イチモンジタナゴ(地域関係者との生息域外保全を通じた保全ネットワークの形成)
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◆分  類:コイ科
◆環境省レッドリストランク:絶滅危惧IA類
◆実施場所:滋賀県立琵琶湖博物館(滋賀県草津市)、滋賀県東部・南部地域
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イチモンジタナゴ
◆基本情報:
 全長8cm程度のコイ科の仲間で、琵琶湖淀川水系、濃尾平野、和歌山県紀ノ川水系、福井県三方湖などに分布しています。兵庫県、岡山県、広島県などにも分布していますが、これらは本来生息していない水系への不適切な放流による可能性も指摘されています。平野部の流れの緩やかな河川や池沼に生息していて、かつては琵琶湖の湖南部や湖東部などでよく見られました。繁殖期は春から初夏にかけてで、5月頃に盛期を迎えます。ヌマガイなどイシガイ科の二枚貝に産卵し、受精後2日ほどでふ化しますが、ふ化後も貝の体内にとどまり、水温にもよりますが1ヶ月程度で二枚貝の中から泳ぎ出てきます。雑食性で、付着藻類や水底にすむ小動物などを食べています。1980年代には琵琶湖南部に多数生息していましたが、その後激減して、現在では滋賀県内では湖北地方のごく一部にだけ生息しています。また、京都市内の平安神宮には、疏水をつうじて進入したと考えられる個体が神苑の池に生息しています。
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 琵琶湖博物館では2005年(平成17年)に平安神宮より譲り受け、繁殖方法を確立するとともに、増えた個体は市民グループのぼてじゃこトラスト、宮津エネルギー研究所水族館、大阪市の水道記念館などに分譲して生息域外保全の拡大に努めました。また、ぼてじゃこトラストは、地域の学校へ保全の協力を依頼し、学校ビオトープでの繁殖と教育普及活動を実施しています。現在3つの小学校と、1つの地域管理のビオトープ、1つの企業管理の池、ぼてじゃこトラストが管理する池で生息域外保全を行っています。
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◆事業内容:
 現在、かつての生息地である琵琶湖への野生復帰について検討を進めています。しかし、本種がいなくなった要因の一つに考えられるオオクチバス(ブラックバス)やブルーギルなどの外来種が、現在も多数生息していることから、生息域外保全の実施場所を増やすことを目的に、市民グループ、企業、学校などと連携した取り組みを進めています。また、野生復帰の是非や実施は、慎重に判断する必要があるので、野生復帰の際に課題となる遺伝的な系統関係を調べたり、専門の研究者を交えた検討会議を開催するなど、以下のように慎重な調査や検討と同時に、地域の方々への理解と協力を求める普及活動を進めています。
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①生息域外保全の実施場所の拡大
 生息域外保全の拡大については(公社)日本動物園水族館協会加盟の各園館で、水族館だけでなく動物園においても本種の生息域外保全を進めています。また、滋賀県内では、ぼてじゃこトラストが中心となり、学校ビオトープでの実施を積極的に進めると同時に、希少淡水魚への理解を深めるための教育普及活動にも取り組んでいます。また、オムロン(株)の野洲事業所敷地内では、造成したビオトープ池で生息域外保全に協力していただき、保全体制の関係性強化を図っています。この他、滋賀県内に点在するため池での生息域外保全についても検討を進め、生息できるため池を調査するとともに、ため池管理者の理解と実施方法の検討を行っています。
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②生息域外保全個体群の遺伝的系統関係
 平安神宮を起源とする生息域外保全個体を野生復帰する場合、滋賀県に生息している個体群との遺伝的系統関係を精査する必要があります。現在、滋賀県内で生息が確認されている湖北地方の2ヶ所について、琵琶湖博物館で飼育されているものと遺伝子の比較を行いました。その結果、湖北地方にも同じ遺伝子を持つ個体が確認されたことから、生息域外保全個体の野生復帰への課題を少し解消できたと考えています。
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イチモンジタナゴ交流会 ③野生復帰に向けての情報交流
 野生復帰を実施する際には、地域の方々の理解と協力が重要であることから、滋賀県立琵琶湖博物館、ぼてじゃこトラスト、オムロン(株)野洲事業所、東海タナゴ研究会との共催でイチモンジタナゴ交流会を開催しました。交流会では多くの市民の方にもご参加いただき、野生復帰の是非について、参加者の方々と一緒に議論することができました。また、行政関係者の方から、専門的な課題や疑問もだされ、内容の深い議論ができました。
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