1 日時 |
平成26年10月8日(水)14時00分~15時30分 |
2 場所 |
一般財団法人 自然環境研究センター 7階 会議室 |
3 出席者(敬称略) |
(委員)石井 実(座長)、荒谷 邦雄、小野 展嗣、五箇 公一、平井 規央、森本 信夫 |
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(環境省)自然環境局野生生物課外来生物対策室長 関根、外来生物対策係長 谷垣、外来生物対策係員 服部 |
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(農林水産省)大臣官房環境政策課課長補佐 森山、生産局畜産振興課技術第2班課長補佐 宮田 |
4 議事概要 |
〔外来生物法の一部改正および第8回専門家グループ会合(昆虫類等陸生節足動物)開催の経緯〕
(事務局から参考資料1、2、3、4、5にもとづき説明)
(議論は特になし)
〔ツマアカスズメバチに関する情報〕
(事務局から資料1、資料2、参考資料6、卓上配付資料を説明)
- (事務局)資料2について。亜種毎の特異性が確認されていないこと、亜種の同定が困難な場合も考えられることから、「種ツマアカスズメバチを指定」「スズメバチ属全種に種類名証明書添付」という形での指定が、実効性があると考えている。また、スズメバチは意図的導入が想定しづらい生物であり、スズメバチ属としての未判定外来生物の指定は法的な効力をあまり伴わないと考えられることから、未判定外来生物の指定は考えていない。
- 原産地は東南アジアだがヨーロッパに定着しているのは耐寒性が強いということか。比較的北の地域で定着している理由について知見があれば教えていただきたい。
- (事務局)原産地では比較的高標高地に分布し、香港では低地に分布しているという情報があり、標高の要件はあるのではないかと思われる。
- 対馬では12月頃まで活動しており、耐寒性は結構強い。社会性昆虫は寒さに対する適応力が強く、ツマアカスズメバチは営巣して集団で生活するという意味では、夏の気温が確保出来て、新女王が単独越冬する冬期の地中の凍結深度さえしのげれば、緯度はあまり関係無く定着可能ではないか。
- 種で指定するということは、全亜種を規制対象にするという判断か。
- (事務局)その通り。
- 対馬への侵入は人為ではなく、釜山から飛んできたという理解で良いのか。フランスに侵入・定着したものは中国からの輸入物資に付いてきた証拠があるようだが、釜山はもしかすると自然分布の範囲に入る可能性もあるのでは。ものすごい分布拡大能力がある生物が、なぜ雲南省あたりより東に来なかったのだろうか。ただ、私も韓国のものはおそらく人為移入だと思っている。
- 仮に韓国が自然分布域で、釜山から対馬に自力で飛んできてとなると、外来生物の定義から外れてしまうことになる。
- (事務局)韓国では中国からの物資に付いて侵入したという見解が示されている。対馬への侵入経路については具体的な証拠はまだないが、釜山から対馬北部に入っている船がある。仮に自力で飛んできたとしても、韓国の分布が外来であれば外来という定義で問題無いと考える。
- まだ自然分布域が確定していないので、調査、情報収集が必要。釜山から対馬には偏西風や自力で飛んで来たという説もあるが、一方で対馬の分布エリアは北部に偏っており、港からの侵入という仮説は捨てがたい。特に2010年以降、観光船がかなり高頻度で往来しており、交尾済みの越冬女王が1匹でも入ってしまえば定着出来ることを考えれば、人為的導入の可能性は十分に考えられる。今、対馬にしか入っていないのであれば、一旦外来種と定義して、出来るだけ対馬で封じ込めるのが得策だろう。自然分布ならとうの昔に対馬に入っていたはずだと推測出来るということで、対馬には人為で入ったという判断で良いかと思う。
- 済州島にいないのなら、更に人為の可能性が高い。自然に分布拡大する場合は、朝鮮半島と済州島とは大体ワンセットで入る。
- 2010年以降に釜山で急激に発生が確認されているということが韓国内でも情報ソースになっているので、韓国もおそらく侵入分布だと考えられる。
- 他に、大陸から沖縄というような別ルートでの侵入も考えられるか。また、平成25年度の営巣位置が56カ所で、分布が北に偏っているという話に関して(報告書p.22の図)、今年は営巣位置が77カ所に増加とのことだが、分布自体には変化は見られるか。
