自然環境・生物多様性

新たな世界自然遺産候補地の考え方に係る懇談会 | 第3回議事録

平成24年10月23日

  • 環境省(芹澤) それでは、定刻となりましたので、ただいまより平成24年度第3回新たな世界自然遺産候補地の考え方に係る懇談会を開催させていただきます。
    私は、本日の進行を担当いたします環境省自然環境局自然環境計画課の芹澤と申します。どうぞ宜しくお願いいたします。
    なお、取材によるカメラ撮影については冒頭のみとさせていただきます。議事に入りましたら取材のための撮影はご遠慮ください。
    初めに、本懇談会の事務局を務めます環境省及び林野庁からご挨拶申し上げます。
    まず、環境省大臣官房審議官よりご挨拶いたします。星野審議官お願いいたします。
  • 環境省(星野) おはようございます。お忙しい中、お集りいただきましてありがとうございます。
    新たな世界自然遺産候補地の考え方に係る懇談会、今回3回目でございます。屋久島の保全管理状況と課題について、北海道大学の立澤先生、それから鹿児島県庁から則久課長に来ていただきまして、ご説明をいただくことにしております。その後、知床、白神山地、小笠原諸島、屋久島の各地域からお伺いした話を踏まえまして、保全管理の状況、課題についての検討のたたき台の資料を用意いたしましたので、ご議論をいただければと思います。宜しくお願いいたします。
  • 環境省(芹澤) 引き続きまして、林野庁からのご挨拶でございます。篠田次長よりご挨拶いたします。篠田次長、お願いします。
  • 林野庁(篠田) おはようございます。次長の篠田でございます。
    今日は大きく2つ議題が用意されていると承知をいたしております。1点目が屋久島のお話でございますが、今日、鹿児島県の方から色々お話を伺えるということでございます。ご案内のとおり、屋久島は森林が評価されて指定をされているんだと思いますし、96%が国有林野ということで、私どもも非常に関係が深い場所でございます。100年近く前に、既に、学術参考保護林の指定をしてまいりましたし、平成4年には、それを再編・拡充いたしまして屋久島森林生態系保護地域を設定しています。今後どういう形で保全をし、また、一般の方々にどういうふうな形で利用していただくかということが課題でございますので、今日はいろいろ忌憚のないご意見を期待いたしておるところでございます。
    2点目の今後の保全管理あり方と申しますか、どうするかというところ、今までも熱心にご検討いただきましたので、今日の屋久島のご検討を踏まえまして、また、方向性ということでご議論をいただければ大変ありがたいと考えているところでございます。
    簡単でございますが、そういうことで、本日もまた宜しくお願いいたしたいと思います。どうぞ宜しくお願いいたします。
  • 環境省(芹澤) 本日は7名の委員の皆様にご出席いただいております。ご紹介させていただきます。お手元の資料3枚目、座席表をご覧ください。
    まず、座長の岩槻委員。
    大河内委員。
    太田委員。
    小泉委員。
    橋本委員。
    吉田委員。
    本日は敷田委員、中静委員がご都合により欠席とのご連絡をいただいております。
    また、本日はゲストスピーカーとして、屋久島世界遺産地域科学委員会及び屋久島世界遺産地域連絡会議からご出席いただいておりますので、ご紹介させていただきます。
    座席奥のほうから、屋久島世界遺産地域科学委員会、立澤委員。
    鹿児島県環境林務部自然保護課、則久課長。
    次に、環境省、林野庁の出席者もあわせてご紹介させていただきます。
    初めに、環境省から、先ほどご挨拶させていただきました星野審議官でございます。
    亀澤自然環境計画課長でございます。
    桂川国立公園課長でございます。
    次に、林野庁からの出席者をご紹介いたします。
    先ほどご挨拶させていただきました篠田林野庁次長でございます。
    徳丸研究・保全課長でございます。
    川端経営企画課長でございます。
    また、今回は関係する省庁といたしまして農林水産省からもご出席いただいております。
    それでは、議事の進行を岩槻座長にお願いしたいと思います。
    カメラ撮影につきましては、ここまでとなりますので、これ以降の撮影はお控えください。
    では、岩槻座長、お願いいたします。
  • 岩槻座長 それでは、お配りいただいています懇談会の議事次第の3番目までが終わりましたので、4番目の議事を進めさせていただきたいと思います。
    初めに、資料についてのご説明をお願いします。
  • 環境省(芹澤) それでは、お配りした資料の確認をさせていただきます。資料はクリップ留めになっておりますが、クリップを外していただいたほうが資料を確認しやすいかと思います。
    それでは初めに議事次第、こちらは1枚ぺらになっております。次に資料一覧、座席表、委員名簿、出席者名簿と続いております。こちらはすべてA4、1枚の資料になっております。続いて「屋久島世界自然遺産地域の現状と課題」と記載されております資料が資料1になります。次に、資料1参考[1]、A4、2枚がホチキス留めになっております。次に、鹿児島県の説明資料としまして、こちらもホチキス留めになっております資料2でございます。続いて論点整理(素案)が資料3になっております。続いて資料3参考[1]、A3の資料がホチキス留めになっております。続いて、こちらもA3の資料、ホチキス留めになっておりまして、資料3参考[2]となっております。続いて英文の資料があります。こちらは参考資料1でございます。続いて第2回懇談会の概要が参考資料2となっております。最後に、資料番号を振ってございませんが、「世界自然遺産候補地に関する検討会について」という表題がついております。こちらはホチキス留めになっている資料でございます。以上がすべての資料になりますが、不足している資料がございましたら、お申し出いただきますようお願いいたします。よろしいでしょうか。
    では、座長、お願いします。
  • 岩槻座長 それでは、早速議事の1番目、日本の世界自然遺産地域のうち屋久島の保全管理の状況及び課題についてということで、これまで既存の3つの世界自然遺産についてはご報告いただいたのですけれども、残っております屋久島、今日は北海道からと鹿児島県からとゲストスピーカーにお見えいただいております。最初に資料2に基づいて屋久島の地域連絡会議のご報告を、鹿児島県の自然保護課の則久課長から宜しくお願いいたします。
  • 則久課長 では、説明させていただきます。
    屋久島は世界遺産登録されて来年の12月で20年を迎えます。この関係で、20年間何があったのかという形でご説明をさせていただこうかと思っております。
    最初に自分のこととかいろいろ紹介させていただきますと、ご存じの方も多いと思いますが、私は今、鹿児島県で課長をさせていただいておりますけれども、もともと環境省から出向でお世話になっておりまして、去年の7月までは北海道の釧路で知床の世界遺産の管理を3年間やっておりました。今、立場を変えて鹿児島県で、この屋久島のほうに関わっております。
    それから、もう1つ、鹿児島県の場合は、20年目を迎える屋久島をどう管理していくのかという問題と同時に、次の候補地である奄美・琉球諸島、特に奄美群島を抱えておりまして、こちらの世界遺産登録に向けていろいろ努力をしていかないといけないという状況で、屋久島と奄美群島が世界遺産絡みで県の中で大きな政策の課題となっております。
    今からご説明をいたします。
    まずは屋久島の概況ですが、人口が1万3640名あたり、これは年によって減ったり増えたりなんですが、ここ20年間はずっと現状維持でございます。面積が504m2あたりですが、うち世界遺産が107m2ぐらいですので、島の大体20%が世界遺産となっております。このうちの96%が国有林であるということです。
    世界遺産の区域は、ご存じだと思いますけれども、この緑色を塗った部分です。西側の西部林道と言われていますが、この西部地域の海岸線からずっと山の頂上にかける斜面と、奥岳と言われる山々が世界遺産区域となっております。その周辺のピンク色の部分が国立公園の区域、さらにその周辺のオレンジ色がかかった部分が国有林となっております。
    世界遺産登録以前からの色々な経緯を簡単にご説明いたしたいと思います。地域の動きを左側で国の動きを右側に「えいやっ」で整理をしてみました。平成2年に鹿児島県総合計画の中の戦略的プロジェクトの幾つかのプロジェクトの中で、屋久島をどうやって地域振興していくのかということが大きな検討課題となってまいりました。この中で有識者の方々で組織する専門家の会合の屋久島環境文化懇談会と、地域住民の方々で組織する環境文化研究会の2つの会議が同時に動きまして、いろいろ議論を積み重ねてくる中で、県では平成4年に環境文化村構想を策定しております。これは後ほどまた詳しくご説明しますが、当時はバブル全盛のころでございまして、日本全体が非常に経済的にイケイケドンドンだったときに、屋久島の自然に根差した地域の方々の暮らしぶりの中に、これからの将来のモデルになるものがあるんじゃないか。そこに着目した地域づくりをやっていこうということで、「環境文化」という言葉をキーワードに施策の展開をしようとしてきております。このときの第1回目の懇談会の中で、屋久島の森は余りにも素晴らしいので、世界遺産登録を目指してはどうかということが、この中の委員から提案されます。ただ、その当時、日本政府は世界遺産条約にまだ加盟をしておりませんでした。この懇談会の委員は、元国土庁次官の下河辺さんを筆頭に、哲学者の梅原猛さんとかノーベル賞の福井謙一さんとか、この間亡くなりました上山春平さんとか、そういった名立たるメンバーの方々で構成されておりまして、その方々と鹿児島県、地元の町が外務省、関係省庁に、世界遺産条約にまず入ってくださいという要望から始めたというのが経緯としてございます。これが、いろんな経緯もございまして、条約が批准されまして、世界遺産第1号として屋久島が選ばれたという経緯になっております。この間、地元では、世界遺産後にしっかり山を管理しましょうということで、山岳部利用対策協議会が発足するとか、地元の町が環境基本条例を創るという動きも出てきておりますし、一方、国では地域連絡会議が平成7年に発足してきております。
    その後の経緯でいきますと、地元の動きでいきますと、平成19年に両町が合併いたしますが、その前の平成14年に、上屋久町、屋久町と2つ町があったんですけれども、ここが地域連絡会議の構成員となります。右側を見ていただきますと、平成9年にIUCNがフォローアップの調査に来ているのですが、そのときに地域連絡会議が国と県だけで組織されているのはおかしいから、地元の町も入れなさいという指摘、それから、国立公園の区域が不十分なので拡張しなさいという指摘を受けておりました。これに対応したのが平成14年となっておりまして、その後、平成19年にこの両町が合併をし、20年、21年ぐらいから急激にいろいろな取組が始まってまいります。後でまた資料をごらんいただきますけれども、19年、20年は観光客が急増し始めた時期です。さすがにそれに対して何らかをしなきゃいけないという機運があったのと、ひょっとすると町が合併したということが、いろんな対策をやる上では有利に働いたのかもしれません。
    主要課題は、大きく分けますとこの2点かなと思っておりますが、特に縄文杉に代表される山岳部の利用集中の深刻化にどう対応していくのか。遺産登録時の登山者数は1万人です。当時少しずつお客さんが増えてきていた傾向はあったのですが、どなたに聞いても、まさか10万人が山に行くようになるとは思わなかったとおっしゃいます。これに対しては山岳部利用対策協議会、あるいはエコツーリズム推進協議会でいろんな対策を講じてきております。
    一方、右側です。詳しくはまた後ほど立澤先生からお話しがあるかと思いますが、ヤクシカによる生態系被害の関係で、これも世界遺産登録時は余り注目されておりませんでした。その後、レッドリストの改訂などで矢原先生がお気づきになられて、科学委員会にヤクシカのワーキングが設置されていろいろな対策が進みつつございます。
    屋久島世界遺産の管理遺産の組織ですが、左側に環境省、林野庁、文化庁、鹿児島県、屋久島町と並べておりますが、それぞれの現在の機関を書いております。国のほうは詳しくわからないのですけれども、県の方としては関係するものに職員がどれぐらい関わっているかを書きますと、これぐらいの人数になっております。町は2つの課が関わっておりますのと、県と町で出資をしてつくりました屋久島環境文化財団がございます。ここに22名のスタッフがいますが、そのうちの11名は行政から出向いたしまして、先ほど言いました環境文化村構想の推進ということで、現地での普及啓発、環境学習に携わっております。平成7年に世界遺産地域の管理計画が策定されますが、当初は3省庁(当時は3庁)の策定でございました。今年10月に決定しました管理計画では、県と町も管理計画の策定主体に加わるというふうになってきております。
