自然環境・生物多様性

新たな世界自然遺産候補地の考え方に係る懇談会 | 第4回概要

日時

2012年12月3日(月)15:00~17:20

場所

経済産業省別館1020号会議室

出席委員等(敬称略)

(1)委員
岩槻 邦男 (兵庫県立 人と自然の博物館 館長)
大河内 勇 (独立行政法人 森林総合研究所 理事)
太田 英利 (兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 教授)
小泉 武栄 (国立大学法人 東京学芸大学 教授)
敷田 麻実 (国立大学法人 北海道大学観光学高等研究センター 教授)
中静  透 (国立大学法人 東北大学大学院 教授)
吉田 正人 (国立大学法人 筑波大学大学院 准教授)
(2)ゲストスピーカー
浅井 孝司 (文部科学省大臣官房国際課国際協力政策室 室長)
米田 久美子 (一般財団法人 自然環境研究センター 研究主幹)
渡辺 真人 (産業技術総合研究所 企画運営グループ長)

議題

  1. (1)世界自然遺産地域における成果と今後求められる保全管理について
    (知床、白神山地、小笠原諸島、屋久島の保全管理の状況及び課題を踏まえた検討)
  2. (2)世界自然遺産登録に係る国際的な動向について
  3. (3)世界自然遺産と関連する国際的な地域制度(ユネスコエコパーク、世界ジオパーク)について
  4. (4)その他

概要

(1)世界自然遺産地域における成果と今後求められる保全管理について

  • 論点整理(案)に対する意見
    • 2.(2)[1]の「科学委員会に期待される役割」の記述に関しては、「管理主体」には、国だけでなく地域の関係者が含まれることが明確に分かる記述にすべき。もしくは、多様な主体の参画による高度な管理を実現するという趣旨を明確にすべき。
    • 2.(2)[2]の「世界自然遺産地域周辺も含めた広範囲の保全についての検討」の記述に関しては、知床でのエゾシカの個体群管理だけでなく、航路も含めた広範囲を管理計画の対象としている小笠原諸島での外来種対策についても事例として挙げるべき。
    • 2.(2)[1]の「科学委員会に期待される役割」の記述に関して、ガイドやインタープリターを通じた観光客への普及啓発について記述しているが、それよりも、関係行政機関が、遺産の保全管理の方針や計画を利用者や関係者にわかりやすく示すことが必要であることを記載すべき。
    • 2.(2)[4]の「オーバーユース対策・観光客とのコミュニケーションの強化」の記述に関しては、対策の一つとして木道の整備が取り上げられているが、その前提として整備の必要性・妥当性を判断するための登山道の侵食状況等の調査をしっかり行う必要があることが分かる記述にすべき。

