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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 佐賀県唐津市
【虹の松原の景観づくりと未利用資源の活用の試み】

日時 平成25年10月5日 13:30~16:30
場所 唐津市民会館中会議室

■概要
 日本三大松原の一つ虹の松原では、地元NPOをはじめとした市民、行政(市・県・国)、教育研究機関、農家など多様な主体が連携し、松原の保全による景観保全を促進するとともに、発生する松葉などの燃料や肥料などへの様々な利活用を進めている。里地里山の保全型ツーリズムと特産物開発やバイオマス資源の熱利用など、未利用資源の活用策について考えた。

■講演
テーマ:「リピーター率100%の海岸を目指して ―鹿児島県重富干潟での取組―」
講演者:浜本奈鼓(くすの木自然館代表理事)
配布資料:パンフレット「錦江湾を未来に」、パンフレット「錦江湾」
説明資料:パワーポイント「干潟の生態系と重要性を地域と共に守り伝えるには」

 鹿児島県にある錦江湾は世界最大級のカルデラの跡だ。その湾奥に53ヘクタールにも及ぶ干潟ができており、その中に私たちが活動する重富海岸がある。ここは海水浴場にもなっていて、海水がない時でも干潟で遊ぶ光景が見られる。海岸の松林からは桜島を眺むことができる美しい景勝地だ。

1)地域資源としての海岸の再生
―地元の人たちとともに、ゴミを減らしていくために―
 しかし、当初重富海岸の松林は、ゴミ捨て場と化しており、人も寄り付かないようなところだった。ここに事務所を移転してきた私たちも、集落住民として考えた時、こんな汚れた松林でよいのか、自分たちができることは何だろうと真剣に考えるようになった。
 実際調べてみると重富海岸の水質はあまり悪くなっていない。しかしイメージが悪かったゴミがあって汚い、だから人が来ない、そして、ゴミ拾いをしてもまた汚れる、治安が悪いから近付かない、きれいにするためのイベントをしたいけど資金がないといったマイナス反応の悪循環となっていた。そこで、集落、NPO、行政、研究者それぞれの立場で「自分たちにできることはなんだろう」と話し合った。地域集落の方々は見回りをするようになり、私たちの団体は調査が得意なので、クリーンアップ活動を行うと共に、どんなゴミがどのくらい落ちているのか数えて分析することにした。その結果、松林のゴミは地域から出たごみではなく、外から持ち込まれたもので弁当の殻や花火や吸い殻などが多いことが分かった。そこで毎日、お昼に合わせて見回りゴミ拾いをすることにし、そのことでずいぶん捨てられるごみが少なくなった。また、子ども活動に加わるようになり、それを見た大人が行動を起こすようになった。2004年に活動を始めたころと比べ、1日のゴミの量は3分の1に減り、逆に利用者は10倍以上に増えた。このように海岸の利用者のマナーが向上し、治安が良くなったことでたくさんの人が訪れ、地元の人が自分たちの海岸を誇りに思うようになった。正の連鎖反応が起きるようになった。

2)研究者との連携と海岸の把握
 重富海岸はかつてと比べると生物層がかなり変化している。しかしそのことをよく調査せずに単に「昔はたくさんいた生き物が汚くなったから生きものもいなくなった」と思い込んでいた節があった。そこで、鹿児島大学などと協力して様々な環境調査や生物調査を実施し、見えにくい部分の検証を行った。その結果、水質はそれほど悪化しているわけではなく、干潟の地質が砂防ダムなどの影響で変化していることにより、生きもの層が変化している途中なのだということが判明した。

3)博物館づくりと環境教育
 干潟の実態をよく知ってもらい、よりよくしていくために活動を公開していく仕組みを考えた。それが「重富干潟小さな博物館」だ。手づくりの展示物で干潟の素晴らしさや恵みについて見てもらうとともに、多くの人に分かってもらえるように工夫しながら様々な体験・学習プログラムを提供している。例えば、干潟に飛来する鳥の観察会やゴカイの生殖群泳の観察会などは人気のプログラムだ。これらの環境教育プログラムは単なる観察会だけでなく調査プロセスを包含させることで、より効果的な取組になるように配慮している。
 また、直接干潟の生態系や恵みについて理解が乏しい人たちに対しても、博物館に併設しているカフェスペースでコーヒーを飲んでもらうことで、代金に含まれている寄付金によってよりかかわりや関心を持ってもらうように促すなど、アプローチを工夫している。
 こうしたいわゆる保全型エコツーリズム活動を通じて、里地里山そして里海をつなぐ流域の人々の努力を伝えることができるような博物館を目指している。ここ虹の松原においてもインタープリターを養成してガイドツアープログラムを充実させることで、普及啓発を図ると共により一層保全活動を促進させていくことができるのではないだろうか。

