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森林保全と企業

生物多様性オフセット

概要

生物多様性オフセット(Biodiversity offset)とは、開発などを行う際に、事業の実施主体者が、事業を回避することや事業による生態系への影響を最小化することを十分に検討し、それでもなおマイナスの影響を及ぼすおそれがある場合、汚染者負担原則(PPP: Polluters Pay Principle)に基づいて別の生態系を復元または創造することで、生態系への影響を代償(オフセット)する仕組みです。

具体的には、開発によって生じる影響を回避、最小化した上で、それでも残る影響を補償するために代替措置を講じるという優先順位「ミティゲーション・ヒエラルキー」にしたがって、生態系への影響を緩和することになります。ミティゲーションとは、緩和または軽減という意味です。

図 ミティゲーション・ヒエラルキーの考え方
図 ミティゲーション・ヒエラルキーの考え方出典: Business, Biodiversity Offsets and BBOP Overview
URL:http://bbop.forest-trends.org/guidelines/overview.pdf

開発による生態系へのマイナスの影響を生物多様性オフセットによるプラスの影響により相殺することで当該事業の影響をプラスマイナスゼロにすることを「ノー・ネット・ロス(No Net Loss)」、マイナスの影響を上回る代償措置を行うことで全体の影響をプラスにすることを「ネット・ポジティブ・インパクト(Net Positive Impact)」もしくは「ネット・ゲイン(Net Gain)」と呼び、これらはあわせて代償ミティゲーションと呼ばれることもあります。

図 ミティゲーションの順位
図 ミティゲーションの順位出典:田中章「“生物多様性オフセット”制度の諸外国における現状と地球生態系銀行,
“アースバンク”の提言」環境アセスメント学会誌,Vol.7,No.2,1-7.2009

代償ミティゲーションでは、「開発等によって影響を被る生息地」と「新たに復元、創造、増強する生息地」を、質、場所、面積、時間の4つの観点から分類できます。

表 代償ミティゲーションの種類
種類 インカインド 同様の質の生息地を復元、創造、増強
アウトオブカインド 異なる質の生息地を復元、創造、増強(より希少になっている生息地等)
場所 オンサイト 開発計画地内あるいは隣接地での生息地復元、創造、増強
オフサイト 開発計画地から離れた場所での生息地復元、創造、増強
面積 同面積またはより広大 失われる生息地以上の面積の生息地復元、創造、増強
より小さい 失われる生息地の面積未満の生息地復元、創造、増強
時間 オンタイム 生息地が失われる以前に代償ミティゲーションが完了している
オフタイム 生息地が失われてから代償ミティゲーションを実施する

出典:東北大学生態適応グローバルCOE「生態適応シンポジウム2010『生物多様性オフセットと生態適応』」 田中章氏講演資料(2010)

このような生物多様性オフセットの仕組みはアメリカ合衆国で始まった制度ですが、現在ではEU(欧州連合)、オセアニア、北米、南米などに広がり、日本では制度化されていないものの、少なくとも50カ国で制度化されています(注1)。また、BBOP(The Business and Biodiversity Offsets Program)<FPP内にリンク>に見られるように、法制度として義務づけられているものではなく自主的な取り組みによってオフセットを行う取り組みにも企業の関心が高まっています。

例えば、アメリカでは生物多様性オフセットは代償ミティゲーションと呼ばれ、水質浄化法に基づき湿地開発を規制するものと、絶滅危惧種法に基づき絶滅危惧種の保全を行う2種類があります。また、より合理的・効率的にオフセットを実行するための仕組みとして、まとまった土地の自然を復元または創造した成果をクレジットとして、近隣の土地で開発行為を行う者に売ることができるバンキング制度が導入されています。

事例

ウォルマート社によるAcres for America (エーカー・フォア・アメリカ)

アメリカの大手小売業ウォルマート社(注2)のように、法律の規制の対象となるかならないかにかかわらず、自社店舗設置の際に、当該店舗面積以上の土地の生態系保存を自主的に行うといった取り組みも見られるようになっています。

同社は2005年にNational Fish and Wildlife Foundation(NFWF:連邦魚類野生生物基金)とのパートナーシップのもと「Acres for America (エーカー・フォア・アメリカ)」を実施しています。具体的には、2005年から10年の間、3,500万ドルを投じて、同社の店舗設置に際し開発された1エーカーごとに、少なくとも1エーカーの野生生物の生息域を半永久的に保全するという内容で、開発した土地と同等以上の広さの土地を保全するという、一種の「生物多様性オフセット」です。ウォルマートの場合、自社で使用する土地と同じ生態系ではなく、あくまで同じ面積の土地を保全する「アウトオブカインド」と呼ばれるオフセットとなっています。出店場所が、もともと生態系がそれほど豊かでない都市部が多い同社の状況を考慮した手法と言えます。

2008年までの3年間での保全区域は、グランドキャニオンのノース・リムをはじめ、計39万5,000エーカー(当初計画の3倍)に達しており、提携するNFWFも、貴重な生物種の保存に大きなプラスの影響を与えていると評価しています。

参加・利用するにあたってのメリットや留意点など

生物多様性オフセットの仕組みのもとでは、ミティゲーションの実施者とミティゲーションを行う根拠や範囲、手法がある程度明確になるため、合理的かつ効率的なミティゲーションが可能になる点が大きなメリットです。一方で、「回避」しても「最小化」しても残る、避けられない損失を補償するために使うということが原則です。

注釈

  • 1)田中章,大田黒信介(2010)戦略的な緑地創成を可能にする生物多様性オフセット〜諸外国における制度化の現状と日本における展望〜都市計画,Vol59,No5,p18-25.
  • 2)ウォルマート社は、1962 年に第1号店をオープンして以来、米国内の小都市に次々と進出、90年には全米最大の小売店に、さらに99年には世界最大の従業員数を抱える企業となり、今や世界最大の小売業者となっています。近年では、地産地消や再生可能エネルギー・省エネへの取り組みやCSR(企業の社会的責任)への積極的な取り組みを進めています。

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