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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 奈良県桜井市
【山野草と生き物の多様性を生み出す 保全・活用ネットワークづくり】

日時 平成23年10月19日(水)10:00~16:30
場所 桜井市役所大会議室(奈良県桜井市)

■概要
野山に可憐に咲き誇る山野草は人間の暮らしの中で育まれ、多くの生き物に恵みをもたらしている。奈良県大和高原の山里を舞台に、山野草や生き物を愛する人々とともに、地元と外部の多様な主体との連携を構築しながら継続的な保護や環境教育、有機農業など、地域の生業を再生する多様な活用を目指した保全計画を検討した。

■講演
テーマ:「手作りで始めた山野草の里づくりの10年」
講演者:福岡定晃(特定非営利活動法人 山野草の里づくりの会理事長)、芳原和夫(特定非営利活動法人 山野草の里づくりの会副理事長)

1)活動場所と団体概要
大和川の源流地域で標高400~500メートルに位置する三谷集落(戸数15)で活動を行っている。大規模な基盤整理が行われなかったため、多くの山野草が残っており、生き物も豊富な環境が保持されている。動植物の写真資料等はそれぞれ花や虫の生活史なども含めデータとして団体に豊富な蓄積がある。
活動事業として、自然環境の保護復旧事業、山野草や自然環境を生かしたまちづくり事業、動植物生息調査、自然保護啓発事業、自然環境を生かした子どもの健全育成事業を掲げている。

2)取り組みのきっかけ-自然環境の保護復旧事業-
自然環境の保護復旧事業として、山林・農地等の復旧、山野草の保護・復旧、湿地ビオトープの整備、景観植物等の栽培を行っている。
活動のきっかけは、過疎化の中、集落周辺の環境を管理する人手が少なく、また農林業が停滞することで、農地や里山が荒れてきたということだった。これを何とかしたいということで、放置山林で竹がはびこったところを伐採撤去したり荒廃農地についても水田などで復旧作業を行った。当初は会のメンバーだけの取り組みで作業に限界があったのだが、徐々に地元の方も参加してくれるようになり、機械を使った伐採なども行えるようになった。活動の結果目に見えて環境が良くなったことを実感している。今は小学生も作業を手伝うようになり、環境学習の一環ともなっている。

3)花の宴などについて-里山環境を活用した取り組み-
年4回「花の宴」と称して里山の自然環境を生かした活動をしている。多くて約150名ぐらいの参加がある。毎回、山野草や景観を考慮したコースの自然探索を行い、その他に蛍観察、野草料理体験、スケッチ教室、クラフト教室などを行っている。特に赤い花のそばの栽培を契機としたそば打ちの取り組みは今年で10年目となる。里山で楽しめることとして、大豆を使った豆腐や味噌作りなども行った。また、自然農を目指した田んぼの取り組みも行うようになった。
保全活動の中では竹やクヌギなどの材が出ることからこれらの活用も試みている。竹は竹庇作り、クヌギは炭焼きの利用を試みている。こうした利用も行いながら山野草園の整備を進め、人々が自由に見られる場所としている。

4)調査、保全、交流活動などを契機とする他団体との連携活動

ア)調査活動
 身近な散策道沿いの動植物の調査を始めたのを皮切りに、水生生物の調査なども実施するようになった。現在、植物調査は山野草の里を守る会に、水辺の生き物調査は三谷生き物調査隊に引き継いでもらっている。
 調査の結果、植物ではスズランやカキツバタなど絶滅寸前種をはじめとした奈良県選定の希少植物が数多く見つかっている。動物でもコバネアオイトトンボやタガメなどの奈良県選定絶滅危惧種をはじめその他多くの絶滅危惧種や希少種が発見されている。
 生き物の調査方法は「標識採捕法」という手法を使っておりマーキングなどを実施している。子ども達でも楽しめるやり方となっている。

