に係る調査等を開始する時点で幅広く 環境情報を収集することを前提としつつ、情報の提供時期、提供する情報の内容等につ いては、事業種等に応じた対応のできる仕組みとすることが適当である。

ウ.このような手続を導入することによって、論点が絞られた効率的な予測評価や関係 者の理解の促進、作業の手戻りの防止等の効果が期待されるとともに、提供された有益 な情報を活用することにより事業計画の早期段階での環境配慮に資することが期待され る。

(2) 上位計画・政策における環境配慮

環境基本法第19条にもあるとおり、個別の事業の計画・実施に枠組みを与えることに なる計画(上位計画)や政策についても、環境の保全について配慮することが必要であ る。

ただし、現時点では、上位計画・政策における環境配慮をするための具体的な手続等の 在り方を議論するにはなお検討を要する事項が多く、また、主要諸国においてもその取 り組みが始められつつあるような状況にある。したがって、政府としてはできるところ から取り組む努力をしつつ、国際的動向や我が国での現状を踏まえて、今後具体的な検 討を進めるべきである。

3.対象事業
(1) 対象事業の範囲
ア.現行閣議決定要綱では11の事業を対象としているが、このほか、国の制度として は、公有水面埋立法、港湾法等の個別法や「発電所の立地に関する環境影響調査及び環 境審査の強化について」(通商産業省省議決定)、「整備五新幹線に関する環境影響評 価の実施について」(運輸大臣通達)等により環境影響評価手続が実施されている。閣 議決定要綱においては、国が実施し、又は許認可等を行う事業で、規模が大きく環境に 著しい影響を及ぼすおそれがあるものを対象事業とし、事業種を限定列記するととも に、事業種ごとに全国一律の規模要件を設定している。ただし、規模要件に満たない事 業についても、環境影響評価を行うことができるとしている例もみられる。

イ.対象事業の選定に当たっては、地方公共団体においても地域の環境保全の観点から 環境影響評価が実施されていることに鑑み、国の制度においては、国の立場からみて一 定の水準が確保された環境影響評価を実施することにより環境保全上の配慮をする必要 があり、かつ、そのような配慮を国として確保できる事業を対象とすることが適当であ る。このような観点から、新たな制度においては、規模が大きく環境に著しい影響を及 ぼすおそれがあり、かつ、国が実施し、又は許認可等を行う事業を対象事業に選定する ことが適当である。なお、今後、事業に係る規制緩和が行われる場合や、地方分権の推 進によって、事業の実施や許認可等に係る国と地方との役割分担が見直される場合に は、その時点で、本制度の対象事業の在り方についても再度検討が行われることが適当 である。

ウ.具体的にどの事業種を対象とするかについては、現在閣議決定要綱により環境影響 評価が行われるものに加え、対象を拡大することが適当である。なお、この場合、必要 に応じ事業種の見直しが行える仕組みとすることが適当である。これらの場合において は、事業の実態を踏まえ、社会的要請を考慮しつつ、検討を行うことが適当である。

(2) 対象事業の定め方
事業者にとっては、対象事業があらかじめ定められていることが望ましいが、環境に対 する影響は、個別の事業により、また、事業の行われる地域によって異なることから、 個別判断の余地を残すことが必要である。

したがって、上記の対象事業の選定の考え方により一定の事業種を列挙した上で、{1}規 模要件によって必ず環境影響評価を実施すべき事業を定めるとともに、{2}その規模を下 回る事業についても一定規模以上のものは、事業の規模、事業が実施される地域の環境 の状況等によって、環境影響評価を実施するか否かを個別の事業ごとに判断する手続 (スクリーニング手続)を導入することが適当である。スクリーニングの判断は、事業 者が提出する事業計画の概要をもとに、当該地域の状況等に関する基本的情報を考慮し て、地方公共団体の意見を聞きつつ国が行うことを基本とすべきである。なお、あらか じめスクリーニングの審査期間や基本的な判断基準を明確にしておくことが必要であ る。

