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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 兵庫
日本の伝統的な里山管理を学ぶ 台場クヌギとエドヒガン調査の手法

日時 2008年12月20日 (土) 集合10:00 解散15:00
場所 一庫公園会議室、黒川の里山 (兵庫県川西市)
活動団体 NPO法人ひとくら里山楽校、菊炭友の会、川西里山クラブ
共催 川西市、兵庫県立一庫公園、NPO法人ひとくら里山楽校、菊炭友の会、川西里山クラブ

兵庫県北摂地域、猪名川上流域には、菊炭と呼ばれる最高級の黒炭を生産する薪炭林があります。8~10年周期で輪伐されるこの林は、年次毎に異なる里山景観を形成し、パッチワークのように見える伝統的な里山景観を生み出しています。このような里山林にはエドヒガン、エノキなども混生し、オオムラサキやギフチョウなどの様々な動物の生息空間ともなっています。また、環境教育の視点から見ると、子どもたちや市民が身近な自然とふれあうことのできる、明るく、近づきやすい場を提供しています。
兵庫県での里なび研修では、黒川地域における「台場クヌギ」の萌芽更新を通して、伝統的里山管理の手法と市民による台場クヌギやエドヒガンの調査の手法を学びました。

一庫公園にて研修
一庫公園にて研修

研修会には、予定を超す80人ほどが集まり、関心の高さを示しました。
まず、兵庫県立大学大学院教授で里地里山保全の調査、計画策定などを数多く手がけられている服部保さんから、「北摂地域の里山を学ぶ 伝統的里山の価値とその保全」として、生態系、歴史、生活文化からみた里山と人の結びつきや現状についての講義をいただきました。猪名川上流の木炭生産は、古文書でも12世紀には記述があり、古くからクヌギを活用して木炭を生産したことが明らかになっています。クヌギ林は、東北から九州まで広く見られますが、猪名川上流域のクヌギ林は、現在も木炭材の生産林として活用されている数少ない事例です。とりわけ「台場クヌギ」という特殊な仕立ては、京都府、滋賀県、山梨県などでも見られますが、猪名川上流域には集中して存在しています。歴史的には、猪名川上流域の台場クヌギが300年以上の歴史を持っているとされています。
台場クヌギは、その名の通り、「台場」としてクヌギの幹の地上部1~2メートルの高さで伐採し、その伐採部分から再生する萌芽枝を育て、8~10年後に萌芽枝を伐採して薪炭原料などに利用します。台場である土台の幹はしだいに太くなっていき、独特の景観をつくることになります。
猪名川上流のクヌギ林は台場クヌギとして仕立てられますが、伐採は一定のブロックをごとに行われます。そのため、伐採後1年から、伐採後8~10年のパッチワーク場の景観が形成されます。それによって、多様な環境が里山林に形成され、様々な動植物の生息地となり、生物多様性の維持に重要です。
台場クヌギの仕立て方については、鹿対策、土地の有効利用、土地の境界の印、日光が入りやすく萌芽枝の良好な生長などの理由があるようです。
また、この地域にはエドヒガンと呼ばれる桜の木が自生しています。これには、地形上の気候条件、地質条件のほか、かつて鉱山であったことから生育に必要な土地のかく乱があったこと、台場クヌギの薪炭利用についても、鉱山での必要が背景にあったことから、歴史、文化的な視点で台場クヌギやエドヒガンを見つめ直し、自然景観だけでなく文化遺産としての位置づけも必要であると、生物多様性、文化、生活のあらゆる面からの里山の価値を解説されました。
一方、現状、台場クヌギの活用が減り、萌芽幹が巨大化したり、昆虫採取のために人為的に傷がつけられるなどが見られています。このまま保全、活用を考えなければ、里山の様々な価値が急速に失われるため、活用をふまえた保全の取り組みが必要であり、実際の取り組みがはじまっていますがそれを広げていく必要を提起されました。

台場クヌギとは
台場クヌギとは

共催の川西市からは、これまで台場クヌギの調査、里山林、里山生物の調査を市民にも呼びかけて実施しており、台場クヌギを民俗遺産として保全していくための保全計画を策定することなどを紹介しました。

兵庫県立人と自然の博物館研究員の橋本佳延さんは、「台場クヌギの調査結果と調査方法」として、台場クヌギの調査目的と手法について講義しました。調査は、実態を調べる科学的な目的で行うものですが、同時に、調査を通じて台場クヌギが大切な文化財であることや、里山を学ぶ環境学習の素材ともなること、その結果、保全や活用につながり、生活を豊かにするきっかけにもなることから、科学者や保全団体だけでなく市民が参加することの大切さを話しました。
実際の調査は、分布位置、形状、生育状況、現状を記録します。分布位置は地形図、GPSを利用して行い、台座・萌芽の太さ、高さなどの形状、萌芽の数などをメジャーや目視によって記録していきます。さらに、洞の有無や状態、腐朽の状態、人為による損傷の状態などを1本ずつ記録し、写真にも撮っていきます。
2007年度には、388個体の調査が行われています。利用されているところでは、伐採直後、萌芽が再生している過程のもの、伐採適期のものがあります。一方、利用されていない台場クヌギでは、萌芽が菊炭の生産には向かない太さになっています。とりわけ、昆虫採取のために人為的に傷を付けて樹液を出したり、幼虫を掘り出すなどの行為によって台座のクヌギが傷んでおり、薪炭としての活用が止まるだけでなく、人為損傷の影響があることを課題としています。
そのためにも、市民などが参加した調査や、調査結果を広く普及啓発することで、台場クヌギの保全、活用の再開を目指したいとしています。

橋本佳延さん
橋本佳延さん

兵庫県立大学講師の石田弘明さんは、「エドヒガンの調査結果と調査方法」として、エドヒガンの調査目的、手法についての講義を行いました。調査は、1本ごとの樹高、胸高直径、影となる上木の有無、つる植物による被害の有無を調べるほか、地形、傾斜角度、斜面の方位、土壌条件や人為的なかく乱の種類を調べていきます。兵庫県ではエドヒガンが鍵盤の絶滅危惧種Cランクに位置づけられていますが、猪名川上流域には数多く分布しています。その生態的な特徴や保全状の課題などは調査が進んでいません。そこで、まず調査を行い、保全についての取り組みを考えていく必要があります。
調査の結果、課題としては里山管理が行われなくなったことや鉱山の採掘によるかく乱が行われなくなったこと、高木が多いものの幼木、実生が少ないこと、つる植物による被害があり、高木の枯死が起きたり、新たにエドヒガンに適した土地が少なくなることでエドヒガンが減少することにつながることが明らかになりました。対策としては、人為的かく乱による更新サイトを生み出したり、つる植物を伐採するなどの保全策が必要だとしてきています。
菊炭友の会などが里山の保全と再生、活用を行っており、エドヒガンの保全や調査もしていることから、そのようなエリアを軸に取り組みをすることが望ましいとしています。

石田弘明さん
石田弘明さん
エドヒガンの保全について
エドヒガンの保全について

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この後、実際に台場クヌギの活用地で研究者らによる指導を受けながら調査手法の研修を受け、里山を活用している例やエドヒガンの保全方法などについての実地講義を受けました。

服部保さんの解説
服部保さんの解説
台場クヌギ調査方法を学ぶ
台場クヌギ調査方法を学ぶ
エドヒガン保全する黒川・桜の森
エドヒガン保全する黒川・桜の森

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