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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 兵庫県姫路市
【竹林整備と竹資源活用 ―タケノコ産地で考える竹林の未来―】

日時 平成25年12月1日(日)13:00~16:30
場所 姫路市科学館

■概要
 竹は、タケノコを食用とするほか、農耕具や生活用具の素材として広く活用されてきた。しかし近年、利用が細り竹林は放置され、里山で分布を拡大し景観の変貌や農林業被害などを招いている。各地の竹林の整備や活用の取り組みについて情報交換するとともに、今後の竹林保全・活用の方向性について検討を行った。

■実践事例報告

(1)「ふるさとの原風景再生プロジェクト」
報告者:崎谷久義(太市の郷代表)
配布資料:会報「『太市の郷』たよりNo13,14」
説明資料:パワーポイント「故郷の原風景再生プロジェクト『太市の郷』」

 姫路市太市地区は、姫路市西北に位置し、世帯数約800、人口約2,000人の、タケノコ産地として美しい里山風景が広がるところだ。しかし、近年管理が追いつかなくて荒廃竹林化したところが散見されるようになってきた。民有林だけでなく、国有林や市が買い上げた里山などでも同様の課題を抱えている。「太市の郷」では、ふるさとの美しい原風景を取り戻すために、まずは人目につきやすいところについて景観保全の観点から取組をはじめている。

1)取組のテーマ ―健全な自然を維持できる、懐かしい未来を創造する―
 自分自身にも言い聞かせ協力してくれる人たちにも呼び掛けるテーマとして「健全な自然を維持できる、懐かしい未来を創造する」を掲げている。今よりもちょっと振り返った過去の中によいものがあるのではと思い、里山竹林や里川の保全活動を行い、自然を取り込んだ文化的な伝統を持続したいと考えている。今、全国の風景と佇まいが画一化して地域特色をなくしている事は実に淋しい。社会環境のストレスを軽減する上でも、多様な生態系が維持されてきた里山里地のもつ有効資源を存分に活用できるよう模索し、具体的に試行していこうという趣旨で取組んでいる。

2)太市の自然と活動内容
 太市は、何気なく春夏秋冬それぞれに季節の自然を感じることができるところだ。春は桜、夏はホタル、秋は紅葉、そして冬は雪がちょっとだけ降る。圃場整備の行われなかった太市地区は昔ながらの田園風景が広がり、流れる小川には希少生物こそ見られないものの様々な生き物がすんでいて、子どもたちの川のイベントなどを楽しむことができる。
 ムラを取り巻く美しい竹林は太市の特徴的な景観であり、「タケノコ」と言えば京都と並んで太市は代表的な生産地の一つだと自負している。
 しかしタケノコ生産は健全に続けていくことが難しい事業でもあり、管理しきれずに荒れ始めているところもある。特に地区内を走る鉄道沿いに放置されているところがあり、当団体では車窓からの眺めもよいものにしたいという思いから、伐採等の管理を行っている。作業方法としては、全伐から適度な間伐まで様々だが、どの方法をとっても大量の伐採竹が発生するわけで、その処理が課題だ。姫路市が地区の里山を買い上げたが、管理しきれずに放置されていたところを、当団体の取組みがきっかけで再生し、継続的に維持管理が進められているところがある。ここは伐採竹材で柵を構築したり、その柵内を工夫して伐採竹ストッカーとして利用するなど処理している。
 いずれにせよ、放置竹林の手入れ・管理で発生する大量の竹材処理は頭を痛める問題となっている。

3)竹林管理における支援制度の難しさ
 タケノコ生産林は、畑と山林の中間の位置づけにある。そのため、行政などの補助や助成の対象外になることも多い。例えば鳥獣害対策においては、山林の位置づけであるがために鹿・猪柵による防護の対象外地になることが多い。またタケノコ生産が家族単位での経営であるため、土地所有が複雑で入り組んでおり、保全エリアを一体的にくくりにくいこと等から行政が支援しにくい地域事情がある。

