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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 鹿児島
地域の自然・文化・人を活かす環境教育と地域づくり

日時 2010年2月12日(金) 13:00~17:00
場所 かごしま県民交流センター

研修会の様子

 鹿児島県での里なび研修会は、里山、里海を含めた保全活動の前提として、生物多様性や人間と生態系の関わりについて知る、学ぶ手法を事例として報告いただき、里地里山保全活用の計画に必要な環境教育や体験学習のあり方を研修しました。
 はじめに、事務局の里地ネットワーク・竹田純一より、「里地里山保全再生計画策定の手引き」により、都道府県、市町村や活動団体での保全計画策定についての手法を紹介、里地里山の保全活用が環境教育や地域づくりと連携することを解説しました。

■事例報告1
本物体感で桜島の自然と文化を楽しむ
プログラム企画とインタープリターの心得
NPO法人桜島ミュージアム理事長 福島大輔

福島大輔氏

 桜島は多くの地域遺産があります。活火山、噴火による地理的、歴史的景観、植物の遷移など人と自然の関わりに特徴があります。桜島では、地域全体をまるごと博物館と考えたエコミュージアム構想を立て、自然の財産を活かし、環境教育に役立てようとしています。一般に言われるエコツーリズムには観光的側面が強く、エコミュージアムには教育的側面が強いのですが、これらをうまく合わせ、地域に価値を見いだしたいのです。
 そこで重要なのは、自然や歴史、地理など、ただ歩くだけでは分からない「見えないもの」を見えるようにするインタープリターの存在です。見えるものを解説するガイドではなく、見えるものの背景にある見えないものに気づかせることが、その地域ならではのツーリズム、エコミュージアムの特徴です。エコミュージアムにおいては地域住民が主体であり、地域そのものが展示物になりますので、そこで行うツーリズムは、自ずと環境保全につながります。

■事例報告2
干潟の生態系と重要性を地域とともに守り伝えるためには
NPO法人くすの木自然館専門研究員 浜本麦

浜本麦氏

 鹿児島県姶良市の重富地区には干潟があります。鹿児島湾は姶良カルデラで干潟ができにくい地形ですが、2本の川に偶然干潟ができた希少なエリアです。1990年頃から海岸で取り組みをしていましたが、かつては、スコップ1杯で20種以上の生きものがおり、50個体以上とれました。2000年に事務所を近くに移転し、調査とともに、干潟を守る人材「潟守(がたもり)」の養成講座などを行ってきました。かつてはたくさんの人が潮干狩りや散歩に来る干潟でしたが、投棄ごみが増えて人が来ないところに変わってしまいました。そこで、NPOとしてクリーンナップに取り組み、その内容を分析、役場と相談して夜間の駐車場の鍵閉めなど少しずつ対策をとりました。その結果、子どもたちがクリーンナップを手伝い、近所の方が海岸を散歩など利用するようになり、今は地元の人たちが誇りに思える海岸に再生しました。
 干潟や里海の生物についても、単に海が汚くなったから生きものがいなくったと思い込まず、大学などと連携して、見えない部分である干潟の底生生物調査、底質調査、野鳥の利用調査、50年前の水質比較のための堆積物調査などを行い、それを一般向けにわかりやすく展示・説明するために小さな博物館をつくりました。
 知ることによって、関わる主体が増えていきます。干潟は、海からの影響だけでなく、里地、里山やそれをつなぐ河川の変化による影響を受けます。今後は、干潟だけでなく、里地・里山・里海をつなぐ考え方の啓発に力を入れていきたいと考えています。里地里山、里海の保全活用は、なによりも、「優先すべきは地域の利益、尊重すべきは地域の個性」の立場が大切だと考えています。