    一方、今回、地域連絡会議ということで発表の機会をいただいておりますけれども、関係行政機関の連絡・調整の場としての地域連絡会議が、平成7年に発足しております。屋久島町が平成14年から後れて構成員となったということですが、もともとは平成7年の発足当時から、役場を入れようという議論はあったようですけれども、白神山地と横並びで市町村は入れられないという霞が関からの意向で、町をこの地域連絡会に入れることを拒否されて、オブザーバーという扱いでずっと参加をされていたそうです。科学委員会は平成21年に発足をし、22年にはヤクシカのワーキングができております。この地域連絡会議には民間の団体は入っておりません。下に書いておりますが、色々な協議会がございまして、色々なテーマで地域の方々の合意形成なり情報共有をする場は別途ございます。
    地域連絡会議を比較してみますと、屋久島は「関係行政機関の連絡調整」ということですが、知床と小笠原諸島は「関係機関の連絡調整」となっておりまして、民間の方が非常にたくさん入ってきております。科学委員会による科学的助言を管理者が受けて、その受けた助言を地域に翻訳して、地域の方々と情報共有するのが地域連絡会議の場だと、知床のときはそう考えていたのですが、屋久島の場合は、地域連絡会議は地域の方々と対話をする場とはなっていなくて、基本的に県も町も管理計画の策定主体に加わりましたので、現在は管理主体の事務局会議でしかなくなっているというのが1つの課題と思っております。
    これは民間の団体がたくさん入った利用関係の協議会の名簿でございます。
    県が今何をやってきたかということでございますが、多少乱暴ですけれども、大きく整理をしますと、この3つの柱で、県としての一丁目一番地は環境文化村構想推進という真ん中の部分ですが、まずは県と町で環境文化財団を設立しました。職員を派遣し、拠点となる施設を整備・運営しながら環境教育のプログラムをいろいろ展開してきているという形です。これで、恐らくこの20年間ぐらいで累計100億円ぐらいの予算がここに入ってきているかと思います。
    左側、各種事業・調査等につきましては、観光施設の整備で登山道とか公衆トイレなど累計しますと、20年間で14億円ぐらい入っていたかと思います。特定鳥獣のモニタリングと評価・特定鳥獣保護管理計画検討会開催で、ヤクシカ対策です。現在、県では捕獲は行っておりませんが、特定鳥獣保護管理計画を策定しまして、全体に対してモニタリングをしながら、色んな調整を図っていくという立場かなと思っております。山岳部利用対策では、縄文杉の混雑のときの利用指導を一部事業として行っております。
    右側は各種会議への参画で、地域連絡会議もそうでございますけれども、山岳部利用対策協議会につきましては屋久島事務所が事務局になっております。これもかつては自然保護課長が、この協議会の会長でございましたが、数年前に地元で意見があって、こういうことは地域主導で議論していくべきだということで、町長に会長の座がかわりまして、事務局を県の出先である事務所が担うという運営になってきております。
    こういった色々な取組を行ってきておりますが、ここから利用の話に入っていきたいと思います。屋久島の入山者数の推移でございます。赤い三角の印があるところが縄文杉です。平成12年には3万人余りだったのが、ピークのころは9万人から、今8万人ぐらいにまで増えてきている。10年間で大体3倍になっております。山岳地域全体を合わせても遺産登録のころは推定1万人と言われておりましたので、大体8倍とか10倍に増えてきていると言えると思います。
    急速に利用集中が進行したのも特徴で、1日300人以上入る日は3%足らずだったのですが、それが、こちらでごらんいただきますように、2008年にはそういう日が40%ぐらいまで増えてきております。平成19年、20年ぐらいから何とかしなきゃというのが地元の機運として出てきたということでございます。
    これは入島者数全体の変化と、下の棒グラフは入島者数に占める山岳部の利用者の変化です。このラインが縄文杉の登山者ですが、平成19年、20年は地元の高速船が2社で安売り競争をしていたころで、このころに一時的にどんと増えるのですが、大体30万人前半でずっと利用者は固定しているかと思いますけれども、年々登山者の割合が高まってきている。つまり、観光客の目的地として、屋久島でなくて縄文杉を目的とする人が、恐らく今半分を超えているのではないかという状況になりつつあります。
    これに対して何もしてきていないわけではなくて、協議会におきまして、トイレの整備とかマイカー規制、あるいは、山のトイレのし尿を当時は埋却処分をしていたのですが、色々問題があって搬出をする。それに経費がかかるから募金を徴収する。さらに言うと持ち帰ってもらおうということで携帯トイレもやるということで、色んなことをやってきております。悩みながら色んなことを真剣に取り組んできているわけですが、基本的には不特定多数の利用を想定した対策でございます。
    一方、後ほどご説明しますけど、環境キップ構想といって環境文化村構想を立てたときから利用調整のアイデアは出ておりました。これについては地元の反対があってなかなか導入できないまま、対策は限界に来ていた中で、屋久島町でエコツーリズム推進協議会を新たに立ち上げまして、条例による人数制限を議論したけれども、これは残念ながら町議会で否決をされたという経緯になっております。
    これはいろいろな施設整備の例でございますが、昔の縄文杉の登山道は、普通の地道(ぢみち)だったそうです。ここをたくさんの人が通ることによって荒れて、浸食されて水道(みずみち)になって、自然に自己崩壊を始めていた。そこに対して環境保全の観点で、こういう施設を入れて、結果、ある意味歩き易くなったんですね。トイレの問題もあって、その辺にされるより、ちゃんとトイレがあったほうがいいということで整備をしたということなんですが、これが結果的に、それまでの縄文杉のコースは非常に歩きにくいぬかるむ道を泥だらけになりながら、片道4~5時間歩いていって、トイレに用を足したいときはその辺の茂みに行ってしゃがむしかなかった、という利用環境だったものが、きちんとした歩道ができてトイレもあるということになると、まさに若い「山ガール」の方が簡単に行ける場所になってしまったということで、こういった施設整備だけで対応してきたことが、今日の事態を招いたんじゃないかということも指摘されております。
    それからマイカー規制は、大渋滞だったのでシャトルバスの運行なども行ってきております。これもバスにした方が入り込みが増え易い。バスは増発が何便でもされていますので、それまで大渋滞だったので行くのを避けていた人も、バスに乗れば行けるということで、これも環境保全対策に見えながら、実は収容力を増やす結果ももたらしたのではないかとも言われております。
    それから、搬出です。こうやって人が担いで降ろしてきている。これは募金で賄っておりますが、実はなかなか払っていただけません。これも大きな課題と思っております。
    それから、皆さんご関心だと思いますが、利用調整で、屋久島町がエコツーリズム推進に基づく条例案を制定しようとしました。エコツーリズム推進協議会で平成22年の年末に全体構想を承認しまして、それに基づいて条例を制定しようとしたのですが、条例案とするには不具合があるということで、環境省、林野庁の本庁と調整が長引いている間に機運が180度変わりまして、6月、半年経って町議会に出した頃には、否決をされております。島の観光を縄文杉登山に依存している中で、地域経済に大きな影響を与える、島として何億円かの減収になるという数字が出て、数字が独り歩きいたしました。観光協会との合意形成が不十分、周回ルートなど他の整備でやるべきだ。IUCNが現地調査に来たときに、歩道整備で迂回コースをちゃんと造りなさいということを言われております。その後、地元で議論があって、今のルートを増やすべきではないということで1本のままに留めたということがあるのですが、地元としては、周回コースをつくれば、何とかなるんじゃないかということもあったようです。
    ここから社会経済的な面のご報告にいきたいと思いますが、これは下が屋久島です。上が隣の種子島ですが、屋久島は世界遺産登録以降ずっと1万3000人台で人口を維持しております。種子島は人口が20%減ってきている。全国の離島人口全体でも平均13%減ってきておりますので、世界遺産登録後に人口減少が進まなくなったというのが特徴です。
    これは65歳以上の人口構成比ですが、途中までは屋久島、種子島は並行して上昇してきていたのですが、平成7年ぐらいから屋久島の方はだんだん下がってまいりまして、県全体と同じように65歳以上の人口の構成比が変わってきております。ですから、裏返すと若い方の割合が多い。これはIターン組とか色々ありますけれども、屋久島で観光とか経済が成り立つことで、そこに若い方が住んで、20年もたちますと、最初のころ入ってきた方のお子さんたちもここでまた働けるようになりますと、世界遺産が地域経済に与えた効果は非常に大きいんだろうと思っております。
    これは商業の指数で見ますと、上が種子島、下が屋久島ですが、人口減少があることもありますけれども、種子島は全部順調に下がってきているんですね。屋久島は商品の販売額の推移でいきましても、商店数でいっても、従業員の数もずっと横ばい、もしくはやや微増という形になっておりますので、世界遺産になって観光地化したことが島の経済には非常に大きい。且つ、それが縄文杉にかなり依存しておりますので、尚更のこと、そこに対して大きな制限をかけるというのは、地域としてはなかなか受け入れられなくなってきていると思います。
    ガイド数の推移も大きく増加をしてきております。8倍です。その他の観光の手法でいっても、遺産登録前と比べて登録後では非常に大きな数字を示してきております。
    これに対して、柴崎先生がアンケート調査を数年前にとられております。世界遺産登録を地域は望んでいなかったけれども、地元の住民はおおむね好意的に受けとめている。観光客の大幅な増加を望んでいるわけではないけれども、ガイド数はちょっと減らしてもいいんじゃないか。[3]が一番問題なんですが、公的機関に対して世界遺産登録をした後、自然環境の悪化を放置していることで非常に不信感があるということです。それに対して住民が自ら何かをやっていかなきゃいけないんじゃないか、という意識が非常に高いと言われております。
    ここから時間がございませんので急ぎますけれども、これは屋久島の環境文化村構想で、「環境文化」とは何を言っているかという部分を簡単に書いております。お手元の資料にもあるかと思いますので、ご覧ください。環境文化村構想は、基本的に、今で言うと「共生」と「循環」と当たり前に我々は使いますが、当時はこれが新しい理念として、これは梅原猛さんが名付けたそうですけれども、自然と共生する新しい地域づくりを目指すモデルにするということでスタートいたしました。当時としては結構画期的だったようです。これに対して、「保護ゾーン」、「ふれあいゾーン」、「生活文化ゾーン」と島全体を3つのゾーニングに分けましょう。
    それから、環境キップ構想です。これは桂離宮なんかの申し込み制度と同じですが、法令ではないけれども、基本的に利用調整の仕組みで事前予約制度をつくっていくということで、当時から県の方でこれを提案していたんですけれども、施設整備をすれば対応可能なんだ、入山制限は時期がまだ早いと観光協会からは反対がございました。ただ、この当時も、まさか10万人来るとは思わなかったよね、というのがついて参ります。
    この後、シカは立澤先生がまた詳しくご説明があるかと思いますが、今年の3月にシカの保護管理計画の策定をいたしました。県の計画上、こういう6ブロックに分けているのですが、特に高密度地域は小瀬田という地域です。ここに町の牧場があって、そこに餌付いているものが多いです。西部地域は非常に高密度にいる。中央部も少なからずいるということで、こちらの6つの区分に分けながら、それぞれのブロック別に管理をしていきましょうと考えております。平成22年からは国有林でも職員実行で捕獲を始めていただいたことで、捕獲数は随分増えてきております。
    毎年2,600頭ぐらい有害鳥獣駆除、狩猟も含めて捕ってきているわけですが、この捕獲数を島全体でうまくバランスよく分配できれば、県の特定計画のシミュレーションに基づくと、シカの管理は十分可能だということになります。ところが、実際捕られている頭数はどこかといいますと、みんな下の里の部分で、世界遺産になっているのはこの区域ですけれども、そこでは0頭なりほとんど捕れていないということで、保護しなきゃいけないところで捕れていなくて、下の方の農業被害が中心のところでたくさん捕っているという状況になっております。ここの部分でどうやって捕っていくのかが最大の課題です。
    私なりに色々評価をしておりますが、世界遺産登録になって保全管理上の効果がどうかということでいきますと、関係行政機関の連携の強化は○でしょう。環境省と林野庁の連携がよくとれるようになったというのは非常に大きな効果だと思います。山岳部の利用集中については、マイカー規制とか一部進んだ問題もあるけれども、むしろ荒廃は止められなかった。ここに対して、非常に住民の方からの反発があります。観光関係の方はウエルカムですけれども、一般の住民の方は、これを何とかしてくれなかったのかというところで、特に環境省に対しては矢面に立つことが多いかと思います。それから、ヤクシカの対策の推進は始まったばかりなので、まだ評価は早いのかなと思っております。地域経済の発展ということでいきますと、これは◎だと思います。何だかんだ反対されている住民の方も、それによって過疎化が止まったとかいろんな恩恵を受けておりますので、これは評価して良い。一方で、地域固有の文化は、環境文化村構想を目指したわけですが、「環境文化」に根差した地域づくりじゃなくて、世界遺産の観光ブランドに依存した観光振興のほうにシフトしてしまったというところでは、ちょっとどうかなと思うんですが、資料には配付しておりますけれども、環境文化再興の動きもございますので、今後に期待をしたいと思っております。