4)子どもたちが、地域に誇りを持てる環境を
 不法投棄など、荒れた竹林はゴミを呼ぶものだ。いざ竹林整備をはじめるとそのことがよくわかる。郷里を美しく風格のあるものにしたい。そしてその継承者をつくっていきたい。こうした思いから、地元住民だけでなく、都市住民にもかかわってもらいたいと考え、里山歩きワークショップを開催して課題を抽出したり、「竹林カフェ」という検討・勉強の場を設けたりするなどの普及啓発活動にも取り組んできた。
 また、子どもたちの農村体験学習や自然観察会などもサポートしている。タケノコ掘り体験や伐採竹を利用した様々なおもちゃづくり等を、整備したところで取組んでいる。ボランティア活動を楽しみながら、取組を通じてここで育った自信と誇りを子どもたちに持ってもらえるような地域にしていきたい。

(2)「石見銀山での竹林景観整備」
報告者:和田譲二(NPO法人緑と水の連絡会議事務局長)
説明資料:パワーポイント「石見銀山での竹林景観整備の取り組み」

 文化的景観、歴史的遺産として評価を受けて世界遺産に選定された石見銀山は、小さい山の中に採掘跡や寺などの遺跡が点在している。しかしそれらの遺跡が竹(ハチク)に覆われ、しかもそのほぼ100%がテングス病にかかっており、整備管理が必要な状況となっている。

1)取組の経緯
 NPO法人緑と水の連絡会議は、二次的自然(里山生態系)の保全を目的に1992年に設立された団体だ。石見銀山も暮らしと生業によって成立した「里山」だという観点から「世界遺産石見銀山を守る森づくり」を掲げて取組を始めた。世界遺産の保全と共に地域バイオマスの活用と循環を目指して、子どもたちと楽しみながら竹の伐採と利活用を行おうとしている。

2)保全整備活動の内容

  1. イベントでの普及啓発と利用
     楽しみながら森づくりを考えるきっかけとして竹を活用したイベントを開催してきた。
     石見銀山の竹はほとんどがハチクということで、子どもでもすぐにタケノコ採りが楽しめる。そこで毎年春、タケノコ採りイベントを開催している。また2007年には全国雑木林会議において、地元の温泉津小学校全児童と自作の竹楽器を使い、竹楽器コンサートを行った。
  2. テングス病対策
     石見銀山に広がるハチクの純林は、かつての鉱山が農耕に使われ、その後放棄されたところに侵入して形成されたものだ。調べてみるとそのほぼ100%がテングス病にかかっていた。核心地域もハチクに覆われており、ここもテングス病にかかっていた。そこで99%という極度に強い間伐を行い、ヘクタール当たり5,000本のハチクの伐採を実施。伐採竹は大型チッパーで粉砕し処理を行った。
  3. 多様な主体の連携協働、支援制度の活用
     以上の整備活動を、市民・行政、国際ボランティア、小学生から大学生、そして緊急雇用対策事業、緑の募金や石見銀山基金など様々な主体や支援制度を活用しながら進めている。研究者によるアドバイスと継続的調査も不可欠だ。
     また、「グリーンボランティアツーリズム」として国際ワークキャンプを開催するなど、世界から環境ボランティアを呼び込むとともに地域活性化に寄与してもらおうとしている。

3)竹の活用実践と展開

  1. 竹チップの活用
     整備活動で発生する竹チップは現地でばらまいていたが、何か活用できないかということでいくつかの試行実践を行っている。地元の柿農園に防草マルチや堆肥として利用したり、銀山の歩道で竹チップ入り真砂土簡易舗装などを行っている。
  2. 竹紙の活用
     地元の遺産に着目し守ってきた人々を紹介する本を出版する際、竹紙を利用することを着想。100%竹紙を用いた本を出版したが、これは全国初めてのことだった。
  3. 竹の杖
     石見銀山の竹林整備で伐った竹を杖に加工し、観光客に貸し出す取組を実施した。人を支えるという意味合いを込めて、歩く観光を推奨することで、竹の利用を図っている。竹の杖デザインコンテストを実施したり、オリジナル竹杖づくりワークショップを継続的に開催している。地元の小学生たちとも連携して、竹の杖を観光地のあちこちにおいて使ってもらっているところだ。
     竹の杖を持って銀の町を歩いてもらいながら、保全と観光の両面から地域が元気になっていけばと願っている。

(3)「近江八幡の親父たちの竹取物語 ―竹林の再生整備と間伐竹の活用―」
報告者:小関皆乎(いまさかPJ代表)
配布資料:チラシ「親父たちの竹取物語」
説明資料:パワーポイント「いまさかPJの間伐竹再生活用」

