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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 静岡県静岡市
【森の健康診断と森林資源の活用】

日時 平成23年11月7日(月) 13:00~16:00
場所 静岡県教育会館4階大会議室(静岡県静岡市)

■概要
静岡県は、県土の64%が森に覆われている。県中央部を貫流し下流域の暮らしや産業に多くの恩恵をもたらす大井川も、奥大井の広大な森林を水源としている。しかし近年、林業の低迷により間伐が進まず、森林の荒廃が目立ってきている。一方で、奥大井・南アルプス地域では、森林資源等地域資源を活用して自然・歴史・文化を学ぶエコツーリズム活動を行い、地域の活性化を図っている。
本研修会は、静岡県「しずおか森林CSRフォーラム」と共催し、流域の住民や企業と山村が協働して取り組むことを視野に、森林の状況を知り、どのような森づくりを進めるかを「森の健康診断」という観点から考えを深めた。また森林の持つ多様な機能を資源としてとらえ、地域にある他の様々な魅力を活用したエコツーリズムの取り組みなどを結び付けて活用していく方策などについて検討した。

■講演
テーマ:「森の健康診断と木の駅プロジェクト」
講演者:丹羽健司(特定非営利活動法人加露おやじの会事務局長・矢作川水系森林ボランティア協議会代表)

 森林を知るという観点から「森の健康診断」を、活用するという観点から「木の駅プロジェクト」を紹介したい。多様な主体が参画する森の活動促進に向けて参考にしてもらえればと考えている。

1)今、日本の森で何が起こっているのか?
今、日本では木材自給率はわずか22パーセントで、1週間に1つずつ山村を中心に集落が消滅している状況であり、森は手入れが行き届かず荒れている。不健康な森では低木層や落葉が少ないため、強い雨水によって浸食が進み、土砂災害の原因になる。一方で1年間に国内で使う木材は約1億?だが、ほぼこれと同じ量の木が国内で育っている現状がある。これをどう活かしていくかということが課題となっている。

2)森には持ち主がいる-森もムラも人も元気になることが大切-
 日本の森には、それぞれ持ち主がおり、森林簿という「戸籍」はあるものの「国勢調査」に当たるものがない。現況は森林がどのような管理状況にあるのかわからない「海図のない航海」といった状態である。山主もどこまでが自分の持ち山なのかさえ分からないという事態も見受けられる。このような状況では森林整備も進まないし、水源の森では、山も村も荒廃が進んでいる。この両者を元気にしていくという視点が大切だ。その第一歩として五感と科学で人工林の実態を知る「森の健康診断」の取り組みが始まった。

3)森を知るために-森の健康診断-
 森の健康診断は、専門家から市民団体、子どもたちに至るまで、多様な参加者で取り組んでいくことができる。矢作川の流域では2000年9月の東海豪雨による洪水被害を受け、2005年から10年計画で取り組んでいる。調査項目は、立地測定(土壌の厚さ、傾斜角など)、植生調査(必ずしも同定までは必要ない)、木の込み具合等で、道具は記録用ボード、調査枠用ひも、チョーク、電卓など20点ほど。いずれも100円ショップで購入できるようなものなので全国どこでも取り組みが可能だ。
 矢作川流域の森の健康診断では、2005年から2011年に7回、460地点、220チーム、1700人が参加した。市民と研究者と行政が実行委員会を組織して行われ、結果は研究者グループが分析、アンケート結果なども含め報告書やウェブで公開されている(http://mori-gis.org/)。この取り組みは出前授業を開くなどして全国各地で取り組まれるようになってきている。分かってきたことは、矢作川をモデルにすると人工林全体の3分の2が放置林となっていること。こうした結果を受け、豊田市行政が動き、10年間で100億円の予算をかけ放置林を一掃する施策を打ち出した。豊田市森づくり委員会が組織され、森づくり条例や森づくり構想を策定するとともに、外部者や一般市民の力を得ながら、データの蓄積、議論の公開を積極的に行い、行政と市民のポテンシャルを高めようとしている。

4)ムラを知るために-山里の聞き書き-
 森に隣接する山村ではムラ自体が消えるという事態になっている。しかしムラにはおじいちゃんおばあちゃんたちが継承してきた独自の貴重な知恵や技術が蓄積している。そこには、持続可能な暮らしや生き方のヒントがある。住民の生きざまを拾い、残していくために「山里の聞き書き」が行われている。高校生や大学生等が聞き手となって行う中で、聞き手も話し手も双方に良い効果をもたらしている。ムラに蓄えられている知恵や技術を、そして誇りを取り戻す契機となっている。