    後は色々と思ったことをだらだらと書いたのですが、基本的に住民の意見をどうやって聞いていくのかが、屋久島の場合は遺産管理のシステムに内在されていない感じがありまして、世界遺産の科学委員会においても、今、利用の議論が始まってきているのですが、その場で利用のことを議論すること自体に、もう拒否反応がございます。屋久島の方々は結構自負心が強くて、一方で島のことをずっと国から押しつけられてきたという意識も非常に強くございます。ですから、まず自分たちがいろんなことをもう1回思い起こしながら、屋久島の原点を大切にして、自分たちがもっと主体となってやっていくという意識は当然のごとくあるんだけれども、そういったコミュニケーションなり、そういう場を国、県がなかなか持ってくれないというところに対して今後どうしていくのか。ただ、一方で、合意形成をとことんやったとしても、絶対に地域が望むことが100%正しいというわけではございませんので、その辺をどうやっていくのかが大きな課題なのかなと考えております。
    もう1つは、奄美群島のことも考えたときに思っておりますのは、日本の世界遺産区域は余りにも狭いということです。シカの行動圏のほうが世界遺産区域より広かったり、観光ブランドでいっても、屋久島全体が世界遺産だと思っている方も多いように、世界遺産の中だけ守ればいいということでなくて、周辺地域全体をとらえた管理なり計画、プランニングが必要なんだろうと思います。そういった意味では、屋久島はMABのエコパーク(BR)にもなっておりますので、ひょっとしたら、この環境文化村構想がここの「保護ゾーン」、「ふれあいゾーン」、「生活文化ゾーン」と分けたのと同じように、MABは今、コア、バッファしかないのですが、周辺もトランジションという新たなゾーニングを展開し、ここも世界遺産、生態系保護地域とみんな同じようなゾーニングなので、島全体を1つの単位として考えていかないと、エコツーリズムの利用分散の問題も、さっきのシカ対策の問題も解決出来ないだろうと思います。
    今日の話題とは違いますけれども、次の奄美群島を我々は考えた時に、世界遺産になっていろいろな問題が起きてきたときに、奄美群島は、世界遺産になる島は非常に限定的です。ただ、群島全体の方々が世界遺産に期待しているということでいきますと、コア、バッファ、トランジションというところで、与論島でも世界遺産と関連があるんだというストーリーで政策を進めていかないと、県の立場としてはなかなか辛いのかなというところもございまして、まずは屋久島のこういうゾーニングもいろいろ考えていく必要があろうかなと今考えているということで申し上げさせていただきます。
    ちょっと駆け足となりました。パワーポイントはこの倍ぐらいの枚数を用意しておりますので、またお時間があるときにご覧いただければと思います。
    ちょっと時間オーバーしました。失礼しました。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。前回まではここで質問をしてもらったんですけれども、時間の節約ということを考えて、もう1つのシカの話を伺ってから、まとめて質問していただくようにしたいと思います。
    早速ですけど、立澤さんから、宜しくお願いいたします。「屋久島世界自然遺産地域の現状と課題」を、特に「ヤクシカ問題」と「島民参加」について、焦点を当ててお話をいただきます。
  • 立澤科学委員会委員 それでは始めさせていただきます。
    皆さん、こんにちは。北海道大学の立澤と申します。余りに東京が暑くて、ちょっと汗をかきながらになりますが、お見苦しいと思いますけれども、宜しくお願いいたします。
    今、則久課長が屋久島の世界自然遺産に登録された経緯から、こういうまとめを科学委員会でも、まだきちっと整理できていないという問題はあるんですけれども、特に社会的背景を非常にコンパクトにわかりやすくまとめていただきました。科学委員会の座長は九州大学の矢原先生でございまして、私は一委員として、特にヤクシカ担当で本委員会と、ヤクシカのワーキンググループが設置されておりますので、ワーキンググループでいろいろ議論に参加させていただいています。科学委員会の議論全般、もしくは先ほどの則久課長も紹介されたように、現在ヤクシカを含めてモニタリングの項目も3年間でかなり整理されてきまして、さまざまな調査を含めた事業が行われています。先ほどご紹介ありましたようにヤクシカの管理も実践段階に入っています。それをすべてご紹介することはもちろん時間的にできませんので、今日は3つのことに絞って、それでも時間がないかと思いますが、お話ししたいと思います。
    3つといいますのは、副題に「ヤクシカ問題」と「島民参加」についてと書いてありますが、そもそもヤクシカ問題は屋久島の生物多様性をどう維持し守っていくか、保全していくかというところから来ているわけですけど、この2つの問題の前に、生物多様性の把握の現状について、つけ加えさせていただきます。お手元の資料から随分変わってしまい、大分プラスしていますが、ご容赦ください。
    まず、(世界自然遺産としての)屋久島は、この2つのクライテリアで評価されております。自然景観と生態系です。ちょっと修正していますけれども、要は、天然記念物としては屋久杉原始林という名称だったかと思いますが、垂直分布と屋久杉原始林が評価されたとくくってしまってもいいかと思います。この屋久杉をもう少し拡大解釈して、巨木ということで、巨木の原生的な天然林が評価されていると考えて、この2つを意識しながら、今後どんな戦略を取り得るかという議論が、科学委員会が立ち上がった最初のころありましたので、私が記憶、記録している中でざっと整理します。これは必ずしも合意がなされたことではありませんで、単に意見として出てきたものです。特にこの2つのクライテリアを重視して整理したものですけれども、垂直分布を維持するということは、1つは、先ほどの地図にもありましたけれども、特に暖温帯でありながら、北海道と同様の気候特性を持つ高山帯で、亜高山帯とか亜高山帯とは言わないんだとか色んなお話がありますけれども、屋久島の中での高地帯、高標高部と言った方が正しいかもしれませんが、その植生とか景観破壊が課題になっています。これは恐らくシカと登山者との両方の営為が関わっているだろうと。
    もう1つ、科学委員会でいつも議論になるのは、この垂直分布エリアは世界遺産地域の西側、非常に原生的な景観が残っている西部林道という林道が走っている西部地域、低標高部では西部林道、そこからずっと山頂部まで垂直に上がっていくという垂直分布が売りなわけですけれども、そこが利用者、利用ジカ、どちらも非常に多くて、最近、鬱蒼とした森ではなくて、非常に明るくなってきている。ここをどうするんだということで、人に関しては、基本的にはガイドさんたちも含めて、環境省ではガイド講習会もやっておられて、数というよりは質を高めていくという方向でマネジメントが進められつつありますが、シカのほうをどうするかというのが大きな課題になっています。それから、これは科学委員会の中でも一部ですけれども、西側だけでいいのか。屋久島をご存じの方は愛子岳をご存じだと思いますが、愛子岳から東側、屋久島空港のすぐ近くですけれども、非常にきれいな女川が流れておりまして、途中までは天然林がかなり残っているのですが、途中から(植林された)スギ林があって、そこを自然再生すれば東側にも垂直分布帯が出現する。これは潜在的に屋久島が持っている非常に大きな価値であって、これをどうするんだという議論も時々出てきています。
    巨木天然林に関しては、巨木天然林の一番の目玉である屋久杉があちこちで、特に有名な個体名がついている巨木の樹勢がどんどん低下していっています。これは樹木医さんの技術で抑えていますけれども、そもそも寿命だという話が出ている個体もありまして、どうするんだという問題と、それから、巨木と言い換えたのは、ヤクタネゴヨウという屋久島と種子島だけに分布するゴヨウマツの固有種があるからなんですけれども、これが非常に立ち枯れが目立っている。これに関しては非常にスケールの大きな話になりますが、中国大陸からの大気汚染物質が影響して、酸性化して枯死を進めているのではないか。大台ケ原のトウヒと同じような議論がされつつあります。
    それでは3つの話の最初、さっき申しました生物多様性の話に移りたいと思います。
    まず、屋久島の科学委員会が設立される前に2つ大きなストーリーがありまして、1つが、環境省で予算をいただいた通称「矢原プロジェクト」とか「プロジェクトY」と呼んでいますけれども、3年間のプロジェクトがありました。「矢原プロジェクト」としては、草本植物を中心とした生物多様性の実態把握、それから当時もう十分に想像できたキーとしてのヤクシカの実態把握をすることが2つの大きな柱だったわけです。そのときに先ほどのクライテリアとも関係するんですけれども、垂直分布ということですから、環境傾度の中でも特に標高と生物多様性、もしくはヤクシカの分布状況がどんな関係にあるのか。特に生物多様性に関しては絶滅した植物がかなり増えてきているとか、いろんな声が地元で出ていたわけですけれども、その衰退因子で特にここではシカを意識して、それとの関係を探るという2つを自覚しながらプロジェクトが進められました。
    矢原先生からお借りした資料を全部説明すると到底収まり切らないのですが、要は垂直分布を意識して、特に屋久島の中でも、植物の種の多様性の非常に高い南部地域から北に山頂部の1930何mのところまでをずっとトランセクトを引いてシラミ潰しに植物の種数を数えるという調査をされたわけです。そうすると、意外なことに、細かい話は省きますけれども、低地部のほうで種の多様性が非常に高かった。これは、南部にはシカがこの当時少なかったということとも関係しているんですけど、こういう現象がありました。
    その中で、これは屋久島に限ったことではないのですが、非常に希少な、屋久島の中での地域希少種と私達は呼んでいますけれども、それが非常にたくさん見られました。462種のうち232種が4地点以下に限っていて、そのうちの大体50~60種が1カ所でしか見つかっていない。逆に約50種については分布が広くて非常に密度も高い。だから、ちょっと言葉は悪いですけれども、もの凄くのさばっている50種と、非常にピンポイントでしか残っていない数10種が検出されたということが、結果として出てきました。
    これが1地点のみで見つかった種の分布です。これも植物の種数で見ても、希少性という視点で見ても、南部が非常にホットスポット的な役割を果たしていることがわかって、保全の優先順位という議論にもつながっていきました。
    もう1つ重要なのは、低標高部で希少な植物がたくさんあるんですけれども、右に向かって標高が高くなるんですが、少し上がるとカクンと落ちる。ここに空白地帯ができているのですが、そこでシカの採食圧が高そうだ。そこから暫く行くと、この図になるんですけれども、これはシカの食痕が高いところで、希少種の数がガタガタと減って、シダ植物は、通常、本州や北海道でも余りシカは食べませんけれども、屋久島ではなぜかヤクシカが好むシダ植物の種があります。そういうものが消失したり小型化しているということで、これはまだ推測ですけれども、このあたりに多かったシカが、この辺を随分食べ尽くして、増えつつ広がって下に降りて来たのではないかという解釈をしました。
    3年間のプロジェクトでこういう結論を出して、すぐには無理だろうけれども、ヤクシカが要因として希少種の分布の縮小とか絶滅にかなり効いてそうだということで、かなり推測も入っているんですけれども、ヤクシカの個体数管理を本気で官民学一致でやるべきだということを一番強いアピールとして出しました。そのためには、国有林内での捕獲を再開するしかないんじゃないかということも提言しました。科学委員会ではなくて、科学委員会の前段階というとおこがましいですけれども、「矢原プロジェクト」の強いアピールでしたが、これは科学者として、そこまで言うかという批判も随分浴びたところです。
    先ほど科学委員会の前に2つのストーリーがあると言いました。1つが「矢原プロジェクト」でありまして、もう1つは、時間があれば後からご紹介しますけれども、科学委員会に関係なく、予算もなく地元の島民の人たちが、さまざまな科学委員会での議論に役立つ調査をしてデータをとっておられました。それが2つ目のストーリーになります。
    次に、「矢原プロジェクト」の中で、シカの方はどんなことがわかって、どういうことをベースに科学委員会の議論が進んできたかということで、ヤクシカの実態把握と管理体制についてざっとご紹介します。
    まず(重要なのは)、固有亜種であるということと、島嶼個体群であって、捕食者が不在であるということです。例えば北海道のエゾシカと比べた時に、北海道も島といえば島ですけれども、随分面積も違います。北海道は捕食者が、オオカミが最近まで居りましたし、ヒグマもいるということで、シカとひと括りにできない違いがある。屋久島は、先ほど1万何1000人というご紹介がありましたけど、それまでは2万人位居たわけです。人2万、サル2万、シカ2万と言う風ににも言われておりまして、その2万の人たちの、基本タンパク源の1つとしてヤクシカがあったというふうな、地域固有の背景を踏まえた上で議論しないといけないという話を、まず最初にしました。
