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自然再生基本方針

1 自然再生の推進に関する基本的方向


(1) わが国の自然環境を取り巻く状況
   自然環境は、生物多様性と自然の物質循環を基礎とし、生態系が
  微妙な均衡を保つことによって成り立っています。そして、自然環境は、
  地球温暖化の防止、水環境の保全、大気環境の保全、野生生物の
  生息環境としての役割などの機能を有しており、現在及び将来の人
  間の生存に欠かすことのできない基盤となっています。また、自然環
  境は、社会、経済、科学、教育、文化、芸術、レクリエーションなど様々な
  観点から人間にとって有用な価値を有しています。
   しかし、これまで人間が行ってきた自然の再生産能力を超えた自然
  資源の過度な利用などの行為により、自然環境の悪化が進んでき
  ました。その結果、生物多様性は減少し、人間生存の基盤である有限な
  自然環境が損なわれ、生態系は衰弱しつつあります。


   わが国は、その地史や気候等を背景として、多様で豊かな自然環
  境を有しており、私たちは様々な恩恵を享受しています。一方、私たち
  は、地震、台風、豪雨などによる自然災害への備えを怠ることはできま
  せん。
   戦後、高度経済成長期を経て自然災害に対する安全性や物質的
  な生活水準は向上してきましたが、その一方で、大量生産、大量消費、
  大量廃棄型の社会経済活動の増大に伴い、自然環境に大きな負荷
  を与えてきました。
   また、自然に対する人為の働きかけによって維持されてきた里地里
  山等における二次的な自然環境の質も、生活・生産様式の変化、人
  口の減少など、社会経済の変化に伴い、その働きかけが縮小撤退す
  ることにより変化してきました。
   このように、直接間接を問わず、様々な人間活動、人為の影響等に
  よって、自然海岸や干潟、湿原などが減少しているほか、人工林や二
  次林の手入れ不足、耕作放棄地の拡大等により、わが国の生態系の
  質の劣化が進んでおり、メダカに代表される身近な野生生物の絶滅
  のおそれが高まるなど、わが国の自然環境は大きく変化しています。

(2) 自然再生の方向性

   現在、自然と共生する社会の実現と地球環境の保全が重要な課
  題となっています。このため、自然環境の価値を再認識し、長い歴史
  の中で育まれた地域固有の動植物や生態系その他の自然環境につ
  いて、生態系の保全や生物種の保護のための取組を推進すべきこと
  はもちろん、過去に損なわれた自然環境を積極的に取り戻す自然再
  生によって地域の自然環境を蘇らせることが必要となっています。
   わが国は、南北に長く、モンスーン地帯に位置することなどから、豊
  かな生物相を有するとともに、変化に富んだ美しい自然を有しています。
  同時に、狭い国土面積に稠密な人口を抱え、その地形、地質、気象な
  どの条件から自然災害を受けやすいという特性があるほか、土地利用
  の転換圧力が強い都市地域、農林水産業等を通じ二次的な自然を
  維持形成してきた農山漁村地域など、地域によって、自然を取り巻く
  状況に大きな違いがあります。このため、わが国での自然再生を考え
  る際には、地域の自然環境の特性や社会経済活動等、地域における
  自然を取り巻く状況をよく踏まえるとともに、これらの社会経済活動等
  と地域における自然再生とが相互に十分な連携を保って進められる
  ことが必要です。
   さらに、森林、農地、都市、河川、海岸等の生態系は、流域の水循環、
  物質循環等を介して密接な関係を有していることや、広い範囲を移
  動する野生生物の生態学的特性を踏まえ、地域の自然再生を進める
  に当たっては、周辺地域とのつながりや流域単位の視点などの広域
  性を考慮する必要があります。
   こうしたことを踏まえ、自然再生の視点として、次の3つを掲げます。
  1)過去の社会経済活動等により損なわれた生態系その他の自然環
   境を取り戻すことを目的とし、健全で恵み豊かな自然が将来世代に
   わたって維持されるとともに、地域に固有の生物多様性の確保を
   通じて自然と共生する社会の実現を図り、あわせて地球環境の保
   全に寄与することを旨とすべきこと。
  2)地域に固有の生態系その他の自然環境の再生を目指す観点から、
   地域の自主性を尊重し、透明性を確保しつつ、地域の多様な主体
   
