自然環境・生物多様性

第58次南極地域観測隊同行日記

 環境省では、南極地域観測統合推進本部(本部長:文部科学大臣)が組織する「南極地域観測隊」に定期的に職員を同行させ、主として我が国昭和基地周辺の環境や動植物の状況等について、現地調査を実施してまいりました。
 第58次南極地域観測隊夏隊(平成28年11月27日~平成29年3月23日)にも、1名の環境省職員が同行します。
 このページでは、南極で活躍する環境省職員の現地からの声を「第58次南極地域観測隊同行日記」として紹介します。

環境省職員日記

シドニー入港

2017年3月22日(水)

シドニー入港

 2月15日に昭和基地沖を出発してから、約1ヶ月あまり、ついに3月20日にオーストラリアのシドニーに入港しました。南極では、植物や動物を見かける機会が限られていたため、4ヶ月ぶりに上陸する温帯の土地では、街路樹や道ばたにいるハトまでもが新鮮に見えます。

 私は、一昨年の10月に南極保全担当のポストに赴任し、それ以降霞ヶ関で南極を訪問する方の許認可をしたり、南極条約に関する国際会議に出席したりと南極関連の業務に携わってきました。しかし、南極のことは書籍や映像から得られる情報でしか知らず、正直なところ南極がどのような場所なのか、どういった自然なのかということについて感覚的なイメージをもてませんでした。ですが、今回、初めて南極に行き、寒冷で厳しい環境や、その中で生きる生物同士のつながりなど、自分の目で見ることで、南極の貴重な自然の保護の重要性を実感することができました。また、南極における海洋、大気、地球物理、生物など、観測隊員が行っている様々な分野の研究に触れることができたことは、とても勉強になりました。一方、ほとんど人の手が入っていない南極における人間の活動や環境保護のあり方については、前回の記事に挙げたトイレの問題など考えさせられることもありました。この経験を少しでも今後の業務に活かしていければと思います。

 さて、第58次夏隊と第57次越冬隊は、3月22日の夜にオーストラリアを飛行機で発ち、23日に帰国の予定です。そのため、今回をもって「第58次南極地域観測隊同行日記」は終了いたします。最後になりますが、これまで日記を読んでいただいた皆様、どうもありがとうございました。また、南極の地で、一緒に過ごし支えてくれた第58次隊のメンバーと、第57次越冬隊にも感謝したいと思います。

トイレと南極の環境

2017年3月20日(月)

ペールトイレ

ペールトイレ

ペールトイレ用のテント。テントの中にペールトイレを入れて使う。

ペールトイレ用のテント。テントの中にペールトイレを入れて使う。

携帯トイレ。左はポリ瓶。右はエチケット袋のような袋型。凝固剤もついている。

携帯トイレ。左はポリ瓶。右はエチケット袋のような袋型。凝固剤もついている。

 南極での生活での楽しみは食事の時間とよく言われますが、食べたものは消化され排せつ物となって出てきます。そこで、今回は南極における人間の排せつ物の処理の仕方について紹介したいと思います。

 まず、南極の環境保護に関して定め、環境省が所管している「南極地域の環境の保護に関する法律」での規定から紹介します。この法律では、第16条において廃棄物の処分の制限を定めています。その中では、基本的に南極において、廃棄物を燃やしたり、埋めたり、流したりといったことを禁じています。ちなみに、人間の排せつ物も「廃棄物」として扱います。ただ、南極で観測を行うには、南極で生活することになるため、観測や生活に伴いゴミが出ますし、また人間ですから排せつ物が出ます。そういったどうしても発生する廃棄物の処分をすべて制限することは現実的ではない、そこで、除外規定が設けられています。人間の排せつに関する内容を簡単にまとめると、次のようになります。基地では固形状の沈殿がなくなるように処理して海に流す、一方、基地以外の場所で野外調査する際は、陸上で用を足すことや、海に向かって用を足すことは可能であるが、できるだけ基地に持ち帰るように努力すべきである。

 では、観測隊では、実際どのように処分されているのでしょうか。

 まず基地についてですが、昭和基地には現在約70棟もの建物があります。越冬隊が生活する暖房設備が整った建物から、観測機器のメンテナンスをする小屋までさまざまあります。そのなかで、私たちが普通想像するようなトイレ、つまりレバーをひねって水とともに流すという水洗トイレがあるのは、2カ所のみです。これらから出される排せつ物は、国内でも導入されている膜分離活性汚泥方式の汚水処理施設を通り、浄化して海洋に流されます。もちろん、水洗トイレのある建物以外で仕事をしている間にトイレに行きたくなることもあります。その場合は、トイレのある建物に行くまで我慢する、用意したポリタンクなどの携帯用トイレに集積し、たまったら処理場に持って行くなどで処分をしています。トイレのことなど、日本で生活していれば不便に感じることはきわめて少ないと思いますが、南極の基地ではこのような苦労や工夫があります。なかには、一回ずつ排せつ物を電動で包装するトイレを設置している小屋もありました。

