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活動レポート

里なび研修会 in 愛媛
コウノトリと共に暮らす郷づくりを目指して

日時 2010年2月20日(土) 14:00~18:30
場所 愛媛県西予市

研修会の様子

 兵庫県豊岡市で放鳥されたコウノトリが、2009年秋、愛媛県西予市宇和に4羽飛来しました。地域では里地里山の保全とコウノトリとの共生がテーマとなっています。
 そこで、コウノトリとの共生から里地里山保全、環境教育などから、里地里山保全再生計画や活用、地域づくりについて考える研修会を行いました。
 最初に、「里地里山保全再生計画策定の手引き」について、里地ネットワーク事務局長の竹田純一が解説を行いました。その後、愛媛県の鳥類の生息状況について学び、現地を視察、コウノトリの専門家の講演をいただいた上で、今後の里地里山保全再生計画づくり、活用について議論を行いました。

■事例報告1 愛媛の里地における鳥類の生息状況
石鎚ふれあいの里代表 山本貴仁

山本貴仁氏

 愛媛県では332種類の鳥が観察されています。常時いるのは80~100種類ほどです。海から山、干潟もあり、景観がモザイクのようで、そのためたくさんの鳥を見ることができます。
 コウノトリは、2010年2月10日に西予市を飛び立ち、西条市に姿を現しました。その後香川県に飛んだり、今治市などでも確認されています。70年代にも飛来し、長く住んでいました。コウノトリの来た西条市には、マナヅルやナベヅルも来ています。
 西条では耕作していない田んぼもところどころあり、そこに昆虫、ネズミなどがおり、猛禽類が来たり、ツルがエサを採ります。大きい鳥だけでなく、タマシギ、ヒクイナといったやや小さな鳥も来ます。これらはかつてたくさん水田に来ていましたが、数が減っています。
 水田と野鳥の関わりについて、西条市蛭子、東温市上林でラインセンサス法により調査を行いました。特別な方法ではなく、鳥の判別ができれば、お散歩しながらでもできる調査方法です。鳥の種類と個体数、水田の形態を記録しました。両地とも年間33種類と同数が確認されました。このうち、セッカ、カワラヒワ、ハクセキレイ、ヒバリ、スズメ、ハシボソガラスが優占種です。種類数で行くと6月に主にサギ類が増えます。水田は水辺の鳥にとっても、草原の鳥にとっても生息地になります。鳥の数では、8月頃と冬に増えます。8月頃は、米が実るためスズメが集まります。冬の11月、12月は、カワラヒワ、タヒバリ、ミヤマガラスが飛来するからです。
 ミヤマガラスは宇和地方にも集まります。田んぼに冬に集まるカラスです。夏はハシボソガラスです。ミヤマガラスは中国から渡ってきます。1980年代から飛来するようになりました。ミヤマガラスが多いということはそれだけ冬にエサが豊富にあるということです。
 かつてはバインダーで、それがコンバインに変わり、脱穀まで田んぼで行うことで、落ち穂が増えたことによるエサの豊富さです。農機具の変化が鳥の行動の変化を生むということです。
 田んぼの周辺の里山には、ホオジロ、ウグイスが多くいます。高木林がある神社などでは、ヤマガラ、キビタキがいます。低木林から高木林に変わると、住んでいる鳥も違ってきます。森の面積によっても種類が変わります。大きい森にはたくさんの種類の鳥がいて、小さな森には種類数が減ります。鳥は飛べるので自由なようですが、鳥にも適したすみかがあります。
 地域にどんな生きものが住んでいるのかを知る、生きものと生きもの、生きものと環境の関わりを知る、そうして、守る方法を考え、実行し、検証し、継続するということが、多様性保全のためには必要です。地域に博物館があって、調査ができれば理想ですが、住んでいる人にできる調べ方もあります。それを、経験のある人と一緒にやって、どんな生きものがいて、コウノトリが何を食べて、どのくらい食べているか、どういう行動をしているかを知って、そこから何をすればいいのかが分かります。水田や里山に生きる生きものは人の暮らしがあって生きられます。人も、生きものも、どちらも大切です。水田では安全で安心なお米作りが基本かと思います。
 生きものを知ったとき、何かしたいと思いますが、まず、知って、そこから行動してください。

