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活動レポート

里なび研修会 in 群馬
「聞き書き」で知る農的暮らしの喜怒哀楽

日時 平成22年9月11日(土) 13:30~17:30
場所 川場村ふれあいの家(群馬県川場村)

里地里山の伝統的な技術と知恵を継承するための手法として「聞き書き」の具体的な方法を学んだ。里地里山の保全再生への糸口として、狩猟採取、加工、保存、道具づくり、家や暮らしの成り立ちなど農林業の仕事や暮らしの技術と知恵を知り、活用を考えた。

1 講演
テーマ:「聞き書きから紐解く 持続可能な生き方」
講演者:塩野米松(作家)

塩野米松さんは、「聞き書き」のノンフィクション作家としてこれまで1000人を超える農山漁村の人々の仕事や暮らしを聞き書きし、作品としてまとめてきた。また、林野庁や文部科学省などが実行委員会に加わり環境省なども後援している、森の“聞き書き甲子園”を提唱し、毎年高校生たちが森の知恵や技術を持つ人たちへの聞き書きを行うようになっている。

1)聞き書きの技法
「聞き書き」とは、まず質問し、自分の質問はあとで全部消して、相手のしゃべったことを残す。返答に質問の内容が入るため、相手の言葉だけでも文章が成り立つ。質問を消しても成り立つようにするのが聞き書きの技法である。聞き書きは話した相手の言葉だけで構成する。聞き書きの文体は、「僕が」、「私が」、というようにすべてに主語がある、大変独特なものである。

2)聞き書きの効用-話し手と聞き手の関係づくりと生き方の継承-
 映像や写真はその瞬間を写し取るが、人がしゃべる話は長い時間をさかのぼり場合によっては生まれる前までさかのぼることができる。過去の技術や知恵が現れる。
 人が言葉でしゃべる時は、言葉にする前の準備がある。例えば木を倒すときに単にその動作をやって説明するだけでは聞き書きにならない。スギとマツでは倒し方が違う、枝の張り方や根の張り方でもちがう。また木の目、感触によっても異なるし、道具は微妙な感覚によって使いこなす。こうしたことを質問されると話し手は改めて自分の作業を言葉に置き換えないといけない。だから話をして、初めて自分はこう思っていたのかと、納得したということが出てくる。
 「仕事」をテーマにして聞くと自分がどういう関心を持ってどういう手法や技術を手に入れたのか、そういったところに話し手の社会観が含まれてくる。そこから話を広げる。欠落しているところやあちこち話が飛んだところもある。こういったことを継ぎ足しながら二人で話をしていけば関係がつながる。

講演

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2 事例報告

群馬県川場村は、農林業を中心にした村である。30年にわたって東京都世田谷区との交流を行っており、毎年世田谷区の小学生が体験移動教室として自然環境や村の暮らしを学んでいる。豊かな自然環境に恵まれているが、今後を考えると、農林業の担い手が不足し、知恵や技術が途切れるのではないかという課題もある。そこで、元森林組合の職員で、川場村の山と木に関する知恵袋である宮田茂さんと、Iターンで川場村に入った森林組合の鈴木大介さんを塩野さんと参加者が「聞き書き」することを通じて、それぞれの知恵や技術、思いなどをまとめる実践的事例報告を行った。事例報告としての内容と、聞き書きの具体的手法の研修の二つの側面があるが、ここでは、事例報告としてまとめる。

(1)「川場の山に生きて」
話し手:宮田茂(元森林組合職員)
聞き手:塩野米松

 昭和7年生まれ78歳。谷地の上河原というところで生まれ、湿地であまり農業条件が良いとは言えないところに、田んぼと畑が六反ほどあった。

1)炭焼きと森林活用
 当時、集落ぐるみで炭焼きをしていた。食料は自給していたが、それ以外の収入については林業関係で暮らしていた。父は白炭を焼いていたが、隣の集落は黒炭を焼いていた。集落ごとに炭種は異なっていた。
白炭窯はコナラとミズナラを使い、1回で7~8俵ぐらいの炭が生産できる。一方、黒炭窯ではブナやサクラを使い、一度に10俵の炭が出る。値段は白炭が黒炭の2倍ほどだった。

