ゴカイは何かと言われて、すぐに回答出来る人は少ないではないのでしょうか。釣りをしている人はともかく、ゴカイという生き物は多くの人々にとって、馴染みの薄い動物だと思います。しかし実はほとんどの日本各地の海域に生息していて、種類も非常に多様でごくありふれた身近な動物の一つなのです。海がお近くにある人は、すぐにゴカイを見つけることが出来るでしょう。
それでは知られざるゴカイの世界について覗いてみましょう!
1.ゴカイとは
少し専門的な書き方をすれば、環形動物門多毛綱に属する生物を総称してゴカイと呼んていて、25目約90科に分類されています。
噛み砕きますと、環形動物とは体が細長く、多数の節からなる体形が特徴で、ゴカイ・ミミズ・ヒルなどが含まれている動物の仲間です。現在9000種以上が知られていますが、まだまだ未確認種がいると考えられています。あなたもちょっと探し回れば、新種の発見者になれる可能性が十分にある仲間です。
多毛綱は環形動物の中でも原始的な部類(全生物種の約70%を占める昆虫の先祖にもなります)です。 |
ではゴカイ達はどの様な暮らし振りなのでしょうか。大きく分けて2種類に分けられ、活動的に動き回るタイプ;図1.a〜g(遊在類といいます)とひっそりと籠もるタイプi〜l(定在類といいます)がいます。前者は、泥の中や石の裏側などを動き回って採餌します。後者は砂粒などを粘液で固めた管(一例m)を作ってその中に棲んでいます。
後者の管を作るタイプの中には、採餌と呼吸をするために羽根のような器官を発達させた種がいます。海中ではこの美しい羽根のような器官を拡げて、見つけやすく、水中写真の被写体にされます。(写真下)
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| オオナガレカンザシ |
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図1.様々なゴカイたち
(マリンパビリオンVol.27,No.9 1998) |
さて、ゴカイは何を栄養として生きているのでしょう。
前者は主に小動物などの肉食で、後者は堆積したもの(砂泥などに付着した微生物)やプランクトンなどを食べます。これによって海中の有機物を分解し、陸上でバクテリアが行っている様な働きをします。従ってゴカイがいなくなれば、有機物が堆積して富栄養化が進み、海中の生態系が維持しなくなってしまいます。ゴカイは海の環境においてとても重要な役割を果たしています。
一方捕食される側面では、釣餌となるのを見ても分かる様に、ゴカイ類は他の動物と共に魚類や甲殻類にとっては非常に美味しい食べ物で、海岸動物の非常に重要な餌となっています。 |
2.ゴカイの生息場所と調べる意義
ゴカイ類は海域のほとんどのどんな環境にも適応し、海の動物の内で最も普通に見られる動物です。ほとんどの海域でゴカイ類の動物種に占める割合が70%を超えます。
それぞれ様々な環境に合わせて、非常に多様な形態と生態を分化させ、環境の良いところしか生息しない、環境条件の悪い場所でも生息できるなどとその種によって好む環境が決まっています。従って生息しているゴカイの種類を見ていけば、その海域の環境を判断することができ、有用な海のきれいさや豊かさを示す物差し(学術的には環境指標)の役割を果たします。ちなみに一般的にゴカイの仲間は、汚染が進むに従って優占度が高くなるといわれています。
一方、種が少ない生物の場合には、環境変化が起こっても環境に我慢して適応してしまうか、その場所からいなくなってしまうでしょう。その事実からは、変化に適応した結果なのか等いなくなった原因(たまたま移動していなくなったのか、環境悪化のために死んでしまったのか等)が分からないため、環境変化を把握する指標にはあまり適していません。 |
3.ゴカイの採集方法
ゴカイは海域のほとんど全ての場所に生息していますが、私達が活動しやすく目に留めやすい浅海では、岩礁域、砂底、干潟のいずれでも多くの種が見られます。ここでは身近で採集しやすい浅海域での作業についてご紹介します。
潮の満ち引きによって陸地になったり、海中になったりする場所を潮間帯と呼びます。
この地域は変化に富む多様な環境であるため、それぞれの環境に合わせて数多くの生き物たちが暮らしています。ゴカイもこの場所には多数生息していて狙い目です。(例:写真下)
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使用する道具
ピンセット(小さく採取しづらい場合に必要):約500円
10%ホルマリン(形状を固定して、保存するため)
ふるい(100円〜)
液体を入れてもこぼれないビン(採集物を保管するため):(約100円〜)
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<<採集する際の着眼点>>
海岸にある大きな石をひっくり返すと、ミミズのような細長い姿をしたゴカイがよく見つかります。管の中に入っていて管の口から羽根のような房(鰓冠(さいかん)と呼び、広げると羽根のような器官で採餌等を行います)を広げて、プランクトンを餌としているゴカイは、採集の時に鰓冠を広げている状態を見ることは難しいですが、中に潜んでいるゴカイを見つけることができます。(見たい人は他の物を採集したり、観察している間、バット等の容器に海水を張って、海岸に置いておくと、やがて鰓冠を広げているのでしょう。)
そして中に潜んでいるゴカイをピンセットで採取します。この際強く引っ張ったり、押したりするとゴカイが傷ついてしまいますので、注意して管を縦に裂いて取り出してください。 |