   の参加・連携により進めていくべきこと。   3)複雑で絶えず変化する生態系その他の自然環境を対象とすること    を十分に認識し、科学的知見に基づいて、長期的な視点で順応的に    取り組むべきこと。   これらの視点を踏まえた上で、自然再生の推進に関する基本的方向   を次のとおり示します。  ア 自然再生事業の対象    自然再生を目的として実施される事業(以下「自然再生事業」とい   う。)は、今後重視すべき先の3つの視点を明確にした新たな取組で   あり、開発行為等に伴い損なわれる環境と同種のものをその近くに創   出する代償措置としてではなく、過去に行われた事業や人間活動等   によって損なわれた生態系その他の自然環境を取り戻すことを目的   として行われるものです。    このような自然再生事業には、良好な自然環境が現存している場   所においてその状態を積極的に維持する行為としての「保全」、自然   環境が損なわれた地域において損なわれた自然環境を取り戻す行   為としての「再生」、大都市など自然環境がほとんど失われた地域に   おいて大規模な緑の空間の造成などにより、その地域の自然生態系   を取り戻す行為としての「創出」、再生された自然環境の状況をモニ   タリングし、その状態を長期間にわたって維持するために必要な管理   を行う行為としての「維持管理」を含みます。  イ 地域の多様な主体の参加と連携    自然再生事業は、それぞれの地域に固有の生態系その他の自然   環境の再生を目指すものです。このため、どのような自然環境を取り   戻すのかという目標やどのように取り戻すのかという手法の検討等に   ついては、それぞれの地域の自主性・主体性が尊重されるべきです。    自然再生事業の実施に当たっては、当該自然再生事業の構想策   定や調査設計など、初期の段階から事業実施、実施後の維持管理に   至るまで、関係行政機関、関係地方公共団体、地域住民、特定非営   利活動法人その他の民間団体(以下「NPO等」という。)、自然環境   に関し専門的知識を有する者等地域の多様な主体が参加・連携し、   相互に情報を共有するとともに、透明性を確保しつつ、自主的かつ積   極的に取り組むことが重要です。  ウ 科学的知見に基づく実施    自然再生事業は、科学的知見に基づいて実施するべきであり、地   域における自然環境の特性や生態系に関する知見を活用し、自然環   境が損なわれた原因を科学的に明らかにするなど、科学的知見の十   分な集積を基礎としながら、自然再生の必要性の検証を行うとともに、   自然再生の目標や目標達成に必要な方法を定めることが必要です。    この場合、自然の復元力及び生態系の微妙な均衡を踏まえて行う   ことが重要であり、工事等を行うことを前提とせず自然の復元力に委   ねる方法も考慮し、再生された自然環境が自律的に存続できるような   方法を含め、自然再生を行う方法を十分検討すべきです。    また、わが国では、間伐材や粗朶などの地域の自然資源を用いたり、   人力を十分に活用した作業を行うなど伝統的な手法を行ってきたこと   を踏まえ、このような手法のうち自然と調和したきめ細かで丁寧な手法   について、地域における経験と実績に基づく知見の把握に努めるとと   もに、その有効性を確認しつつ、自然再生の手法として用いていくこ   とも必要です。  エ 順応的な進め方    自然再生事業は、複雑で絶えず変化する生態系その他の自然環   境を対象とした事業であることから、地域の自然環境に関し専門的知   識を有する者の協力を得て、自然環境に関する事前の十分な調査を   行い、事業着手後も自然環境の再生状況をモニタリングし、その結果   を科学的に評価し、これを当該自然再生事業に反映させる順応的な   方法により実施することが必要です。    また、自然再生において、自然の復元力が十分に発揮されるよう条   件を整えることにより回復の過程に導く場合や、その回復の過程の中   で補助的に人の手を加える場合がありますが、生態系の健全性の回   復には一般に長い期間が必要であることを十分に認識すべきです。

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