4)国立公園化と次世代への継承
―優先すべきは地域の利益、尊重すべきは地域の個性―
 私たちの合言葉は「優先すべきは地域の利益、尊重すべきは地域の個性」だ。干潟を開発か保護かといった二項対立的な選択ではなく、地域で利用しながら保全していくためにはどうしたらよいのだろうかと考える中で、保全と利用を行える「国立公園」にしていく構想が出てきた。そして昨年、海域を含めて霧島錦江湾国立公園として指定されることが実現した。
 美しく豊かな重富干潟、そして錦江湾を後世に良い状態で引き継ぐために、調査研究を続けながら、自然の不思議さや面白さ美しさをみんなで感動し共有すること、水辺や沿岸で身体を使って遊ぶこと・楽しむこと、学ぶこと、食べること、みんなで一緒に保全すること、こうしたことを地域と取組んでいる。日本中の海岸が住民が誇りに思えるような日本の海岸になってもらいたいと願っている。

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■事例報告

(1)「虹の松原の保全活動」
報告者:藤田和歌子(虹の松原保護対策協議会レクリエーションの森部会事務局(NPO法人唐津環境防災推進機構KANNE))
説明資料:パワーポイント「虹の松原の再生・保全活動について」

 日本にたくさんある松原の中で、佐賀県唐津市の虹の松原は、福井県の気比の松原、静岡県の三保の松原とともに、日本三大松原の一つに数えられている。 ここは国の特別名勝にも指定され、風光明媚な地域の観光資源となっている。

1)虹の松原の誕生と歴史
 この松原の誕生は、約400年前の1602年に,初代唐津藩主である寺沢志摩守が防風・防砂林(藩有林)として住民(満島村、鏡、浜崎、渕上)にクロマツの幼松を植林させたことに始まる。1616年までの14年間にわたり植林がおこなわれた。松の成長にともなって松原内に松葉が堆積し始めると、近隣の住民はこれを日常生活の燃料に利用する為に松葉かきを行い、そのために白砂が保たれて松は生育し、太く丈夫な巨木が点在する松原となった。このように住民の暮らしと密接につながって、松原は管理されていた。

2)虹の松原の役割と現状
 虹の松原がなければ唐津湾から吹き寄せる強風が砂浜の大量の砂を巻き上げて内陸に運んでしまい、塩分を吹くんだ砂は田畑や家に多大な被害をもたらすこととなる。松原があることで、松の枝葉で強風をやわらげ、砂の内陸への移動をふせぐ。400年以上の長い歴史を持つ虹の松原だが、近年、生活様式の変化から松葉かきが日常的に行われなくなり、松葉の堆積によって土壌の富栄養化が進んでおり、そのため一部に広葉樹が侵入し、「白砂青松(はくしゃせいしょう)」の景観が危ぶまれている。

3)虹の松原の再生・保全に関する覚書
 虹の松原の再生・保全を図るため、平成20年9月に九州森林管理局(国)、佐賀県、唐津市がさらなる連携・協働を強化することに合意。虹の松原保護対策協議会が、NPO法人唐津環境防災推進機構KANNEに事業委託をして、保全再生活動を展開している。

4)目指す松林の姿
 私たちは今後15~20年かけて次のような虹の松原の将来像を実現することを目標としている。
1. 虹の松原内の広葉樹やマツの過密林が伐採され、松原全体がマツの単層林となっている。
2. 虹の松原全域で市民などにより松葉掻き、草抜きなどの再生・保全活動が実施され、白砂青松の状態にちかづき、松原のいたるところでショウロの発生が観察できる。
3. 市民のレクリエーションや森林浴・海気浴など休養のフィールド。また松原ウォーキングや植物の観察会などの自然体験や環境教育の場として一層の活用がなされている。