(3) 国外での事業の扱い
我が国の事業者が海外において実施する事業については、当該国の管轄下で行われるも のであること、当該国の制度や合意形成プロセスが様々であることから、我が国の環境 影響評価の手続を直接適用できるものではないが、こうした事業についても、事業者が 自主的に適切な環境配慮を行うよう努めることが必要であり、国としても事業者に対し て情報の提供等に努めるべきである。また、我が国による政府開発援助(ODA)に係 る事業に関しても、我が国の環境影響評価の手続を直接適用できるものではないが、現 在国際協力事業団(JICA)や海外経済協力基金(OECF)が策定したガイドライ ンに基づく環境影響評価が実施されており、引き続きこうした取り組みを推進するべき である。


4.調査・予測・評価の対象
(1) 調査・予測・評価の対象の内容
ア.閣議決定要綱に基づく制度では、環境庁長官が定める基本的事項において、調査・ 予測・評価の対象を典型7公害(大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、悪臭、地盤沈下、 土壌汚染)及び自然環境保全に係る5要素(動物、植物、地形・地質、景観、野外レク リエーション地)に限定している。さらに、事業別に示された技術指針においては、事 業特性に応じ、公害については調査等の対象が具体的に列挙され、調査・予測・評価を 行う対象の選定の考え方が示されており、自然環境保全に係る要素については、学術上 の重要性、既存法令等の指定状況等をもとに自然環境保全上の重要な保全対象を見いだ すこととなっている。

イ.環境基本法の制定により、公害と自然という区分を超えた統一的な環境行政の枠組 みが形成され、大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素を良好な状態に保持する こと、生物の多様性の確保を図るとともに多様な自然環境を体系的に保全すること、人 と自然との豊かな触れ合いを保つことが求められるようになったことを踏まえ、環境基 本法の下での環境保全施策の対象を評価できるよう、調査・予測・評価の対象を見直す ことが適当である。

(2) 調査・予測・評価の項目及び方法の定め方
ア.事業が環境に及ぼす影響は、当該事業の具体的な内容や当該事業が実施される地域 の環境の状況に応じて異なることから、調査・予測・評価の項目及び方法については、 画一的に定めるのではなく、包括的に定めておいて、個別の案件ごとに絞りこんでいく 仕組みとすることが必要である。

このため、事業者が、環境影響評価手続に係る調査を開始するに当たって事業に関する 情報や実施しようとする調査等に関する情報を地方公共団体や住民・専門家等に提供 し、意見を幅広く聴いて、具体的な調査項目等の設定を事業者が個別に判断する手続 (スコーピング手続)を導入することを基本とすべきである。

イ.この場合、手続に長期間を要し、また、調査等の範囲が際限なく拡がる等、かえっ て非効率となるのではないかとの懸念もあることから、{1}地方公共団体、住民等に意見 を求める期間を定めること、{2}地域特性等を勘案する際に基礎となる標準的な調査・予 測・評価の項目及び方法を国があらかじめ示しておくこと、{3}事業者の求めに応じ国が 技術的助言を行うことができることとすることなどの配慮を行うことが適当である。


5.調査・予測・評価の実施
(1) 準備書・評価書の作成主体
準備書・評価書の作成は、以下の理由から、事業者の責任において行うことを基本とす ることが適切である。

{1} 環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業を行おうとする者が、自らの責任で事 業の実施に伴う環境への影響について配慮することが適当であること。

{2} 事業者が事業計画を作成する段階で、環境影響についての調査・予測・評価を一体 として行うことにより、その結果を事業計画や環境保全対策の検討、施工・供用時の環 境配慮等に反映できること。

この場合、作成主体以外の者によって評価の審査を行うこと等により、国民等からの信 頼性を確保することが重要である。

(2) 評価の視点
ア.従来の国内の制度では、あらかじめ事業者が環境基準や行政上の指針値等を環境保 全目標として設定し、この目標を満たしているか否かという観点から評価を行うという 考え方が基本となっている。環境基準や行政上の指針値を環境保全目標とすることは、 環境保全上の行政目標の達成に重要な役割を果たしてきた。

一方、こうした観点からの評価に対しては、{1}環境基準や行政上の指針値が達成されて いる場合には、それ以上自主的かつ積極的に環境への負荷をできる限り低減しようとす る取り組みがなされない場合があること、{2}生物の多様性の確保など、環境基本法が掲 げる環境保全の新たな要請については、画一的な環境保全目標を設定することにはなじ み難い場合が多いことなどの問題がある。