イ)保全活動と啓発活動-ビオトープ作りの取り組みなど-
保全活動で伐採した竹を利用しての竹クラフト、里でのたこ作りと凧揚げ、「花の宴」での自然散策などを行うことで啓発活動を行っている。この他に他団体と連携しながら保全を進める中で、里山にツリーハウスを設置して子どもたちが体験できるようにしたり、ビオトープを設置し生かすという試みを行っている。ため池の復旧作業ではオオコオイムシなどの多様な生き物が戻ってきた。休耕田を生かしたビオトープではさまざまな植物がたくさん生えるような形状を検討して造成した。こうした成果が奈良県ため池シンポジウムで発表され、これを契機に近畿大学との大学連携へと展開するようにもなった。

ウ)研修・交流活動
 自然保護の必要性をPRしていくため、他団体事業との交流を積極的に行っている。他団体事業に参加したり、またこちらに来訪する団体に研修プログラムを実施するなど取り組んでいる。近年では平城京天平祭への参加やふるさと大和川源流体験ツアーなどを行った。

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■事例報告

(1)「山野草の調査と自生地保全の取り組み」
報告者:石垣洋治(里山の山野草を守る会)

1)団体の概要
2008年3月に発足し3年半ほど活動をしてきた。シニア自然大学校(大阪市福島区)の修了生の受け皿という側面があり、現在60あるサークルのうちの一つとして活動している。
活動拠点は桜井市三谷地区の1haのフィールド。4班に分担してNPO法人山野草の会の活動日をのぞく週4日活動をしている。農事体験をしたことがほとんどないシニア層の団体で年齢は平均65歳ぐらい。会員数は現在53名で年々増加している。

2)活動目的-里地里山での楽しみと調査・保全活動-
大和川源流地域の山野草の生育環境の保全や保護を学びながら、精神的な安らぎや山菜などの恵みを楽しむということを大切にしている。また自然だけではなく土地の歴史や文化を知り、人の輪を広げて豊かな地域づくりに寄与していきたい。そういう意味では、自然文化の神秘さや不思議さに目を見張る感性が非常に大事だ。こうした基本的な考えの下で、里山環境の調査や保全・再生、そして維持管理活動を手がけている。

3)フィールドで見られる保護を要する希少種について
綿密な植生調査の実施とデータ化を図っており、今年一応の成果を収めることができた。活動場所の三谷地区では奈良県絶滅寸前主としてカキツバタをはじめ3種、奈良県絶滅危惧主としてユウスゲをはじめ11種、奈良県希少種としてササユリをはじめ12種が確認されており、この他320種類の珍しい草本が自生していることが分かっている。

4)活動からの学び-植物の生活史への視点と地域課題を見据えて-
昔、山野草は農業の傍らで意識しないで生育してきた。そこには伝統的な管理手法が存在したと考えられる。しかし今は環境をつくる(管理をする)ということを意識的にしていかないと山野草を育てることができない。
植物には種、花、実という個体の成長と、種の保存や繁殖のためのそれぞれの生活史がある。そのためスポット的に観察しても、その状況から敷衍して推測して学習しているにすぎないと言える。当会ではサークル活動を通じて、植物の生活史(経年変化と定点観察)を見つめながら取り組んでいることが強みだといえる。
 一方で三谷地区は、55歳以上の人口が半数を超え、近い将来担い手確保が難しいとされるところでもある。交通アクセスが悪いからこそ自然が残されているとも言える。活動では他への持ち出しや他からの持ち込みも行わないということに配慮している。しかし報道を知って山野草の売買を目的にした来訪や盗掘なども見られることもあり問題となっている。また2年程前からイノシシ被害が顕在化している。電気柵を設置することで徐々に効果は上がっているが、完全にはガードできるわけではない。

5)最新の活動実態-連携・協働による効果的な取り組み-
4班による活動を行っているので、それぞれの班の個性、フィールド環境、植生(林床植物や草地植物など)も異なり多様である。各班は月1~2回の活動がある。1回の作業では、各班のフィールドをすべて回るのが大変な程の作業量がある。また、班活動とは別に全大会や会食を行っている。里山の素材で流しそうめんの竹を準備したりマイ箸マイカップでイベントに参加するなどしている。
 保全活動では法面の除草作業、イノシシ対策の電気柵設置、除間伐、落ち葉等の収集を行っている。そのほか実習や研修活動を行っている。他と連携していく中で複数の団体や人材を配置した効果的な活動を展開している。

