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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 神奈川
地場産木材の活用による里山産業の再生

日時 平成22年10月17日(日) 10:00~16:00
場所 表丹沢野外活動センター(神奈川県秦野市)

秦野市では35団体が里地里山保全活動を展開している。保全活動によって生まれる間伐材・落ち葉等の里地里山資源を産品等として活用し、地域の持続的な活動を支える基盤をつくることが必要である。今回の研修会では先進地の取り組み方法に学びながら、里地里山資源の活用方策を検討した。

1 活動報告

(1)「はだの盆地における里山保全再生の取り組み」
報告者:はだの里山保全再生活動団体等連絡協議会構成団体より3団体
1)比田井昌英(渋沢丘陵里地里山を楽しむ会)
2)加藤誠一(東地区里地里山保全再生活動団体連絡会)
3)山口行雄(表丹沢菩提里山づくりの会)

1)渋沢地区における里山団体の活動
渋沢地区は、里地里山の保全整備と地域活性化を目的にした団体、里地里山に親しみ楽しむ団体など、4団体があり、次のような活動に取り組んでいる。
1.里山の保全整備…下草刈り、間伐、風倒木の整理、散策道の整備、竹林整備など。
2.間伐材の利用…散策道補修用材、案内看板、生き物の里小川整備、水車、柵、ベンチ作り、シイタケ栽培、薪作りなど。
3.普及啓発等…小中学生を交えたボランティア養成や森林体験、巣箱の設置、落葉かきと堆肥作り、きのこの菌打ち、米作りなど。

2)東地区の里地里山活動
 里地里山の保全・再生、生物多様性の保全、地下水の保全、鳥獣被害の低減及び活力ある生産・生活の場を創出することを目的に、竹林整備や散策路整備、地元小学校と米づくりなどを行っている。竹林の整備はやってもなかなか追いつかないが、竹細工に詳しい地元の方の指導で、器や箸を作る、退職者に呼びかけて竹林と散策道整備に取り組むなど、多くの市民が関われるように頑張っている。

3)表丹沢菩提里山づくりの会の活動
 山を守っていこう、孫たちのために山づくりをしていこうという発想で活動を始めた。当地区は農地が10%ぐらいでその他は森林である。山がなければ生きていけない環境であり、地元の表丹沢野外活動センターとの連携を取りながら様々な事業を進めている。
里地里山の再生と管理事業では、薪作り、キノコのほだ木造り、竹林整備とタケノコ掘り、雑木林の管理整備などを行っている。
生協等、消費者団体とのネットワークづくりの一環として、小学生や市民に呼びかけ田植え事業なども行った。里山・観光クラブ、棚田クラブ、食育クラブなどの活動で消費者団体とのつながりを構築していこうとしている。ホームページを開設してイベントの開催告知などを行っている。また、動植物の観察やバイオマスに関する調査研究のお手伝いなどを行っている。バイオマス利用については、間伐材の搬出やチップ化作業やチップボイラーへの提供にかかわっている。
今後は、里地里山の資源を活かした利用ができる環境づくりに取り組みたい。課題はヤマビル、クマの出没などであり、どうしたら山の生き物との共生ができるのだろうかと考えている。

表丹沢菩提里山づくりの会の活動

(2)「県産木材の流通・販売について」
報告者:沖原和哉 (神奈川県木材業協同組合連合会)

神奈川県の森林手入れ不足で、生態系への影響も懸念される。「かながわ水環境保全・再生施策」で間伐をすすめている。間伐材は、30年生以下が土木資材、50年生以上が建築用材となる。県の民有林約8割が伐採時期で材の活用が課題である。
「かながわ木づかい運動」では、県産材を公共工事や、県庁の備品、地域の家づくりで利用する運動をしている。県内でも木材を生産し使う機運になっている。平成13年からは、神奈川県木材産地認証制度が実施され、今後は、「品質認証制度」の流れも作りたい。県内でも新たな製材所ができ、県内における大量生産が可能になった。活用を今後期待している。

(3)「地場産の森林資源の活用に向けて」
報告者:草山一郎(秦野市森林づくり課)

