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森林保全の制度

タイ王国

法制度等の背景

タイはかつて国土の約7割が森林に覆われていたと言われていますが、1950年代以降その森林面積は急速に減少しました。森林減少を抑制するため、政府は1989年に天然林の伐採を原則禁止しました(タイの森林の状況はこちら)。国連食糧農業機関(FAO)の2010年世界森林資源評価によれば、同国の天然林の割合は今や国土の29パーセントに過ぎないとされています。

タイでは元来、森林は国家のものとされており、居住地や農地などを除く土地・傾斜地はほぼすべて国有林に分類されてきました。森林から得られる木材や薪炭、タケノコ、キノコ、山菜などの森林資源は、農村地域の住民にとって生活上欠くことのできないものであり、広く一般的に利用されてきましたが、こうした住民の森林利用権に法的な根拠はなく、政府が黙認する形での利用が続いていました。


コミュニティ林であることを示す看板

タイの主要民族はタイ語を話すタイ族ですが、ラオスやミャンマー(ビルマ)と国境を接する北部などの山岳地帯には、それぞれ独自の言語と文化を持つ少数民族(注1)コミュニティが多数存在し、そうした地域では古くから森林に依存して暮らしが営まれてきました。これらの少数民族コミュニティの中には、タイの市民権が得られず、無国籍状態に置かれている人も少なくありません(注2)

1990年代、タイの森林局は森林地域のコミュニティに対し焼畑などの農耕を認めないという方針のもと、森林行政に取り組んでいました。このため、主に国立公園をはじめとする保護区設置の際、少数民族の住居や畑を森林局が焼き払うといった激しい対立が各所で起こっていました。しかし2000年代以降、森林局と国立公園局が分離したこともあり、森林局内にコミュニティ林(CF)を管轄する部署が創設され、CFの登録などに取り組むようになりました。

法制度等の概要

森林の保全と管理に関する法律としては、森林管理法、国家保全林法、国立公園法、野生動物保全・保護法などがありますが、これらの法律には住民の森林利用についての定めがありません。このため住民による森林の利用については、1997年の憲法第45条において認められた「環境と資源管理に関するコミュニティの権利」により保障されているという見解に基づき、NGOや住民リーダーによって権利の主張がなされるようになりました。


山頂まで続くトウモロコシ畑も保全林エリアに指定されている

タイでは、1990年頃から地域コミュニティの森林利用権を明確にするためCF法の制定を求める声が活発化しました。この過程で多くのCF法案がさまざまな主体により作成されましたが、さまざまな論議を経てもなお法律としては成立していません。

現在、森林局が進めているCFの登録地は、全国で8,700ヵ所、56万ヘクタールに達しています。登録は法的な位置づけのないまま進められており、国立公園などの保護区に含まれないことが要件となっていますが、その多くが森林局管轄の国有保全林区域に指定された場所となっています。

コミュニティの参加方法

森林局による登録作業は、以下の方法で進められます。

  • CF登録要望書(地域住民50人以上の署名を含む)の作成
  • コミュニティと森林局による共同現地調査の実施(周辺との境界をGPSで確認・記録)
  • コミュニティによる申請書(CFの目的、計画、村長や地区協議会の合意と署名を含む)の作成及び提出
  • 森林局長の認可を経て、CFとして登録
  • 5年後に計画実施等の評価を実施

森林局が登録するCFにおいては、立木の伐採は認められておらず、非木材林産物も住民による利用のみが認められ、販売は原則禁止されています。一方、登録地のコミュニティに対しては、CF管理者として以下のことが求められています。

  • 利用規則の作成と施行
  • 山火事防止のための防火帯の設置
  • 荒廃した区域を回復させるための植樹
  • 違法伐採や密猟等の防止


NGOがGPSで計測して作成したCFの地図。農地、利用林、保全林などの区分が示されている

生物多様性保全における効果と課題

CFの規模はさまざまですが、現在の登録平均面積は64ヘクタールとなっており、個々のCF面積はそれほど大規模ではありません。しかし、CFとして登録されることによって天然林は少なくとも伐採されずに維持され、また、荒廃林においては在来種の植樹により森林生態系の復元が推進されています。さらに、国立公園などの保護区に隣接している地域では、バッファーゾーンとしての役割も期待されるなど生物多様性の保全効果も期待されています。