(2)「上之郷の生き物と里山の保全」
報告者:日比伸子(三谷生き物調査隊)

 大学で昆虫を専攻したメンバー4名が中心となって活動している。それぞれ職業を持っているが、縁あって三谷地区でずっと調査を続けている。みんなで調べる水生昆虫というテーマで話をしていきたい。

1)水辺の生態系の特徴と調査目的
 水田を中心とする生態系「里地里山」には、多様な微環境が存在するため、多種多様な生物が生息している。こうした里地里山の水辺に暮らす水生生物は陸地と水辺を移動しながらそれぞれが独自の生活史を持っている。環境の連続性や多様性を語るのに重要かつ最適な生物群だといえる。
 しかし開発や圃場整備事業、生産性を重視した農法の採用などによって、「里山の昆虫」を取り巻く環境は変化している。中山間地域でもその影響は大きく、特に止水性の生き物が影響を受けているように感じられる。こうした事象を説明する有効なデータがあまり存在しないという実態もある。そこで、自分たちで調査活動を行い解明しようというのが私たちの発想だった。そして、すでに取り組まれている山野草の活動と連携し、子ども達と共に行うという方向で取り組みを始めた。

2)三谷地区の特徴-在来の生態系を残した多様な環境-
 三谷地区の水辺環境として、水田(棚田)、再生された水辺(ため池)、休耕田を利用したビオトープ(湿地池)、それらを接続する水路などがあげられる。当地区は地形的に周りの環境と少し隔離されている感が強い。そのため外来種の侵入などの外部の影響を受けにくかったと考えられ調査がしやすい。また、水辺が連続的に存在しており、空間的にも時間的にもさまざまな環境が存在しているので、種の多様性が確保できていると考えられる。
 このようなことから、里山の調査研究に適したフィールドであり、また在来の生態系を維持し守り続けていける可能性が残されていると考えられる。

3)調査方法について
 三谷地区のような一定のエリアを調査するためには、調査する人手が継続的に必要となる。そこで、フィールドを訪れる子ども達やボランティア、地域の人たちとともに調査をすることにした。4月から12月まで毎月1回。これまで延204名が参加してくれた。調査では談話会や食事などもセットし楽しく進められるように工夫をしている。
 調査方法として、毎回同じ規格の網だけを5本用い、30分間自由にすくい取りをすることで生き物を捕獲している。このように捕獲方法を均質化することで、科学的なデータとして学術研究に反映できると考えている。
 採集された生物は、分類してその場で同定を行ない、記録終了後すぐに元の場所へ放す。そのうち、オオコオイムシ等の大型水生昆虫についてはマーキングをして行動範囲や移動分散を確認している。現地で同定出来ないものだけを持ち帰り、後日種類を調べている。

4)調査結果について
2010年の結果では、オオコオイムシやタガメ、ガムシ、小型のゲンゴロウ類やトンボ類(ヤゴ)など38種類の水生生物を確認することができた。詳しい内容は論文等でも発表する予定である。
 調査結果のいくつかを例に挙げると、ミズカマキリは277個体が確認されているが、エリア内の個体数の変動が大きいことから、別の場所で繁殖している可能性がある。全国的な傾向だが、ミズカマキリの生息数が減少しており心配である。また、オオコオイムシは2年間で788個体にマーキングをした。これまでため池だけで見つかっていたが、昨年からはビオトープでも見つかるようになって来た。湿地が新しく出来上がってから移動するまでに時間がかかる種なのかもしれない。

5)成果と今後の展望
春から秋まで生き物の行動パターンには全体的に類似した方向性が存在するが、それぞれの生き物の生活史は少しずつ異なっており、里山における多様で微小な時間と空間を細かくすみ分けシェアしていることが分かる。このように成果が見えてくると、また様々な次の疑問も生まれてくる。今後は、さらに調査を進めていくため、地域住民や子ども達を中心とする週末ボランティアを巻き込んだ市民参加型の調査を展開していきたい。この調査方法の利点は誰でも気軽に参加でき、お金が余りかからないということ。その一方でちゃんと学術的なデータがとれ、調査研究できているという気持ちも持てる。
こうした調査成果が、学術的活用や地域との情報共有、環境教育、自然の保全と次世代への継承へとつながることが期待される。つまり単に虫を調べているだけでなく、環境を作ったり調べたり守るという要素と組み合わされ、地域の自然を見守り続け育てていくことに他ならない。取り組みの楽しさが里地里山づくりにつながっていることにやりがいを感じながら今後も活動を充実させていきたい。