 ここまで基地での処分について書いてきましたが、基地から離れ野外調査に行く際にはどのように処分しているのでしょうか。観測隊では、法律よりも厳しいルールで運用されていますが、具体的には、陸上である露岩域では用を足さない、陸やタイドクラック(海氷の割れ目、割れ目の下は海)から海に流すことは可能、海氷や氷床の上では小便のみ可能で、大便は不可とされています。そのため、野外調査に行くパーティーには、ペールトイレや携帯トイレが渡されます。ペールトイレとは、バケツのような缶にゴミ袋を2重にして入れ排せつ物を集積するもので、野営地などの活動拠点に設置して使われます。携帯トイレは、荷物にいれ持ち運び、フィールドを歩いているときなどに使います。

私も野外調査に行った際には、海で用を足したり、ペールトイレや携帯トイレを使ったりということを経験しました。海に向かって用を足すとその後出たものを持ち帰る手間がなく、処分が楽とも言えますが、ペールトイレの場合は、使用後漏れないようにくくって、ヘリで基地まで運び、生ゴミ処理機で乾燥させ、その後焼却して処分します。このようにペールトイレは、海に排せつ物をそのまま流すより処分にひと手間がかかるとも言えますが、環境への負荷をなくすことができます。

 環境の負荷に関して言えば、もともと気温が低く、生物の種類も少ない南極では、日本におけるよりも排せつ物が環境に与える影響は当然多いものと考えられます。それは、前回紹介した雪鳥沢では、鳥類の排せつ物により有機物が供給されることが、地衣類やコケ類に強く影響を与えていることからも分かります。日本の37倍の面積がある南極大陸において、私たちが与える影響は微々たるものかもしれません。観測など必要な目的のために発生するものはやむを得ませんが、もともと人間がいなかった南極において人間が与える影響は極力軽減するよう意識を持って南極の環境を次世代につなげていきたいものです。

南極特別保護地区:海と陸のつながり

2017年3月8日(火)


南極特別保護区を示す看板

沢沿いに生育するコケ類

地衣類

 昭和基地やその周辺のフィールドでの約一ヶ月半の夏作業が終わり、2月15日には58次夏隊と57次越冬隊がすべて昭和基地を離れ、しらせに戻りました。しらせは、15日より海洋観測を続けながら、オーストラリアへ向けて航海しています。さて、今回は、1月18日から23日の間、現地調査に行ったラングホブデの雪鳥沢について報告したいと思います。

 雪鳥沢は、昭和基地から南に約20kmのところにあり、第41南極特別保護地区に指定されています。南極特別保護地区とは、南極条約の環境保護議定書に基づき、環境上や科学上の価値等を保護するため国際的に指定し保護されている場所です。現在、南極全体で70カ所程度の場所が南極特別保護地区に指定されていますが、この第41南極特別保護地区は日本が提案し、管理している唯一の南極特別保護地区になります。

 この雪鳥沢は、大陸の氷河が融けた水が流れ出る沢で、ナンキョクオオトウゾクカモメや数千羽のユキドリが生息すると言われています。ユキドリなどの海鳥は、海にいるオキアミや魚類を食べ、それらを露岩域の集団営巣地などで排せつします。このように海鳥が出す排せつ物は、有機物として地衣類やコケ類といった陸上の生物にとって栄養の主要な供給源となっており、周辺の他の露岩域と比べ大変豊かな植生が見られます。

そのため、雪鳥沢では1984年から地衣類やコケ類のモニタリング調査が行われています。このモニタリング調査への人為的な影響を避け、また雪鳥沢の貴重で脆弱な生態系を保護するため、雪鳥沢を南極特別保護区に指定し、区域への立ち入りは科学的調査など特別な目的がある場合に限定する、ヘリの着陸を禁止するなどといった規制をしています。

 昭和基地周辺の露岩域においては、有機物を含む土壌がほとんど存在せず、また気温が低いなど植物が生育するには厳しい環境です。私自身、それまで訪れた露岩域では、ほとんど植物を見かけることがありませんでした。そのため、雪鳥沢で鮮やかな赤や黄色をした地衣類や緑色のコケ類が豊かに生育している様子を目の当たりにして、久しぶりに見る植物に感動しました。この豊かさは、海鳥が海にある養分を排せつ物という形で陸にもたらすことで、海域と陸域の生態系をつないでいることによりもたらされると言えます。ただ、豊かとはいっても、日本と比べると種数や生育面積はとても限られています。今回雪鳥沢の自然を見て、このような厳しい環境下にある南極の自然の保護の重要性を感じると同時に、これまで当たり前に感じていた日本の自然の豊かさを改めて認識するようになりました。

※最新の記事を表示しています。以前の物は過去の南極地域観測隊同行日記をご覧下さい。

環境省による南極地域現地調査の概要

その他の関連情報

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