また、乾季にはおよそ半年間にわたってほとんど雨が降らないタイでは、山火事の発生と延焼が森林生態系に多大な影響を与えています。このため、乾季の始めに住民が協力して防火帯を設置し延焼を防止したり、山火事の発生を早期に発見し消火活動を行ったりすることが、生物多様性を保全する上で重要になります。

違法伐採防止等における効果と課題

CF登録地では、住民が管理規則を作成するとともに、違法伐採防止の役割を担うこととされています。このことから、CFについては違法伐採を防止する効果も期待されています。一方で、コミュニティの中には森林伐採に関する規則を作成し、地区協議会レベルで条例を定めて伐採と利用を続けている例も見られます。タイの森林管理法では、住民の森林利用が想定されておらず、天然林の伐採は違法とされているため、厳密に法を適用すると住民による木材利用はすべて違法伐採ということになってしまいます。

現在、森林局はこのような事例に対する取り締まりには力を入れていませんが、管理計画に基づく持続可能な木材利用すらも住民には認められないとなれば、農村地域の現状や住民のニーズを反映していないと言わざるを得ないのが現状です。

地元の住民であれ外部者であれ、無秩序で持続可能でない伐採については監視・防止していく必要があります。一方で、住民による持続可能な管理計画に基づく利用に関しては、合法化して権利を明確化していくことにより、住民に対して森林管理や違法伐採の防止活動に関わるインセンティブを与えることが課題と考えられます。

住民参加と持続可能な利用における効果と課題

農村地帯の住民はさまざまな形で森林利用を続けてきましたが、その利用は常に「違法行為」とされるおそれがありました。森林が「国有」であり、住民の利用権に関する法的ルールが明確でない現状では、ともすれば資源の過剰利用を招きかねず、持続的な利用は期待できなくなってしまいます。

CF登録の最も大きな効果は、地域住民が森林局の承認を受け森林の利用管理を行うことにより、地域の森林を「自分たちのもの」であると実感することにあると言えます。つまり、所有権や利用権を法的に保障されていなくても「自分たちのもの」であるという意識がインセンティブとなり、住民自らが森林を守り、持続的に利用してくことにつながっていくのです。


森からお茶の葉を収穫してきた女性

これまでのところCF登録の大半は、森林局からの働きかけを受けてコミュニティが申請する形となっています。登録地にとっては、外部からの開発圧力を低減し森林を保全できることで、水源涵(かん)養や非木材林産物の利用など一定のメリットがあります。しかし、一方で、防火帯の設置や違法伐採の取り締まりなど、住民に課せられる義務も決して小さくはありません。

住民が無償でCFの保全・管理活動を継続するためには、木材の利用権や非木材林産物の販売を公的に認めていくといった制度の改善も今後必要と考えられます。

また現在、CFの登録対象となっているのは森林局が管轄している国家保全林であり、国立公園地域等は含まれていません。しかし、タイ政府は国立公園を拡大していく方針をとっているため、現時点で比較的良好な状態が維持されている国有保全林では、CF登録地であると同時に国立公園の候補地にもなっているところが少なくありません。

国立公園指定の議論が浮上した場合に、CF登録が住民の森林利用の権利をどこまで保障することができるのかは、今のところ不透明です。タイでは、森林に関わるさまざまな法律の優先順位が明確でなく法律間で矛盾が見られること、住民の権利を明確に保障するCF法が成立していないこと等が、住民参加型の森林管理・経営を進める上での大きな課題と認識されています。

(2014年3月)

注釈

  • 1)カレン、モン、アカ、ラフなどのグループがあり、タイ国内には約80万人が居住していると推計されている。こうした人びとは、中国南部からラオス、ミャンマー(ビルマ)、タイにかけての山岳地帯において、狩猟採集や焼畑など森林に依存した生活様式を築いてきた。
  • 2)現在も政府見解で8〜9万人(NGOの見解では20万人)の少数民族が、本来得られるべき市民権を得ていないと推計されている。市民権が付与されない場合、高等教育が受けられなかったり、就業が困難になる等の不利益が発生する。

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