    ここは飛ばしますけれども、ニホンジカが増えていて、農林業被害と生態系被害が、ご存じのように大変拡大していますという話です。
    固有亜種ということですが、今日お話しする時間はないと思いますが、薩南エリアは、シカに関してある意味ホットスポットであって、日本に自然分布だろうと言われているニホンジカの亜種が、ケラマジカは人為導入がわかっていますので、それ以外に6亜種いるんですけれども、6亜種のうちの屋久島と口永良部島にヤクシカ、種子島と馬毛島にマゲシカ、大隅半島からずっと北側にキュウシュウジカがいるということで、大隅半島の南部にも孤立個体群があって、そこを含めたら直径100㎞ないところで3亜種が分布しているという非常に面白い状況です。
    これらの亜種は小型なのですが、島嶼個体群だからか、もしくは南だから小さいのか、どっちが効いているのかよくわかっていません。
    重要なのは、そういう分布域の非常に広い北のシカと南のシカが、遺伝的には中国にいるニホンジカと同じぐらいに遺伝的距離がある、離れている。だから、恐らく日本列島に入った経緯が違うんだろうと言われているのですが、おもしろいのは、遺伝的な多様性が、北のシカは非常に均質なのに対して、南のシカは相対的に多様なことです。それは1つは島嶼個体群が多いからということになるんですけれども、ニホンジカの種内の多様性の維持ということでいうと、南西の島嶼個体群それぞれを維持しなくちゃいけないということで、それの1つのモデルにも屋久島はなるという議論をしていました。
    ヤクシカの特性という意味で、これはお隣のマゲシカの私のデータですけど、捕食者がずっといない。恐らく島に入ってきたときから自然の捕食者がほとんど居なかったであろうところで、どんな特性を身につけたかというと、出生率と妊娠率、もしくは出生率と死亡率の両方が非常にドラスティックに密度依存で変わるという特徴です。しかもそれらがクロスして、捕食者が居ないのに密度調節が行われる。ただし、平方キロメートル当たり50頭超という非常に高密度で、10年前には、50頭になるまで待っていたらシカは減るのか、でも、そんなにたくさん増えるまで待てないという話をしていたのですが、今はもう日本中で50頭超のところが出てきてしまっていて、この先、日本でそういう自然の密度調節現象が起こるかどうかが非常に注目されます。ヤクシカの場合、平均ではまだまだ低いんですけれども、局所的には100頭を超えるようなところが各所に出てきています。ところが、そういうところでは分散が可能だからだと思うんですけれども、こういう現象は出てきていませんが、もともとは持っているはずだと私は思っています。
    屋久島では、こんな風に随分分布が広がって、且つ人馴れが進んでいます。集落の中に一番警戒心が強いはずのメスジカとか子ジカが出てきて、ゲートボールをやっているおじいちゃんやおばあちゃんの間を縫っていって、その間、ゲートボールが中断することが普通に起こっています。さすがにこれは行き過ぎで、当然、被害額も増え、捕獲数も増えてきました。
    生態系被害のほうも、「矢原プロジェクト」以降、ようやく認識が進んできたんですけれども、なかなかその実態が押さえにくいので、とにかく柵で囲って希少種を緊急避難的に守って、同時にどれくらい回復するかを見てみると、シカを排除した排除柵の外では景観的に何も変わらないし、被度も変わらない、データ的にも変わらないのですが、内側では非常に劇的に被度が高まり、種数も増える。特に固有種とか希少種の保全には、こういう緊急避難的な柵囲いが有効だということで、今、環境省さん、林野庁さんの予算でその柵が維持されているところです。
    実はそういう状況になる前に、1994年、95年、96年あたりに、私や私の仲間がヤクシカのスポットライトセンサスをやっていたんですね。増えてきたという声があるけど、誰も調べていないので調べた。それと同じことを10年後のもう増えたのが明らかな2004年、2005年にやったというのが、このプロジェクトで私のやった仕事です。結果だけ言うと、増えました。これは目撃頭数の生の数なので、色々操作しないといけないんですけれども、林道でも、登山道、山の上の方でも増えました。これは増えてびっくりしたという話ではなくて、どう見ても増えただろう、分布も広がっただろうという地元の人たちの声を私達研究者が数字と絵にしたということです。
    ただ、その増え方がいびつで、これは屋久島ですけど、先ほどの西部エリア、一番厳格に守られているところで爆発的と言っていいぐらいに増えて、中央部はあまりデータがないんですけれども、そんなには増えていなくて、南側はこの当時は全然増えていない。北東部もだんだん増えてきているというふうに、増えつつある北東部、もうとことん増えている西部、増えていない南部という色分けが、ざっくりとできました。非常にざっくりですけど、この認識が科学委員会でも議論のスタートになっています。
    これは2005年で古いデータですけど、(その10年前と較べて)妊娠率が全然変わっていなくて、さっきも言いましたように、まだまだ増えそうで、実際まだまだ増えているということです。
    この結果、どんなことを提言したかというと、先ほどの環境傾度との関係でもあるのですが、標高別に見てみると、500m以下、100mから500mぐらいのところが非常に高密度である。しかも、メスと子供の率が高いという別のデータもあります。ですから、ここが所謂分布中心になっているんだろうということで、ドーナツ帯的な分布中心を持っていて、ここは国有林と民有地の境界部分でもあるんですけれども、そういうところで、いい餌といい休息場所、逃げ込み場所を持って増えて、上と下に広がってきたんだろうという、あくまで仮説ですけれども、この仮説をもとに対策を考えられないかという提言をしました。厄介なことに、私達は高標高部で希少植物がたくさん残っているという想定で調査を始めたのですけれども、植物のほうでも、シカの方でも、高標高部にももちろん(希少種は)あるんですけれども、ホットスポットとしては、むしろ下の方でした。そういうところはシカが増えつつあるところで、南部も実際には増えてきているということで、これは世界遺産の中核部分だけの話ではなくて、島全体を相手にしないといけないということがわかってきました。
    その結果、こういう3分割管理案を出して、それぞれでシミュレーションをして、2007年の時点で、これくらい毎年捕らないと抑え込めないだろうと、ざっくりと推定しました。今はそれから5年たっているので、先ほどの話にあったように2000数百頭捕れば抑えられるかもしれないと、シミュレーションもどんどん進んでいます。
    3つ目の合意形成に関して、これが実は今日一番お話ししたいことだったのですが、先程のような島民の調査が今も続いています。その途中で科学委員会がスタートしたのですが、島のグループの人達がこんな精度の高い調査をされていますということで、科学委員会でも紹介して、先ほどの「矢原プロジェクト」でやった調査は、10年に1回の調査という形で全島を3回数えただけなのですが、この人達は月に1回同じルートで小瀬田と西部で調べていて、(シカが)まだじわじわと増えているのではないかというデータが出たわけです。こういう調査が科学委員会を下支えしているわけです。
    (この「市民調査」の流れとして、)歴史のほうでは、シカと屋久島の人は、もともとどんな暮らしをしていたんだというところに目を向ける人が増えてきました。先ほどもお話しがありましたけれども、屋久島の約8割が国有林です。国有林の中でどこかで伐採されたであろうというのを、林班単位でざっとある資料で塗りつぶすと、こういう黄色のところが伐採履歴がある。だから、原生の島じゃないよね、というとかなり語弊がありますけれども、原生の島というところに依存して、そのイメージだけで実態を知らないことは良くないという反省が、こういう調査をするグループの人達の中で生まれました。
    もう1つ(ヤクシカが増えた理由として)重要なのがシカの捕獲禁止です。1970年ごろからシカが随分減ったので、猟友会からの申し入れでと聞いていますけれども、捕獲禁止になりました。その後は有害捕獲でずっと捕獲がされていたわけですけれども、当時は国有林の中で随分捕っていました。これは94年から96年の捕獲地点を猟友会の人達に聞いて231点落としたら、こういう形で、(低標高部や前岳の)伐採履歴のある若い林班で特に捕っているという傾向がありました。伐採したところはシカが増えますから、そこから増えてはみ出してくるシカを下からたたき上げていたような形だったと私は解釈しています。ということで、これがヤクシカの1つの管理のパターンだったわけですけれども、それが1998年に狩猟事故があって、国有林内で基本的にシカの有害捕獲も行われなくなりました。現在、爆発的にヤクシカが増えたのは、近視眼的には、これが一番はっきりした理由としてあります。
    ここから何が言えるかというと、(今後の)ヤクシカの低密度化に2つの可能性があって、1つは国有林内で捕るしかないでしょう、ということ。2つ目は、照葉樹天然林に戻していくということです。シカは照葉樹の中では分散して生活しますから、低密度化しやすいということです。この2つの、短期の対策と長期の対策を考えていかないといけないだろうという話をしました。こういう議論が、研究者の中からだけ出てきたわけではなくて、島民の人達の活動で得たデータから出てきて、それが科学委員会の立ち上げのときに提示されたということは非常に重要だと思っています。
    ヤクシカに関しては、屋久島の管理に関係する土地の管理の状態は非常に複雑で、形も複雑ですし、何重にも重なっています。これをどう合意形成していくかということと、島民が約1万3000人ここにいるわけですけれど、そのうちの3分の1ぐらいは、昔ヤクシカを食べた記憶を持っている方達ですので、その人達がそこにどうかんでいけるかがこれからの大きな課題だと考えています。
    1つどうしてもご紹介したいのは、屋久島では今はもうシカは捕っていないと思っている人が多いですけれども、かつて江戸時代はカクラ(鹿倉)という呼び方で、一番高い宮之浦岳、永田岳のあたりまで麓からずっとシカを捕獲する縄張りが張られていて、どうやって決めたのかよくわかりませんけれども、これを毎年グループごとに交代していたということで、区域ごとのシカの管理狩猟をしていた可能性が高い。最近のDNAの研究で屋久島はハプロタイプの数が北海道より多そうだという話もあり、こういうちょこっとしたところに逃げ込んだシカそれぞれが、ファウンダー、元の集団になって、それが増えてきたので、かつては非常に数が少なかったとはいえ、遺伝的に多様な状態でヤクシカが残っているんだろうと考えられます。
    こういうふうなことを踏まえて島民アンケートをしました。これも科学委員会としてやったわけではなくて、「矢原プロジェクト」の延長としてやったんですけれども、そうすると、研究者側が誘導したと言われても仕方がない流れもあったんですけれども、被害経験があり、対策を何とかしないといけない、捕獲に関して賛成、という島民が非常に多いということがわかりました。だったら屋久島町が動きましょうかということで、屋久島町が科学委員会が立ち上がる前に、島民が自主的につくった生物多様性保全協議会と同時に、屋久島町野生動物保護管理ミーティングがスタートしました。この管理ミーティングは屋久島町が主催して、関係者に集まってもらって合意形成を図る場としてスタートさせました。生物多様性保全協議会野生動物部会は研究ベースの話で、屋久島町野生動物保護管理ミーティングは行政実務レベルの調整で、この2つが地元であったからこそ、科学委員会が非常にスムーズにスタートしたということがあります。
    今、こういう形で科学委員会がスタートして、いよいよ実践段階に入るわけですが、その段階で幾つか課題が出てきています。
    ヤクシカ管理に関しては、いろんな事業が行われているのですが、全体の調整が非常に大変な状況になっています。モニタリングと実際の(捕獲の)実施を同時に行っているわけですから、仕方がないんですけれども、長期的に何をどうモニタリングして、それの評価をどうするか。そもそも何のためにシカの管理をしているのかということが非常に忘れ去られがちで、シカの捕獲自体が目的ではないということを、いつも科学委員会では確認している状況です。
    合意形成の話に戻って、ここが私が今日一番言いたかったことですけれども、科学委員会がスタートする前に地元で随分準備が整っていた。ボトムアップ式の合意形成のシステムができ上がったところに、データとか人の資産を使って科学委員会が流れ始めたわけですけれども、先ほどの則久課長のお話にもあったように、科学委員会は基本的にトップダウン式の議論になります。その科学委員会や連絡会議に地元の組織が参加していないので、先ほどのような町が準備した、もしくは島民主体で行っているボトムアップの活動と、科学委員会、もしくは連絡会議でやっているトップダウンの議論がかみ合っていない。それは今、非常に大きな体制的な問題だと認識しています。
    あとは、その他のことになりますけれども、今、環境省さんと林野庁さんで1年交代で事務局をされていますけれども、それぞれの事業の調整も随分進んできたんですけれども、世界遺産地域以外も含めた島全体のマネジメントを本気で効率良くやろうとしたら、共同事業化というのは今後外せないのではないかと思います。これは私個人の意見です。