- 事務局)対馬での分布は、今年トラップを掛けたモニタリング調査の結果でもp.22の図のプロット地点辺りに集中している。営巣地点よりもう少し内陸部の森林部でもトラップに掛かっているが、中央部のくびれより南部でのモニタリング結果は出ていない。
- 資料1、ヨーロッパで「単純計算で年間100kmの速さで分布を拡大」というのは人為的な移動も含むのか。また、韓国では「年間10㎞から20㎞」ということだが、防除実施によって分布拡大が少し遅くなっているのか。
- (事務局)ヨーロッパでの拡大については、文献情報によると谷筋に沿って広がっているという報告もあり、地形的な影響も考えられる。
- (事務局)韓国で行政が積極的にツマアカスズメバチを防除しているという情報は見つかっていない。ただ、注意喚起は韓国の環境省のような機関から出されており、そのソースによると最初は釜山から拡がっており、朝鮮半島の東側を北上する形で分布拡大中のようである。
- 一般に外来種の分布拡大は、最初は速度が遅く、後に次第に加速する。現在、対馬は侵入から最大で3年目位と想定され、分布初期という扱いになるかと思う。
- 釜山から対馬に船で拡がったのなら、本土にも釜山からの船は来ているのになぜ対馬だけに侵入しているのだろうか。ご意見があればいただきたい。
対馬は森が深く、ニホンミツバチがたくさんいる上に樹液も多く、餌に困らない。スズメバチ自体も豊富で、狩りバチが多数生息出来る自然環境であるため、入ってすぐ定着出来る環境が整っていたのではないか。本土の場合、港から森林までの距離を考えると、入り込むまでに時間が掛かるかもしれない。対馬での分布が北部に偏っている点については、南へ入ろうとしても巣を見つけては除去しているので、その捕獲圧が効いている可能性はあると思う。
- 仮に韓国の釜山にいるものが自然分布である場合、あるいは外来種であると考えた場合に、いずれの場合もそこから自力で来たら外来種ではないと考えるのか。
セイヨウオオマルハナバチの時も、北方四島に自然分布していれば在来種になるという、同様の議論があった。その時は、特定外来生物として指定するが、その後の科学的知見の蓄積によって分布の詳細が明らかになれば撤回される場合もあるとした。今回のケースに関してもその点を整理しておく必要がある。
- (事務局)その後の科学的知見により、在来種だと分かれば指定解除もあり得る。
- 種として指定するのは生態的被害を予見してということでよろしいか。あまり具体的にすると、種として指定する整合性が無いような印象を受ける。本当に日本に侵入してきた個体群を駆除するのであれば、亜種指定のほうが良いのではないかとも思う。
- (事務局)韓国ではツマアカスズメバチが確認される前からスズメバチ相がある程度把握されている。韓国では2003年にツマアカスズメバチが発見されてから急速に分布が拡がり、釜山では除去依頼も急増している。もし在来であれば、既に認識されていたと考えるのが普通であり、在来とは考えにくい。また、釜山で確認された亜種nigrithoraxの分布域には中国も含まれるが、中国での具体的な分布の広がりは不明である。ただ、ブータン、インド北東部より南部に分布する亜種がそのまま韓国に自然分布しているとは少し考えにくい。
- 韓国の釜山に侵入して分布拡大中のものは、韓国にとって外来種であると認識することとして、そこからどのように日本に来たのかが次の問題。自力で来た可能性もあるが、船で来たと考えるのが妥当であろうということでよろしいか
- 例えば遺伝的解析から、どのくらいの個体数がいつ頃入ってきたのか、裏付けられるデータがあれば教えていただきたい。また、母集団になり得る韓国の遺伝的解析のデータはあるか。
未発表情報だが、京都産業大学の高橋先生の調査によると、ヨーロッパのケースに比べると、対馬のケースは遺伝的な幅が付着侵入としては多過ぎることから、偏西風に乗って複数の個体が入ったのではという仮説が出されている。韓国のデータはまだ出ていないが、釜山の侵入集団の母数が不明なことと、ヨーロッパと違い釜山と対馬は近距離なので人為でも相当数が入る可能性はあり、遺伝解析だけから人為か自然かを類推するのは難しい。想定リスクとして人為も含めて考えておく必要はある。北の海岸線沿いから集中的に分布拡大している状況の説明としても、人為は捨ててはいけない要素だろう。両方の経路があるかもしれず、追って証拠を集めるしかない。