(2)世界自然遺産登録に係る国際的な動向について

  • 吉田委員
    〈世界遺産条約の現状・世界遺産リストのギャップ〉
    • 文化遺産の半分以上がヨーロッパに偏在し、自然遺産はアジア・太平洋地域に多い。こうしたアンバランスを解決するため、1994年にグローバルストラテジー(「世界遺産一覧表における不均衡の是正及び代表性・信頼性の確保のためのグローバルストラテジー」)が採択された。
    • 近年、世界遺産委員会の諮問機関であるIUCN、ICOMOSが登録延期と評価した物件が、世界遺産委員会で覆されて登録される事例が非常に増えている。2011年は諮問機関が登録延期と評価した物件の半数以上が登録された。
    • 危機遺産リストが有効に活用されていない。2012年の世界遺産委員会では、諮問機関が危機遺産リストに記載すべきと勧告した4物件全ての掲載が否決。危機遺産リストは、本来、国際的な協力によって危機的な状況にある遺産を保護するための制度であるが、危機遺産リストへの記載は不名誉なことであると誤解され、リスト記載を拒む国が多い。
    • 世界遺産基金は、本来、危機的な状況にある遺産を救済するための基金であったはずだが、近年、国際協力に用いられる経費の割合は10%にまで減少。70%が諮問機関への委託費であり、その3分の2が登録推薦物件の調査に使用されている。
    • 世界自然遺産を生物地理区やバイオーム(生物群系)に基づいて分類すると、遺産登録件数の地域差が生じていることがわかる。熱帯アジアの森林、ツンドラ、温帯草原、温帯・熱帯荒原には遺産は少ない。保護地域に指定されている世界の海洋面積のうち18%が世界遺産地域に含まれているが、海洋の保護地域は海洋面積全体の2.3%しか指定されていないため、保護地域自体を今後さらに拡大する必要がある。
    • 国内ではクライテリア(viii)(地形・地質)の基準が認められた遺産地域が1つもないため、地形・地質に係る新たな遺産地域、或いは、既存遺産地域のクライテリアの追加を検討することが必要。
    〈世界遺産条約40周年に当たっての提案〉
    • 新規登録は世界遺産委員会での審議の頻度を下げるなどして、危機遺産の救済へ全力を注ぐべき。
    • EUのNature2000やASEAN Heritage Parkのような、世界遺産を補完する地域的・国内的な制度を検討すべき。
    • 世界遺産を中心として、その他の保護地域とコリドーでつなぎ、周辺を里山や海域の景観の中に統合することにより、全体として保護地域や生物多様性の保全を図っていく必要がある。
    • 世界自然遺産も、ユネスコエコパークの考え方を参考にし、遺産地域だけではなく、遺産周辺地域も含めた管理計画を作成すべき。それによって、周辺地域における"持続可能な発展"にも寄与することができる。
  • 米田研究主幹
    〈IUCN戦略ペーパー〉
    • IUCNは、1982年に世界自然遺産としてふさわしい地域として219地域を選定。
    • 1994年のグローバルストラテジーを受け、既存世界自然遺産のギャップ解析を実施。この報告書に基づくIUCN戦略ペーパーが2004年にまとめられ、世界自然遺産は、顕著な普遍的価値(OUV)があることが大原則であり、このOUVは地域間で均等に分布しているものではないため、地域間のバランスは存在し得ないこと、自然遺産の数には限りがある(約300)という考え方を示した。
    • IUCN戦略ペーパーでは、ギャップ解析に基づき、草原、湿地、砂漠、森林、海域に関する20の優先地域を特定。
    • また、他の国際的取組(ユネスコエコパーク、ラムサール条約、ジオパーク等)の活用、既存遺産地域の管理改善等を勧告。さらに、類似の案件が複数登録されることを避けるため、シリアル推薦や国境をまたぐ推薦の推進を勧告。
    〈世界自然遺産の登録評価の最近の傾向〉
    • 遺産の登録に当たっては、OUVの3本柱(1つ以上の登録基準(クライテリア)への合致、完全性、保護担保措置)が最近特に強調されている。
    • 2003年以降10年間12件のIUCNの評価では登録の勧告は44%、新規の推薦例のみだと35%。登録勧告の割合に増減の傾向やクライテリアによる差は特に認められなかったが、クライテリア(vii)については2007年以降、登録勧告の割合が増えたようである。
    • 2010年以降、IUCNの勧告と世界遺産委員会の決議の違いが顕著になってきている。
    〈IUCNからみた世界自然遺産の今後の課題〉
    • 長期的保全と効果的な管理が重要。
    • ギャップを改善し、重要な生態系・景観を保護することが重要。現在、海域のギャップ解析が進められている。

