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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 福岡
左義長(どんと焼き)を体験し山村の地域づくりを学ぶ

日時 2009年1月10日 (土) 11日 (日) 集合9:30 解散15:30
場所 四季菜館 (福岡県黒木町)
活動団体 山村塾
共催 山村塾

自然からの恵みをいただきながら暮らしを成り立たせてきた里地里山では、自然への感謝や畏怖に基づく祭祀、相互扶助や共同体の結束、皆でおいしいものを食べて楽しく過ごす時間などの伝統文化を継承してきました。そこには、持続的に暮らしていくために人間が節度をもって自然と接し、自然の摂理に従って生きていくための知恵が詰まっています。
左義長(さぎちょう・どんと焼き)は、全国各地で今も行われている伝統行事です。今回の研修では、荒廃した竹林の整備をかねて左義長で使用する竹の切り出しや竹組みを地元の方と一緒に行いました。

福岡県八女郡黒木町は福岡県南部で熊本県との県境にあり、大分県とも近い町です。矢部川が町を流れる里地里山です。福岡市や久留米市などの都市部とも近く、福岡市から高速道路を利用して1時間半ほどと、都市との交流も行いやすい地域です。
農業では、米、茶、野菜など、林業や石材業なども盛んな地域ですが、過疎化、高齢化も進んでいます。
2010年2月には、八女郡の立花町、矢部村、星野村とともに下流域の八女市と合併することが決まっています。
山村塾は、1994年に発足した活動団体です。都市と農山村の住民が一緒に棚田や山林などの自然環境を保全することを目的として、会員を募集し、毎年活動を続けています。活動は、おもに「稲作体験コース」と「山林体験コース」の2つを基本に、里地里山での体験活動や国際里山・田園保全ワーキングホリデー、子どもたちのキャンプなどの受け入れなどを行っています。
稲作体験コースでは、無農薬・無化学肥料のアイガモ農法による棚田での米作りと棚田の保全活動を主に行い、山林体験コースでは、下草刈り、枝打ち、間伐、植林、炭焼きなど年間を通して生物多様性を考えた森作り、保全活動を行っています。このほか、味噌作り、竹細工、棚田の石積み補修などさまざまな短期、長期のプログラムを主催、受け入れを行っています。
黒木町での農林地における竹林の拡大が課題となっており、里地里山の保全からも竹林対策が欠かせません。かつては竹林から産出される竹材、タケノコなどの生産活動が行われていましたが、現在では需要がなく、人手もありません。そこで、山村塾では、かつてこの地域で行われてきた左義長を復活させ、都市との交流の中で竹林管理を行えないかと考えました。
今回の里なび研修会では、伝統行事と里地里山保全活動を連携させることにより、都市との交流を含めた保全活動を行う手法を学ぶとともに、伝統的な食文化や行事の継承を地縁だけにとらわれない新しい形の共同体による取り組みにしていくワークショップを行いました。
竹林整備は、棚田に迫る竹林を刈り払い、運び出して左義長を行う棚田まで運ぶ作業を行いました。長く放置された竹林では枯れて倒れた竹が作業を難しくします。全員ヘルメットを着用し、2人1組となって手ノコで竹を切り倒し、運び出します。
切る作業だけならば周囲の安全に注意しながらも効率よく行うことができますが、竹林に限らず間伐等の作業でもっとも手間がかかるのは運び出しです。斜面を何往復もしながら運び出します。

竹を切り、運び出す作業
竹を切り、運び出す作業
竹を棚田に運び入れる
竹を棚田に運び入れる

左義長の準備は、竹でやぐらを組み、そこに、枯れた竹、切り出した竹を積み上げていきます。火を付けて燃やすこともあり、倒れても事故が起きないよう周囲の状況を考えながら崩れないようしっかりと積み上げます。
やぐらの組み方、竹の積み方ひとつにも伝統的な智恵、工夫があります。