- 韓国に分布していて済州島に全く出ていないのであれば、まず韓国は人為分布と考えられる。もう一つ、東南アジアでは時々ライトトラップにかかる虫なので、多少の走光性があるようだ。最近、船のライトに寄ってくる虫が船の航路で拡がるという話が出ており、その可能性は考えられる。
- フランス、韓国への侵入経路について「物資の輸送に伴い」とあるが、物資とは具体的には何か。
- (事務局)フランスでは陶器、韓国では木材、という文献情報がある。陶器というのは鉢植えポットで、要は植物体だと思ったほうが良い。単独で越冬する女王が木材、植木鉢ポットと一緒に運ばれたと想定される。
- 鉢植えポットや木材は、対馬から本土に移動しているか。対馬から福岡への木材や物資の移送はかなりある。島内でツマアカスズメバチがまん延してしまい木材に付いた場合、それを通じて本土に入るリスクが懸念される。
- (事務局)平成25年度の九州地方環境事務所の調査報告書p21に取引のある港が書かれている。
- 韓国のものは韓国において外来種、対馬への侵入経路も人為の可能性がかなり高いということである。韓国にとって外来種で、韓国から対馬への侵入が自力で飛んでくるのが100%の場合は、特定外来生物に指定出来ないのか。
- (事務局)国境を越えるところが人為であるというのが指定の前提。韓国で外来種であってもそれはあくまで参考情報なので、今ご議論いただいた中では、韓国から対馬へのルートとして人為の可能性が高いというのがよって立つところである。
- この段階では特定外来生物に指定して良いと思う。対馬の養蜂関係者が様々な不安を抱えておられるという現実もある。立場としては、特定外来生物として処理をし、もし科学的知見によって韓国から100%自力で来たと分かれば、その時点で改めて指定を外すという対応をすれば良いのではないか。
- かなりの確率で釜山から対馬に人為的に運ばれ分布拡大していると考えられる、ということかと思う。
- 経験ではスズメバチは結構、客船のゴミ箱のアイスクリームカップの中など甘いものに紛れていたりする。走光性の件とあわせても、客船で運ばれることは結構あり得るのではないかと経験上思う。
女王バチが春に繁殖を始めた時に、そのようなものに紛れて来る可能性もあるということだろう。
- 日本国内における被害について。参考資料4の基本方針にある基準から、生態系被害を重視して指定、という事務局提案について検討したい。既に生態系に対する被害が出ていると認定してよろしいか。
近縁なスズメバチ同士の競合等以外に、樹液をめぐる影響が考えられる。樹液はクワガタムシ、カブトムシ等から始まって順位関係のある一つの生態系を作るので、そこに外から違うハチが入ってそれを崩す可能性はある。そういう意味での生態系被害は、広い観点から見てあり得ると思う。
そのようなことで、事務局提案のとおり「生態系に関わる被害」を重視して特定外来生物に指定とする。
- 種として指定するか、亜種V. v. nigrithoraxで指定するか。亜種の特定外来生物指定は可能なのか。
- (事務局)基本は種レベルでの指定だが、タイワンスジオ等で亜種指定の例はある。他の亜種と比べてもこの亜種だけが被害をもたらすという特異性があれば亜種に限定することもあり得るが、他のものと類似の生態を持っており同様の被害の可能性があると判断出来るのであれば、法施行の実効性の面から種で指定するほうが妥当ではないかと考えている。
- 平成25年度の九州地方環境事務所の調査報告書の、対馬の現地で研究されている上野氏の話は大変参考になる。今この状況で、急いで対応した方が良いと考える。
- 環境省としては生態系被害を重視して指定する必要性があると思うが、一番懸念されるのは、セイヨウミツバチに対する攻撃性が非常に強い点であり、対馬のニホンミツバチも既に襲われているとの報告がある。ツマアカスズメバチの攻撃方法が従来のスズメバチと違っていて、徘徊して帰ってくるミツバチを捕食するためシグナルが巣に届かず、蜂球という対抗措置をとれないままワーカーが捕られ続け、最終的に巣が崩壊するということのようだ。セイヨウミツバチは更に攻撃される可能性が高く、養蜂業に対する影響はかなり大きくなると考えられる。島民の方々も含めて何とか対馬で食い止めたいという実情はあると思うので、早急に規制していただきたいと考えている。
