自然環境・生物多様性

ジュゴンと藻場の広域的調査-平成14年度調査結果概要-

  1. 調査手法の検討
     平成14年10月、「ジュゴンと藻場の広域的調査手法検討会」を設置し専門家による検討を行った上で、調査項目及び調査手法を決定しました。
     
  2. 調査の結果
     沖縄本島周辺海域を対象区域として、(1)~(5)の調査を実施し、以下の結果を得ました。平成14年度の報告書は、本日の検討会で得られた専門家の意見を踏まえ、最終取りまとめの作業を進め、6月中に完成する予定となっています。
     なお、沖縄本島周辺における海草藻場の分布、ジュゴンの個体分布、ジュゴンの胃内容物及び遺伝学的分析などを総合的に調査したのは、この調査が初めてです。

(1)浅場の海草藻場の調査(水深15メートル以浅)

[1]浅場の食域調査

 調査地点の選定の考え方を検討するために名護市嘉陽地区で実施した予備的調査の結果、ジュゴンはリーフ内に形成される藻場にはリーフの切れ目(水路)から進入して水路に近い場所に摂餌を行うことが確かめられたため、平成13年度調査で作成した「沖縄本島浅場藻場分布図」を分析し、沖縄本島周辺の海草藻場をリーフ内に形成される藻場と外洋に開けている藻場に区分した上で、ジュゴンが摂餌している場合外洋に開けている藻場より食跡発見されやすいリーフ内に形成された藻場を平成14年度調査の対象とすることとした。(表1「浅場藻場の区分」参照)
 分析の結果、リーフ内に形成された藻場のうち、38箇所にリーフの切れ目(水路)があることが判読できた。このうち、モズク網の設置により調査ができなかった2箇所を除く36箇所(予備調査1箇所含む)で調査を実施した。(表2「調査地点一覧」及び図1「浅場食跡調査地点位置図」参照)
 各調査地点には、50メートル四方の調査枠(0.25ヘクタール)を20枠(合計5ヘクタール)設置した。さらに、個々の調査枠を4等分(それぞれは0.0625ヘクタール)し、1区分につき調査員を1名ずつ配置し、スノーケリングによりジュゴンの食跡の有無を確認した。食跡が発見された場合には、観察員1名がスキューバダイビングにより位置、食跡の幅、長さ、海草の種類等を記録し、写真撮影を行った。(図2「調査枠の設置と観察のイメージ図」参照)
 この結果、調査対象の36箇所中、沖縄県名護市嘉陽地区と辺野古地区2地点で、それぞれ22本及び1本のジュゴンの食跡を確認した。(図3「嘉陽地区における食跡確認位置」図4「辺野古地区における食跡確認位置」及び写真1「嘉陽地区及び辺野古地区で確認された食跡」参照)
 また、辺野古地区では、大型動物の糞が確認された。これについては、平成15年度調査でDNA分析を行い、ジュゴンのものであるか分析する予定。(写真2「辺野古地区で確認された大型動物の糞」参照)

[2]浅場藻場の食跡モニタリング調査

 ジュゴンの食跡が確認されている名護市嘉陽地区の藻場で、ジュゴンに摂餌された海草の植生が回復する状況やジュゴンが藻場を利用する頻度をモニタリングする手法を検討するため、20メートル四方の調査枠を1箇所設置し、1ヶ月に1回、合計3回(3ヶ月)モニタリング調査を実施した。
 第1回目の調査で、調査枠内には24本の食跡が確認された。2回目以降のモニタリングでは、新たな食跡は確認されなかった。食跡の周辺に出現する海草は、リュウキュウスガモ、リュウキュウアマモ、ウミジグサ及びウミヒルモであった。(図5「嘉陽地区におけるモニタリング調査地点」及び図6「モニタリング調査枠におけるジュゴンの食跡分布」参照)
 ジュゴンにより摂餌された海草の回復は、2ヶ月間の平均値で、リュウキュウスガモ24.7センチ、リュウキュウアマモ13.7センチ、ウミジグサ12.0センチ、及びウミヒルモ17.3センチであった。
 以上から、ジュゴンにより摂餌された海草の回復状況については、海草の伸長度合いから、月1回の調査で十分モニタリングすることができると考えられた。
 一方、ジュゴンの藻場の利用頻度については、今回設置した調査枠内に新しい食跡が発見されなかったことから、調査枠の設置場所や箇所数に関し検討が必要と考えられた。