 近江八幡市は琵琶湖東岸に位置し、ラムサール条約登録湿地である西の湖、伝統的建造物群保存地区である八幡旧市街、重要文化的景観選定地区である水郷集落があり、環境面に配慮した活動に力を入れている地域だ。
 いまさかPJでは、3Rを重要視しながら、放置からの再生と循環をキーワードに、町づくり、人づくり、環境と文化、農と食をテーマに活動を行っている。竹林整備活用にかかわる活動を中心に紹介したい。

1)竹林整備活用事業の目的
 近江八幡市の中心部に位置する八幡山は、歴史的価値の高い豊臣秀次の居城跡だが、近年竹が侵入して保全上好ましくない状況となっている。こうした里山の放置竹林を整備して里山景観を再生するとともに、間伐した竹材を地域でさまざまな形に循環活用して、市民の日々の暮らしを見直すきっかけにしていきたいというのが私たちの事業目的だ。

2)伐採竹を水郷地区の耕作放棄地の再生活動に利用
 水郷集落の円山地区では、田舟でしか行けない不便な水田が放棄されており、ヨシ原がススキに代わってヨシ原に外来植物が侵入し、希少生物や絶滅危惧種の生息環境の悪化が懸念されている。そこで田舟を用いて資機材を運び、耕作放棄地の再生活動に取組んでいる。
 里山の竹林整備と水郷地区の耕作放棄地の再生活動を結び付けることで、生物多様性の保全を図ると共に、里山の活動で出た伐採竹材を水郷地区に運びハウスをつくったり、竹粉化して肥料として活用するなどの取り組みを図っている。特に竹パウダー製造機を導入して製造した竹粉を用いた作物生産では、これまでのところ大変よい結果を得ることができている。この他竹粉を近江牛の飼料への活用も検討している。

3)竹利用の多様な試み
 間伐竹の生活の中での有効利用も図っている。竹を用いた楽器によるバンブーオーケストラコンサートの開催や、竹材を用いた観光用自転車タクシー「竹リキシャ」、竹粉育ちの青じそジュース、八幡山城跡の竹柵など幅広く活用を展開しているところだ。

4)地域を取り巻く多様な主体とのネットワーキング
 定年退職男性の市民活動組織で24の参加団体を持つ「近江八幡おやじ連」をはじめ、NPO法人近江八幡市中間支援センター、近江里山を歩こう会、八景会(八幡山の景観を良くする会)、湖畔隊、景観隊(白鳥川の景観を良くする会)など、各種保全活動団体と連携しながら事業を進めている。ネットワークの力によって森から湖まで繋がることができる活動を展開している。

5)竹粉の利用を契機とした地域循環の仕組みづくりを目指して ―森と湖をつなぐ―
 保全活動によって発生した伐採竹による竹粉を使った作物づくりは、概ね良い効果を出している。今後は、こうした保全活動と活用とを同時に進めながら産業界の人たちとも連携し、有機農家、外食産業、畜産など異分野・異業種を結び付けることで循環するいわば「竹粉循環システム」を検討し実践していきたいと考えている。
 八幡山・円山水郷地区は様々な生き物の宝庫だ。ツルスゲをはじめ様々な絶滅危惧種も見られる。取組によって美しいヨシ原が残され、多様な生き物の保全にもつながるものだと思っている。そのためにも森から湖までの一貫した取組を大切にしていきたい。

(4)「拡大を続ける竹林への対峙と竹林再生に必要なこと」
報告者:鎌田磨人(みなみから届ける環づくり会議議長)
配布資料:論文抜刷「徳島県阿南市における竹林所有者と住民の竹林拡大」・
「自然環境情報GISと国土数値情報を用いた日本全域の竹林分布と環境要因の推定」
説明資料:パワーポイント「拡大を続ける竹林への対峙と竹林再生に必要なこと」

 「みなみから届ける環づくり会議」は、徳島県南部総合県民局管轄で活動している協議会組織だ。地域の様々な課題にワークショップで問題点を抽出しながら検討を行い取組んでいる。現在「水質」、「交通」、「竹林」、「協働」というテーマを設定し活動を進めているところだ。