- 被害の概要の箇所に農林水産業についても書かなくて良いのか。
書いて良いと思う。
- (事務局)先月、九州大学の上野先生と現地を訪問し分布状況等を確認した。飛来状況を見るとやはり営巣の多い北部に多く、中部はそれほど来ていなかった。上野先生は、ニホンミツバチへの被害について、南部においても蜜量が少ないことなどからツマアカスズメバチによる被害との因果関係は明らかではなく、間接的なものではないかとのご指摘であった。
- 資料1の評価理由がこの会合の意見ということになる。在来スズメバチとの競合、ミツバチの捕食による養蜂業への影響、等が挙げてある、この事務局提案通りでよろしいか。
(一同了承)
- ○ 参考文献にある雲南大学のTanさんの報告について、これより一つ前の2005年発表の文献で、もっとストレートに「セイヨウミツバチへのアタックが強く、回復が遅れる」という結論を書いていた記憶がある。その辺りを入れて、もう少しセイヨウミツバチに対する影響が深刻だという強調は出来るかと思う。
- (事務局)文献を確認する。
- ○ 資料2について。指定の範囲については、未判定外来生物は特に指定しないという事務局提案でよろしいか。また、種類名証明書添付対象をスズメバチ属全種とするという提案についても妥当であると考えてよろしいか。
(一同了承)
- 特定外来生物への指定は駆除がセットになると思うが、ツマアカスズメバチに対する駆除の具体的方策と現在の実施状況を教えていただきたい。
対馬ではスズメバチ駆除業者に入ってもらい巣を撤去している。環境省事業としては、国立環境研究所で薬剤入り肉団子(ベイト剤)を持ち帰らせて巣ごと崩壊させる方法を検討中である。使用薬剤はフィプロニルで、ハワイのイエロージャケットの侵入に対する防除策としてとられた方法であり、効果も高い。ただ先程のご指摘のように、対馬は樹液が豊富でアミノ酸が多いため、肉に対する要求度が非常に低く、乳酸菌飲料のような液体のほうによく寄って来ることが分かってきていることから、そういった形での駆除手法を現在開発中である。
- 参考情報だが、対馬の場合はスズメバチやその他の昆虫が集まる樹液の中心はクヌギ林ではなく海岸のタブ林である。トラップも駆除も、里山のクヌギ林だけでなく沿岸部のタブ林で重点的に実施した方が、より効果が上がるのではないか。タブは樹液を大量に出すので、南の島ではタブがポイントになる。
- 他に特にご意見等無ければ、当グループ会合としては種ツマアカスズメバチを、資料1の評価の理由に基づいて、生態系に係る被害を及ぼすおそれのある生物として特定外来生物に指定したい、という結論でよろしいか。
(一同了承)
〔指定に向けた今後の手続きについて〕
- (事務局)本日ご審議いただいたツマアカスズメバチは特定外来生物に指定とのグループ会合のご結論をいただいたので、この後すぐに専門家全体会合で文書による意見聴取をさせていただき、早急に指定手続きに入ることとしたい。10月中旬から11月中旬頃にかけてパブリックコメント、その後2ヶ月間必要なWTO通報等を行い、年内程度には政令公布、といったスケジュールで進めたい。他の省令、告示の整理等をした上で来年春前に施行ができると、その後の防除にも効果的ではないかと考えている。
〔その他〕
- 種類名証明書添付の際に、証明書を発行できる政府機関としてネットにもいろいろな機関が挙がっているが、それらの決定根拠を教えていただきたい。掲載機関には実効性の無い機関もある。また、昆虫関係の研究者も多く実効性のある機関で、まだ含まれていないところを新たに加えていただく方法があれば教えていただきたい。そうしたところがいくつかあり、また国によっては機関が決められておらず、海外調査から帰ってくると非常に困ることがある。現場の方の中には掲載機関からの発行でないと駄目だと思い込まれている方もいる。
- (事務局)これまで事例のある機関についてはインターネットで例示しているが、その機関でなければ駄目ということではなく、国の政府機関発行のものであれば掲載以外のところでも有効な場合がある。研究機関や海外の地方政府の場合は環境大臣が判断して決める必要があるので、情報をいただければ検討できる。