5)森とムラをつなぐために-「木の駅プロジェクト」と心地よさの経済づくり-
 50年近く前、宝の山として植えた人工林が、今は地域の負担になってしまっている。これをもう一度宝として、山への敬意や山里への誇り、村のにぎわいを取り戻すことはできないだろうかという発想で取り組み始めた。森の整備を進めるとともに、残材1トン当たり通常3000円のところをNPO等が資金注入し、6000円の地域通貨「モリ券」で作業者に還元する。作業者はもとより地域の商店も活性化するという仕組みである。
 当初は1年ぐらい準備に時間をかけて活動が開始されていたが、今は原則となるマニュアルやルールが設定されているので、これを地域の実情に合わせて運用していくことで、100トンぐらいのプロジェクトであれば、30万円ほどの元手ですぐできるのではないかと考えている。
 取り組みの結果、地域では自分たちでやっていくという自治の進展がみられる。今までは捨てられていた「道端にある丸太が500円に見える、スギ枝が100円に見える」など、作業者のモチベーションを高める意識変化が見られ出荷量も右肩上がりになっている。
 運営上のポイントは、中学校区規模のエリアで顔の見える範囲で行われること、そして3000円分の負担を行政の補助だけに頼るのではなく、市民、NPO、企業等、分散して賄うということで、様々な主体で支えていく姿勢が自治形成の観点からも大切だと考える。

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■事例報告

(1)「奥大井・南アルプスエコツーリズム紹介」
報告者:川根本町エコツーリズムネットワーク

1)なぜエコツーリズムなのか-地域課題への対応と住民・行政の連携-
 川根本町は年2%前後の人口減少と県内一の高齢化率となっている。基幹産業の一つである茶の品質は高い評価を得ているが、農家の所得増には直結しておらず、林業においても従事者の高齢化・後継者不足等で荒廃森林が増加している。また観光宿泊者の減少や観光施設の入場者が伸び悩んでいる。
 一方でエコ・リサイクル、自然環境保護、自然との共存、生物多様性などに対する近年の社会的意識の高まりは、川根本町の資源を再評価と活用を可能にしていく潮流を生んでいると考えている。川根本町は自然環境景観、地域の歴史・文化産業、地域を知る人・達人など、地域資源の魅力が町の魅力である。この地域資源をつなげ活用していくことで、町を活性化していこうとエコツーリズムに取り組むようになった。平成20年から活動を開始している。
 事務局は役場にあるが、地域活性化を目指す住民を中心とする取り組みで、自然と歴史文化、地域資源を素材としたエコツアーを実施している。コーディネーター育成、ガイド認定制度による「癒しの森案内人」養成と森林療法ツアーの実施、大井川流域市町村との連携などを図っている。町でも活動費補助金の交付や事務業務の代行等の支援を行っている。

2)今後の展開-交流人口の拡大と地域活性化、地域の誇り再生-
 エコツアー等による誘客増と交流人口の拡大、地域を理解し誇りを持てる人の育成、地域産業の活性化を実現させていきたい。今、世界自然遺産、ユネスコ・エコパークへの登録を目指し取組を進めている。

(2)ここは自然の学び舎-南アルプス・井川エコツーリズム推進協議会の活動
報告者:南アルプス・井川エコツーリズム推進協議会協議会活動の紹介-」

1)地域概要と活動方針―伝統文化の掘り起こしと行政との連携-
 井川地区は、南アルプスの麓に位置する。人口減少に歯止めがかからない中、何とかしなければということで、昔の生活文化を掘り起こそうという活動を始めた。しかし地域の高齢者はわら細工や蔓細工等昔の手仕事の技術を持っているが、それを活用し事業展開していくためのノウハウがないので、若い人たちや行政の支援が欠かせない。今、行政と一緒になって活動を進めている。

2)既存の観光資源の活用
 井川地区に向かうには、有名な大井川鉄道を利用することになる。沿線にあるダムや渡し船、鉄道資源等も活用したプログラムを考えることができる。また井川地区には少年自然の家や民宿もある。こうした既存資源をつないだ取り組みを検討している。

3)協議会の活動と実績
 南アルプス・井川エコツーリズム推進協議会では、地区内に少年自然の家がある関係もあり、学校教育などの教育活動と連携した取り組みを中心に活動している。現在、「自然を学ぼう!」というテーマのもと、食の体験、生活の体験、自然の体験、歴史文化の体験等、地域資源を活用した14の体験活動プログラムが設定されている。平成22年には9団体を含む702名の参加があった。
トウモロコシもぎやコンニャク作り、そば打ち、わら細工や蔓細工作り、神楽の観賞、そして徳川氏時代の砂金採り体験などここならではプログラムで地域を元気にしていきたいと考えている。

