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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 群馬
昆虫の森に学ぶ
虫の視点からの里山管理とふれあいの場としての里山利用

日時 2008年11月21日 (金) 集合10:00 解散16:30
場所 ぐんま昆虫の森 (群馬県桐生市)
活動団体 NPO法人新里昆虫研究会

 今回の里なび研修会は、昆虫の生息環境に配慮した管理とはどのようなものか、多くの人々のふれあいの場としての里山管理は、どのように行われているのか。ぐんま昆虫の森園長の矢島稔さんから昆虫の生態に関する講義をお聞きした後、昆虫の森と隣接する里山のふたつのフィールドを見て、昆虫の生息環境づくりと、昆虫とのふれあいの場づくりの調和点を学ぶための研修会でした。
 参加者は、主に関東エリアの里山保全活動団体や、活動地域の地権者、企業、行政関係者など、総勢80名を超えて盛況でした。参加の動機をたずねたところ、「生きものを増やすための管理手法を学びたい」「生きものを増やすこと、子どもたちに生きものや里山の大切さを学んでもらうための方法を学びたい」など、実践活動の中からのテーマを持って来られています。
 研修会途中のフィールド見学会では、ぐんま昆虫の森の入場者らも自然と参加して、生物多様性を育むためには、自然を放置するのではなく、里地里山の伝統的な管理手法や生きものに配慮した管理作業が必要なことについて具体的な方法を、関心を持って聞き入っていました。

会場にはぎっしり人が
会場にはぎっしり人が

 群馬県立ぐんま昆虫の森は、2005年8月に開園した施設です。48ヘクタールの敷地には、名前の通り、数多くの昆虫が生息しており、子どもたちが自由に虫を採り、そこで観察することができます。園長の矢島稔さんは、昆虫学者として多摩動物公園園長を勤められ、ラジオの「こども電話相談室」で数十年間に渡って子どもたちの素朴で鋭い質問に答え続けてきた方です。

昆虫の森園長・矢島さんの講義
昆虫の森園長・矢島さんの講義
矢島稔さん
矢島稔さん

ぐんま昆虫の森のコンセプトは、「感動は人を育てる」です。そのために、昆虫を人工的に飼育して見せるのではなく、「身近な自然(里山)の中で生きものを見つけ、その体験を通して生命の大切さに気づき、豊かな感性を育むための役割を果たす」ために、雑木林、草はら、田んぼ、畑、小川、池など、人と自然が共生してきた里山を再生し、そこに昆虫たちが自然と集まり、繁殖できるような施設となっています。
中心となる昆虫観察館での展示を出ると、冨士山沼(ふじやまぬま)ゾーン、桑畑ゾーン、水田ゾーン、雑木林ゾーンともとの地形などを活かして、4つのゾーニングが行われており、それぞれの場所で、違った昆虫や草花を見ることができます。
 ぐんま昆虫の森では、「見せる」ためのフィールド管理を実施しています。
 矢島さんは、昆虫の視点から里山にとって大切な場所とは、山道や田畑、屋敷裏などに見られる小さな「崖」、伝統的な石と石との間に隙間がある「石積み」、場所によって踏まれるなどして表土が出ている場所のある「原っぱ」、定期的な管理を行っている「雑木林」であると話します。越冬する昆虫が集まる場所、隠れる場所、オスとメスが出会って繁殖する場所など、エサ以外の生息環境が必要であり、それは、人が里山で暮らす中で自然と作られた場所です。
 ぐんま昆虫の森では、年間を通してたくさんの子どもたちが入園します。その子どもたちが昆虫を探して、自分の手で捕まえてみて、観察するためには、さまざまな昆虫が季節に応じて集まり、繁殖しなければなりません。里山といっても、園内は人が暮らしている場所ではないため、管理作業は昆虫が増えるような工夫が必要です。見せるための工夫も必要です。それだけに大変な作業となります。
 たとえば、草を刈るときには、全面を刈るのではなく、いわゆる「トラ刈り」の状態にして、「虫の逃げ場」を作ります。全面で草刈りをすると、虫を狙ってカラスなどの鳥が舞い降り、次々と食べられてしまうそうです。
 雑木林を萌芽更新するために切ったあと、丸太の状態で材を積み重ねると、材がまだ固い1~2年の間は、カミキリムシやタマムシが利用し、数年後に、キノコが生えてくると、それを利用する昆虫が出てきて、その後、材が朽ちてくるとカブトムシに変わるというように、年数の経過も大切にしています。
 雑木林の中では、落ち葉を集めて積み重ね、カブトムシの産卵、幼虫の成育場所を設けてあります。
 畑には、学校からの希望が多いモンシロチョウなどが育ちやすいよう無農薬でキャベツをはじめとして、チョウ類が好む野菜や果樹を栽培しています。
畑には、越冬するサナギが隠れ場所とできるように、隙間のある板を置き、板をひっくり返すとサナギを観察できるなど、昆虫にとっても、観察する子どもたちにとっても、工夫が凝らされ、教材として使いやすくしています。
 これらの管理作業は、ぐんま昆虫の森から委託を受けた森林組合やNPO法人新里昆虫研究会のメンバーが、伝統的な里山管理技術と、「昆虫の視点」「見せるための工夫」をふまえて行っています。