イ.したがって、個々の事業者により実行可能な範囲内で環境への影響をできる限り回 避し低減するものであるか否かを評価する視点を取り入れていくことが適当である。こ うした視点から、主要諸国においてみられるように、複数案を比較検討したり、実行可 能なより良い技術が取り入れられているかどうかを検討する手法を、わが国の状況に応 じて導入していくことが適当である。

この場合、複数案の比較検討の内容は、建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、 工事の方法等を含む幅広い環境保全対策について比較し検討することを意味するもので あり、事業者が事業計画の検討を進める過程で行われるこうした環境保全対策の検討の 経過を明らかにする枠組みとすることが適当である。

ウ.不特定多数の主体の活動による環境への負荷により、長期間かけて環境保全上の支 障に至る性質の問題については、個別の事業が環境の状態にどのような影響を及ぼすか を予測・評価することは困難であるが、このような場合には、当該個別事業に係る環境 への負荷を予測した上で、上記イの考え方に沿って複数案を比較検討したり、実行可能 なより良い技術が取り入れられているかどうかを検討する手法を用いて評価を行うこと が可能である。

エ.環境保全対策の中では環境への影響をできる限り回避し低減することを優先すべき である。損なわれる環境を他の場所や方策で埋め合わせる代償的措置を検討する場合に は、事業者が、他の優先すべき対策をとることが困難であることを明らかにするととも に、保全または回復すべき価値に照らして、損なわれる環境と代償的措置によって創造 される環境とを総合的に比較し、適切にその内容を評価することが必要である。

(3) 準備書・評価書の記載内容
準備書・評価書においては、上記の諸点を踏まえ、各種の環境保全施策における基準・ 目標を考慮しつつ、当該事業に伴う環境影響の程度を客観的に記載するとともに、先に 述べたような環境保全対策の検討の経過を記載することが必要である。 このほか、科学的知見の限界に伴う予測の不確実性の存在に関する記載や、調査等の委 託を受けた者の名前の記載を含めることが必要である。 さらに、データや手法の出典等、調査・予測・評価の基礎となった技術的情報について も記載が行われることが適当である。この場合、調査・予測・評価の基礎となった観測 データ等については、通例大部にわたるため、準備書等にすべて記載することは効率的 でないが、準備書等の内容の理解の促進に資するため、準備書等に観測データ等の出典 を記載する等、こうした情報が必要に応じ利用できるように配慮することが適当であ る。

また、環境影響評価手続を円滑に進めるためには、必ずしも専門家ではない住民等にも 内容が十分理解されるような記載をすることが必要である。このため、準備書等は、わ かりやすく記述するとともに、平易な概要を記載することが必要である。


6.住民等の関与
(1) 関与の位置づけ
環境影響評価は、主要諸国において、主に環境を配慮した合理的な意思決定のための情 報の交流を促進する手段として位置づけられ、個々の事業等に係る政府の意思決定その ものに住民等が参加するための制度とはされておらず、我が国においても、同様の考え 方に立つことが適当である。

したがって、環境影響評価制度における住民等の関与は、事業者が事業に関する情報を 提供し、これに対して住民等が環境の保全の見地からの意見を述べ、その意見に対応し て事業者が環境配慮を行う過程を通じて、事業に係る意思決定に反映させるべき環境情 報の形成に住民等が参加するものとして位置づけるべきである。

(2) 関与の範囲
ア.閣議決定要綱においては、準備書に対して意見提出の機会が設けられているが、こ れに加えて、スコーピング手続においても、より早い段階で幅広く有益な環境情報を収 集・形成する観点から、意見提出の機会を設けることを基本とすべきである。

イ.閣議決定要綱は、意見の提出を求める者の範囲を、関係地域内に住所を有する者に 限定している。環境影響評価における意見聴取手続は、地域の環境情報を収集すること が主たる目的となるので、意見の提出を求めるべき範囲は、事業が環境に影響を及ぼす 地域の住民が中心となる。しかし、地域の環境情報は、その地域の住民に限らず、環境 の保全に関する調査研究を行っている専門家等によって広範に保有されていること等か ら、有益な環境情報を収集するため、意見提出者の地域的範囲は限定しないことが適当 である。