〔質疑〕

  • Udvardyの生物地理区分は、時代遅れになっていると考えるが、世界遺産の評価において、今後も影響力を持ち続けるのか。
  • (米田研究主幹)動物地理区分と植物地理区分を統合したものが、Udvardyの生物地理区分であり、比較のためのツールである。IUCNは、戦略ペーパーの中で、今後も使用する価値はあると言っているが、推薦書は、Udvardyに縛られる必要はない。
  • Udvardyの生物地理区分は、正確性に欠けるため、目安であるとしても、問題が生じることを懸念。
  • IUCNは、生物学者が多く、地形・地質分野の専門家が少ない。このため、地形・地質で推薦しても価値が認められない傾向がある。評価機関をIUCN以外に広げるという議論はないのか。
  • (米田研究主幹)IUCNには地質・地形分野の専門家もいるが、外部評価でもこの分野が弱いことが指摘されており、IUCNでは地形・地質分野の他の国際機関との連携を進めていると聞いている。
  • IUCNの評価に当たっての、保全体制や完全性に関するハードルがあがっていると感じるが、IUCNの勧告が世界遺産委員会で覆されるようになったことは、関係があるのか。
  • (吉田委員)IUCN等諮問機関は推薦地域を正確に評価しようとしているが、一方で、遺産の地域間のバランスが悪いという課題も存在。そのため、遺産地域の少ない開発途上国やアラブ諸国等に対しても評価を厳しくするとそのバランスがさらに悪くなるという判断を世界遺産委員会が行い、諮問機関の勧告が覆されている。
  • 世界遺産基金から国際協力に回される額の割合が低いが、世界遺産基金は、制度上、国際協力以外にも使用できることになっているのか。
  • (吉田委員)途上国への遺産登録に関する支援も行われている。この経費は、国際協力には分類されていないため、資料中のグラフの国際協力の額には含まれていない。