5)松原再生・保全活動への参加方法
 松原再生・保全活動への参加方法として、一定の区画を受け持つ方法(アダプト参加)と、一斉に呼びかける時に参加する方法(イベント参加)の2通りを用意している。道具等はKANNEスタッフが準備している。
アダプト(里親)制度による参加方法は、団体ごとに一定の区域を割り当てて、活動をしてもらうもの。活動面積は人数によって変動するが、畳一枚分=1人としている。年間4回程度の活動をお願いしているところだが、多い団体では毎週活動するところもある。一方で、年1回程度となっているところもありばらつきがある現状だ。しかし、土日・平日にかかわらず、学校行事や職場の仲間など好きな日、好きな時間に気軽に取組んでもらうということでよい効果をあげていると考えている。

6)活用方法と課題、展望
 保全活動の方法としては、枯れ枝、松ぼっくり、松葉、ゴミなどを分類して集めるというもの。松葉はタバコ栽培の苗床にしたり、油粕と混ぜて堆肥にしたりするなどして活用しているが、大量に発生するため十分に利活用できず課題となっている。ペレット燃料化などの試行実験も行っているがコスト面での問題が生じている。
 また保全活動には、現在、154団体、5,700名の方が取組んでいるが、それでも全体の20%の面積しかできていない状況だ。
 今後活動を発展させていくためには、単に保全をしていくだけではなく有効な利活用など、励みになること・達成感を感じられるものが必要だ。また、活動の中核となるリーダーが求められており、人材育成も急務となっている。さらに取組の継続性を確保するための活動支援体制の充実や支援スタッフの安定雇用など自主財源にかかわる部分についても考えていかなければならない。
 より多くの市民と協力しながら観光・環境・健康資源などとして防風防潮林機能だけにとどまらない松林の多面的な機能を活かして、自然と人と地域を元気にしながら、白砂青松の景観を守っていきたい。

(2)「里山保全と伐り出した竹の資源化」
報告者:松原幸孝(NPO法人かいろう基山事務局)
説明資料:パワーポイント「里山保全と伐りだした竹の資源化」

 里山の保全と伐り出した竹の資源化をどのように図っているのか紹介したい。

1)森林整備活動から資源利用へ
 NPO法人かいろう基山では、それまで森林整備活動を軸にした取組に、地域おこしの仕組みを導入して、補助金だけに頼らず維持発展できる活動を目指している。そのために、市民力を養成するための講座を開いたり、財源確保策としてタケの資源化を図っている。

2)竹をより多く使ってもらうために ―竹パウダーづくり―
 竹の資源化の試みとして、竹細工をはじめとした竹製品をつくり、イベント販売を行ってきたが、細々としたものでほとんどお金にならない。そこでもっとタケを使ってもらおうと竹パウダーの製造機械を導入した。農畜産家と連携しながら土壌改良や畜産飼料配合、畜舎の抗菌材などに竹パウダーを利用しブランド化を追求している。そのほか食材として竹パウダーを利用したり、浄化槽や建築用に竹炭を利用するなども試みている。これらの販売収益を会員に還元しその一部をボランティア通貨の原資に充て地域の活性化につなげようと考えている。

3)タケ活用の可能性を広げるために ―課題と展望―
 タケには7つの力と5つの顧客層(売り込み先)があるのではないかと考えている。7つの力とは、浄化、消臭、抗菌、殺菌、調湿、燃焼、食材。5つの顧客層(売り込み先)とは、農家、バイオトイレ、住宅・建築・工場、主婦、燃料だ。
 しかし、タケ資源の活用はまだ数%にとどまっておりまだ緒についたばかりでいろんな可能性を活かしきれていない。特に枯竹などは活用できておらず課題となっている。今後燃料利用等も含めさらなるタケ資源の活用を目指していきたい。

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■ディスカッション
テーマ:「松と竹を活かしたツーリズム、特産品開発、燃料利用」
コメンテーター:浜本奈鼓(くすの木自然館代表理事)
パネリスト:藤田和歌子、松原幸孝
コーディネーター:竹田純一

 講演、事例報告を踏まえながら、里地里山の保全と活用を促進するための方策について、発表者をはじめフロアーも交えて次のような内容のディスカッションを行った。

1)活動を展開させる動機づけ
 活動を起こしていくために重要なことは、行政、企業、研究者、市民団体、住民などそれぞれの立場から、自分たちにできることはなんだろうと考えること。その際「優先すべきは地域の利益、尊重すべきは地域の個性」ということを大切にしたい。また、取組を継続していくためには励みとなるものや達成感をもたらすものが必要。そのためには、里地里山を保全だけでなく、活用をしていく。その結果、地域が保たれて、活性化していくということが重要だ。