(3) 関与の手続
事業者が住民等から意見を求めるに際しては、適切に周知を行うことが必要であり、事 業者が、スコーピング手続において提出する文書及び準備書について公告し、縦覧に供 することが必要である。また、準備書は、事業者が各種の調査等を経て、事業及びその 環境影響についての事業者としての考えを取りまとめた文書であるので、事業が環境に 影響を及ぼす地域において事業者が説明会を開催することが必要である。

その際、住民等からの意見提出期間、事業者による周知の地域的範囲、縦覧期間を定め ることが必要であるとともに、周知に当たっては、必要に応じて地方公共団体の協力を 求めることができることとすることが適当である。このほか、事業者は、説明会におい て準備書等の内容を住民等に対してわかりやすく説明することに努めるなどの配慮を行 うことが適当である。


7.評価の審査
(1) 審査の意義
環境影響評価制度における審査のプロセスは、準備書等の環境情報について十分なデー タ、分析等が記載されているかどうか、環境保全についての適切な配慮がなされるもの であるかどうかについて科学的かつ客観的な検討を加え、その妥当性を判断するプロセ スである。

(2) 審査の主体及び方法
ア.現行の閣議決定要綱では、まず、準備書について、地方公共団体において実質的に 審査が行われ、その結果が関係都道府県知事意見として事業者に伝えられる。次に、評 価書について、対象事業の許認可等を行う者が許認可等に際し、審査を行い、環境庁長 官は、主務大臣から意見を求められた場合に意見を述べることとされている。

イ.審査のプロセスには、その信頼性を確保する観点から、許認可等を行う者による審 査のほか、意見の提出を通じて第三者が参画することが必要である。したがって、地域 の環境保全を図る立場から都道府県知事が事業者等に対して意見を述べるとともに、環 境保全行政を総合的に推進する立場から環境庁長官が必要に応じて主務大臣に対して意 見を述べることができるものとすることが適当である。この場合、環境庁長官の意見が 述べられたときは、主務大臣は、その意見に配意して審査するものとすることが適当で ある。

なお、こうした審査のプロセスにおいては、地方公共団体における意見形成に際して審 議会等の意見を聴く機会を設ける例が多くみられ、関係機関の審査体制の中でさまざま に専門家の活用が図られている現状を踏まえて、専門家の知識や経験が案件に応じて活 用されることが重要である。

8.許認可等への反映
ア.環境影響評価手続を行った事業については、環境影響評価に基づき、事業者自らが 適正な環境配慮を行うことが必要である。この場合、環境影響評価の結果を許認可等に 反映させる仕組みを設けることにより、環境配慮が確実に行われるようにすることが重 要である。

イ.現行閣議決定要綱の下では、許認可等を定める個別の法令の審査基準に環境の保全 の観点を含めることができない場合は、環境影響評価の結果を許認可等に反映させるこ とに限界がある。したがって、新たな制度においては、許認可等を行う者は、許認可等 に当たって環境影響評価の結果をあわせて判断して処分を行うという趣旨の規定を法律 に設けることが必要である。

9.評価後の手続
(1) 評価後の調査等
ア.新規又は未検証の技術や手法等に伴う予測の不確実性にかんがみ、評価書が公告・ 縦覧された後において、影響の重大性や不確実性の程度に応じ、工事中や供用後の環境 の状態や環境への負荷の状況、環境保全対策の効果を調査し、その結果に応じて必要な 対策を講ずることが重要である。 このような評価後の調査等は、予測の不確実性を補うものであるので、環境影響評価制 度の中に位置づけることが適当である。

イ.評価後の調査等の必要な項目、範囲、調査手法、期間等については、個別の事業ご とに異なると考えられるので、柔軟な対応ができる仕組みとすることが必要である。こ のため、事業者において、評価後の調査等に関する事項及びその結果の公表に関する事 項を検討し、これらを準備書・評価書に記載することとし、個別にその内容を審査する 仕組みが適切である。

ウ.評価後の調査等については、予測の不確実性を補うという範囲内で、事業者が評価 書の記載内容にしたがって実施することが適当である。ただし、地方公共団体等が行う 環境モニタリング等を活用する場合、事業に係る施設が他の主体に引き継がれることが 明らかである際に管理主体に要請することとする場合など、他の主体との協力又は他の 主体への要請により評価後の調査等を行う場合もあることに留意する必要がある。 エ.また、評価後の調査等の結果に関する情報を収集・整理し、継続的に技術的評価を 行い、その情報を提供することを通じて、環境影響評価の技術的向上を図っていくこと が適当である。

