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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 滋賀
ナラ枯れとその対策を考える

日時 2009年3月8日(日)
場所 河辺いきものの森 (滋賀県東近江市)
活動団体・共催 遊林会

今回の研修会は、「ナラ枯れ」について専門家から現状、要因、対処法などを学び、各地のナラ枯れ対策についての意見交換を行いました。
日本では、1970年代後半からマツ枯れが激増し、各地のアカマツが枯れていきました。最近ではコナラなど、ドングリの木が集団で枯れる「ナラ枯れ」が各地で起きています。日本の里山を代表するマツとドングリが枯れることで、今、里山の原風景が大きく変わろうとしています。
市民による里山保全活動が盛んになっていますが、ナラ枯れについては、あまり知られておらず。対処法も十分知られていません。そこで、実際に保全活動を行っているフィールドにおいて、専門家よりナラ枯れについての知識や対処法を学ぶとともに、とるべき対策やそれぞれの立場でできることを、実習を交えながら学びます。

研修会風景
研修会風景

■河辺いきものの森と遊林会
河辺いきものの森は、滋賀県東近江市にある15ヘクタールの里山(河辺林)で、保全活動が行われるとともに、環境学習や体験活動などが定期的に行われています。中心部にネイチャーセンターがあり、散策路、水辺、地上12メートルの林冠を歩ける「林冠トレイル」などが整備され、炭焼き、保全活動のための道具なども用意されています。
保全活動は、地元の里山保全活動団体「遊林会」が行っており、里山の暮らしの循環、生きものの生態、四季の生きものなどがネイチャーセンターには展示されています。また、専従のスタッフや遊林会のメンバーにより、観察会、保全活動などが開催され、一般の人もボランティアなどで参加できるようになっています。
河辺いきものの森でも、一部にナラ枯れが侵入しており、今回の講師である小林正秀さん(京都府立大学特別講師)の指導を受けて、対策を進めています。
今回は、この対策の評価も合わせて行いました。

■ナラ枯れとその対策
研修会は、主に近畿圏からの参加者でしたが、中には山形県の活動団体から「ナラ枯れについて対策をきちんと学びたい」として参加がありました。
まず、全国の里地里山保全活動の現状と里地里山保全再生の計画の立て方、活動の方法、評価(モニタリング)による活動の見直しについての手順などについて、事務局より解説を行いました。
小林正秀さんは、京都府を中心にナラ枯れ対策について、直接の原因となるカシノナガキクイムシの生態、ナラ枯れが起きるメカニズム、近年被害が拡大してきた背景などについて解説し、防除方法を具体的に例示して話していただきました。

小林正秀さん
小林正秀さん

ナラ枯れは、見た目に健全な樹木がカシノナガキクイムシ穿入を受けてしおれて枯れる病気で、ブナ科樹木萎凋病と呼ばれます。カシノナガキクイムシは、1年生で、成虫が樹木に穿入し、そこで産卵、幼虫、成虫がともに樹木中に坑道を掘って酵母を繁殖させ、それをエサにして幼虫は成長します。この際に、病原となるナラ菌が木の中に入り、結果的には木の通水機能が失われて急激に枯れるというものです。
カシノナガキクイムシによるナラ枯れの被害は、1930年代に九州で確認されており、それ以前からも日本では発生していたと考えられます。しかし、1980年代以降に、おもにミズナラ、コナラが枯れる地域が広がり、近年ではクヌギなどの枯死もみられています。
ナラ枯れの直接の原因となるカシノナガキクイムシの爆発的増殖などのほかに、様々な要因が出されていますが、複数の要因が考えられています。そのひとつには、里地里山の共通の課題である、「里山が使われなくなった」という指摘もあります。かつて、ナラは薪炭林として利用されており、カシノナガキクイムシが多くの幼虫を育てやすい大径木はあまりありませんでした。また、適切に管理されていたため、カシノナガキクイムシが好む枯れかけた倒木なども少なく、増えるための要因が少なかったと考えられます。
防除方法について、小林さんは、まず、枯死木を早期に発見し、カシノナガキクイムシが穿入しているかどうかを確認することが大切だと指摘します。
河辺生きものの里での実地研修では、実際の穿入口をみながら、爪楊枝を使ってカシノナガキクイムシによるものかどうかを判断する方法や、木を見て判断する方法などが講習されました。

爪楊枝で穿入口を確認
爪楊枝で穿入口を確認
森の中での研修会
森の中での研修会
森の中での研修会2
森の中での研修会2

具体的な防除方法としては、樹木の枯死を回避するために、カシノナガキクイムシの穿入を防止する手法として、健全木のビニールシートによる被覆、保護材の塗布、粘着材や殺虫剤の使用方法、殺菌剤の使用方法などの特徴と注意点、利点と欠点の説明がありました。また、カシノナガキクイムシを減らす方法として、被害木を伐倒し、焼却する、シイタケ菌を植菌する、集中攻撃を受けている木やエサとなる丸太などにスカート型のトラップやペットボトルを活用したトラップを設置し、大量捕獲する方法などが紹介されました。

ペットボトル法
ペットボトル法

河辺生きものの里では、一部に前年よりビニールシートによる被覆が行われおり、これについての評価も行われました。
小林さんによると、カシノナガキクイムシは湿度を好み、根元でも穿入するので、ビニールシートを行う場合、根元まできちんと巻き付けることが必要で、失敗例をみればほとんどが根元に隙間が空いており、結果的に根元が集中的に穿入を受けていることを解説、河辺生きものの里ではすべてきちんと根元まで対策がほどこされており、成功例として紹介されました。
参加者からは、それぞれの場所でナラ枯れ対策に取り組んだり、課題を持っている団体等であり、具体的な防除方法や対策上の注意を質問し、意見交換を行いました。
遊林会も、今回、最新の知見を得たことで、今後の対策について様々な手法を取り入れたいと話していました。

対策方法の検証
対策方法の検証

小林さんは、「ナラ枯れ対策で気をつけて欲しいのは、穿入を受けた木を被害地の外に出して放置しないことです。薪として積んでいてもカシノナガキクイムシの幼虫が中にいて生きていることがあります。被害を受けた場所の対策も必要ですが、被害を広げないことが大切です」と話していました。

被害木の丸太では幼虫が生きている
被害木の丸太では幼虫が生きている

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