1)放置竹林のリスクを抱える里山の状況
 放置竹林は今や全国的な問題となっている。特に徳島県は深刻な状況にあり、シミュレーションによると2090年には小松島市では全森林の100%、阿南市では50%が竹林になってしまうと予測されている。原因は竹材やタケノコ生産の不振だと考えられ、竹林分布と竹材・タケノコ生産量の推移をみるとそれがよくわかる。竹林拡大は、里山の劣化、生物多様性の損失、保水機能の低下と地滑り発生の助長など、環境・防災上の大きな懸念事項だ。
 徳島県は人口約70万人、阿南市は7万人程にすぎないため、財政力が小さい。そのような中でどのような対策が行えるのか模索を続けている。

2)普及啓発と連携活動による課題解決に向けた取組
 竹林部会では「新しい公共」事業により取組を進めている。まず竹林が地域の課題として十分に捉えられていないことから、イベントやフォーラム・シンポジウムを通した啓発を行っている。竹林フォーラムをはじめ、子どものイベントや農家と提携したイベントを開催し、竹の伐り出しから使用までを体験してもらうなどすることで関心を持ってもらおうとしている。
 また、竹林管理に大きな役割を果たす農家のやる気を起こすためには経済的インセンティブが大切。そのため、産官学民で構成される当団体のメンバーのネットワークの特徴を活かした協働による竹材流通モデルを検討し、竹材の新しい利用方法を試みた。それが「竹の駅プロジェクト」だ。

3)竹の駅プロジェクト
 ―竹材の有効利用を目指した流通の仕組みに着目した社会実験―
 竹材を活用した製品はできても、流通コストの問題や安定供給の難しさなどから結局中国からの輸入材にかなわないという問題がある。この問題を解決するために検討しているのが「竹の駅プロジェクト」だ。JAあなん・筍農家・竹林所有者(竹の伐り出し・搬出)と、バンブーケミカル研究所(チップ化作業等一次加工)、王子製紙(竹チップ利用)が連携して、竹材活用のリスク抽出と回避の仕組みやマーケティングについて社会実験を行った。
 ポイントはいかに流通コストを減らせるかということで、昨年100tの竹材利用を目標に実践。結果として97tの竹材を土場に集積し利用することができた。しかし細かくチップ化することが技術的に難しいため外部委託を余儀なくされ、1t当たり1万~1万5千円程度の補助金がないとうまく循環しないということが明らかになった。

4)ネットワーク強化による保全活用の活性化を目指して
 社会実験の結果を踏まえると、今後竹林整備で発生する材について、ボランティアと協働しながら特に搬出作業に力を入れていく必要がある。またチップ加工をどのように担うかの検討も重要だ。地域通貨などの経済的な仕掛けを導入し、加工・開発・流通といった竹材活用に付帯するコストをいかに下げることができるか、依然として課題となっている。
 しかし、放置竹林の伐採ボランティアや竹林所有農家が、竹チップの活用先の企業の社員だったりするなど、身近なところで人のつながりがあることもわかってきた。こうしたつながりを大事にしながら、放置竹林の問題に取組むと共に、竹林伐採後の里山に植えるどんぐりを育てる活動も始めている。
 近頃「とくしま放置林対策情報交流会」が設立された。この交流会では放置されたタケノコ生産林については農家などと連携しながらタケノコの生産を、竹林化してしまった林地については森林組合の整備による森林再生を行おうという方向で検討している。会の集まりでは、竹林問題の深刻さや難しさからネガティブな意見も多いが、地元の里山にかかわるものとして感動を与える仕事としての誇りを持ちたいという気持ちも垣間見られる。こうした気持ちを汲んでいくためにも、竹林整備活動をめぐる需要と供給のマッチングが行えるセクターが必要だ。徳島県では今経済的に成り立ち自立的に回せる仕組みづくりに本格的に取り組み始めているところだ。

(5)「竹が語る人との関わり」
報告者:渡邊政俊(竹文化振興協会専門員)
配布資料:レジュメ「竹が語る人との関わり」
説明資料:パワーポイント「竹が語る人との関わり」

 日本最古の竹製品として、縄文晩期に作られた「籃胎漆器」というものが青森県八戸市で出土している。日本人は有史以前から竹を使っていた。長い歴史を持つ竹と人との関わりについて話しながら、今日の問題点について考えてみたい。