(2) 手続の再実施
ア.評価書に記載された事業の内容を変更して事業を実施しようとする場合は、軽微な 変更をして実施される場合等を除き、再度環境影響評価手続を実施することが必要であ る。この場合、軽微な変更等であるか否かの判断の基準を国があらかじめ明確にしてお くことが必要である。

イ.環境影響評価手続の終了後、事業が長期間未着工の場合、事業に着手しても長期間 休止する場合等においては、その間に環境の状態にも変化が生じ、予測評価の前提がく ずれることもある。これらについては、事業の実施に対する許認可等が見直される場合 はともかく、環境影響評価を再実施することを一律に法律上の義務として課すことは困 難である。また、環境の状態の変化が事業者以外の特定の者の行為によることが明らか な場合など、事業者に環境影響評価手続の再実施を求めることが適切かどうか検討を要 する場合がある。しかしながら、許認可等の時点から環境が大きく変化している等の場 合においては、環境影響評価手続が再実施されることが望ましいことがあるので、この ような場合には事業者が環境影響評価手続を実施できることとするのが適当である。

10.国と地方公共団体の関係
(1) 国の制度と地方公共団体の制度の調整
国の制度においては、国の立場からみて一定の水準が確保された環境影響評価を実施す ることにより環境保全上の配慮をする必要があり、かつ、そのような配慮を国として確 保できる事業を対象とすることとし、国の制度の対象事業については、国の手続と地方 公共団体の手続の重複を避けるため、国の制度による手続のみを適用することが適当で ある。ただし、スコーピング段階、準備書段階などにおいて地方公共団体の意見を聴取 することにより、地域の自然的社会的特性に応じた環境影響評価が実施されるよう、制 度の運用面における配慮を行うことが適切である。

(2) 国の制度における地方公共団体の役割
国の制度において、地方公共団体は、地域の環境保全に関する事務を所掌し、地域の環 境について広範な情報を保有する立場から、関連情報を提供し、準備書等に意見を述べ るとともに、住民への周知手段を有し、その利用の便宜を図り得る立場から、事業者等 が行う準備書等の周知に協力することが期待される。


11.環境影響評価を支える基盤の整備
ア.事業者による適切な環境影響評価の実施、住民等の適切な意見の形成などのために は、国及び地方公共団体による情報の収集・提供が重要である。このため、国が中心と なって、生物の分布等環境の現況に関する情報、調査予測等の技術手法に関する情報、 評価書及び評価後の調査等の結果を含む環境影響評価の事例に関する情報、関連する情 報に関する情報源情報等を組織的に収集・整理・提供することが適当である。この際、 情報へのアクセスの向上等の観点から電子媒体の活用等も図られるべきである。また、 希少生物の生息・生育に関する情報については、公表することにより密猟等を誘発する 懸念もあることから、種・場所を特定できない形で示す等の公表の手法についての配慮 が必要である。

イ.高度化、複雑化する環境影響評価をとりまく要請に効果的に対応するとともに、予 測の不確実性の低減や信頼性の向上、利用性や効率性の向上を図る観点から、調査予測 等の技術手法の開発・改良が必要である。また、環境保全対策に関わる技術についても 開発を進めるともに、その効果について適切に評価することが必要である。このため、 環境影響評価を支える技術手法のレビュー作業を継続的に行い、技術手法や知見の進展 を環境影響評価制度の中に迅速に取り入れていくとともに、新しい関連技術手法の開発 を図っていくことが必要である。

ウ.質の高い調査予測等が行われるためには、幅広い知識と技術を備えた調査等の従事 者の育成・確保が必要であり、人材の能力の確保のための研修等の推進、専門的な知識 を持った人材に係る情報の提供が重要である。


III.おわりに

以上が、当審議会への諮問に対する意見である。 当審議会としては、本答申に即して構築される新たな環境影響評価制度の下に、国、地 方公共団体、事業者、国民が、環境影響評価の趣旨についての理解を深め、それぞれの 立場に応じた役割を果たすことにより、環境影響評価に関する手続が適切かつ円滑に行 われ、事業の実施に際し環境の保全について適正な配慮がなされることを期待したい。