自然環境・生物多様性

平成24年度第1回自然再生専門家会議議事概要

日時

平成24年8月7日(火)13:00~15:55

場所

中央合同庁舎第4号館12階 1219号会議室

出席者

委員
池谷 奉文 公益財団法人日本生態系協会会長
大和田 紘一 東京大学名誉教授
近藤 健雄 日本大学理工学部海洋建築工学科教授
進士 五十八 日本農業大学名誉教授
鈴木 和夫 独立行政法人森林総合研究所理事長
広田 純一 岩手大学農学部共生環境課程教授
三浦 慎吾 早稲田大学人間科学学術院人間環境学科教授
和田 恵次 奈良女子大学共生科学研究センター教授
関係省庁
環境省、農林水産省、国土交通省、文部科学省から関係課長等出席

議事

会議は公開で行われた。(一般傍聴者4名)

議題1 自然再生事業の推進に向けた取組状況について

 環境省より、資料2により、法定協議会の設立、実施計画の策定状況等について説明。

議題2 自然再生事業実施計画について

  1. [1]実施者(林野庁北海道森林管理局)より、資料4-1、4-2等により上サロベツ自然再生事業稚咲内砂丘林自然再生事業実施計画の説明。
  2. [2]実施者(国土交通省北海道開発局)より、資料5-1、5―2等により釧路湿原自然再生事業幌呂地区湿原再生実施計画の説明。
  3. [3]実施者(宮城県)より、資料6-1、6-2等により伊豆沼・内沼自然再生事業実施計画の説明。
  4. [4]実施者(兵庫県)より、資料7-1、7-2等により上山高原自然再生事業実施計画の説明。
  5. [5]実施者(NPO法人自然再生センター)より、資料8-1、8-2等により中海自然再生事業実施計画の説明。

 委員からの主な質問及び意見は以下のとおり。

稚咲内砂丘林自然再生事業

  • 植栽によって、湖沼の水位低下の抑制は図られるか。
    →湖沼については冬季の積雪の融水によって涵養されている部分が大きいと考えられており、樹林帯の堆雪効果による積雪深の増加により融雪量が増加し水位低下を抑制する効果があると期待している。
  • 砂丘林について、風が当たると枯れるならば、植えた稚樹は一定の高さになると枯れるのではないか。
    →海側にミズナラの植栽や防風柵を設置して、トドマツを守りながら植栽林の造成を図りたい。
  • 水位低下による悪影響は何か。水位低下が特定の生物に問題が無ければ様子を見ることも考えられるのではいか。
    →詳しい解析はできていないが、現在の状態を維持するため取り組んでいる。今後調査を続けたい。
  • 世界的には、自然再生は農地を買い取って元の自然に戻すというのが通常の方法である。土地を買収していくという計画はあるか。
    →計画はない。国有林地内で実施計画を考えている。
  • 農地の植栽や、後背地の林野との関係など、土地利用上の分析をしたらどうか。
    →まだそこまでの調査には至っていないが、農地側の地下水位について調査をしている。湖沼の水位との関係の特定には至っていない。
  • 水生生物の情報が無い。
    →継続的に現状を把握する事項として、水質・水生生物の変化についてもデータを取っていきたい。

幌呂地区湿原再生事業

  • 農地との間の幹線排水路は自然再生するA区域の地下水位に影響が及ばないか。
    →影響を与える構造と思われるが、地下水位計を設置し影響があるかみながら工事を実施したい。
  • 遮水壁は設置しないか。
    →必要となれば、協議会で相談したい。
  • A・B区域の農地は買い上げたのか。
    →再生事業前に、河川区域となっている。
  • ハンノキ生育抑制について、基礎的なデータを取る必要があるのではないか。
    →ハンノキ林の中で地下水位のデータを取っているが、ご指摘は参考にさせていただきたい。
  • 隣の農地からの影響が考えられるが、こういった事業について農林水産省はどういった対策を立てているか。
    →協議会に周辺のステークホルダーができるだけ入っていただくのがよい。役所として指導するときは、農、林、水などの横の連携をとり、ステークホルダーに入っていただくように指導したい。
  • 排水路を作ったことにそれなりの投資をしているが、今度埋めることに投資するのが再生事業として適当かどうか、工法の見当は十分行われたか。
    →他の工法も検討したが、農地に影響を与えない今回の工法を採用した。
  • 地盤を切り下げるときの表土はどうするか。農地は客土しているのか。
    →切り下げた土については、未利用の排水路に入れることと、埋め戻さない排水路から水が流出しないようにするための盛土を考えている。農地は排水路を造成したときの土を客土している。
  • 自然再生事業の実施結果についてモニタリングし、ノウハウを共有することが必要
    →ある程度積み上がった段階で、省庁間で連携して何らかの形を見出していきたい。
  • 世代間の引き継ぎ、持続的な展開が必要。持続的な仕組みをしっかり考えてもらいたい。

