環境省自然環境・生物多様性南極地域の環境保護南極地域観測隊同行日記

昭和基地での仕事

2012年12月28日(金)

 12月23日に昭和基地入りをしました。昭和基地における設営、調査等の活動は、南極地域の貴重な環境に影響を与えないように「南極地域の環境の保護に関する法律」に基づき、事前に環境大臣に申請がなされ、環境省においてその内容が法に適合しているかをチェックしています。私は、環境省の職員として、各種の活動が申請された内容に合致しているか、それぞれの作業や調査を確認して基地内を回るとともに、観測隊が行っている各作業を手伝っています。今回は、その中で印象的だったものをいくつかご紹介します。

大型大気レーダー「パンジー」の移設作業

 現在昭和基地で行われている大型大気レーダー計画は、大きなアンテナを作るのではなく、小さなアンテナをたくさん並べ、大きなレーダーの役割を持たせるもので「パンジー」(Program of ANtarctic SYowa)と呼ばれています。大気の状態(上空の風速プロファイル等)を詳細に調査することが予定されています。2年前に一通りの建設を終えたパンジーですが、予想を超える豪雪等により、観測活動に滞りが出ることから、アンテナ群の一部を雪の積もりにくい場所に移設することになりました。

 パンジー移設作業を担当した隊員は、屋外でのアンテナの移設作業と室内での機器整備を行います。アンテナの移設担当者は1本あたりおよそ4m、重量にして30kgくらいの分解されたアンテナを夏期間中に全部で約700本移設します。作業場所はごつごつとした岩場や水たまりでぬかるんだ泥地で、日によっては雪が降る厳しい環境での作業となります。

 作業は申請があった方法のとおり進められており、隊員達は作業終了後、発生した小さなゴミを拾いながら夏宿舎(南半球では夏のため、夏期間に隊員が滞在する建物を夏宿舎と呼びます。)に戻りました。

旧娯楽棟

 1956年に始まった第1次隊にて建設された建物で、現在旧娯楽棟と呼ばれ、倉庫として使用されている建物です。観測隊は当時も現在も、様々な作業をこなすため、様々な職業の方で構成されます。建築の専門家も参加していますが、当然全員を建築の専門家にするわけにはいきません。このため、建設は素人が行うことになったそうですが、旧娯楽棟はそれを見越して、簡単に組み立てができ、かつ南極の気候に耐えられるように設計された建物で、プレハブ建築のはしりとなる建物だそうです。

旧娯楽棟(中央のオレンジ色の建物)写真拡大

 南極で建設後50年を越える建物は非常に古い部類に入り貴重ですし、また、プレハブ工法により建設された最初の建物であるという点がとても印象的でした。

 なお、建設担当の隊員によると、第1次隊が旧娯楽棟を建設した時期と同時期の日本の有名な建物としては東京タワーがあげられるそうです。

 昭和基地には新しい建物、古い建物、その中間の建物もあり、古いものもまだまだ使用されています。日本から輸送で物資を運び込むのが難しいという点ももちろんありますが、ものを使用しつづけることの重要性についても考えさせられます。

デルタアンテナの建設

 高さ40mにもなるアンテナを観測隊員達で立ち上げます。(日記を書く時点では、あと少しで完成というところです。)アンテナを直立させ、ワイヤーで固定していきます。一つのワイヤー固定が終わるとその上のアンテナをクレーンで吊って、直立しているアンテナに接続し、再度ワイヤーで固定します。接続作業は3人の隊員が、すごい速さでアンテナに昇っていき、テキパキとこなしました。作業をしている隊員を見て、その登る速さ、作業の速さ、指示の的確さに、我々地上でワイヤー固定作業をしている者は、プロの仕事だ、と感じました。

デルタアンテナ建設の様子写真拡大

 上に登った隊員に
「職人の技ですね、感動しました。」
と伝えると
「下のみんながしっかりやってくれたからですよ。」
と笑顔で返してくれました。

 観測隊は様々な分野の専門家から成り立っていることを改めて認識するとともに、日本を出発する前から幾度となく聞いていた「オールジャパン体制でやるんだ」という言葉に実感がわきました。

 デルタアンテナは電離層の電子密度を調査するために建設されるものです。極地以外では通信関係の研究に使用しますが、南極では自然現象(オーロラ等)の研究に役立てられます。

ページのトップへ