(3)「里山の伝統文化と虫送りに見る共生の知恵」
報告者:植村勝禰(大和高原文化の会)

1)大和高原の概要と大和高原文化の会
大和高原は標高400m~500mあり、高原特有の冷涼なこの地帯は奈良盆地が「国中」(くんなか)と呼ばれるのに対して、「東山中」(ひがしさんちゅう)と呼ばれ、米と茶、古くは凍豆腐(高野豆腐)の特産地として知られてきた。
今は行政区として5つに分かれているが、生活文化を同じくしている地域圏であり、文化を通じたつながりということを考えている。過疎化が進行しており、当会では廃校舎となった学校施設を利用して事務所とし活動を展開している。

2)虫送りに見る共生の知恵-地域行事と共同体意識の育成-
 大和高原は民俗行事の宝庫である。米作りや山林業にちなんだいろんな行事が伝えられているが、近年の農林業の低迷で、維持するのが困難な状況になっている。
 「虫送り」という行事も米作りにおける害虫駆除の意味合いが強いものだ。しかし重要なのはこのような集落行事を行うことによって、集落の一員としての共同体意識を持つということではないかと思う。子ども達に対しても行事の中で役割があり、その役割を通じて地域の一員としての自覚を持つということがある。行事の中で指導力の育成や成長の機会が養われるという機能がある。
今、少子化や高学歴化を背景にあまり参加しない傾向があり、こうした本来の効果が発揮されないことを残念に思っている。

3)里地里山の民俗行事がつなぐ地域間交流の可能性
 里地里山の民俗行事のルーツは中国を発祥とする漢字文化圏全体にわたるものだ。ここにはそれぞれの地域で長年にわたって培われてきた共通の土俵のようなものが存在するのではないだろうか。生物多様性保全活動促進法の施行や生物多様性の10年を迎えるにあたって、民俗行事の視点が国内はもとより東アジア全体に対話と交流の輪を広げるような取り組みの発展につながればと願っている。

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■ディスカッション
テーマ:「三谷山野草園現地視察と計画策定ワークショップ」
パネラー: 福岡定晃、芳原和夫、石垣洋治、日比伸子
コーディネーター:竹田純一(里地ネットワーク事務局長)

 三谷地区の活動地を3班に分かれて視察をした。山野草の自生地保護フィールドは12箇所あり、その内の3箇所を巡った。スギ・ヒノキの林床で自生している山野草園の他、復旧したため池、休耕田を利用したビオトープ、竹による荒廃里山の復旧再生地などを見学し、会のメンバーより説明を受けた。
 視察後のワークショップでは、里地里山の再生や保全活動には地元農家から話を聞き助言を受けるとともに都市側からの参加が重要だという意見が出された。一方で都市圧が強すぎることで地域に負荷がかかるということもあるのでその点への配慮も欠かせないとの提言があった。
 また同一エリアにおいて複数の団体やコーディネーターが役割分担をしながら緩やかなネットワークを結んで取り組んでいることの効果が再確認された。これまでの活動を無理なく楽しく続けていくと同時に、生物多様性保全活動促進法の施行を契機に新しい展開も模索していきたいとする意見も出された。

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■まとめ
里地里山の再生や保全、維持管理活動には地域の理解や地元の活動だけでなく、都市をはじめとした外部とのかかわりが有効に機能することが確認された。本事例では、研究者、愛好家、子ども達、NPOの各主体が緩やかな連携とネットワークを形成しながら同一フィールドにおける保全と活用を効果的に行っており、多様な主体の連携による里地里山活動の典型的なモデルを提示している。研修会ではこれまでの取り組みに地域連携保全活動計画を視野に入れた更なる活動展開の方向性についても検討を深めることができた。

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