2)燃料利用からの利活用の視点
 松原の保全にしろ竹林の保全にしろ、活動をすればするほど伐採木、枝葉、竹材などが大量に出てくる。これらの処理をどうしたらよいか今回発表いただいた団体も含め各地の里地里山保全活動団体では苦慮している。特に西日本では荒廃竹林の問題は深刻で、その伐採竹の処理が課題となっている。
 現在、環境省「地球温暖化対策技術開発・実証研究事業」において里地里山の草木質バイオマスをエネルギーとして利用する方法が研究されている。その中で竹とその他の草木質(松葉や草、モミガラ等)を組み合わせて薪ボイラーで燃料として利用する技術が開発されつつある。このように里地里山保全活動によって生じる残さを燃料利用することで、例えば温浴施設等のボイラーが入っている施設で石油代替を進めると共に、燃料代として里地里山保全活動団体へ経済的還元していくことを検討している。

3)活用によってもたらされる里地里山への効果
 里地里山保全活動で生じる残さを燃料に使うというのは過疎地域でエネルギーを考えるよい機会だ。これから人口減少時代を迎えるにあたって、密集化を図る集落での自給自足できる有効なエネルギー活用策としても検討できるかもしれない。
 こうした活用事業を地域の担い手に取組んでもらうことで、若者たちの雇用にもつながっていくことも考えられる。温浴施設だけでなく農業ハウスなど里地里山の地域産業に直結する施設での利活用も考えられるだろうし、里地里山の草木質バイオマス燃料を取り扱うことが現在石油の高騰で経営が厳しくなりつつある地域の燃料店での新たな仕事になりうるかもしれない。
 また、燃料利用によって、保全活動をより一層活性化させるという観点も大切だ。特に手入れ不足の竹林に覆われた里山は鳥獣害や土砂崩れなどの災害を起こしやすい。活用によって継続的な竹林整備が実現すれば防災上のメリットも大きいだろう。

4)動き出すために ―行政・企業・NPOのそれぞれの役割と機能―
 行政は緊急課題でないとなかなか手を回せないという側面もある。民間企業との連携から取組をはじめていくというのも一つの手だ。しかし地域によっては生活・防災上の視点から緊急性の高い課題として行政に働きかける方向もあるだろう。行政、企業、NPO、そして住民のそれぞれの役割と機能を活かして取組を検討し進めていく視点が重要だろう。

5)取組が持つ多様な可能性
 里地里山の保全と活用は多様な効果を創出できるのではないか。燃料利用の他、様々な地域産品の開発も考えられる。そして、保全活動を通じたツアーや教育による次世代への継承ということも大事に考えていきたい。

ディスカッションのようす
ディスカッションのようす

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■オプションプログラム
「虹の松原ハイキングと松葉かき体験」

 研修会に先だって、KANNEの案内で虹の松原を散策し、松原の現況について学び、保全活動を体験した。散策では、様々な形状のマツの生育について自然環境との関係、海浜に生息するハマゴウやハマボウフウなどの有用植物について説明を受けた。また、土壌の富栄養化によって、広葉樹等への遷移が進みつつある場所についても確認することができた。
 保全活動体験では、松ぼっくりや枯枝、松葉を分類しながら集めるなど、地域団体や企業などが行っている保全活動を実体験した。
参加者からは、現状を見て体験することで、松原の魅力や機能を高めるための効果的な方法について、考えを深める良い機会になったとの感想が聞かれた。また、エコツーリズムへの活用など松原の保全活動と合わせた新たな事業展開の可能性についても意見が出された。

松原で説明を受ける参加者たち
松原で説明を受ける参加者たち

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■まとめ
 今回の研修会では、里地里山、里海の保全活動には明確なコンセプトが必要であり、特に白砂青松の松原の保全には、経済的寄与できる保全型エコツーリズムプログラム等の活動要素が不可欠で、その実現には専門家の指導を受けたプログラム作りが有効であることが分かった。また、同時に保全活動によって生じる草木質の残さの利活用を燃料化という視点で考察した。
 大切なのは地域の利益につながる活用方法の検討であり、里地里山を取り巻く人々の協働による活用の取組が求められる。

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