採集場所の一例 |
また砂の中でも見つけることが出来ます。砂浜の海岸に行き、ふるいを使って砂をふるえばゴカイと対面出来ることでしょう。とても小さなゴカイもいますので、目を凝らしてピンセットを駆使しながら、注意して探索してください。
採集したゴカイは海水を入れた瓶に入れて持ち帰ります。この時採集日と採集場所を忘れずに控えておきましょう。潮間帯にいるゴカイは、冷蔵庫で冷却して動きを鈍くしてからホルマリンに浸けると、ゴカイが丸くならずに綺麗な状態で固定でき、後の同定時に楽になります。 |

採集した瓶 |
4. ゴカイの部位
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多少ゴカイの体のつくりについて触れたいと思います。ゴカイは多くが細長い形をしていて、体が体節と呼ばれるいくつもの節に分かれています。(図2
b,e)
その節毎に足の役割を果たすいぼ足があります。そこから人で言えば手足の指の役割を果たす剛毛が生えています。
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図2 |
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剛毛は種によってその形が異なり、見分ける時に重要な指標となります。右図は櫛状や鉤状など様々な形をもった剛毛の数々です(図3)。
肉眼では確認しにくいので、光学顕微鏡でご覧下さい。 ゴカイのいぼ足をピンセットを使って取り出し、スライドガラスに載せて、カバーガラスをかけ、10×10倍〜10×40倍程度で見ますと、1本1本の剛毛がよく見えます。 |

図3.奥田,1947
日本動物図鑑(増補改訂版)
多毛綱概説より |
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| 図4は図1で紹介しました様々なゴカイの頭の部位の紹介です。図1で記述したように、ゴカイは種によって大きく異なる形態をもっていますが、頭部は最も大きな違いがみられる部位の一つです。少し深い内容になるので、関心の高い方や下述する検索紹介をご覧になる際に参考にしてください。 |
5.同定作業(どのようなゴカイなのかを調べる)
ゴカイは非常に多くの種類がいます。現在分かっているものだけでも1万種いて、未発見の種は10万種ともいわれています。従って新種を発見出来る可能性が大いにあります!
非常に多様な種がいるため、前述したように採取したゴカイがどの様な種(種まで行かなくてもどの仲間なのか)かを知ることが出来れば、採取した場所の環境が良くわかります。自分が採取したゴカイについて、少し調べてみましょう。
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<使用する道具>
ピンセット×2(約200円〜)
(一つは針でも構いません)
シャーレ(約500円〜)
スライドガラス(約10円〜)
カバーガラス(約3円〜)
顕微鏡(約5万円〜)
実体顕微鏡(約5万円〜) |

実体顕微鏡を使って観察 |
水を入れたシャーレの上にゴカイをのせ、実体顕微鏡を使用して観察します。倍率はそれ程高くないため小さなゴカイの細部までは視認出来ませんが、裸眼で見るよりも格段に大きく確認でき、多くの足や節があることがよく分かると思います。よく見れば触角や頭部も見ることができます。さらに細部を拡大して確認したい場合は、より拡大が可能な顕微鏡を用いて観察します。その際はスライドガラスに移し、空気が入らないようにカバーガラスを被せて観察しましょう。小さなゴカイは、これらの道具を駆使して観察して、どの種かを判断していきます。
まず体の仕組みや作りを観察するためには、低倍率の実体顕微鏡やルーペで観察が可能な比較的大型の種を対象とするのがよいでしょう。 |
6. ゴカイの同定の一例
ゴカイはそれぞれの科によってかなり特色があり(図1)、一見して見分けが付く場合がありますが、確実に同定可能な手順をカンザシゴカイ科(図1、右写真)を例にとって説明していきます。
(本章の図は一部の除き、内田,マリンパビリオンより引用)
ゴカイは小さな生物なので肉眼では困難ですが、顕微鏡や実体顕微鏡を使用すれば、ゴカイもかなり細部まで観察できます。 |