    それから、国有林をどうしましょうか。今捕獲していますけど、屋久島の国有林全体の管理方針に関する議論は全く別のところでされているわけですから、そこには全く島民も科学委員会の委員も余り関与していませんし、情報の共有もできていませんが、島の8割ですから、そこでこれまでシカが増えてきたということもありますから、どうするんだということは、科学委員会外になるかもしれませんが、どこかで議論しないといけないだろう。そのときに野生動物が無主物という簡単な一言で終わるものではないだろうし、地元の人達にとっては資源であるんだから、そういう形での(林産資源としての)マネジメントが今後は必要になるんじゃないかと私は思います。
    今、町が議論から随分外れてきているので、現場がきちんと回らないといけない。それには2つのことが必要で、1つは捕獲が事業ごとにばらばらに行われていて、地元町も、捕獲を担当している猟友会の人達も、どこでどんな捕獲がされているのか、自分達もよくわかっていない。例えば、そういうふうなものを一元化する、窓口を一本化する作業が今後必要になってくるでしょう。
    もう1つは、知床との比較の図を先ほど則久課長が出してくださいましたけれども、構造的には非常に似ている。科学委員会があって、地元に財団があってということですが、知床と屋久島の体制との大きな違いは、そこに(屋久島には)研究者や実務者、特にヤクシカ管理とか生物多様性の管理の実務者がいないということです。屋久島には環境省、林野庁の森林管理署等はありますけれども、総合的に調整するポストがない。これは今後改善していかないといけない点ではないかと思います。
    すみません。33分たってしまいました。結局全部お話しさせていただきました。ありがとうございました。
  • 岩槻座長 大分時間が超過してしまったのですけれども、非常に重要な問題を総括的な問題も、個別の問題も幾つも提起していただいたので、いろんな議論をしないといけないのかもしれませんけど、いろんな議論をしていると、また時間が経ちますので、質疑は割と簡潔にお願いしたいのですけれども。
  • 太田委員 奄美群島との関連も出てくるのですけど、屋久島を拝見していると、島ということで、さっきヤクシカの話も出たのですけど、遺伝的特異性とか隔離の話は、一方で特異な自然を支える1つのベースになっているというのが見え隠れする。その一方で、屋久島への外からのいろんな生き物の持ち込みに対する監視とかチェックの項目を、私は余り聞いたことがないのですね。一方で屋久島はタヌキが増えて、私も西部林道で夜にタヌキと遭遇してぎょっとなってしまったのですけど、ああいうものが入ってきて増えるというのは、生態系にはかなりインパクトがあると思います。それと、もし鹿児島県さんが、今後、奄美群島のほうの管理を自然遺産ということでやろうとすると、そのあたりは屋久島の感覚でやると多分大変なことになるだろうという気がするんですけど、そのあたりについては、どういうふうに考えられていますか。
  • 則久課長 屋久島にはタヌキとキノボリトカゲも見つかったんですかね。
  • 太田委員 はい。空港の近くでね。
  • 則久課長 外来種の問題がいろいろ出てきます。タヌキは地元で問題視する声も多くて、何か取り組まなきゃいけないんじゃないかという話はあるんですけど、今、各種機関、みんなお互いに顔を見つめ合っている状況ですね。
    この話と直接違うんですけど、今、県の生物多様性戦略をつくっていまして、島嶼部が多いのは鹿児島の特徴ですし、ちょうど渡瀬線を挟んで2つの生物地理区の分布があって、その移行帯であるということも考えますと、島に対する外来生物の侵入の管理は、それなりのことを考えていかなければいけないと思っています。これは実際にどれだけできるかわかりませんけれども、そこは場合によっては生物多様性戦略の中で、1つそういう方向性を出すということは考えてみたいと思っていたところです。
    奄美群島のほうにつきましては、島毎の状況と、島の中でも種によっては細かい分布が違うという話も聞いておりますので、この辺についてどうするか、まだ今具体的なアイデアとしてないんですけれども、小笠原諸島でやっているような外から入ってくるのに徹底した管理が奄美群島で可能かというと、それは現実的にはなかなか厳しいので、そこをどうしていくのかというのは課題というところしか、まだお答えができません。
  • 吉田委員 私のほうは則久課長が発表された内容に対してのコメントですけれども、最後の、世界遺産地域中心の議論ではなくてもう少し外側まで含めた管理をすべきであって、MABの生物圏保存地域、ユネスコエコパークとの融合を考えていくというお考えは、私も同じ考えを持っています。そういった面では我が意を得たりというところがあるのですが、一方で、10月1日に発表された屋久島の世界遺産地域の管理計画は、余り外に発表されていないので、環境省のホームページのニュースのところでは見ることができるのですが、屋久島の世界遺産センターのホームページには去年のバージョンしか載っていないし、どこでもなかなか見ることができない。10月2日にも鹿児島でシンポジウムもあったのですけれども、その場でも発表されなかったし、余り自信を持っていらっしゃらないのかなという感じがします。というのは、私はそれを拝見して、前のバージョンをちょっと変えた程度で、確かに立澤さんがお話しされたシカの問題に関しては、世界遺産地域だけじゃなくて全島のことが書いてあったり、登山道に関しては幾つも登山道ごとの計画が書いてあったりという進展は見られるのですけど、全体として世界遺産地域のことしか書いていない。こういった世界遺産地域のことしか管理計画に書かないというやり方は、非常に古い管理計画だと思うんですね。屋久島は登録されたときは最先端だったはずなのに、だんだん何周も後れて、考えてみれば、管理に関して一番びりっけつになってしまっているんじゃないかという感じがします。
    まず1つは、バッファゾーンがないということですね。93年に登録されたころにもオペレーショナル・ガイドラインでバッファゾーンのことは書いてあったんですけれども、はっきり義務的に書いてあったのは、2005年のオペレーショナル・ガイドラインには、つけないんだったら、なぜつけないのかとちゃんと説明しなきゃいけないということになって、さらに2008年には、世界遺産地域の外側につけなきゃいけないというふうにだんだん変わってきているわけですけれども、そういったことに対する対処も全然されていない。
    さらに、私は前回、紙を配ってしまったので、皆さんのお手元にないかと思うんですけれども、92年の段階で第4回世界公園会議があったときに、ユネスコとIUCNがワークショップを開いて、その中では、バッファゾーンだけじゃなくて、その外側の地域、MABでいえばトランジション・ゾーンに当たるところまで、世界遺産管理地域として計画をつくっていくべきだという提言も出されているわけです。そのとき座長をしていたユネスコのイシュワランに最近会ったときに聞きましたけれども、実際そういうことを実現しているところはあるのかと言ったら、そんなに多くはないらしくて、オーストラリアのゴンドワナ雨林とか小笠原諸島とかは、トランジションエリアに相当する広さのところまで計画を作っているわけです。多くはないんですけれども、そういうことをやっていかないとだめなんだと思うんですね。屋久島の場合には、個別個別に縄文杉への集中だとかシカ問題だとかいろいろありますけれども、結局は、本来、世界遺産の前に環境文化村構想ということで、世界遺産地域に当たる部分と、その周辺の国有林の部分、それから一番外側の人が住んでいる部分という3つのゾーニングをした計画は、もうその時に出来ていたわけで、そういったものを下敷きにして管理計画をつくれば、もっと保護と利用を両方考えていくような管理計画ができたはずなので、全然それが採用されていない。むしろ管理計画は、世界遺産地域の中だけに集中するような形で書かれている。95年につくった管理計画をちょっと書きかえていくだけでは、全然話にならないと思うんですね。小笠原諸島は、私は科学委員の一員になっていますけど、管理計画の下にちゃんとアクションプランがあって、そこでどの省庁が、あるいはどの自治体とかどのNPOが、どういうアクションをするということが全部書かれているから、管理計画があるだけじゃなくて、ちゃんとそれが実行計画になっているんですよね。でも、屋久島の場合は、そういったものに全然なっていないということで、私は屋久島の今の管理計画は一番時代後れになってしまっていると思います。
    そういった意味では、狭い細い尾根の上だけになってしまっている世界遺産地域の周辺にバッファゾーンをちゃんと設定すること、島全体をトランジションエリアとするようなMABのBiosphere Reserveの考え方をもっと融合させていく方向性が必要だろうと思います。管理計画を作ったばかりですけれども、是非ともそういう方向にいっていただきたいのですが、環境省や林野庁、あるいは鹿児島県も含めてそういうお考えがあるのかどうか、お聞かせいただければと思います。
  • 則久課長 去年、私が7月に来たときにほとんど固まっていまして、正直、見た瞬間やる気を無くしたというのもあるんですけど、順応的管理なので途中で見直せばいいと思いますし、いろいろあります。ちょうど去年ぐらいから松田先生も入ってこられて、MABのことをいろいろご提案されているんですね。色々お話を聞いていて、最初は皆さんすごく距離を持っていたり、世界遺産というブランドがあるのにエコパークをもう1回再興しなくてもいいではないか、なくなってもいいんじゃないかぐらいな機運もあったんですけど、よくよく考えていくと、基本的に環境文化村構想で目指したものと今のMABも、トランジションというゾーニングができたことによってかなりイコールになってきていますし、現実にシカの問題とか過剰利用というか、利用の分散の話をしたときには島全体で考えていかないといけない。場合によったら口永良部島まで入れないといけないという話になってきております。そうすると、環境文化村構想イコールMAB、それがイコール拡大世界遺産みたいな形での管理の思想で、あの広いイエローストーン国立公園でさえ、周辺地域と一体的に管理するプログラムがあると、前に梶先生からお聞きしましたけれども、基本的に県なら県、国なら国、国有林なら国有林の中だけとか、国立公園なら国立公園の中だけ、そこだけで物事を考えようとされますが、地域から見れば、それは関係ないし、野生動物も関係ないので、基本的にはそれを核にしながらも、影響が及ぶ範囲全体での1つのマネジメントは、いずれ必要になってくる。ただ、それに対して今の体制が追いついていないのが現状だと思います。
  • 岩槻座長 これはもう今日の2つ目の議題に非常に深く関係することですけれども、屋久島の場合は、僕自身も何回もフィールドワークをしていますけれども、科学的な業績は随分積み上がっていたにもかかわらず、科学委員会としてのまとまりはなくて、知床、小笠原諸島で科学委員会と地域連絡会議の調整が非常に上手くいったというので、科学委員会という形式ができたわけですよね。さっきの話を聞いていても、多少そういうところがあるんですけれども、そこの繋ぎが弱いところが今、吉田委員がご指摘になったこととして、結果としては出てきているんじゃないかと思います。そういうことは、また後の議題で話題になるべきことだと思いますので、今のところはそういう段階でとめさせていただいて、他に何か。
  • 橋本委員 観光客の入込数が白神山地とか知床では減っているデータが出ていて、屋久島は増加しているということで、そのときに、屋久島の観光事業者のガイド数が8倍にまで年々増加しているということですけど、このガイドの内容は、基本的には縄文杉に案内するガイドに集中しているんでしょうか。それとも、いろんなアクティビティーをしていて、それでガイドが増えているのか。メニューの多様化が出来ているのかどうかということです。というのは、屋久杉にお客が集中しているから、それに対応するためにガイドが増えているのかどうかを知りたくて。どうでしょうか。
  • 則久課長 データでは持っていないのですが、感覚的に色々聞いている話を総合しますと、集中化と多様化の両方が進んでいると思っています。屋久島の縄文杉じゃない違う魅力を売ろうとして、色々工夫されているガイドさんも一杯出てきていますし、一方で、縄文杉を専業としている方もいらっしゃる。ここに載っていない方が、何十人かまだいらっしゃって、地元に住民票も置いていないし、観光協会にも入っていないガイドさんもいらっしゃると思うので、そういう方々は縄文杉一本で儲けるだけ儲けたら、さって行くという形だと思うのですが、両方が起こっているということが実態だと思います。
  • 橋本委員 集中するのを分散するためには、環境学習プログラムをもっと増やさなきゃいけないと思っていたんですけれども、9ページの下のスライドに環境文化村構想推進の中にそういったプログラムを増やしていくという取組が書かれていたので、そういったプログラムがどれぐらいあるのかなというのが少し興味があったんですけれども、今細かいことは多分分からないと思うので、またわかったら教えていただけたらと思います。ありがとうございました。