1)「わび茶」の精神と竹利用の発展
 室町時代、千利休による簡素・静寂を境地とするわび茶の精神に、竹が大きくかかわってくる。わび茶のために多くの竹製品ができ、お茶の世界が開けるにつれ、茶室などの建築にふんだんに竹が利用されるようになった。この後、日本では茶室だけでなく一般の家屋にも壁に竹が使われるなど、それまでの竹文化から竹産業への転換が起こり、その流れは戦後まで続いていた。

2)竹林の放置問題の発生
 しかし、昭和50年代後半から放置竹林の問題が発生するようになる。主な原因として、1.竹材の需要減退(住宅等の建築、特に壁下地竹の需要減退)、2.生産者の高齢化と後継者不足、3.竹材・竹製品・タケノコの輸入増大(安価で大量の輸入により、国産品の需要減退)があげられる。
 昭和30年代、京都大学の故上田弘一郎博士(京都大学名誉教授)が調査のために放置竹林を探した際、なかなか見つからなくて苦労されたと聞くが。それが今や竹林と言えば、放置竹林のことかと勘違いされるほど広がってしまっている。

3)市民の取組の広がりと課題
 平成17年度林野庁特用林産物流通実態調査において、竹林の整備保全にかかわる団体の動向について取り上げられている。この調査でわかるのは、ボランティア団体のほとんどが30名以下の小規模な任意団体で、かつ、平成に入ってからできたものがほとんどだということだ。定年後の方々が集まってボランティアグループが立ちあがり取り組んでいる実態が見てとれる。また、活動内容としては、約45%が放置竹林・拡大地区林の整備、約22%が竹炭・竹酢液の生産が挙げられている。
 しかし、近年、構成員の高齢化、資金難、知識不足、伐竹材の処理が課題となっている。このため若い人も入ってこられるような魅力的な取組を考えたり、公的助成制度やマニュアルの利用などを図ると共に、竹材の大量消費を促すような工業的活用の検討が大切だと思っている。

4)「整理伐」と目的にそった栽培技術の導入を
 放置竹林に対する基本的な改善施業のあり方として「整理伐」という考え方が重要だ。枯れ竹、老齢竹、倒伏竹、不良竹などを整理しながら処理していく。しかしこれはあくまでも整理する作業であって収穫作業ではない。整備をしてもそのままにしておけば2、3年で藪化してしまう。したがって、整理伐を行った後、目的に沿った栽培技術導入を検討しておくことが次のステップとして必要だ。

5)竹林の将来像 ―文化的活用と工業的活用―
 竹の活用としては、文化的活用と工業的活用がある。文化的活用としては、伝統産業や、工芸、造園への利用があげられるだろう。これらは大変重要だが、技術を持っている特定の人しかできず、また需要も限られている。一方で工業的活用としては、フローリングなど新建材、炭化製品、竹繊維(レーヨン)、竹チップ・竹粉、発電などのバイオエネルギーなど、様々な活用形態があげられ、大量の需要を起こすことが見込める。
 竹の工業的活用により、放置竹林の整備で発生する竹材の消費が望めるが、一方で1人当たりの竹林所有面積が小さいため、大量需要にこたえられないといった課題がある。今後、工業的活用策を検討すると共に、発生する大量需要に対応するための竹林所有者間の合意形成をどう構築していくかが重要となるだろう。
 1981年、京都市が乙訓地方の竹の本場で5万人規模の洛西ニュータウンの建設により、竹林260haが姿を消そうとした際、故上田博士(前出)が、「竹が泣いている」と嘆いたものである。ニュータウンの一角が京都市洛西竹林公園となっているのはそうした経緯からなのだが、今や全国的に「竹が泣いている」状況にある。今こそ竹を使うことを真剣に考え竹林の将来像を描いていくことが求められている。

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■ディスカッション
テーマ:「竹林整備と竹資源活用」
パネリスト:﨑谷久義、和田譲二、小関皆乎、鎌田磨人、渡邊政俊
コーディネーター:竹田純一(里地ネットワーク事務局長)