伊豆沼・内沼自然再生事業

  • 導水事業の水利権や土地改良区の用排水路を使うことについて、同意は得られているか。
    →水利権を取って実施している。関係省庁や土地改良区も協議会の構成員であり、同意を得ている。
  • 事業の目標についてどのように設定しているか。
    →クロモについて、現在ほとんどないものを80haに回復させるという目標を掲げている。クロモ以外にも、ミコアイサ、ヌカエビ、ゼニタナゴ、オオセスジイトトンボについても目標を設定している。
  • 導水事業は集水域を超えて実施するものなのか。
    →同一の集水域内で実施するものである。
  • 水質が悪い原因は何か。また、上流からの富栄養化物質が流れてきていないのか。
    →田からの排水や家庭排水が上流から流れてきており、それも原因の一部と考えられるが、ハスの枯れたものや、ガン・カモ類の糞などが底泥に溜まったものによる影響が大きいと考えられている。
  • 家庭用の雑排水や上流の農地からの排水について、国などへはどのような対策を要求しているか。
    →周辺自治体や県の土木部で流入負荷軽減に努めている。
  • 沼と付き合ってきた農村の文化、農業文化のありようも復元するのという取り組みは行わないのか。
    →ラムサール条約や、県による沼周辺の保有地化事業により、周辺の人々に沼には手をつけてはいけないという認識が広がった。湿地の賢明な利用について普及啓発を行い、周辺の人々の理解を得る努力をしている。

上山高原自然再生協議会

  • ススキ草原の復元や維持管理について、作業労力が確保できるのか。
    →今のところ確保できているが、60、70代の方が中心であり、次世代への引き継ぎが課題となっている。これについてNPO法人、県、町で検討している。
  • ススキ草原について、利活用の構想はあるのか。
    →ススキ草原の復元はイヌワシの保護につながる。また、景観が綺麗になれば観光に役立つため、観光プログラムの改善を検討している。
  • ベストミックスな管理とは何についてベストなのか。イヌワシを含めてベストミックスとしてほしい。
    →ススキ草原を維持することは、イヌワシの保護にも繋がり、それを継続的、持続的に維持管理していくことに一番適している方法の実証実験を行っている。
  • 予算規模はどれくらいか。
    →ブナ林とススキの予算だけであれば毎年400万円弱。拠点施設である上山高原エコミュージアムにかかる費用は町が負担している。
  • ブナ林の復元については、指標生物調査が無いのはなぜか。
    →動植物もあるが、植生調査が基本となる。
  • ススキ草原の指標動物としてチョウ類とクモ類を対象種にしているのはなぜか。
    →草原であるため、チョウ類、クモ類が豊富であり、これを対象としている。また、希少種を含めて全般的に対象としている。
  • スギ林をブナに戻す姿としては、針広混交林とするのか、すべてブナとするのか。
    →すべてをブナに戻すというものではなく、針広混交林化を図る。
  • アドバイスだが、リゾート開発から自然再生へと方向転換したということだが、リゾート法を新たな視点でうまく活用すれば、資金の確保や世代間の移行もある程度可能になるのではないかと考える。

中海自然再生事業実施計画

  • 広大なアマモ場が消えていったことについて教えて欲しい。
    →原因が解明されているわけではないが、中海の塩分が薄くなったこと、除草剤が流れ込んだこと、透明度が低下し、浅場が無くなったことが原因と考えられる。浅場がなく、透明度が悪いことで、除草剤の影響が無くなってもアマモが再生していない。
  • アマモの苗を移植することはやっているか。
    →種子マット法を用いて実施しているが、アカエイによる掘り返しが危惧されるところである。
  • 環境教育と絡めて、小・中・高を巻き込んでいけば、多くのサポートが得られるのではないか。
    →幼稚園児や小学生を対象にアマモの種子採集等の環境学習は行っているが、地元の高校生等にデータ収集等をしてもらうことも考えていきたい。
  • NPOの専属職員はどれくらいいるのか。
    →常勤は一人。理事長はボランティア。事務や調査はアルバイトという形をとっている。
  • 民間主導の自然再生の取組で素晴らしい。アドバイスであるが、NPO法人を中心に地域の色々なステークホルダーの方をまとめ上げて地域ぐるみで自然再生に取り組む形に持って行くのがよいのではないかと思う。