  • 大河内委員 コメントです。屋久杉が大分衰退しているという話があったのですけど、小笠原諸島で昔、岩槻先生も関係されていたムニンノボタンの最後の1株があったんですけど、これが有名になりまして、エコツーリズムで最後の1株は枯れました。そのことをみんな島の人は知っているわけですね。その後、別の場所で数本見つかったので、種としては絶滅しなかったのですけど、コアエリアというのは基本的に制限して当然なんです。それがどういうことになるかを、小笠原諸島の人はみんな知っているから、今制限しているわけで、縄文杉が枯れたらみんな分かると思うんですけど、そうならないようにするのが科学委員会の責任で、是非そこは頑張っていただきたいと思います。
  • 岩槻座長 次のことに関係するんですけれども、僕も1つだけ伺っておきたいことがあるんですけれども、環境文化村構想に相当力を入れていらっしゃるみたいでけれども、ここで議論され、あるいは実践されていることの効果が、島に住んでいらっしゃる方全体にどれぐらい浸透しているのか、島外にどれぐらい内容を発信しておられるのか。特に、さっき立澤さんの最後の話のところで、科学委員会で議論するより前に、地域の住民の人がシカの実情について色んなデータを持っておられたという話があったんですけれども、そういうものと結びつけることに何か役割を果たしていらっしゃるのか。そういう具体的なことを、ちょっと伺っておきたいのですけど。
  • 則久課長 資料2の28ページの上に、55番というパワーポイントがありますけれども、環境文化村構想をつくるというのは、屋久島の方々の自然と共生する暮らしぶりの中にいろんなヒントがあるので、それをテーマにして環境学習に使っていくんだということだったのですが、そこをメインに押し立てていくよりも、世界遺産になってお客さんが来るというほうに全体に安易に流れてしまって、その流れを財団と県はとめることが出来なかったというところが正直あるかと思います。地元で色々話を聞いても、環境文化財団は何をやっているかわからないというご批判も率直にあります。巨大な施設があって、子供達はよく学校で研修に行くんだけど、大人は来たことがないということも言われたりしまして、そこは乖離があったのかなという中で、ここ3年ぐらい、初めてそこの関係がかなり良くなってきているのかなと思っています。その下に里のエコツアーとあって、今日はご紹介しませんでしたけど、各集落で、そこの集落の人たちに財団職員がコーディネーターで入って集落の宝探しをしてもらって、その人たちに外部からお客さんを受け入れてエコツアーをやっていただくということで、Iターンで来たガイドさんが中心でなくて、地元の方々自体が地域の価値を見出して案内して、少しはお金も落ちるという仕組みをつくっていきましょう。まだイベント的なものでしかなく、ビジネスにはなっていないのですが、そういうことをやったことで、もう1回屋久島の「環境文化」とは何なのかというところの再興が始まってきていますし、財団の存在意義が初めてわかった。非常にいい財団だねということを支持してくれ始めている。
    それがさらに進んできているのが、29ページの上にあります岳参りという屋久島独特の習慣があるんですけれども、これが各集落でどんどん復活をしてきています。もとは各集落から前岳という山に行く信仰の道があったんですね。登山道が縦横無尽にあったのが、縄文杉への道はもともと森林施業の林業の搬出の道です。ですから、地元の方にとっては信仰の道を行ったら奥岳があって神々の領域なのに、林業用の道を使って、縄文杉という自然資源の利用のための道を通っていって、今それが観光利用の道に変わっているだけなんですね。そこでいろんな問題が起きていることに対して、観光に携わっていない島民の方は、それは岳参りの風習を忘れてしまって、神々の領域ということを忘れてきた自分たちの責任でもあるというところで、もう1回岳参りを復活させて、屋久島の固有の文化をやり、ガイドさんとかIターンで来た観光関係の業界の人もひっくるめてみんなで一緒に岳参りをやることで、奥岳が神聖な領域なんだという文化を、もう1回興していこうという流れが出始めてきていますので、そういった中でいきますと、環境文化財団のこれからの役割はもっとあると思っております。
  • 岩槻座長 また後で議論になるかもしれませんけれども、大分時間が押してしまって、(2)の「世界自然遺産地域における成果と今後求められる保全管理について」という議論を1時間ほどやらせてもらうつもりだったのが、せいぜい30分しかできないということになりますけれども、4回目、5回目への議論のつなぎになると思いますので、この話題に移らせていただきたいと思います。
    今日のプレゼンテーターのお2人も、屋久島は、ある意味では日本の自然遺産の起点になって、日本で20年間も自然遺産が無視されていたのに、日本でも自然遺産の条約に加わりましょうということになったきっかけは屋久島からだったのですから、この議論には是非、お2人にも加わっていただきたいと思います。
    それから、今日の資料の一番最後に平成15年の検討会の報告の結論が参考のためにつけられていますけれども、このときの検討会は、新しい自然遺産の候補を選定するという検討だったんですけれども、今回はそうじゃなくて「考え方に係る懇談会」であって、ですから、それこそ自然遺産の原点に戻って考えるべき会だと理解しています。そういうことを含めて、時間的には非常に厳しかったんですけれども、既存の4つの候補地を一通りお話を伺った上で、事務局のほうで、今日のお話もこうだろうということを含めてまとめていただいているまとめがありますので、それに基づいてご説明を伺ってから議論に入りたいと思いますけれども、宜しくお願いします。
  • 環境省(宮澤) 説明をさせていただきます。資料3をご覧ください。こちらに、これまでご発表、ご議論いただいた内容を、世界遺産における成果と今後求められる保全管理についての論点整理の素案ということで、事務局でたたき台としてまとめさせていただきました。その次に付けております資料3参考[1]ですが、これは、今回ご議論いただくための委員の先生用の手持ち資料として、これまでの議論のポイントをまとめております。本日ご発表いただいたお二方につきましても事前にご協力いただきまして表の中に入れ込んだ形としております。それから、次の資料3参考[2]は今回新しい資料ですけれども、世界遺産に登録された後の保全管理にどれほどの職員数とか管理内容、予算を投入しているかが必要であろうということで、国及び自治体の情報について取りまとめております。これは、今回この内容をご議論いただくということではございませんが、参考資料ということで配らせていただきました。この内容は、網羅的にきちんと取りまとめられているというよりも、事例としてお配りしたものということで、ご参考にしていただければと思います。
    それから、戻りまして資料3、論点整理の素案についてポイントだけお話しさせていただきます。
    委員の先生には事前にお配りしておりましたが、その後、本日ご欠席の敷田委員から主にご意見をいただきまして、その内容を踏まえて修正をしたものとなっております。簡単にポイントだけお話しいたします。
    まず、保全管理上の効果、それから、今後求められる保全管理について、という大きく2つに分けております。まず1ページ目、1番の保全管理上の成果につきましては、行政や民間の垣根を越えて、関係者が連携・協働した保全管理の追求が行われているということ、それから、地域社会を含む多様な主体と深く関係する課題も多い中で、地域の多様な関係機関の連携・協働のもとで科学的な助言を得ながら包括的な取組が進められているということ、それから、取組の進展の結果、希少種の生育・生息状況の改善等々、自然環境保全上の効果も確認されているということ、こういったことが成果として挙げられたというふうにまとめております。
    2番の(1)保全管理の基本的な考え方につきましては、ポイントとして、地域の多様な主体が連携・協働し、各関係者が目指すべき方向性について認識を共有し、積極的に保全管理に関与していくことが重要であるということ、それから、世界遺産の登録が目的ではなくて、登録を契機として、より一層の取組強化が必要であるということ。
    (2)特記すべき事項といたしまして、[1]から[5]までまとめておりますが、まず[1]地域連絡会議につきましては、地域の社会経済に深く関わる課題も多い中で、多様な主体が参画して合意形成を図る場として期待される。
    [2]科学委員会に期待される役割としまして、順応的な保全管理を推進する上での役割の大きさ、また、対外的な情報発信としての機能、それから地域参加型の保全管理を検討していくことも重要であるということも、ポイントとして挙げております。
    [3]自然環境保全に関する事項としまして、まず1つはモニタリングで、順応的に管理するためには、自然環境の状況のモニタリング体制の構築が極めて重要であるということ、もう1つは、世界自然遺産地域だけではなくて周辺も含めた広範囲での保全についての検討が必要であるということ、この2点。
    [4]地域経済への影響に関する事項としまして、観光に関して、世界遺産登録に対して観光客増加という地域経済への効果の期待がございますが、これに対しては、観光客の質やニーズの変化に応える地域側の体制づくりが重要である。また、観光業者を観光関係者と位置づけるだけではなくて、資源管理の重要な基盤的存在と位置づける、そうした中での充実した体制の構築が必要である、ということを挙げております。それから、地域ブランドマネジメントとしまして、世界遺産の持つ価値を維持するために、積極的にブランドマネジメントしていくことが必要であるということ。
    [5]遺産登録による負のインパクトへの対応としまして、これは観光によってオーバーユースとかいった課題がある中で、入域に当たってのルールづくりなど、やみくもな利用を防ぐ管理が必要であるということ。それに際しては、地域内外の多様な関係者が参画した場で、柔軟な議論のもとで対応方針を検討することが必要である。このようなことをポイントとしてまとめさせていただきました。
    これについて今回ご議論をお願いしたいと思います。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。という風に資料を整えて取りまとめていただいているんですけれども、あと2回、懇談会が計画されているわけですけれども、今日は、そこで懇談会の考えをどう詰めていくかという方向を議論していただくということです。
    まず、このまとめはこれでいいかどうか、それを考えるために参考資料を2つ作っていただいていますけれども、これでいいのかどうかということを念頭に置きながら、最後のところで挙げられた遺産登録による負のインパクト、負だけじゃなしに正のインパクトもでしょうけれども、そういうことをこれまでのお話を伺いながら整理をしていただく。それから、非常に個人的なところが入ってくるかもしれませんけれども、私はこれからの世界遺産ということを考えていくのに当たって、世界遺産というのは一体何だろうかという原点に、やっぱり1度は立ち戻らないと次のステップへ進むわけにはいかないんじゃないか。特に今年は世界遺産条約の40年で、日本が参加して20年ということもあるんですけれども、40年という時点でさまざまな当該の世界遺産サイドで起こっていることが、本当に世界遺産の本来の問題意識に沿う形で展開しているのかどうかということを1度振り返っていただいて、そういうものを踏まえた上で、これからの世界遺産に対する対応として、既存の4つ、5つ目はもう既にスケジュールに載っていますから、5つということでいいのかもしれませんけれども、それの充実を第一義とするのか、いろんな地域から、自然遺産ももっと増やしてほしいというご意見も色々あるようですけれども、そういう風に地域を広げていく方が良いのか。両方ともという考え方もあるでしょうけれども、そういうことを念頭に置きながらの議論を進めていただきます。
    今日は実は1つ1つ順番にと思っていたんですけど、余りにもう時間がありませんので、どこからでも良いですし、そういう問題について議論をやっていただければと思いますけれども、いかがでしょうか。
  • 小泉委員 今色々伺っていて、やっぱり原点に戻るのは大事だと思いました。例えば白神山地については前回話を聞いたんですが、世界遺産になったことで、その地域の価値がきちと見直され、今まで認識されていなかった価値がいろいろ分かってきました。それはとても良かったと思います。それから、さっき屋久島の話がありましたけど、地域で岳参りという伝統文化をちゃんと見直してやっていくというようなことが始まっていますから、そういう点は今後に向けてすごくプラスになると思います。ただ、一つ忘れられていることがあると思います。世界遺産というのは、もともと人類にとって素晴らしいものを保存するという話で始まっています。その辺りが日本の場合はかなり忘れられているような気がしますので、そこはもうちょっと意識することが必要だと思います。
    さっき屋久島の場合を伺っていて、いろんな規制をかけようとしたり、環境キップみたいなのを導入しようとしたけれども、反発を受けてなかなか上手くいっていないという話がありました。それは人気があり過ぎてそうなっているのでしょうが、そこまでいってしまうとやはり問題があると思います。何でそうなってしまうのかという分析を、きちっとした方ほうが良いような気がします。屋久島へ行った人の話を聞くと、ガイドと一緒に山に入るのに1人9000円払ったという人がいます。5人だと4万5千円です。ガイドに依るんだと思いますが、これはやはり高すぎると思います。どういう根拠に基づく値段か良く分かりませんけれども、一方にそういうことがあって、一方で環境キップを採り入れようとしたら上手くいかない。それはいろんな意味で問題があると思います。だから、まずはその辺から少し分析をしていただくのが大事なような気がします。