 竹林整備と活用を中心話題として、整備・活用手法から社会的・経済的仕組みづくりなど多様な観点からパネリストの取り組み事例に即した幅広い議論を行った。
 和田氏からは、石見銀山の世界遺産化の過程において竹林整備活動は意義のある取組だったとの話があった。また、竹林整備が遺跡の保護保全だけでなく、ツーリズムなど経済につながる面があり、地域活性化の視点からも着目されるとの指摘があった。
 﨑谷氏からは、地元太市地区における竹林問題は、ずっとそこに住んでいる人たちにとっては見慣れているので気がつきにくい。外とつながることで地元の気づきを促していくことや、地域の生業の一つであるタケノコ生産の視点から保全・管理の方法を検討することの重要性について示唆ある話を頂いた。
 小関氏からは、竹林整備などのボランティア活動にどのように地域の協力者を得ているのかとの質問に対して、継続的にきちんと取り組んでいくことが、信頼を醸成し、地域の多様な主体の力を引き出すことにつながるのではないかとの指摘を頂いた。
 鎌田氏からは、人口の少ない徳島県における取組では、ボランティアだけに頼っていては人材的にも厳しい。経済ベースで回せる仕組みを考えながら、農家、行政、企業が入れるような検討が必要だ。また、都会からボランティアを入れる方法も合わせて考えてきたいとの話があった。
 渡邊氏からは、タケノコ生産の観点から、土質、竹の直径、親竹の残し方等により、育て方に法則性のようなものがある。どんなタケノコ生産を目指すのか目標設定が重要だとの指摘があった。また、ある一定規模の整備を行おうとすると、自分たちだけでは解決できない問題も出てくる。行政とタイアップして整備から利用まで検討していくプロセスが必要であり、自治体単位で地区ごとにゾーニングをし、整備や活用を考えたヴィジョンを描くことが重要だと提起された。
 コーディネーターの竹田氏からは、竹の燃料利用の可能性について触れながら、竹林整備のためには地域の主体がまずは整備し活用する意識を持つことが、取組を進める上で重要だとの指摘があった。
 最後に、主催団体の一つである竹林景観ネットワークからは、竹の生態学的研究において、もともと竹には拡大する性質があることが分かっている。したがって人間が竹との関わりの中で竹林の将来像をどうしたいのか、なくすのか、増えないようにするのか、それとも継続的な活用方法を見出すのか、地域によっても異なると考えられるが、活動のしっかりとした哲学を持つことが大事ではないかとのコメントを頂いた。

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■エクスカーション

(1)竹林見学会
 タケノコの生産地として有名な姫路市太市地区を回り、タケノコ生産林や景観保全をしている整備竹林、国有林の竹林整備状況、市営公園における竹林整備実態等について、ボランティア団体「太市の郷」の案内で見学を行った。

国有林内の竹林での説明
国有林内の竹林での説明

(2)竹林ワークショップ「太市の竹林の利活用を考える」
 太市地区をモデルにして竹林の利活用について、竹材、タケノコ生産、獣害対策、国有林の竹林などの各観点からワークショップ形式で検討を行った。地元と外部双方のアイディアを出しあうことで整備と有効な活用策について、保全管理における技術的視点、活用における多様な可能性、取組を継続していくための経済的仕掛けの必要性など、研修会に先立って論点整理を行うことができた。

ワークショップのようす
ワークショップのようす

(3)竹林景観ネットワーク研究集会 ポスターセッション
 竹林景観ネットワークの参加会員により、竹にかかわる各地の整備保全活動や研究調査成果についてポスターセッションが行われた。
 スキャナー法を用いた竹林の根の画像解析、タケ類テングス病の発症状況、里山再生を目的とした環境マネジメントに関する研究、広葉樹林への転換初期段階の動態研究、モウソウチク開花年限試験林の現状と今後の管理に関する研究、竹林の衰弱が樹木の更新に与える影響に関する研究、地域住民との活動を通した里山管理手法、淡路島における燃料としての竹利用、伐採と薬剤を組み合わせた放置マダケの防除、水環境資材「沈水炭」の開発などの報告が行われた。

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■まとめ
 放置竹林・侵入竹林の問題は、里地里山の保全活用を考える上で、重要な視点を提供している。エネルギー利用などの新たな活用策の見出し、流通コストを考慮に入れた経済ベースの仕組みづくり、竹林所有者など地域住民との合意形成、保全活動における伝統的手法や対象植物の法則性に配慮した栽培管理方法の検討など、竹林問題を検討しながら里地里山保全・活用全般につながる幅広い視点から議論を深めることができた。

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