環境省自然環境・生物多様性南極地域の環境保護南極地域観測隊同行日記

南極上陸~雪鳥沢南極特別保護地区~

2012年12月23日(日)

 12月19日、しらせからヘリで飛び立ち、ついに南極大陸の端にあるラングホブデに上陸しました。

 ラングホブデでは南極特別保護地区(ASPA:Antarctic Specially Protected Area)の1つである雪鳥沢(ゆきどりさわ)で行われる陸上生物の調査に同行するとともに、ASPAの管理状況の確認等をしました。雪鳥沢は、名前の由来となっているユキドリも多数生息しており、蘚苔類(コケ)、地衣類等の群落が沢沿いに生育しています。1984年から長期間にわたって、これらの植生の調査を継続しており、2002年の南極条約協議国会議にて、生態系の保護と継続的な調査を行う価値のある地域としてASPAに指定されました。

 南極条約協議国会議における決定を実施するためには、その決定を加盟するそれぞれの国の法律で規定する必要があります。我が国の南極環境保護法においてはASPAを「南極特別保護地区」に指定しており、許可なく立ち入ることができないほか、車両使用の禁止や野営の禁止など他の南極地域より厳しい要件をそれぞれの特別保護地区ごとに設定しています。

雪鳥沢入り口付近で隊員に注意事項を説明写真拡大

 今回は陸上生物(植物等)の専門家3名と、現地でのルート決定等を行うフィールドアシスタント(FA)、私の計5名で雪鳥沢に調査に行きました。陸上生物の専門家の皆さんは、調査地点の確認をしながら調査機材の設置場所を選定したり、サンプル採取場所の候補地を探し出したりといった予備的な調査を行っていました。予備調査の段階でラングホブデにいる様々な蘚苔類、地衣類等を教えていただきました。例えば、胞子を多く産出するナンキョクホウネンゴケ、ナンキョクミズギワノチズゴケ等。その他に同定できなかったものも含め、いろいろな蘚苔類や地衣類が沢沿いに多く生育しています。

 雪鳥沢では、モニタリング調査が継続されているのですが、モニタリング方形区に生育する蘚苔類は調査開始後30年近く経っても群落の大きさにあまり変化は見られないとのことです。南極は冬の間、日が昇らず暗い日が続き(極夜といいます。)、雪に閉ざされてしまいます。あまり光が当たらない、かつ低温の環境では、なかなか育たないのでしょう。このような悪条件にも負けず、少しずつ生長し、この大きさに育つまでには、一体どれ程の時間が必要だったのでしょうか。

雪鳥沢の植物群落写真拡大

 また、雪鳥沢ではASPA管理状況の確認も行いました。ASPAの境界を示すロープが南極の風雪に耐えられず切れていたので、FA隊員とともに修繕を行いました。

 滞在した小屋にはASPA立ち入りに関する注意事項(植物を踏まない等)が用意されており、滞在者がASPAに立ち入る際に守るべきルールが分かるようになっています。地区の入り口には看板があり、こちらにも立ち入りの注意事項が記載されています。また、隊員は雪鳥沢への立ち入りに際し、沢の左岸側を歩くようにしています。そうすることで自動的に植物群落の踏みつけを避けられるためです。これらは観測隊の自主的な取り組みですが、こういったできるところから地道にやっていくことが、雪鳥沢沿いに育った貴重な植物群落を守っていくために必要なのだと改めて感じました。

 雪鳥沢に長い時間をかけて生育してきた植物群落がこれからも続いていくよう、このような取組を引き継いでいきたいと思いながら、23日午後には雪鳥沢を出発し、昭和基地に入りました。

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