    それから、縄文杉ばかりに行く人が集中しているという話が出てきています。どこでもそういう傾向があると思うんですが、魅力はそこだけじゃなくて、まだたくさんあるわけです。ですから、それをいかに分散させていくか。それはビジターセンターなり何かのところで、こんなのが魅力があるんだとか、そういう発信をどんどんしていく。縄文杉だけじゃなくても屋久島には見るところがいっぱいあるわけですから、それをもっとどんどん出していったほうが私はいいんじゃないかと思います。その2点ぐらいが当面の検討課題じゃないかと思っています。
  • 吉田委員 書かれていないことを幾つか申し上げたいと思います。岩槻先生から、これからの世界遺産、世界遺産とはそもそも何かというところが大事だというお話がありました。そこと、もう1つは、ここには全然書いていないんですけれども、生物多様性条約の愛知目標11で、保護地域の目標に関するものに、この世界遺産がどういうふうに位置づけられるかという視点も非常に重要なんですが、全然書かれていないので、是非加えていただきたいと思います。
    そういうふうに考えると、世界遺産は、やみくもに数を増やせるものではないと思うんです。奄美・琉球諸島は、日本に生物地理区分が5つありますけれども、その4つは既にあるんですけれども、琉球諸島区は1つもありませんので、当然これは世界中のギャップとして、是非推薦すべきものですけれども、それ以外のものとしては、それぞれ世界自然遺産になっていたものが、その他の保護地域のベストプラクティストになるべきである。管理のモデルとなって、他の国立公園とか国定公園とか自然環境保全地域のレベルアップにつながっていくというモデルであるべきだ、フラッグシップという言葉をIUCNは使っておりますけれども、そういう位置づけであるということが非常に重要なことかと思います。
    それと同時に、愛知目標の中には良く連結された保護地域ということで、コネクティビティ、あるいはコリドーだとか、そういった形で島のように独立して孤立した保護地域があるというのではなくて、もちろん島のようなものだと孤立しているんですけれども、逆に外来種は入ってほしくないわけですが、それが何らかの形で保護という意味の連結性ということは非常に重要だと思います。そういう保護地域ネットワークの核になる。最近重要視され、注目されている里山も、単に持続的な農業とか景観というだけじゃなくて、保護地域の外側のトランジションエリア、つまり保護地域の外側にすぐ開発地域があるというのではなくて、その周辺に持続的な利用をしている地域があるという位置づけに持っていくとか、そういった繋がり、ネットワークの核になるものだという位置づけが非常に大事だと思います。
    3点目としては、ここには全然応えなくて良いのかと思うのですけど、全国から、ここも世界遺産にしてほしい、ここも世界遺産にしてほしいというものがあって、それに対して一体どういう風に応えるのかというところだと思うのですけれども、せっかく配ってくださいと言ったので、ご参考までに、この会議をやっている最中にもどんどん色々なものが動いていて、参考資料1はIUCNが10月の初めにユネスコで行われた世界遺産の将来を考えるセッションの中に出したものですけれども、最後のほうの6ページ辺りは9月に韓国の済州島で開かれたところでの世界遺産に対しての決議ですけれども、例えば6ページの4番には、「ALSO REMINDS State Parties to the Convention that there still remain gaps on the World Heritage List」と書いてありますけれども、IUCNはもうこれ以上要りませんよと言っているわけじゃなくて、ギャップは埋めていかなくちゃいけない。生物多様性保全上のギャップとか、生物地理学上のギャップを積極的に埋めていく。加盟国がこれを入れてくださいというのをどんどん入れていくのでは、世界遺産リストは完成しないという状態にはなってきているわけです。そういったことを考えると、各国がばらばらにやっていて良いのかという感じはいたします。例えば公園管理はこれから考えていく中で、アジアの中の暫定リストは、日本の視点で考えたら、これは良いと思うかもしれないけれど、アジア全体で考えたらどうなのかとか、もう少し広い視点で暫定リストを考えていくとか、全部が世界自然遺産に出来るわけじゃないわけですから、例えばASEANでASEAN Heritage Networkがございますけれども、そういうようなアジア版の遺産のネットワークという世界遺産に次ぐランクのネットワークがあれば、全部が世界自然遺産にならなくてもいいわけですので、そういったいろいろな将来検討すべきことはあって、地域から、これもこれもと上がってきたものの別な受けとめ方があるのではないか。そのときに先ほど申し上げたユネスコエコパークとかジオパークとか国立公園との連携をこれから考えていくべきであるというあたりのことは、是非とも入れていただきたいと思います。
  • 太田委員 まず、自然遺産が科学的な根拠に基づいてきちっと価値を評価されて、それが土台になって認定されるべきものであるというのは、ここにも書いてあるんですけれども、資料3参考[1]にも、科学的知見をきっちりベースにして、それを公表しながらコンセンサスをとっていくことの重要性は何カ所か強調されているようですけど、その科学的という言葉が独り歩きして、余り科学的でない話に翻訳されて地元に伝わって、その地元の人たちはそれを何となく信じてというものが割と見受けられるように思うんですね。まずその辺りで、科学的という言葉で、地元が、学者が勝手なことを言っているという風にならないような空気をつくって、正確な情報を発信して、それを分かり易く伝えて理解してもらって、というところがもの凄く大事なんですけど、言うは易くして行うは難しで、沖縄に20年住んでいた経験からすると、人は生まれたときに目の前にあって空気のように周りにあるものは大して重要だと思わないんですね。根拠も余りちゃんとせず、なぜかしらそれは永遠に続くものだというのが無意識のうちに入ってくるんです。私は今、世界遺産に認定されているところでは屋久島しか知らないんですけど、そういう空気が割と重要な部分を認識するのを邪魔しているような気がしてなりません。
    世界自然遺産の原点に返るとするならば、先ほど座長もおっしゃっていたんですけど、科学的には各地それぞれいろいろな知見が出されている。だけど、科学者同士の連絡が悪くて、そういうものがきちっと共有され、さらには発信されるようなベースがないところは、その脈略では大変な問題で、そういうことをもう少しきちっと考えるべきだと思います。
    先ほどの質問に戻るみたいですけど、奄美諸島、あるいは琉球諸島に関しては、群島というよりも島それぞれが1つのかなり遺伝的特化のユニットになって、さっき立澤委員がヤクシカとそれ以外のシカとの間での遺伝的な違いということを重視した話をされましたけど、これは今印刷中の論文からですが、例えば、同じ奄美諸島でも徳之島と奄美大島のイボイモリという保護種がいるんですけど、その間の遺伝的な違いはヤクシカと九州本土のシカの遺伝的な違いの約3倍あるんですね。本来だったら別種と認識されてもいいぐらいのものだけど、そういうものが基本的な隔離のベースを今後も存続させるような形での気の使われ方がしていない。これは琉球諸島も含めて全部そうなんですよ。その辺りは確かに色んな物流の制限を加えることになると、住民生活との関係とか色んな反対意見が出てくると思うんですけど、まずそういうものがあるということをきっちりと公表して、その上で、それを最終的にどこで折り合いをつけるかは、他の要素も考えないといけないんですけど、そういうものを分かり易く説明していく努力は非常に重要だと思います。
  • 大河内委員 私は2つのことを話したいと思います。1つは吉田委員が言ったこととよく似ているんですけど、小笠原諸島をやっていたせいか、世界遺産のイメージは絶海の孤島のようなイメージで、日本の他の場所は何も指定されていないのに、世界遺産だけぽんと孤立していて、本来そうじゃないと思うんですね。それぞれの世界遺産に次ぐ、あるいは場合によっては、完全性で劣るけど内容ではもしかすると勝っているような地域も日本に一杯あると思うんです。そういうもののネットワークの上に世界遺産があって、世界遺産が一番誇るところは、中身もですけど、その管理を一番誇るべきという位置づけが、これは吉田委員も言われていたので同じ意見ですけど、私もそういう風に思います。
    もう1つは科学委員の役割で、これは小笠原諸島でやっていたからそういう風に思うのかもしれませんけど、問題が起こったことに助言をするのは科学委員ではないと私は思っているんですね。科学委員会というのは最先端の知見を有して、一番危機意識を持って、一番問題のことをわかっていて、それについてこういう風にしたらいいと、とにかくAかBのイエスかノーしか普通ではとり得ないところに、両方のグループが満足する、あるいは満足しないけど何とか折り合いをつけるようなCという答えを一生懸命考えて出す。それを科学委員会はやるべきだろうとずっと思っています。ですから、小笠原でも島民の意見が真っ二つに割れるようないろんな問題はあっては、それはすぐには答えは見つからないかもしれないけど、それは科学委員会が、両方が何とか折り合えるようなCという答えを出さなければいけないと思っています。そういうようなことが科学委員会としては大事だと思います。
  • 橋本委員 博物館に勤める者として感じたことは、科学委員会の重要性はこの中で述べられているので良いんですけれども、例えば観光客の方とか地元の方に科学委員会の助言の内容がうまく伝わるためには、そのためのインタープリターが必要ですけど、ガイドやインタープリターの重要性をここの観光のところで書かれていますけど、その人たちに科学的な知識の重要性を伝えるための常駐者が、どこの自然遺産地域にも必要なんじゃないか。具体的に言うと研究者ですけれども、研究者が世界の最先端のことも科学委員会から情報を仕入れて、それをきちんと分かり易く地元の人に伝えるという役割と、地元で地に足を着けて世界遺産地域を専門に研究を続けていく、モニタリングだけじゃなくて、そこから新しい知見を出していくことと両方できる人間が必要なんじゃないかと感じました。医者で言ったら、インタープリターやガイドさんが町のかかりつけ医だとすると、市民病院みたいな中核医療機関が今は世界遺産地域に欠けていて、大学病院である専門委員会が時々やってきて、科学的な助言をしたり集中的に調査をして助言をするときの中核になる市民病院がないのかなという気がしました。
    あと1点ですけど、1回目と2回目の議論を書類で見させていただいて、3回目にも少しあったんですけど、これはここで言って良いのかどうかすごく迷ったんですけど、世界遺産を維持とか運営したり経営するための予算が、議論の中で余り見受けられなかったと感じているので、その辺りをここで扱う問題なのか、扱わない問題なのかも含めて知りたいなと思いました。吉田委員から第1回の参考資料の中で、世界遺産基金の大半は新規登録にしか使われていなくて、危機遺産の問題についてはほとんど予算が投入されていないということがあったり、先ほど則久さんから、屋久島環境文化財団に100億円ぐらいが20年間で投入されているという話はあったんですけど、他の地域はどうなのか、また、新規に登録するとどれぐらいの予算が維持運営に必要なのかは、今後の議論にも、保全計画、管理にも関わってくると思いました。
  • 岩槻座長 一番最後の質問のところは、資料3参考[2]で一部は出ていますし、また議論の中で必要なことがあれば教えていただければと思います。
    時間が来ているのですけれども、ここは12時半までは良いそうなので、もうちょっと延ばさせていただいてよろしいですか。もし次の予定がある方は自由にお立ちいただいたらと思います。
    今の議論の流れで、私も一委員として発言させていただきたいのですけれども、先ほどユネスコが原点という言い方をしたんですけれども、世界遺産条約だけからいいますと、人類の類稀な貴重な遺産を大切に守って、サステイナブルユースに対応させましょうということです。サステイナブルユースは後から出てきた言葉ですけど、今や世界遺産はユネスコの最も大切なツールの1つになっていますよね。そういうことからいいますと、国連だけでなしにユネスコが何で創られたのかという、それが世界遺産のツールにどう活かされているかということまで遡って世界遺産は考えるべきじゃないかと思います。それから言いますと、やっぱり非常に貴重なものが一体何であって、それが人類にどういう知的な便益をもたらせているか、だから、それを大切にしないといけない。これは文化遺産に偏っている部分がなきにしもあらずですけれども、そういう姿勢がやっぱりそこにあると思うんですよね。憲章の前文にもありますように、言葉は正確には覚えていませんけれども、政治や経済だけでは戦争というのはとめられないけれども、人が知的な成熟をすれば、そういうものは防げるというユネスコ自体の思想があって、それが世界遺産を創ることの意味だと思うんです。それを日本の世界遺産を創ろうという動きになった屋久島で環境文化懇談会の人たちが提言された中に、日本の世界遺産は活かされている、その原点がどこかで消えてしまって、国としては保全が非常に大切だから、保全のためには力を入れましょうという、そこだけやっていらっしゃるわけじゃないんですけれども、そこに活動が見えてくることになります。地域は、それによっていかに地域を豊かにするかというところにどうしても偏るのはやむを得ない。やむを得ないだけじゃなくて、それはそれで非常に結構なことだと思うんですけれども、ただ、僕が最後に質問しましたように、屋久島で環境文化村ということを一番最初の立ち上げのときに考えられて、しかも、相当の予算までそれに割いていらっしゃるんですよね。それは、屋久島の世界遺産を保全するときに、最後に則久さんが説明してくださったんですけれども、そこの自然がその地域の文化とどう結びついているかということを、そこで考えようとなさっていたので共生と環境でしたか。