昆虫の森・間伐林を積み重ねる
昆虫の森・間伐林を積み重ねる
昆虫の森・虫のための畑
昆虫の森・虫のための畑
昆虫の森・フィールドにて
昆虫の森・フィールドにて
昆虫の森・草刈りは虎刈り
昆虫の森・草刈りは虎刈り

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 この群馬県立ぐんま昆虫の森に隣接する「新里自然体験村」は、NPO法人新里昆虫研究会が管理運営する里山フィールドです。地元の地権者から耕作や管理の手が回らない2.7ヘクタールの雑木林、棚田、ため池などを借り受け、保全管理作業を行うとともに、公園、昆虫観察、キャンプ、遊び場など、地域活動の場として活用しています。このほかにも、合計で10ヘクタールの山林、田畑などを保全再生管理しています。
 NPO法人新里昆虫研究会は、もともと「ホタルの会」として、地域住民がホタルを守るための活動をしていましたが、県立ぐんま昆虫の森が検討され、整備されていく中で、1999年に地域住民自らが、昆虫を学び、それを通じて、里地里山の自然環境の保全活動、子どもたちの健全育成、地域の活性化と、ぐんま昆虫の森の支援や協力を行うために「新里昆虫研究会」となりました。
 新里自然体験村では、研究会のメンバーが各々の農業や林業の技術を使いながら、昆虫の生態を研究しつつ、保全管理を行っています。
理事長の小池文司さんは、「地権者には無料で土地を借りています。高齢化などで手を入れられない土地を、荒らさずに管理することと、会の理念に共感していただくことで、喜んでもらっています」と、地域での合意形成によってフィールドの安定的な確保ができていることを語ります。ここでは、アオサギ、シロサギ、カワセミなども飛来します。また、子どもたちが、自然体験の場として、マラソン大会や、中学生の運動部のトレーニングなども行われており、夏にはキャンプ体験などもしています。
 また、NPO法人として、環境省のモニタリングサイト1000里地調査にも参加し、チョウやホタルの調査活動を行うなどの調査研究活動も行っています。
 小池さんは、「次世代に豊かな里地里山を残すこと、子どもたちに自然の中で様々な活動を体験させることにより自己防衛本能を呼び起こさせること、そして、元々の活動である昆虫を学び、増やし、共生することは、いずれも同じくらい大切な目的です」と語ります。

新里昆虫研究会理事長の小池文司さん
新里昆虫研究会理事長の小池文司さん

 ここでは、土地の状況、条件に合わせるとともに、メンバーの技能、経験に応じた管理作業をします。水辺では、よどみを作る、流速を変える、かく乱に強弱をつけるなどの工夫をします。今年からは、田んぼで米作りも行い、体験とともに田んぼの生きものの観察なども行いました。田畑のそばに植えてある植栽も、ブルーベリーは「小動物用です」、ブットレアは、「アサギマダラが好きだと聞きましたので」と、それぞれに意味があります。バークチップを敷き詰めたあぜ道では、秋の終わりに落ちた草の種を集めて巣に運ぶたくさんのアリの姿がありました。

新里自然体験村で昆虫の森との比較をみる
新里自然体験村で昆虫の森との比較をみる
新里自然体験村・水辺の周辺を保全
新里自然体験村・水辺の周辺を保全
新里自然体験村・水辺管理手法の意見交換
新里自然体験村・水辺管理手法の意見交換
新里自然体験村・カブトムシ場と雑木林管理風景
新里自然体験村・カブトムシ場と雑木林管理風景

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 県立ぐんま昆虫の森が、都市を含めはじめて自然に触れる子どもたちが、昆虫を通して自然と人の関わりや自然の大切さを学ぶ場であるとすれば、新里自然体験村は、より地域に密着した中で、地域の子どもたちを育成する場であると言えます。
 同時に、ぐんま昆虫の森と、新里自然体験村の保全管理手法は、それぞれの目的によって異なっていますが、両方がそれぞれに特徴のある保全管理を行っており、生物多様性、里地里山の保全、子どもの育成、環境教育の面から、ふたつの管理手法はどちらも非常に参考になります。
 矢島さんの話を聞き、県立ぐんま昆虫の森と、新里自然体験村の管理手法の研修を受けた参加者は「虫の視点で里地里山を見ることの大切さ、そのための管理手法と、ふれあいや教育のための管理手法や里地里山の利用方法の違いがよく分かりました。帰ったら、自分たちのフィールドの管理方法を見直す上での参考にしたい」と話していました。

県立ぐんま昆虫の森 [外部サイト]

NPO法人新里昆虫研究会 [外部サイト]

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