■事例報告3
地域の人・心・経済の活性化につなげる自然学校運営
NPO法人エコ・リンク・アソシエーション代表理事 下津公一郎

下津公一郎氏

 薩摩半島南西部を対象として、自然学校を運営しています。エコツアーで、ツリークライミングや乗馬体験、シイタケの菌打ちやカズラとり、かずらカゴづくり、森林セラピーも実施します。音楽ハイキングで森に音楽家がいて、ハイキングで場所に行くと参加者が取り囲んで音楽を聴くなど、芸術との連携をうまくしています。
 九州の里山は竹の整備がもっとも大きな課題です。そこで、竹を整備し、芸術作品を作り、上流と下流の人たちが出会う場をつくるなどの活動をしています。また、水産高校の高校生が竹を切り出していかだを作り、手旗信号のイベントをしたり、国際ワークキャンプも受け入れています。企業と連携したり、旅行代理店と連携もしています。それによる竹林整備も、エコツアー、グリーンツーリズムのプログラムになります。
 そこで重要なのは、高齢者の知恵、技術の活用です。子どもに指導する、民泊を受け入れることで、お年寄りも目標を持った生き方が可能になり、元気になります。その結果、修学旅行での民泊が年々増え、経済的な効果も出てきました。だいたい1軒に3人を泊める形です。鹿児島県は、教育旅行に限って体験料として簡易宿泊とはしないガイドラインをひいています。子どもと受け入れる側が一緒にごはんをつくり、親戚の子どもが泊まるのと同じような形です。農家民泊は、口コミで広がり、やった人の回りから増えていきます。それが、地域を元気にし、里地里山の活用につながるのです。

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■講演
「いのちのつながり」をどう伝えるか
NPO法人くすの木自然館専務理事 浜本奈鼓

浜本奈鼓氏

 環境保全にしても環境教育にしても、「地域の自然生態系を無視して何をやっても何も生まれない」ということが基本的な考え方です。火山、半島、離島、そういうものが出来てきた成り立ち、地形の形成、水の入り方、風の入り方、水の生態系、原生、二次林、三次林があります。自然林のように、人が関わらないことで守れる自然もありますが、一方、人が関わっていたからこそ維持されてきた自然がたくさんあります。同じ照葉樹林帯でも、西側か東側か、海との関わり、高い山の存在などでそれぞれに環境や生態系が微妙に違います。地域それぞれの条件を活かして、人は大切に利用してきました。
 鹿児島は平地が少なく、河川を通してあっという間に海に淡水が流れます。砂浜以外の平地には、江戸時代以降の造成地、干拓地が多くあります。水辺の生態系、他の生物、内陸の生きものとのつながりは、そこに暮らしてきた人々の知恵の集積です。もともとの生態系と人々の生活の継続が、様々なタイプの文化・生態系を生んでいます。
 この違いや多様性は気候帯で簡単にはくくれません。台風、火山などの災害であっても、それとうまくつきあって人が暮らしてきました。その基礎に立ち返って、自分たちの地域をどうしたいのか、どうすればいいのか。それを考えて活動してきた結果が今日事例報告ああった3つの活動事例に表れています。
 キーワードは、「見えるものと見えないもの」。「見えるもの」とは、人の関わり、見える景観、大きな生きものの存在。「見えないもの」とは、見えている状態になるまでにどんな過程(地域資源、生態系、土地の利用、水の利用等)があったのかを知ることです。それが分かったら、その環境の継続には何が必要かを考え、考えるだけでなくやってみることが重要です。実際には、社会情勢、生態系自体、気候条件さえ変わりつつあるかもしれませんが、それらを踏まえて、「守れるもの」「守っていくもの」を地域の人たちが考え、行動することで、これからの自然生態系は決まってきます。どのような状態で次の世代に引き継ぐのか。大きい環境を考えるだけでなく、生活エリア(小さいところ)での水使いや暮らし、また第一次産業から考えなければなりません。飲料水の使い方のように、元々あったものを活かす方法、火山のように他の土地にないものなどを知って、それにどう人が関わり、人が暮らしていけるか。そういう基礎に立ち返って考え、道を見つける。それが最新の最先端のやり方であり、同時に大昔から地の人がやってきたことです。
 そのことを、その地域に暮らしていない人にも分かるように伝えることも必要です。伝えるとは、誇大や思い込みを出すのではなく、きちんと分析して見えるようにしていくことが重要です。

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