平成16年、環境省の里地里山保全再生事業モデル事業に指定され、荒廃化した里地里山の再生に努めており、ボランティア団体への活動支援も行っている。こうした活動の中で市民意識も変化しつつあり、森林体験や交流、環境教育などが普及しつつある。また、企業との森林パートナー制度も行われている。その中で、町から見える山の木を使ってマイホームを作る機運を盛り上げ、里地里山森林資源の活用につなげたい。
市では、神奈川県と連携して「水源の森林づくり」事業に取り組んでおり、水源林地域の枝打ち、間伐等の森林整備の助成も行っている。
多様な主体がかかわり協働していく中で、里地里山、森林の再生、維持管理、そして育成して家に使っていこうという発想につながっている。さまざまな課題はあるが、地場産木材の利用に向けて、市としても体制を整えていきたい。

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2 講演
テーマ:「加子母森林組合の木材活用」 
講演者:内木篤志(加子母森林組合 組合長)

 岐阜県中津川市の加子母森林組合は、旧加子母村がエリアで、民有林5,627haを管理。73%が人工林、そのうち84%がヒノキで、江戸時代から有力な木材供給地として幕府直轄地となっていた。
 現在、生物多様性や環境保全に関連してSGEC森林認証(国際的な基準を用いて持続可能な森林経営を行っている森林を認証するシステム)を4,672haで受け、認証材を使うところと取引をして、木材の価値が少し上がっている。
 森林組合では、下草刈りなど森林整備の仕事が最も多い。毎年300haずつ間伐し、15年で一巡と考えている。山の整備に道づくりは欠かせず、傾斜30度以下のところは積極的に道をつけている。航空写真や、森林GISを活用し、どういう木がどのように管理されているのか一目でわかるようにしている。
 里山産業の視点では、間伐や伐採に際して4世代同居の林を心がけている。110年、80年、50年、20年以下など、30年ごとに間隔を空けることで、どの世代も収入が生まれる。現在の一般的な伐採サイクルはおじいさんの時代に植え、孫の時代でお金になるため、間のお父さんの時代は手入れだけになる。
都会の方に見て理解してもらい、地元材で家を作ってもらうための見学ツアーも行っている。「山の木を切って使うことに申し訳なく」という感覚を共有できる理解ある企業とつながりたい。里地里山の資源には、いろいろな可能性がある。100年たった木は100万円となるようこれからも頑張っていきたい。

加子母森林組合の木材活用

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3 ディスカッション
パネラー:内木篤志、草山一郎、市川寛(市川屋(株))、田端良一(新進建設(株))、今井栄(秦野市森林組合)
コーディネーター:竹田純一(里地ネットワーク事務局長)

里地里山の保全から、資源の活用、イメージづくり、流通、販売戦略に至るまで幅広い議論を行った。
今井氏は、里地里山の保全再生のためには「活用する」という視点が重要であり、森林の価値や機能の普及啓発だけでなく、地場産材を活用してもらうためのPRが重要であると指摘した。関連して市川氏は、県産木材の取り扱いが増えつつあるものの、今後は県単位・自治体単位でも需要を喚起する必要性について触れた。
田端氏は工務店の立場から、地域の資源を使うことへの顧客の関心が高いことを指摘したうえで、今後さらに県産木材の良さを市民に知ってもらうような努力が必要であること、そして森林組合、製材所、工場、工務店といった流通の流れを視点にもった連携策をより意識的に考えていく必要があるとの意見が出された。地場産材や間伐材を活用した住宅への補助制度なども設けられており、こうした制度を有効利用する可能性についても検討する必要があるのではないかといった意見も出された。
内木氏からは、関係者の損得を超えた理解や交流の必要性、安定的な供給体制の必要性が語られた。
草山氏は、産品化、地域産材の活用について、活発に活動する里地里山保全団体と連携し、イメージづくりや小さなレベルでの活用実践を積み重ねたいとした。

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4 まとめ
 里地里山の保全の促進は、活用や産業化、経済化と表裏一体である。活動団体、森林組合、民間事業者、自治体などがそれぞれの立場で連携し、里地里山保全によって生まれた地場産木材を活用した里山産業の再生の必要性、方策について具体的な事例をもとに研修することができた。
里地里山保全再生・活用を実施するに当たり、近隣の森林組合や企業等のニーズを里地里山活用の観点から幅広く調査研究を実施することで、ボランティアのみに頼らない持続的な活動指針を得ることができると考えられる。

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