■現地視察 コウノトリ飛来地を歩く~どのような環境が選ばれているのか
案内 小野田地区 楠健明、環境カウンセラー 松田久司

楠さん(左)と松田さん
楠さん(左)と松田さん

 2006年5月の田植え後に、地区にはじめてコウノトリが飛来しました。野生の「えひめ」です。一度離れた後、10月に再飛来、2007年1月まで時には数日姿を消しながらもずっといました。2008年秋には2羽となります。3羽との報告もあります。1羽は、「えひめ」で、残りは豊岡市で放鳥されたコウノトリです。年末に豊岡へ帰りました。2009年9月、今度は4羽で飛来しました。豊岡で巣立ったコウノトリ3羽と放鳥コウノトリ1羽です。その後、3羽は帰りましたが、すぐに「えひめ」が飛来して、「えひめ」と9番(放鳥)の2羽のメスが今年(2010年)1月まで滞在し、当地を離れました。
 コウノトリが飛来したことで、様々な動きが地元に生まれています。四国電力グループの四電工の協力で営巣塔を建てたり、地元中学校美術部の協力で看板を立てました。ため池の遠浅や田んぼ、畑、水路など、コウノトリがエサをとる姿を見ながら、コウノトリが定着するために何ができるのかを地区で考えています。追い回したり、そういう人が入ってこないように協力も求めています。

採餌・ねぐら場所として利用されている溜池周辺
採餌・ねぐら場所として利用されている溜池周辺
採餌環境についての解説を聞く参加者
採餌環境についての解説を聞く参加者

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■講演 コウノトリの定着する里地里山とは
兵庫県立コウノトリの郷公園主任研究員 大迫義人

大迫義人氏(フィールドにて)
大迫義人氏

 日本のコウノトリは、ヨーロッパの種とは別種です。ヨーロッパコウノトリは80万羽いますが、極東の種は3000羽ほどです。2000年段階では日本や揚子江中流域が越冬地。夏は北上し、アムール川湿地帯や、中国北東部の湿地帯にいます。
 ほとんど木がない広大な湿地帯などで河畔林があるとそこを営巣地にします。繁殖に木が必要な鳥であり、それがコウノトリが増えにくい理由のひとつです。
 また、水辺も必要で、ヨシが入ると水辺がなくなるため、ヨシの多い北海道ではコウノトリがいませんでした。
 日本では、たとえば新潟県の水田地帯は、比較的ロシアの自然保護区に似た風景が広がっています。田んぼの島状に集落があり、周辺に屋敷林などがある姿です。
 5世紀には日本にいたとの記録があります。稲作によって、浅くて生きものの多い場所が生まれ、江戸時代にもっとも分布が広がりました。
 エサ生物は、動物性で何でも食べます。ドジョウ、バッタ、ウシガエル、シマヘビ、ハタネズミなどで、死んでいる動物も食べます。コウノトリはえさ取りが下手で、簡単に捕まえられる生きものを捕ります。冬場に動物が少なくなるため、冬の生存が厳しいというのが、トキやコウノトリなど動物性のエサを食べる鳥が絶滅しやすい理由です。一方、ツルは雑食で、冬は植物食に変えることができます。
 日本では、かつては松の大木の樹幹にコウノトリが営巣しました。タンチョウとコウノトリはよく似ているので、古い掛け軸などに松の木にタンチョウを止まらせた絵を見ますが、いずれも本当はコウノトリです。
 野生であっても営巣は人工のものを平気で使います。電柱が好きですが、高圧電力なので、豊岡では、関西電力の協力で、営巣しようとすると邪魔することにしています。
 野生のコウノトリについて、2000年頃から日本に1年中とどまる個体が出てきました。放鳥前に豊岡に来たハチゴロウは宮崎から北九州、島根県、隠岐、米子(南下)、石川県、珠洲(能登半島)、京都府まで南下し、その後豊岡から動かなくなり、繁殖行動もはじめました。2000年から2007年まで6年日本に滞在した長期記録です。このほかにも、数年南下、北上しながら日本にいる野生個体が確認されています。
 「えひめ」は、06年4月に今治で確認され、豊岡を経て、1日で消え、西予市に現れました。それ以前05年に宮崎市、薩摩川内市で姿を見せています。豊岡と西予市を行き来する行動をしています。
 野生個体の飛来場所の環境を分析すると、河川、田んぼ、池沼、休耕地を使っています。

