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活動レポート

里なびミニシンポジウム&研修会 報告6
海から見つめ直す里地里山

日時 2008年3月9日(日)
場所 愛知県知多郡美浜町

 「里なびミニシンポジウム&研修会」の第6回目は、愛知県知多郡美浜町で開催しました。美浜町は、知多半島の海にはさまれた丘陵地帯です。稲作や畑作がさかんな地域で、海ではアサリが豊富にとれます。美浜町では、町全体で里山保全の取り組みが行われており、竹の伐採と竹炭づくりなどが行われています。特に、美浜町の布土地区では、「布土まちづくり推進委員会」が中心となって、散策路と里山の整備や、家庭ごみの減量と排水浄化、景観保全に取り組んでいます。この布土地区では、10年前に地域資源や自然状況を地区住民が地元学の手法を使って調査しました。布土川の集水域を川の上流から河口まで歩き、そこにいる生きものや歴史、文化、自然と人の関わりを調べ、そこから活動が広がった経緯があります。
 今回の研修会は、布土まちづくり推進委員会の協力を得て、生活と密着した干潟のある「里海」から川の上流までの地域資源調査を地元学手法によって行い、調査の方法や計画の作り方、その成果の生み方について研修を行いました。

 ミニシンポジウムでは、「里海」にちなみ、東京湾の干潟で「アマモ場」を再生し、海の生物多様性を回復させ、人と里海とのつながりをつくる取り組みをしている、NPO法人海辺づくり研究会の木村尚事務局長が「三河湾の海から見た布土の里山」について講演を行いました。
 「里海」とは、里地里山と同様に、人が手を入れ、関わることによって守られてきた海の環境のことです。かつて、海に面した集落では、干潮になると海草や貝類、カニなどを採取して日々の食に利用してきました。もちろん、近くの海では船を出して漁をしたり、海苔などの養殖をしていました。「たとえば、神奈川県横浜市は東京湾に面していますが、海沿いの小学校は引き潮であらわれる干潟の浜を運動場にしていました」と木村事務局長。
 とりわけ干潟や浅い海は、海の生物多様性を保つ重要な役割をしていました。アマモなどの海草類がある場所は、海の生きものの産卵場や小さい頃の生活の場となっています。自然状態では過密状態になりますが、人間が適度に採取していくことで、日光が入りやすくなり、手を入れないよりも入れた方が生物の生息環境としては優れていることが分かっています。干潟も、アサリをはじめとする貝類やカニをはじめとする甲殻類がたくさんおり、人間が砂の中から貝類などを採取しますが、その適度なかく乱によって砂浜が固くなるのを防ぎ、生物が利用しやすい干潟が保たれます。また、干潟は、海の物質循環に大切な役割をもっており、干潟に暮らす貝類、甲殻類などだけではなく、海の魚類や海草類、あるいは、海の中の酸素濃度などの調整にも関わっていることが分かってきました。
 NPO法人海辺づくり研究会では、横浜の海に干潟を再生し、アマモを「植林」して、海の生きものが増えるかどうかの取り組みと調査をしています。アマモ場の再生活動には子ども達も積極的に参加できるしくみをつくり、人と里海のつながりも大切にしています。この活動では、アマモ場を再生することでアオリイカが産卵したり、ふ化後2週間ぐらいは海を漂っているアサリの稚貝が定着場所を探すときにアマモ場を利用していました。
 布土地区の海岸は、アサリの稚貝を蒔いてアサリを育てていますが、マテガイやバカガイなども採れます。潮の引いた砂浜にはたくさんの海鳥がいて海草などをついばんでいました。

 研修会では、この布土の海岸から布土川の上流部に向かって、地元学手法による地域資源の調査を行いました。自然環境と地域社会と自然の関わりを見つめ直す取り組みです。まず、10年前の調査について説明し、地元学手法とその後の計画作りや取り組みの具体的な内容を解説、その後、布土まちづくり推進委員会のメンバーをはじめ、地区の方々を案内人として、参加者が地図とカメラ、地域資源カードを持って布土川河口の海岸に行き、そこで、あらためて、NPO法人海辺づくり研究会の木村事務局長から布土と三河湾の海についての話を聞いた上で、4班に分かれて調査を行いました。

 調査では、神社に海岸の砂を持っていき「盛砂」をしてお参りする習慣が今も残っていることや、かつての小学校がカワウの糞を肥料として売って土地を買ったこと、アナアオサなどの海草類を集めて柑橘類の畑に肥料として使っていたことなど、里海と地域のつながりが見えてきました。
 参加者には、名古屋市や半田市などの都市部から来た人も多く、里地、里山、里海への関心が高く、この研修会を通じて、名古屋市から1時間もかからないところに豊かな自然と人との関わりがあることを実感し、その環境を保全するための取り組みに参加したいとの感想が述べられていました。

 布土まちづくり推進委員会では、今回の調査を踏まえて、これまで10年の里地里山の活動を振り返り、今後に生かし、新たに里海での活動を展開したいとしています。

ミニシンポジウム
ミニシンポジウム
研修会風景
研修会風景
全員で里海を確認して調査を開始
全員で里海を確認して調査を開始
NPO法人海辺づくり研究会の木村事務局長
NPO法人海辺づくり研究会の木村事務局長
地図と地域資源カードをまとめる
地図と地域資源カードをまとめる

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