オキナグサ(行政、植物園、小学校などの多様な主体の参画による里地里山環境の保全と野生復帰)
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◆分  類:キンポウゲ科
◆環境省レッドリストランク:絶滅危惧Ⅱ類
◆実施場所:新潟県立植物園(新潟県新潟市)、新潟県魚沼市
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オキナグサ
◆基本情報:
 多年性の陸上草本植物で、本州、四国、九州に分布しています。種子がタンポポのように風に乗って散布することが知られていて、この種子がまるでお爺さんの白髪のような形になるので、お爺さんを意味する翁(おきな)の名前がつけられています。主に、中山間地域にある里地里山地域の日当りのよい草原、畔・土手などの草地に生育しています。開発や土地の改変、畦の草刈などの維持管理方法の変化により全国的に減少し、また山野草として人気があるため盗掘の対象となっています。
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◆事業内容:
 新潟県では3ヶ所の生育地が確認されており、魚沼市の生育地が最も大きい群落でしたが、2004年の新潟県中越地震の時に生育地である水田の畦が崩落したことで、群落が消滅する危機に瀕しました。翌年に実施した地元住民と新潟県立植物園による生育地の復元により群落の消滅を回避し、活動は地域の復興のシンボルとしても取り上げられました。
 しかし、その後のモニタリング調査により、長期的にはこの群落が消失する可能性が高いことが解りました。これは、種子が風に乗って散布される性質のためで、風上側に種子の供給源となる群落が無い場合は、群落が徐々に風下側に移動してしまうことになり、その結果、現在の生育地から姿を消してしまう可能性が考えられます。昔のように、周辺にいくつもの群落があれば、このような状況にはなりませんが、現在は、この群落が孤立しているので、群落の移動による消失の可能性が出てきてしまっているという事情があります。
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①地域との協働による野生復帰の取り組み
 魚沼市の生育地の群落回復を目的に、2009年に新潟県立植物園の監督のもとで、魚沼市立広神西小学校にて種子からの栽培を行い、これを魚沼市や地域住民が連携して生育地への野生復帰を行い、以前の安定した個体数を長期に渡って維持できる環境を整えました。なお、栽培用に採取した種子は50株以上から得ることで、生育地での個体の目減りを分散させ、同時に集団内の遺伝的多様性にも配慮しています。
 また、本種は風で散布する種子を持つので、生育地の中でも風上にあたる場所に株を植え戻すことで、将来的な自然種子散布にも配慮しています。
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②野生復帰後のモニタリング調査と生育地の保全活動
シンポジウム  野生復帰後には生育状況を把握するため定期的なモニタリング調査を実施しています。その結果から、肥沃な土壌に植栽した株はすぐに大きく育つものの他の高茎草本との競争に負けて消失するものが多く、痩せ地に植栽した株は小さいものの他の高茎草本が少ないため生存率が高いことが解りました。
 現在は、植え戻した個体を含め、数千個体(そのうち開花した株は約300個体)の群落が維持され、また、地域のNPO法人魚沼交流ネットワークや地域住民との協働により、野生復帰地の草刈り作業や生息個体数調査を実施し、継続的な保全活動を行っています。
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③シンポジウムの開催と普及活動
 群落を保全するためには地域の協力が不可欠でしたが、そのためには地域への生物多様性保全についての知識の普及と啓発が必要でした。このため、保全や野生復帰に関する小学校での授業の実施や、魚沼市との共催によるシンポジウムを開催しました。このシンポジウムの開催やリーフレットの配布などによる普及啓発などを毎年継続して行ってきました。
 現在では、地域の自然環境調査や保全活動の重要性が認知され、現在は魚沼市全体で市民参加型の農村環境の植物調査や里地里山の保全の取り組みが実施されています。
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