 豊岡市では50年前から保護運動を展開しましたが、減少を食い止められませんでした。そこで、保護繁殖を行います。1989年に繁殖成功、個体数を増やし、100羽増え、05年から放鳥開始となりました。
 07年1羽、08年8羽、09年9羽自然下で繁殖しています。豊岡を出て行くのも、死ぬのもいます。
 放鳥コウノトリは発信器による位置情報把握、足輪等での地上からの追跡、一般等の目撃情報でモニタリングしています。
 衛星追跡を見ると、ときどき、遠くに行く個体がいます。
 えひめが9番に西予市を教えたようですが、今度は9番が、09年生まれを西予市に連れてきました。西予市、豊岡の関係は繁殖地、越冬地としてつながりが出てくる予想と期待を持っています。豊岡のコウノトリは、親善大使として各地に広がってくれることはありがたいことで、地域の環境を良くしていく親善大使だと思っています。

 今日見た場所は、田畑が棚田(段々畑)になっており、上から水がしみ出すところがあります。そういう場所を水路にすれば、冬のえさ場となります。コウノトリとサギは競争種で、サギの方が採餌は上手です。ただ、サギは目を使ってエサをとりますし、くちばしは短いので、深さが10センチ以上で、濁っているか水草が繁茂していれば、コウノトリがエサをとりやすい環境になります。
 えさ場としては、水田、水路、河川、牧草地が好まれます。水路は冬でもエサがあるという特徴があります。
 コウノトリが定着する環境とは、食う、寝る、子育てができることです。
 採餌環境は、生物が多様な、河川(浅場)、水路、水田、池沼、草地(牧場)など、営巣環境は、松の大木、人工巣塔、電柱(感電の可能性)など、休息環境は、電柱、高木、池沼などです。1日に体重の1割を食べることもからエサ生物が豊富にいることも必要です。野生動物は、見られるのが嫌いです。逆に無視してくれると近くに来たりします。普通に農作業をすれば寄ってくるし、嫌がりません。観察する人は、野生個体では250m、豊岡放鳥個体では150mは離れてください。

 自然再生推進法が2003年にできました。生物多様性をうたっています。コウノトリばかりに気をとられるのではなく、コウノトリがいるということは、たくさんの生きものがいるということです。コウノトリだけの発想はなるべくやめて、いろんな生きものがいる状況をつくることを考えてください。豊岡市にもコウノトリが嫌いな人もいます。利害関係もあります。たくさんの人と一緒に話し合い、取り組むこと、科学的な知見を入れ、「里地里山保全再生計画の手引き」にあるように、やったら振り返ること、そして、自然環境学習を行い、子どもたちにも体験させることです。
 たとえば、ほ場整備を行うとき、生物が住めるような工夫をやってもらう。魚道、深み、スロープ、隠れ場所などをつくることで、ドジョウ、タモロコ、ウナギ、ギンブナなどが遡上、産卵もしてくれます。もうひとつが、湿地の創出です。今の田んぼの仕事をやりながら、ちょっと工夫をするというのがいいです。
 人がいるところで絶滅しかかっている動物です。コウノトリも人と関わります。鳥にいい環境で、人にもいい環境を作ってください。
 もうひとつ、天然資源としてのコウノトリという視点もあります。経済資源、観光資源、農業資源、行政資源、文化資源、教育資源、研究資源として捉えましょう。消費型ではなく、いい資源は金になるという考え方です。持続可能な状況をつくって活用する。豊岡市では、「豊岡市環境経済戦略」を立てています。わかりやすいのは観光資源ですが、コウノトリ育む農法で、ブランド化し、米が2~5割高く売れました。もちろん、そこまでには、時間と苦労がかかります。
 豊岡には、野生復帰推進連絡協議会があります。稲の踏み荒らしの懸念なども、被害補償という、マイナス発想ではなく、コウノトリが来た田んぼは、「コウノトリ舞い降りる田んぼ」とする認定制度で、米を高く売ってもらおうといった視点もあります。被害について、科学的に調査することも必要です。
 西予市は、越冬地、渡来地として受け継がれています。今後たくさんのコウノトリが住める環境を、無理をせずにやって欲しいものです。来るようになれば、いい天然資源をつかまえたと思って、それを活用することに使って欲しいと思います。

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