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終わりに
2月の平均水温は17. 1°C、平年値を0. 7°C上回っていました。水温が16度を下回った日は5日ありましたが、いずれも気温の低い日で、外気の影響を強く受けたものと思われます。3月前半の水温は17. 2°C、ほとんどの日が17°C台で、大きく冷え込むこともありませんでした。黒潮も潮岬への接岸傾向が続いており、このまま暖かくなっていくことが期待できそうです。
さて、串本沿岸の海中では3月頃になると水の濁りがひどくなってきます。今年は2月19日ににぎごり傾向が見られ始め、それまで25m以上あった透視度が15m程度になってしまいました。水の色も黄色っぽく、それまでの青さがなくなり、写真を撮るとストロボの光に濁りの粒が反射して、雪が降っているような写真になってしまいます(写真1)。平年より水温が高いとは言え、水温17°Cは明らかに冬です。熱帯性の綺麗な魚たちはあまり見られなくなり、全体的に魚が少ないような気がします。
散策を続けていると、海中展望塔沖ので水深10mくらいの砂地で珍しいハゼを見つけました。ダンダラダテハゼというダテハゼの仲間です(写真2)。ダテハゼの仲間はテッポウエビ類と共生をして、エビの掘った巣穴に一緒に棲み、目の悪いエビの替わりに周囲を警戒しています。しかし、このダンダラダテハゼの近くには巣穴もテッポウエビも見られません。写真を撮り続けていると、穴に隠れることもできないために、砂地をどんどん移動して逃げていきました。10mくらい追いかけていったのですが、ちょっと目を離した隙に見失ってしまいました。ダンダラダテハゼは串本でもあまり多くないダテハゼの仲間で、潮岬のダイビングポイントで若干の記録があるだけです。錆浦からは初めての記録になると思われます。しかしながら、エビと共生できないままで、いつまで生き延びられるか心配になります。
また、水深12m程にある礫の多い砂地では、これまた珍しいオグロベラの雌に出会いました(写真3)。鮮やかなピンク色をした5cmくらいの魚で、カミナリベラの雌と一緒に泳いでいました。この魚も潮岬のダイビングポイントでよく見かけますが、錆浦ではあまり見られません。和名の「オグロ」は雄の尾ビレの縁が黒いことに由来しています(写真4)。オグロベラを観察しながら、ふと海底を見ると大きなヒラメがいました(写真5)。全長40cmほどでしょうか。たまたま足元にいたので気がつきましたが、海底の砂礫と同じ色をしているので、少し離れると全く見えなくなってしまいます。
ところで、水温の低い季節は海藻が多く見られます。先月は増えてきたフクロノリだけでしたが、今回は他に目についたものをいくつか紹介しましょう。最初は水深10mくらいで見つけた紫色の蛍光色を発するアヤニシキです(写真6)。鮮やかな色と網目状の体が美しい海藻です。潮間帯付近には多くの海藻が生えていて、波の力でユラユラと揺れています。干潮時にも干上がらないギリギリのところにはアミジグサの仲間が海底の岩を覆っています(写真7)。褐色をした平べったい海藻で、葉の先が二叉に分かれています。潮間帯下部には緑色の綿くずのようなアオモグサが一面に生えています(写真8)。モサモサとした手触りは何となく人工的な物を感じさせます。また、ヒジキも少しずつ大きくなってきました(写真9)。まだまだ短いので、収穫できる大きさになるまでに、1ヶ月ほどかかりそうです。
ところで、海が濁ってくると海中展望塔でも魚があまり観られなくなります(水温が低いため、魚類の活動が鈍ることもありますが・・・)。そんな時期に出現を期待できるのがヒラスズキです。何と、今年は3月に入ってから、二度もヒラスズキが現れました。これまで3000日以上の観察で15回しか観察されたことのない、海中展望塔では非常に珍しい魚で、たいていは通り過ぎる後ろ姿が見られるだけです。しかし、3月7日の観察では展望塔のすぐそばをぐるっと1周したのです(写真10)。たまたま持っていたカメラで撮影をしましたが、なかなか良い写真は撮れませんでした。しかしながら80cmもあろうかという巨大な魚が海中展望塔に現れるのは稀なことです。去っていくスズキの姿を写真に収めながら(写真11)、感無量といった気分になりました。