(3)地域資源を活かしたツーリズム推進会議の活動等
報告者:地域資源を活かしたツーリズム推進会議

 島根市川根町笹間川で活動をしている。地区は170世帯500人余りで、高齢化率は47%を越えている。2007年に小学校が廃校になったのをきっかけに、山村都市交流センターとして活用を始めた。
 地域、資源、ツーリズム、会議という4要素をきちんと把握し考えていくことが大切だと思っている。地域という点では、資源、歴史、産業といった観点で地域を捉えなおすと行政区を越えてしまう。現に当会で作成した地域作りマップも島田市に加え藤枝市も入っている。こうした点からも広域の連携の必要性がうかがえる。資源という点では廃校舎、遊休農地、古民家など、一見すると地域のやっかいもの、マイナスイメージで捉えられているものを新しい資源だと認識しなおすことで活動が広がるのではと思う。ツーリズムという観点では、どういう形で地域で受け入れをしていくかということについて再確認が必要だ。一生懸命もてなして、受け入れ側が疲れてしまい続かないという苦い経験もある。来る人も受け入れる人もよかったという形を探っていく必要があるだろう。会議という点では、当会は7つの独立した施設が連携して構成されている。それぞれの情報や課題を共有しながらやっていこうとしている。
 取組の中で大切なのは人だなと思う。人材育成を念頭に置きながら、つながり、広がり、高めあうということを意識した活動展開をしていきたい。

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■ディスカッション
テーマ:「持続的な森林資源の活用に向けて」
パネラー:丹羽健司、川根本町エコツーリズムネットワーク、南アルプス・井川エコツーリズム推進協議会、地域資源を活かしたツーリズム推進会議
コーディネーター:竹田純一(里地ネットワーク事務局長)

 最初に参加者からの森の健康診断と木の駅プロジェクトに関する質問に対して、丹羽氏から回答があった。地域通貨モリ券を支える資金についての質問では、負担分を行政だけではなく、NPOや市民、さらに今後は企業による寄付によって分散して賄うことが自治を育む点でも重要だと回答された。また森の健康診断の具体的な実施方法についてはウェブ上でかなり詳細に閲覧できること、調査後に里地里山全体をどうデザインするかという検討につなげていくことが大切であるとの回答があった。
 次に里地里山の活動を多様な主体によってどのように展開していくかという視点でディスカッションが行われた。現在静岡県内では、企業の森、学校の森、団体の森とそれぞれのフィールドで里地里山活動が盛んになりつつある。これら多様な主体の特性やニーズに応じて、地域とどのような関わりを設定すれば活動がより効果的に展開するのかという観点から議論が深められた。
 コーディネーターからは里地里山作りに、かかわる外部主体のニーズに応じたものを地域資源を生かしてプラスすることで取り組みがより進むのではないかということが提起された。例えば、希少種の保護保全活動から森づくりを展開する方法、企業であればカーボンオフセットという点で森林整備にかかわっていく方法、地域側では文化継承という観点から学校と連携して進めていく方法などが挙げられた。
 パネラーからは、自分たちが取り組んでいきたいこと、企業との連携ではどのようなことが実施可能で、どのような活動場所の提供ができるかという観点から次のような提案があった。南アルプス・井川エコツーリズム推進協議会からは、かつての観光産業資源を生かし、昔の生活や文化に触れあえるプログラムを子どもたち向けだけではなく、大人向けにも展開していきたいとの話があった。川根本町エコツーリズムネットワークからは、森林セラピーの取り組みを企業のメンタルヘルスに利用できないかとの提案があった。地域資源を活かしたツーリズム推進会議からは、外部の活動主体を受け入れながら、地域が活性化できる活動をしていくという姿勢が重要だとの指摘があった。

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■まとめ
里地里山保全活動に多様な主体が連携していくためには、それぞれの主体のニーズと地域特性のマッチングを考えることが効果的な取り組みを生み出すことにつながる。
今回の研修会では森づくりに企業がかかわることを通じて、保全・整備だけではなく、様々な取り組みへと展開していく可能性について検討された。それは、企業側であればメンタルヘルス効果、地域側であればツーリズムによる活性化など、それぞれの主体が内包する課題解決策とも通底するものである。取り組みを進めていくための地域内における協働連携、行政との協働連携、企業をはじめとする都市との協働連携など、ぞれぞれのレベルに応じた協働連携の具体的な方策について議論を深めることができた。

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