伐採した竹を組んでいく
伐採した竹を組んでいく

前日から作業を行い、周囲にしめ縄を張り、しめ飾りなどを飾り付けて年男、年女、子どもたちに火をつけてもらいます。その際、プラスチックなどが混入しないよう注意します。
着火から約1時間で前日伐採した竹はすべて燃え尽きました。
今回活動した竹林は、その後、皆伐し、ヤブツバキ等の植樹を行うこととなります。

棚田にできた竹のやぐら
棚田にできた竹のやぐら
伝統行事左義長が復活している
伝統行事左義長が復活している

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予定では、左義長を行った棚田で、七草がゆ、ぜんざいなどの昼食を予定していましたが、雪や天候不順もあり、ワークショップ会場となった四季菜館に移動しました。
この七草がゆの七草は、当日朝に棚田や水路、畑などで採取されたものです。田んぼや水路、畑を保全、活用していなければ、昔ながらの「七草」を集めることもできなくなります。里地里山の保全活動と伝統的な文化、食文化がつながっていることを参加者は学ぶことができました。
なお、「四季菜館」は、山村塾の拠点となっている、農林業体験交流施設です。有機農業を営む椿原寿之さん、椿原まり子さんが、宿泊、交流、体験を目的に1997年に開設しました。建物はすべて地場産材を使って建設され、太陽光発電、ウッドボイラー、合併浄化槽設置など物質、エネルギーの地域循環を体験できる施設となっています。ウッドボイラーは、間伐材を利用しており、囲炉裏の炭は山村塾の活動で焼いた木炭を利用しています。
宿泊者に出される食事も、米、アイガモ、野菜、果物をはじめ食材はほぼ自給されており、味噌、豆腐、こんにゃく、納豆など調味料や加工食品も手作りで、里地里山の豊かさ、それを生かす知恵や技術を学ぶことができます。

ワークショップでは、九州大学工学研究院環境計画部門の朝廣和夫さんが、BTCV(英国環境保全ボランティアトラスト)と福岡県黒木町で行ってきた「国際里山田園保全ワーキングホリデーin福岡」の活動経緯と、2008年に行われた「里山80日ボランティア」での活動を紹介し、里地里山保全に向けた人材育成と世論形成についての課題提起を行いました。
イギリスでは、里地里山保全のために民有地をふくめ、森や畑地などを外部の人が散策し、里地里山の景観、有用性を認識するための散策路(パブリック・フットパス)作りが積極的に行われています。里地里山について「歩く場所」をつくることによって、都市住民が里地里山を理解し、保全活動を支援する世論形成を行うことが可能です。朝廣さんは、熊本県小国町での散策路づくりの事例を紹介し、地域の生活、景観の保全と、観光、外部者の訪問のバランスを生み出す工夫について提起しました。

朝廣和夫さん
朝廣和夫さん

里地ネットワークの竹田純一からは、里地里山保全再生計画策定技法について「手引き」を元に解説し、意見交換を行いました。

山村塾の椿原寿之さんは、山村塾の活動の延長上に、都市と地域との関わりの中でたとえば四季菜館などで地縁がなくても身近な結婚式や葬式が開ける場になったり、都市から入ってきた人が定着していくための共同住宅ができていくような展開を考えられると語りました。

椿原寿之さん
椿原寿之さん

また、同じ山村塾で山林コースを行う農林業家の宮園福夫さんは、森林保全には長い時間がかかり、活用するまでにも長い時間がかかるため、保全再生と活用のために「山林を回していく」ということの理解と取り組みが必要だと語りました。

宮園福夫さん
宮園福夫さん

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そのほか、活動の継続には参加する側だけでなく、受け入れる側も「居心地がいい」こと、受け入れ側が疲れないよう無理をしないことといった意見や、山村塾を通じ、里地里山のよさを都会の人だけでなく、地元にももっと知ってもらい、情報発信していきたい、ここに来なければ分からない、参加しなければ得られない「秘密の地図」のようなものも作って地域の資源を伝えていきたいといった意見もありました。
今回の里なびでは、伝統文化・行事などと保全活動を連携させることで、里地里山の保全と都市との交流を行う技法を参加者が学びました。

研修会は囲炉裏を囲んで
研修会は囲炉裏を囲んで

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