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国際的な砂漠化対処

砂漠化する地球 -その現状と日本の役割-

砂漠化の影響

乾燥地に住む人々は、食料、飼料、薪炭材などを生態系に依存しているため、土地の劣化により生態系が劣化すると、結果として住民の生活環境が悪化することになります。一度乾燥地の生態系が損なわれると、元のとおりに回復させることは困難で、農業生産性の低下、貧困の加速などに陥ります。

多くのアフリカ諸国では、深刻な干ばつにしばしば見舞われ、食料の生産基盤である土地の劣化に直面した住民が生存のために森林、水などの自然資源の過剰利用を行わざるを得ず、このことが更に土地の劣化を促進させるという悪循環に見舞われています。

図 砂漠化のプロセス
図 砂漠化のプロセス(注1)

砂漠化と気候変動、生物多様性の関係

下の図は、砂漠化が気候変動と生物多様性の減少に、相互に複雑に関係していることを示しています。

気候変動が砂漠化の進行を促進させると同時に、砂漠化は土地の炭素吸収能力を減少させることを通じて、大気に放出される炭素を増やし、結果として気候変動を促進する方向に働きます(注2)

砂漠化と気候変動、生物多様性の関係
図 砂漠化と気候変動、生物多様性の関係(注3)

また、乾燥地の生態系にとって、植生の多様性は、食料・燃料の提供など人間の生活に不可欠であるだけでなく、家畜、野生生物の生命を支えています。砂漠化によってそうした生物多様性が失われることになります(注4)。砂漠化と気候変動は、それぞれ、また両者があいまって、乾燥地の生態系サービスの供給を減少させ、生物多様性の損失を含む生態系の健全性を低下させます。砂漠化と気候変動は、作物と家畜の生産性の低下を引き起こします(注5)

砂漠化のリスクは、気候変動により増加すると予測されています。世界の平均温度が産業革命前より1.5度、2度、3度と高くなるにつれて、水、エネルギーおよび土地(例えば、水ストレス、干ばつ強度、生息地の劣化)に関連する様々な影響にさらされる脆弱な乾燥地の人口が増加すると予測されています(注6)

以下にIPCCが2019年に報告している、砂漠化の影響(砂漠化要因と気候変動要因が連動して発生する事象も含む)の一例を記載しています。

<作物・飼料生産と食料安全保障への影響(注7)

持続不可能な土地管理方法で栽培することにより、コムギ、トウモロコシおよびコメの世界的生産に、現在、年間566億米ドルの損失がもたらされている。また放牧地の劣化によって家畜の生産性が低下するため、年間87億米ドルの損失が見積もられている。気候変動と砂漠化は、食料安全保障の唯一の原因ではないにしても、特に農業への依存度が高い地域では、主要な原因の1つである。

(注7) 注2に同じ, 3.4.2.2, p273

<砂塵嵐と人の健康への影響(注8)

砂塵嵐の頻度と強度は、地表面状態と気候(風速等)に依存するが、砂漠化は地表面状態を変化させることで、砂塵嵐を激化させ、人間の健康への悪影響が増加し得る。砂塵嵐の影響は、発生地の近傍で最も大きく、さらに呼吸器系など人の健康に危険な粒子状物質、汚染物質、病原体、潜在的アレルゲンを長距離にわたって輸送する。

(注8) 注2に同じ, 3.4.2.3, p274

<水資源と水による災害への影響(注9)

土壌の劣化は、土壌の保水能力を低下させ、雨水の表面流出量が増えることで洪水が激化する。一方、表面流出量の増加は、帯水層へ浸透する水量を減少させ、井戸水などの水資源を減少させる。さらに気候変動およびそれにともなう干ばつは、もともと乏しい水資源をさらに減少させる。利用可能な水資源が減少すると、都市排水などを灌漑に利用するケースが増える可能性があり、人の健康への影響につながりかねない。

(注9) 注2に同じ, 3.4.2.5, p274

コラム:SDGsと砂漠化・気候変動

下の図は、SDGsのフレームワークにおける砂漠化と気候変動の社会経済的インパクトを表しています(注10)。砂漠化はSDG15 (ターゲット15.3)に組み込まれており、気候変動対策はSDG13です。砂漠化と気候変動の影響を、他の社会経済的、制度的、政治的要因の影響から切り離すことは難しいですが、気候変動が乾燥地の人々の砂漠化に対する脆弱性を悪化させ、気候変動と砂漠化による圧力が組み合わさることで、貧困削減、食料安全保障の強化、女性のエンパワーメント、疾病の軽減、水と衛生設備へのアクセス改善の機会が減少する可能性が高いです。この図は、土地劣化の中立性と緩和および気候変動への適応に関する政策的行動の調整が必要であることを指摘しています。

図 SDGsのフレームワークにおける砂漠化と気候変動の社会経済的インパクト
図 SDGsのフレームワークにおける砂漠化と気候変動の社会経済的インパクト

(注1) 恒川篤史編. 乾燥地科学シリーズ第1巻 21世紀の乾燥地科学―人と自然の持続性―. 2007.古今書院, p246を一部編集
(注2) Mirzabaev, A., J. Wu, J. Evans, F. García-Oliva, I.A.G. Hussein, M.H. Iqbal, J. Kimutai, T. Knowles, F. Meza, D. Nedjraoui, F. Tena, M. Türkeş, R.J. Vázquez, M. Weltz, 2019: Desertification. In: Climate Change and Land: an IPCC special report on climate change, desertification, land degradation, sustainable land management, food security, and greenhouse gas fluxes in terrestrial ecosystems [P.R. Shukla, J. Skea, E. Calvo Buendia, V. Masson-Delmotte, H.-O. Pörtner, D.C. Roberts, P. Zhai, R. Slade, S. Connors, R. van Diemen, M. Ferrat, E. Haughey, S. Luz, S. Neogi, M. Pathak, J. Petzold, J. Portugal Pereira, P. Vyas, E. Huntley, K. Kissick, M. Belkacemi, J. Malley, (eds.)]. In press., Executive summary, p251
(注3) Millennium Ecosystem Assessment, 2005. Ecosystems and Human Well-being: Desertification Synthesis. World Resources Institute, Washington, DC., p17
(注4) 注2に同じ
(注5) 注2に同じ
(注6) 注2に同じ
(注10) 注2に同じ, 3.4.2,p272-273