ムカゴサイシンの花と細胞内の共生菌
ムカゴサイシンの花と細胞内の共生菌
ムカゴサイシンは林に生える高さ10cmほどの小さなランの仲間で、菌類と共生しています。発芽から成長にいたるまで、菌類なしには生きていけません。高知県立牧野植物園では、ムカゴサイシンの栽培研究を通じて、同じように菌類と共生している絶滅危惧植物の栽培や野生復帰に必要な科学データを収集しています。


遺伝子解析機器と研究者
遺伝子解析機器と研究者


野生生物のDNA解析結果
野生生物のDNA解析結果


アカガシラカラスバトの体重測
アカガシラカラスバトの体重測定
全ステップ共通 科学データの収集と活用

 絶滅危惧種を守るためには、減少している原因を突き止めたり、生きものの特性や生息数、生息環境などを正確に把握しないと、一つ一つのステップを着実に成功させることはできません。このため、科学データを集めて活用していくことが重要です。しかし、野生生物を調べる野外調査では、人がなかなか近寄れない動物や短期間しか花を咲かせない植物などを相手にすることがあります。さらに、当日の悪天候や険しい地形に調査自体がはばまれることも多く、必要なデータを全て集めることはとても難しいといえます。
 一方で、施設の中では、天候や地形などの影響を受けないので、野外調査ではなかなか集められないデータを、時間をかけて安定的に収集できるメリットがあります。例えば、体重や成長具合、栄養の状態、繁殖の方法、病気や寄生虫などです。
 これらのデータは、その生きものの飼育・栽培に役立つとともに、生息地での保全にも活用されます。また、近年では遺伝子解析の発達によって、野生生物の「遺伝的多様性」の重要性も指摘されています。


遺伝的多様性の解析

 近年、科学技術の進歩により、野生生物の遺伝子(DNA)の解析が可能になり、絶滅危惧種の保全にも活用されるようになってきています。この遺伝子研究の中で、生きものが持つ「遺伝的多様性」が、特に注目されています。

遺伝的多様性とは?

 我々人間では性格や顔つきが1人1人違うように、動物や植物をはじめ、多くの生きものでも同じ種の中でそれぞれの個体に個性があります。これは生きものの設計図にあたる遺伝子(DNA)が、それぞれの個体で少しずつ異なっているためです。
 また、同じ種の中でも離れた場所にいる別々の集団の遺伝子を比べると、日本語の方言のように地域性を持つことが多く確認されています。
 このように、ある生きものが個体や地域によって様々な遺伝子を持つことを「遺伝的多様性」と呼んでいます。

遺伝的多様性の減少=絶滅の危機

 生きものは遺伝的に多様な個性を持っていると、環境の変化やいろいろな病気に対する抵抗力にも幅が出て、絶滅を回避できる確率が高くなります。しかし、個体数が急に減少すると遺伝的多様性も減少し、抵抗力の幅がない状態になってしまいます。そうなると環境の変化や病原体など、生存をおびやかす原因が多くある野外では絶滅しやすくなると考えられています。

遺伝的多様性を保つポイント

 生息域外保全では、主に2つのポイントに注意して、できるだけ遺伝的多様性を自然の状態に保ちながら管理することが重要です。

ポイント1 個体ごとの個性
 兄弟姉妹や親戚にあたる個体だけで何世代も繁殖させ続けると、遺伝子の個性がなくなっていき、遺伝的多様性が失われていくことが知られています。このため、遺伝的に近い個体同士をできるだけ掛け合わせないように注意する必要があります。

ポイント2 地域ごとの特徴
 別々の地域の集団を混ぜて繁殖させてしまうと、地域ごとの遺伝子の特徴が失われてしまいます。このため違う地域にいた別の集団は、混ぜないように別々に管理して、繁殖させる必要があります。特に、野生復帰させる場合(ステップ4参照)は、異なる地域の集団を別の生息地に戻さないよう注意する必要があります。



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