[3]海草群落構造調査

 ジュゴンが利用した可能性のある浅場の海草群落を対象として、群落の構造と成立要因の特徴を把握するため、潜水調査を実施し、海草の頻度、底質、地形、堆泥が少なく、地下茎まで摂餌できるような底質の柔らかい海草藻場を選んでいる傾向が示唆された。

(2)深場の海草藻場調査(水深15メートル以深)

 平成14年度調査では、平成13年度に線的調査を実施した平良湾、金武湾及び中城湾で海草が確認されたそれぞれ2本ずつの調査結果を選定し、これに対し直角に調査側線を設定し、深場における海草の生育状況を面的に把握することを試みた。調査側線は、平成13年度の調査手法に従い、1区間を200メートル、4~10メートルの幅とした(今回の6側線の合計は36区間、総延長は、7,200メートル)。(図7「深場藻場の調査側線の設置イメージ」参照)

 生育状況についても、平成13年度調査に従い、200メートルの調査区間を5メートルずつの40の小区間にわけ、いずれの小区間でも海草の出現がなかった場合には、その区間の海草出現頻度を0、1~9個の小区間に海草が出現した場合にはI、10~19個の場合にはII、20~29個の場合にはIII、30以上の場合にはIVとして、5段階で評価した。
 その結果、それぞれの調査測線で、ヒメウミヒルモの生育が確認されたが、その被度は大部分が5~10パーセント程度であり、また、水深が深くなるに従い出現頻度は下がる傾向があった。なお、どの調査測線でもジュゴンの食跡は確認されなかった。
図8「平良湾における海草出現頻度」図9「金武湾における海草出現頻度」図10「中城湾における海草出現頻度」表3「各調査区間における海草出現頻度」、及び写真3「金武湾、中城湾で確認されたヒメウミヒルモ」参照)

 また、深場の海草の生育要因には、平良湾の透明度は中城湾及び金武湾に比べ高かったにも関わらず海草の出現頻度が低かったこと、平良湾の底質は砂礫底質であったが中城湾と金武湾はシルト分を多く含む細砂であったことから、海草に到達する光量だけではなく、底質が影響すると考えられた。

(3)ジュゴンの分布及び行動調査

[1]航空機による分布調査

 沖縄本島周辺域で2回の調査を行い、航空機(セスナ)による第1回調査(ブロック調査)を9月に、第2回調査(周回コース調査)を1月に実施した。
 その結果、平成14年9月18日から24日に実施した第1回調査で、19日午前9時20分頃、金武湾中央部で真北に向かって移動する成獣と思われる個体を2頭確認した。
 また、平成15年1月24日から31日に実施した第2回調査で、31日午後3時9分頃、名護市大浦湾北部の安部崎沖で、成獣と思われる個体を1頭確認した。(写真4「平成14年9月19日に確認された2個体」写真5「平成15年1月31日に確認された1個体」及び図11「ジュゴン確認地点」参照)

[2]24時間行動観察調査

 ジュゴンの日周行動について知見を得るため、食跡が確認されている名護市嘉陽地区及び名護市安部地区で、それぞれ24時間の行動観察調査を連続して4日間実施した。(図12「嘉陽地区目視観察地点」及び写真6「24時間行動観察調査の様子」参照)
 調査を実施した96時間のうち、天候不良による観察中断を除く64時間観察したが、ジュゴンの確認には至らなかった。

[3]地元住民や関係団体等からの目撃情報の収集

 情報収集用のポスターを合計10,000枚作成し、市町村、教育機関、公共施設、商店、ガソリンスタンド、宿泊施設、交通機関関係施設、レジャー関係施設等に配布した。(写真7「情報を呼びかけるポスター」参照)
 環境省ホームページを通じた情報収集も実施した。