2)炭焼きによる里地里山の再生と循環のプロセス
炭焼きは20年に1回同じ山に戻る。一通り切って炭焼きをして、20年後に戻ってくると林が再生している。かつての窯の跡があり、その窯跡の材料を使ってまた切って焼く。今ではどこで焼くにも車で行って窯跡の石を持って来るようになっている。
川場村では、昭和39年の東京オリンピックの頃には炭焼きはやっていなかったかもしれない。

(2)「林業を自分の仕事に選んで」
話し手:鈴木大介(20代のとき東京より川場村の森林組合にIターン就職)
聞き手:なりわい創造塾研修生、塩野米松

東京都墨田区で生まれ、高崎経済大学でエネルギーについて学んだ。10年前にIターンして川場村の森林組合で働いている。
 きっかけは高校のときにエネルギー問題について知り、危機感を持つようになったこと。石油に代わる何かを考えたときに、再生できる山がよいし、自分が食べるものも大事で、米も石油なしでできるのではと思った。大学を卒業して2年間の会社勤めの後、千葉県の生産組合で養鶏と米づくりに従事した。
 森林組合の仕事は、まず植林場所を造成し、植えたら雑草を刈る。少し大きくなると、ヒノキなどは枝があると価値がなくなってしまうので、枝を払う作業がある。10年、20年経過後、密生しないように間伐する。約40年で柱が取れるぐらいの材となるので伐採する。
 森林組合の作業員は13名、事務職員は組合長を除いて8名。作業員の平均年齢は今30歳ぐらいで、急に若返った。組合で作業班として働くのは65歳まででその後5年ぐらいは継続できるが、その人たちがどんどん辞めて補充せざるを得なくなった。Iターン者への待遇は良くなりつつあると思う。家賃も安いしすごしやすいということもある。川場村にいる3名のIターン者はいずれも林業関係の仕事をしており、良い関係を築けていると思う。
今、里では熊や鹿による農作物の被害が生じている。獣害対策を考えるのであれば、広葉樹を国有林でも民有林でも増やしてやればよいのではと思う。

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3 ディスカッション
テーマ:「川場の里地里山資源の保全と活用の現状」
パネラー:宮田茂、鈴木大介
コーディネーター:竹田純一(里地ネットワーク事務局長)

里地里山の資源において間伐材や薪・炭など木材が利活用されていない現状や、高齢化が進む中で里地里山を手入れ管理する担い手が不足しているなどの課題が提示された。そのなかで、「川場村では、1軒ごとの山林や田畑は規模が小さく、経営規模を広げにくいですが、小さい規模の田畑がたくさんあるから景観がしっとりしていて良いという都会の人の評価もあり、地元の価値観と外部者の価値観の違いを良い意味でどう生かしていけるかということが課題です」「聞き書きなどを通じ、若い人に農業や林業に加わりたいと思う人がでることが必要」という意見が出された。川場の里地里山の伝統的な活用方法やそのための知恵や技術はあるものの、それを伝承し生かしていくための新たな仕組みや場づくりが求められる現状が浮き彫りになった。

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4 まとめ
 聞き書き手法は、現在の状況だけではなくかつての状況をそれぞれの暮らし・生き方の様式に密着して把握できるということが大きな特徴である。今回の里なび研修会では里地里山に暮らしてきた、あるいは今暮らしている人たちの様々な目線からその喜怒哀楽を浮き彫りにするとともに、今日的課題と今後の可能性を確認することができた。
聞き書き手法は、里地里山に暮らす人々、これから暮らそうとする人々の個別テーマを効果的に収集し、結び付け、全体の里地里山の保全再生・計画等に活用することができる。聞き書き手法による里地里山の知恵や技術の調査収集活動を、学校や企業など連携できる多様な主体へ広げることにより、里地里山の暮らしにも密着した教育プログラムや企業CSR活動の可能性を開くことが考えられる。

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