  • 則久課長 循環です。
  • 岩槻座長 そういうテーマを持ち出された。残念ながら、それが十分に活かされていない。世界遺産を維持する上で、本当はそこでそういう問題が十分詰められて、屋久島の世界遺産は日本人の環境、共生という問題にどう展開していけるか、それをどう世界に発信していけるかということになればモデルとしていけると思うんですけれども、屋久島のやり方が悪いと言っているわけじゃなくて、屋久島は非常に良くやっていただいているんですけれども、それにも関わらず、一番基本のところがどこかよそへ忘れられているというのが極めて残念です。このシリーズでずっとお話を伺ってきて、他のところでも色々そういうことが出てくるんだと思うんですけれども、そこのところが大切だと思うんですよね。僕は、新しく創るか、充実させるかという話も、それの原点から考えてみるべきだと思って、今発言された方の中では、新しく創るべきだという意見はなくて、このモデルをという意見の方が多かったんですけれども、考えようによっては、奄美諸島まで含めて白神山地以外は島嶼ですよね。日本は島嶼国だから、島嶼でモデルを全部作れるんだという言い方もできるかもしれませんけど、本当にそれでそのモデルが十分出ているのかどうか。
    もう1つは、地域の方の自然遺産に対する盛り上がりということからいいますと、小笠原諸島はその典型かと思いますけれども、世界遺産に登録することによって、世界遺産の考え方を普及する上では、非常にプラスになる部分がありますよね。だから、そういうプラスのことを考えれば、必ずしも今進んでいるだけで、これで一段落という言い方をするのが良いのかどうかは、ちょっと疑問に思う部分もあるんですけれども、そういうことも含めて、さらにこれから議論になっていけばと思います。
  • 太田委員 モロイ氏が来たのは3年ぐらい前でしたかね。ニュージーランドの世界遺産の推薦委員の人が来て、また、来月来ると言っていますよね。それでお供して琉球列島を少し回ったんですが、その時に散々ディスカッションしたんですけど、奄美群島まで含めて、言葉としては琉球という言葉を使わせてもらいますけど、こちらが強調したのは、生物の多様性について関心のある人はみんな多分同じ感覚を持つと思うんですけど、琉球列島の価値は、全部そろっていて琉球列島の価値で、もの凄く無数に固有生物の中心があって、それがすべて琉球列島そのものの地史との関連を持っていて、全部1パックになって、多様性の1つの集積場としての意味が出てくると言ったんですが、自然遺産の考え方の側としては、それに対して人類全体からの負託に十分応えられるだけの体制が出来ていることが、これから作るための努力目標ではなくて、ある程度目処が立っていることが指定の大前提になるという言い方をしているんですね。しかも、規模のことは余りおっしゃらなかったんですけど、例えば小さい島1つを指定することにはかなり無理があるのではないかというようなことを、ちらほらとおっしゃった。そうだとすると、価値をどこか出せるところは全部指定していく、あるいは推薦しようと動くことについては、かかるコストとか現実性というところで、少し問題が出てくるのではないか。
    それから、特に奄美・琉球諸島が今後のそれに対抗する非常に良いモデルになると思っているのは、モロイ氏がその時に言っていたのは、奄美群島と沖縄本島と西表島という話をされていたんですけど、それに国内の法律でうまくサテライトとしてリンクさせるような形で、それ以外の島を、ある程度同じようなところにのせることができないのか。それが出来るようになると、両方リンクさせた非常に良い自然遺産の保全体制が出来るんじゃないかという気がしたんですけど、それは今後、議論する価値があると思います。
  • 岩槻座長 さっき吉田さんも屋久島のことについてクリティカルにおっしゃっていたんですけれども、自然遺産だけの保全なんてあり得ないわけですよね。それは常識になっていることだと思うんですけれども、その意味では、ユネスコが、登録、あるいは応援しているものの中だけでも、ラムサールがあったり、今日も話題に出ていましたけれども、MABもあったり、ジオパークがあって、そういうものの保全と世界遺産とがどうなのか。国内でも常に話題になる国立公園との関係とか、森林生態系保全地域との関係も含めて全体の中で世界遺産がどう保全されるべきか。さらに言えば日本列島全体かもしれませんけれども、世界遺産だけ突出して、ここがコアエリアだから、ここだけ厳重に守りましょうといって出来るような話ではない。ないと同時に、それはさっきのすべての市民の科学リテラシー、環境リテラシーを高めるということとは必ずしも繋がらないことになってしまって、それに繋げるような形でのコアであり、世界遺産であるという視点で、これまでに既に登録されている自然遺産の充実を図るという方法ででも、さらに広げるという方向ででも見ていく必要は、改めて言うまでもなく常識みたいなものだと思います。
  • 立澤科学委員会委員 大変色々勉強させていただいているんですけれども、幾つか屋久島のお話も出てきたので。(屋久島が)特に他の地域と比べてどういう際立った残念な部分があったかという整理と、今後に向けてということについて少し意見を述べます。屋久島の場合は1993年に登録されて、そのときには科学委員会がなく、管理体制としても今から思うと不十分な形でスタートしたんですけれども、そのときに地元の受け取り方も、さっきお話が出たようにかなり経済マターであり、且つ国マターだったんですね。そのころの話を色々聞くにつけても「国がやっていること」で、その結果、環境文化村構想は、未だにそこに立ち返るべきだと私も思うんですけれども、地元で忘れ去られかけていたものが拾い上げられるチャンスを失って、その後10年、科学委員会が立ち上がるまで本当に忘れ去られたままになっていました。これは地元の責任も非常に大きいと思います。IUCNの外来種委員会での世界遺産に関係する議論を見ていても、さっき何人かの方がおっしゃいましたけど、能動的管理が非常に重視されていて、そのうちの1つとして、例えばコネクティビティを重視したゾーニングをし直すということもあると思うんですが、屋久島の場合、能動的管理というのを勘違いしていました。科学委員会が立ち上がってからも、まだ私たちは勘違いしているなと思っていました。どういうことかというと、能動的というのは、例えばシカの数を減らすとか、柵で囲うというのが能動的管理なわけですけれども、子孫に残すという意味では能動的ではありますけれども、それを有効に生かすという意味での能動性はきちんと担保していなかった。さっきのコネクティビティ、屋久島で言えば世界遺産地域以外とか、もっと言うと海をどうするんだという話もあります。例えばウミガメに関しては、アカウミガメ、アオウミガメの世界のかなりの部分の産卵の場になっていて、そこをどうするんだというふうに広がりますし、先ほど太田先生もおっしゃったように、広域の生物地理学的な観点で言うと、屋久島の世界遺産エリアだけ議論していても駄目でしょうということははっきり分かるのに、そこがすっぽり抜け落ちていました。
    もう1つ、主体的管理というのもIUCNなどで以前から言われていることですけれども、主体的というのは関係者が合意形成して主体をつくって主体的という意味でもあるんですけれども、さっき橋本先生がおっしゃったような地元にモニタリングのきちんとした組織なり体制があるとか、情報、標本を残す博物館があるとか、知床では随分実現されてきていることが屋久島ではない。だからこそいろんな研究者が研究をしても、市民レベルのいろんな活動があってデータの蓄積があっても、それが結局まだマネジメントに活かされていないということに思いあたりました。
    結局どうしたらいいかというと、今日一番はっきりわかったのは、日本の世界自然遺産地域の比較をもっと積極的にしないといけない。例えば科学委員会で各地域のこういうふうな情報を持ち帰りますけれども、それでお互いにブラッシュアップしたり、それである程度標準をつくっていかないと駄目なんだろうなと思いました。是非そういう標準づくりをお願いしたいと思います。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございます。延ばしても、もうそろそろ終わりにしないといけない。今日の議論を踏まえて、また事務局でまとめていただいて、次回以降、この議論を展開していきたいと思いますので、つくっていただいた参考資料も目を通していただいたらと思います。
    これぐらいで、といっても大分時間を超過しているんですけど、2つ目の議題を終わりにさせていただいてよろしいですか。
    3つ目は、「その他」です。
  • 吉田委員 この2ページの今後求められる保全管理については、(1)が基本的考え方で(2)が特記すべき事項で、特記すべき事項は地域連絡会議、科学委員会とわかっているんですけど、これでは私はちょっと分かり難いと思うんですが、他の皆さんはどう思われるかわかりませんけど、この基本的考えの下に書いてある丸3つは、基本的に国、関係機関など、保護地域の管理主体の基本的管理の考えということなんですけれども、主体がわかりにくい書き方がしてある。だから、地域連絡会議、科学委員会の前に、保護管理機関としての基本的考え方がわかるようにタイトルもつけていただけるといいんじゃないかと思います。
  • 岩槻座長 表現が難しいですけれども、それもご検討いただいたほうがいいと思います。
  • 環境省(亀澤) 次回にどういう議論をしていただくかについてお話をしたいと思います。論点整理のペーパーについて、先ほど来具体的なご意見を色々いただきました。それを反映させた形で、このペーパーは修正をした上で、もう1度お示しをして議論をしたいと思いますが、タイトルにありますように、今後求められる保全管理は、既存の4地域の保全管理のあり方を整理した上で、それぞれ既存の4地域での保全のあり方そのものをもう1度考え直してもらうという意味もありますし、既存の4地域での保全管理のやり方を整理した上で、今後登録を目指す奄美・琉球諸島の保全管理のあり方に活かしていきたいという点もあります。
    もう1つは、さらにその後どうするかという意味合いもありまして、先ほど岩槻座長のほうからもお話がありましたけれども、原点に戻って考える必要があるということで、管理の充実に力点を置くのか、あるいは数を増やすのかということで、この点についても先ほどご指摘がありましたから、そういう問題点をもう少し具体的に書き込んだ上で、次回さらに議論をいただければと思っております。
    その場合に、吉田委員からもご指摘がありましたように、各地域からの世界遺産地域にという要望をそのまま取り込むのではなくて、エコパークとかジオパークとか、そういう考え方も含めて、今後どのように対応していくのかということも含めて考えていく必要がありますし、世界遺産地域だけでなくて、その周りとの考え方も整理をしていきたいと思っております。
    それから、原点に帰るとともに、世界自然遺産を取り巻く最近の動きもあると思いますので、その辺を改めて吉田委員にもご紹介をいただきたいと思いますし、そういうことを踏まえて今後のことを考えていきたいと思います。
    次回、そういう議論をいただいた上で、第5回でまとめていただくわけですけれども、まとめるに当たっては、15年の検討会で3地域を絞り込んだときの絞り込みの考え方も改めてご紹介をした上で、今後どうしていくかについてもう1度議論をいただければと考えております。ありがとうございます。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。今日のこのとりまとめの論点整理の素案とか参考資料についても、もちろん次回議論をしていただくことはできるんですけれども、それまでに何かお気づきのことがあったら、事務局へご連絡いただいておいたら事務局が整理していただくときに取り上げていただけると思います。時間がいつでもぎりぎりになってしまいますので、そういうふうな形でご協力いただけたらと思います。
    ということで、今日はマイクを事務局へお返しさせていただきますが、よろしいですか。
  • 環境省(芹澤) 岩槻先生、ありがとうございました。それでは、次回の懇談会の開催日についてですけれども、委員の皆様に調整させていただきまして、12月3日月曜日、3時から5時を予定しておりますので、また宜しくお願いいたします。
    それでは、本日の議事はこれで終了いたします。皆様、長時間にわたりまして、ご議論いただきましてありがとうございました。

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