(4)ジュゴンの食性調査

 平成13年度に解剖した2個体のうち、胃内容物が確認された沖縄県中頭郡与那城町平安座島の刺網に混獲された1個体について、さらに分析を進めた。(図13「食性調査に使用した個体の発見場所」及び表4「食性調査に使用した個体の発見場所」参照)
 その結果、ベニアマモ、ウミヒルモ、リュウキュウスガモ、ボウバアマモ、マツバウミジグサの内容物を確認した。
 それら5種の海草の割合は、ウミヒルモが一番多く、次いでウミジグサが多く見られた。(図14「海草種の出現割合」参照)
 海草の葉部、地下茎部、根部の割合は、葉部と地下茎が同様の割合で多く見られた。(図15「海草の葉部、地下茎、根部の出現割合」参照)
 また、平成14年10月に熊本県牛深市の海岸で発見されたジュゴンの死体について、平成15年3月24日に解剖を実施した。
 その結果、発見時すでに腐敗が進んでおり、内蔵部は、消化管を除いてほとんどが腐敗していた。
 胃及び腸管のほとんどが海藻と見られるもので満たされていた。これらについては、平成15年度の調査で詳細に分析する予定。

(5)遺伝学的分析調査

 ジュゴンの遺伝学的特徴について、日本については、沖縄の個体2、熊本県牛深市に漂着した個体1、海外については、台湾に個体1、パラオに個体2、フィリピンに個体5、タイ・アンダマン海岸の個体3、採集地不明の個体1、合計18個体のDNAを分析するとともに、平成14年度調査で既に分析した9個体と併せて総合的に比較・考察した。
 その結果、オーストラリアの個体群と沖縄-台湾-フィリピン-インドネシア-タイの個体群との間で明らかに塩基配列が異なることがわかった。また、アジア個体群のなかでも、タイ・アンダマン3個体とその他の個体では塩基配列が明瞭に分岐した。(図16「D-loop 一部配列によるジュゴン各地域の個体群分子系統樹」参照)

(6)沖縄におけるジュゴンの歴史的動向に関する調査

 沖縄におけるジュゴンの歴史的動向を把握するため、地元郷土史家等の協力を得て、平成13年度に引き続き文献調査を行い、総文献数471件(和文220件、英文251件)を収集した。
 それらの中から、ジュゴンの出土記録76件を抽出・分析し、地図上に整理してとりまとめた。(図17「文献調査等により把握された沖縄諸島におけるジュゴンに関する情報等の分布地図」参照)


添付資料

  *掲載画像及び資料の使用を希望する場合は野生生物課までご連絡願います。

表1
「浅場藻場の区分」
図1
「浅場食跡調査地点位置図」
表2
「調査地点一覧」
図2
「調査枠の設置と観察のイメージ図」
図3
「嘉陽地区における食跡確認位置」
図4
「辺野古地区における食跡確認位置」
写真1
「嘉陽地区及び辺野古地区で確認された食跡」
写真2
「辺野古地区で確認された大型動物の糞」
図5
「嘉陽地区におけるモニタリング調査地点」
図6
「モニタリング調査枠におけるジュゴンの食跡分布」
図7
「深場藻場の調査測線の設置イメージ」
図8
「平良湾における海草出現頻度」
図9
「金武湾における海草出現頻度」
図10
「中城湾における海草出現頻度」
表3
「各調査区間における海草出現頻度」
写真3
「金武湾・中城湾で確認されたヒメウミヒルモ」
写真4
「平成14年9月19日に確認された2個体」
写真5
「平成15年1月31日に確認された1個体」
図11
「ジュゴン確認地点」
図12
「嘉陽地区における24時間行動観察の調査地点」
写真6
「24時間行動観察調査の様子」
写真7
「情報を呼びかけるポスター」
図13
「食性調査に使用した個体の発見場所」
表4
「沖縄近海に生育する海草種とジュゴンの胃内容物から出現した海草種」
写真8
「牛深市で発見されたジュゴンの個体」
写真9
「牛深市で発見されたジュゴンの胃(開いた状態)」
図14
「海草種の出現割合」
図15
「海草の葉部、地下茎部、根部の出現割合」
図16
「D-loop一部配列によるジュゴン各地域の個体群分子系統樹」
図17
「文献等調査により把握された沖縄諸島におけるジュゴンに関する情報等の分布地図」

 平成15年6月17日報道発表資料
 平成15年度第1回「ジュゴンと藻場の広域的調査手法検討会」の結果について