オオナガレカンザシ
(カンザシゴカイ科) |
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@まず始めに剛毛をもつかどうかを確認します。カンザシゴカイ科の種類は剛毛をもつ左図です。右図はフサゴカイ科やオヨギゴカイ科、イイジマムカシゴカイ科、ウキナガムシ科やその近縁種になります。 |
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A次は数多くある足(いぼ足)を確認します。顕微鏡を使って、足の形が左側の形状か、右側の形状かを区別してください。カンザシゴカイ科の種は右図に該当します。
この判別によって、図1のa〜e,g,hの様な定在類の部類とf,i〜lの遊在類の部類に大きく区分されたわけです。 |
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B背側の剛毛(背剛毛)に着眼して下さい。背剛毛が虫体背面の膜の中に列生していている場合はヒレアイゴカイ科の種類です。カンザシゴカイ科の種類は、右図の背剛毛が無かったり、体前部の背剛毛は体の左右に束状になっている方です。 |
いぼ足を前後から見た図
(以後いぼ足の図はこの向きから見た図になります) |
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C多数ある体節のうち、右図のように、剛毛が背腹2束に分かれたいぼ足があるかどうかを確認します。
カンザシゴカイ科の種は右図のようなグループに該当します。左図はフサゴカイ科の1部や、ヤムシゴカイ科、ムカシゴカイ科、ダルマゴカイ科等が該当します。

アカフシフサゴカイ (フサゴカイ科) |

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D前口葉が簡単に見た目で判断できるかどうかを確認します。確認できる方(左図)は(図1;g)、確認できない方(右図)は(図1;i,h,l)です。カンザシゴカイは、後者に該当します。
前者はクマノアシツキ科、ミズヒキゴカイ科、ツバサゴカイ科、モロテゴカイ科、スピオ科等の仲間です。

クマノアシツキ(クマノアシツキ科) |
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E前口葉が体節にひっついているか(左図)、特化した形状になっているか(右図)を区別します。
カンザシゴカイ科の種類は、右図のような形状で後者の部類に入ります。左図はツバサゴカイ科やその近縁の科になります。

ツバサゴカイ(ツバサゴカイ科) |
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Fちょっと長くなりますが、頭部が体前部からの剛毛(後ろの部分の剛毛と同形で長さが長い)によって囲われ、体表が乳頭状の突起で覆われているかと(左図)、体前部からの剛毛によって囲まれていないか、または後ろの剛毛と全く異なった剛毛に囲まれるか(右図)を見分けます。
カンザシゴカイ科の種類は後者の右図に該当します。左図はハボウキゴカイ科になります。

ミナミハボウキ(カンムリゴカイ科) |

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G体の先端部に後ろの体節の剛毛に比べてはるかに太い剛毛が生えているか(左図)、先端部は触手様の糸状突起の束があるか(右図)どうかを区別します。
カンザシゴカイ科の種は右図の形状です。左図はカンムリゴカイ科やウミイサゴムシ科に区分されます。

ナガオカンムリ(カンムリゴカイ科) |
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H今度も頭の部分に注目します。頭からの糸状様の突起が膜状(図左)か口触手(図中)や鰓糸(図右)かを区分します。
前者はチマキゴカイ科で、カンザシゴカイ科の種は後者です。 |
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I胸部と腹部にある背いぼ足と腹いぼ足の剛毛の種類が、入れ替わるかどうかで区別します。
右図のように入れ替わらなければ、フサゴカイ科やその近縁の科で、カンザシゴカイ科の仲間は入れかわる方(左図)に入ります。 |
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J胸膜をもつかどうかで区分します。
カンザシゴカイ科の種は右図のように胸膜がみられます。一方、胸膜をもたないものはケヤリムシ科に分類されます。
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ケヤリムシ
(ケヤリムシ科) |
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K左右の剛毛の数が同数で体は左右対称かと体が渦を巻き、左右非対称かどうか区別します。前者がカンザシゴカイ科の種で、後者がウズマキゴカイ科の種に区分されます。

ツノウズマキゴカイ(ウズマキゴカイ科) |
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12回の確認を経て、カンザシゴカイ科の仲間であることを検索していきました。種を判断する際は、これからさらに細かく確認していくこととなります。
検索するゴカイの科によって判別する箇所がそれぞれ異なりますが、前述のように順番に確認して辿っていくと、そのゴカイがどの仲間かが確実に判断できます。
今回はカンザシゴカイ科の種を例示しましたが、主なゴカイの種は約20科くらいに分かれます。ご興味のある方は、(株)串本海中公園センター発行のマリンパビリオンに内田名誉館長が連載されているPOLYCHAETOLOGICAをご覧下さい。現在も連載中で、種の段階まで検索できます。
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