(3)世界自然遺産と関連する国際的な地域制度について(ユネスコエコパーク、世界ジオパーク)について

  • 浅井国際協力政策室長:ユネスコエコパークについての説明
    • 1976年にユネスコが開始した制度で、生態系の保全と持続可能な利活用の調和が目的。
    • 保存機能、経済と社会の発展、学術的研究支援の3つの機能を持ち、この3つの機能を達成するために、核心地域、緩衝地域、移行地域の3つの区分を設定。移行地域を設定していることが、世界遺産とは大きく異なる。
    • 2012年に宮崎県綾地域が登録され、現在は国内に5箇所。
    • 当初、保存機能と学術的研究支援の2つが重視されていたが、セビリア戦略により移行地域の重要性が唱えられた。このため、我が国の1980年登録の4カ所のユネスコエコパークには、移行地域が設定されていないが、2012年に登録された綾ユネスコエコパークは移行地域を含む。
    • いくつかの地方自治体は、地域振興策として、ユネスコエコパークに注目している。
  • 小泉委員・渡辺企画グループ長:ジオパークについての説明
    • ジオパークは、地質だけではなく、地形や歴史遺跡のような文化的な景観や特異な地形・地質の上成立した生態系も含む。島原半島ジオパークでは、雲仙の棚田も評価された。
    • ジオパークは、2001年にユネスコが支援するプロジェクトに位置づけられ、ヨーロッパ、中国が先行。日本では、2008年に日本ジオパーク委員会が発足。
    • ジオパークは、地形・地質や特異な生態系を保全するとともに、それを研究や教育に活かし、さらには、ツーリズムを通じて地域の持続的な発展に寄与することが目的。そのため、優れた自然があるだけではなく、地域の地形・地質や生態について解説できる、研究者の存在が必要。
    • 日本列島は古生代、中生代の地質が多く、ジオパークとなりうる可能性をもつ場所が多く存在。
    • 最近の登録審査では、国際的ネットワークへの貢献や持続可能な発展の取組等が重視されている。
    • 今年から審査が厳しくなった模様で、今年、日本から推薦したものでは初めて、隠岐ジオパークの世界ジオパークへの登録が留保となった。
  • 環境省:ユネスコエコパーク及びジオパーク等に係る国立公園の取組
    • ユネスコエコパークには生物多様性上重要な地域等が含まれており、国内では国立公園と重なる地域が多く、国立公園の適切な保護管理を通じて、コアエリアを中心にユネスコエコパークの価値の保全が図られている。
    • ラムサール条約湿地については、国立公園や国指定鳥獣保護区等を保護担保措置として、国内で、現在46ヶ所が登録。
    • ジオパークは、重要な地形・地質についても評価し指定する国立公園と重なることが多い。日本ジオパーク25箇所のうち16箇所(世界ジオパーク5箇所のうち4箇所)が国立公園、5箇所(同1箇所)が国定公園と重複しており、環境省では、全国の国立公園において、ジオパークを支援する取組を進めている。
    • 例えば、島原半島ジオパークでは、地形・地質が存在する地域(ジオサイト)を国立公園の特別保護地区や特別地域として保全するとともに、ビジターセンターや標識の整備、火山や地質をテーマにした環境学習会等を開催している。
    • また、環境省の職員である雲仙自然保護官が島原半島ジオパーク推進協議会顧問、同幹事会幹事として、島原半島ジオパーク基本計画の策定やジオパーク運営等に参加している。自然保護官は、世界ジオパークの審査対応にも参加して国立公園制度について説明し、審査ではこうした国との連携体制が評価された。
  • 林野庁:ユネスコエコパーク及びジオパークに係る国有林野の取組
    • 国有林野事業では公益重視の管理経営を推進しており、個々の国有林野を重視すべき機能に応じて、自然維持タイプ、森林空間利用タイプ、山地災害防止タイプなど5タイプに設定。
    • 国有林において大正4年に発足した「保護林制度」は、ユネスコエコパークやジオパークの維持・管理を担保する制度として活用されている。平成24年4月1日現在、全国843カ所91万5千haを設定。国有林野面積の12%を占める。
    • 「保護林」を中心に野生動植物の生息・生育地を結ぶネットワークを形成する「緑の回廊」の取組を実施。平成24年4月1日現在、全国24箇所59万2千haを設定。
    • 綾ユネスコエコパークの地域では、九州森林管理局が、宮崎県、綾町、(一財)日本自然保護協会、「てるはの森の会」と協働し、日本最大規模の原生的な照葉樹林を保護するとともに、照葉樹林を分断する人工林や二次林を復元すること等を目的とする「綾の照葉樹林プロジェクト」に平成16年から取り組んできたところ。
    • 綾の照葉樹林プロジェクトでは、「保護エリア」、「復元エリア」、「持続的利用エリア」の3つに区分。「保護エリア」では、原生的な照葉樹林を対象とした「森林生態系保護地域」等の保護林を設定。「復元エリア」では、針葉樹の抜き伐りや天然更新により照葉樹林の復元を実施。「持続的利用エリア」では、森林環境教育や森林セラピーへの活用、除間伐による持続的な林産物の供給を実施。

〔質疑〕

  • 世界ジオパークについて、世界自然遺産との関係は議論されているのか。
  • (渡辺企画グループ長)これまで特に議論されていない。
  • (堀尾ユネスコ協力官)今秋開催されたユネスコ執行委員会において、ジオパークもユネスコの正式プログラムにしてはどうか、という議論がされた。正式プログラムとする場合の問題点について、検討がなされている。
  • ユネスコエコパークは1980年から今年まで新規登録が無かったが、今後、各省庁においてどのように対応をしていく考えか。
  • (浅井室長)ユネスコエコパークは、持続可能な発展の取組が重要視される制度であり、この取組には地域が深く関わってくる。そのため、地域の意向や自発的な取組が重要。地域から登録の意向が示されれば、対応していく考え。
  • (亀澤課長、大沼課長補佐)地域の要望に応じて検討し、可能な協力を行っていく考え。
  • 世界自然遺産やユネスコエコパーク、ジオパークの登録の際には、長期的なエコツーリズムの視点、科学的な知見を取入れることが必要。また、利用と保全の調整を図るには、知床の「適正利用・エコツーリズム検討会議」のように、様々な関係者が参加し話し合う場が必要であり、登録前からこうした場を作り、準備をすることが必要。
  • また、地域へ利益が還元される仕組み作りについては、登録後に進めることは難しいため、登録の際に取組が評価されるようにすることが必要。

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