1 日時 |
平成18年4月19日(水)10時00分~11時50分 |
2 場所 |
経済産業省別館944号室 |
3 出席者 |
(委員)石井 実(座長)、荒谷 邦雄、梅谷 献二、小倉 勘二郎、小野 展嗣、桐谷 圭治、五箇 公一、高桑 正敏 |
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(環境省)野生生物課長、外来生物対策室長、室長補佐、移入生物専門官 |
4 議事概要 |
(事務局より外来生物対策室の発足について説明及び挨拶)
〔未判定外来生物について・未判定外来生物の輸入届出の概要〕
(事務局から資料1及び資料2を説明)
- (事務局)未判定外来生物は、外来生物法第21条に定められたものであり、今回議論の対象となるクモテナガコガネ属とヒメテナガコガネ属についてはテナガコガネ属の特定外来生物への指定に伴い、未判定外来生物に指定されたもの。輸入の届出者からは、関連情報として図鑑のコピーが届出に添付されてきた。
- 図鑑のコピーは届出者からの情報であるが、環境省ではこの2属についてそれ以上の調査をしたのか。
- (事務局)この図鑑のコピーはテナガコガネ属の特定外来生物への指定の際にも参考にしており、一定の信頼ができるものと考えているが、これ以外に海外の文献も精査している。
- 同定や学名の科学的な部分は正しいのか。
- (事務局)テナガコガネ亜科に関する海外のレビューから多くの情報を得ている。
- 未判定外来生物の輸入の届出があるたびに判定するのは如何なものかと思う。
- (事務局)今回は初めてのケースでありお集まりいただいたところ。今のところ届出の度に開催する形で考えている。今後の届出状況によっては開催形式の検討も行いたい。
- 密輸してしまった未判定外来生物について、その後の判定で無害と判定されれば、密輸した者は無罪となるのか。
- (事務局)判定がどうであれ、未判定外来生物の輸入自体は違法なので、罰則も適用される。未判定外来生物の判定は必ずしも輸入の届出を契機とするものではないので、もし国内に大量に流通すれば、輸入の届出がなくても早急に特定外来生物にするかの判定をする必要が生じてくる。
- 今回の対象種について、和名はこれでよいか。
- 和名を付ける際に、気をつけるべき言葉があり、シナという語はチュウゴクに自主的に改めるようにしている。昆虫学会でも和名の改正について検討をしている。
- ドウナガという名前とクモという名前はどちらを使うか。
- (事務局)和名は基本的には広く利用されている「ヤンバルテナガコガネ」という図鑑でも使用されている記述に従っているが、届出のあったシナヒメテナガコガネは昆虫学会の動向も踏まえ、例外的にもう一つの図鑑で使用されている別の表記に従った。
〔クモテナガコガネ属及びヒメテナガコガネ属に関する情報〕
(事務局から資料3を説明)
- (事務局)現在クモテナガコガネ属とヒメテナガコガネ属の2属が未判定外来生物になっているが、今回はこの2属に属する全ての種について輸入の届出があった。クモテナガコガネ属は、飼育下では腐植質を食べている。また、高温のところに分布しているが、低温のところにも生息できない訳ではないと考えられる。幼虫の餌は樹種より腐植質の程度に左右されるという情報があるが、ヒメテナガコガネ属はヤンバルテナガコガネが利用するスダジイも属するブナ科も利用する。昆虫雑誌には、テナガコガネの飼育法が紹介されたこともある。
(荒谷委員から“ミトコンドリア16SrRNA遺伝子からみたテナガコガネ亜科の系統関係”について説明)
- 参考資料1、2と関連するが、鞘翅学会で発表した資料を基にヤンバルテナガコガネの遺伝的な位置づけを説明する。テナガコガネ属にはパリー種群とマクレイ種群に分けられ、ヤンバルテナガコガネはDNAからパリー種群に属する独立種であることが判明し、一番遺伝的な系統が近いヤンソンテナガコガネとも遺伝的な距離は離れている。現在の生息地には、北経由であれば600万年前、南経由であれば200万年前程度にたどり着いたものであろう。届出添付資料の「テナガコガネ属の複数の種が混生している」という記述は必ずしも正しくなく、むしろすみ分けをしており、樹洞という限られた資源を巡る競合により絶滅したものもあったと思われる。
- DNAにおいてもヤンバルテナガコガネの脆弱性が裏付けられたと言えると思う。この保護を重視する必要がある。
- 予防的観点も考えれば特定外来生物に入れざるを得ない。幼虫の餌資源に限らず、成虫の餌である樹液を巡っての競合も考えれば、日本のヤンバルテナガコガネと競合する可能性が高いとしか言えない。
- コガネムシ上科の中には、同じ亜科の中で形態や生態の違うものがあり慎重に取り扱わなければいけないものがあるが、テナガコガネ亜科は種類も少なく、また変異も小さいのだから前回の指定時に入れてしまっても問題なかったのではないか。
- (事務局)テナガコガネ属は情報も多く交雑の可能性もあったが、この2属に関しては十分な情報がなかった。
- クモテナガコガネ属の生息地の標高はどうか。
- クモテナガコガネ属の垂直分布は500-600mでも採取されていることから幅広い。
- 2属の「評価の理由」にマルバネクワガタ類が入っているものといないものとがある理由は。
- (事務局)ヒメテナガコガネ属は、樹洞を利用するので特にヤンバルテナガコガネと競合するおそれが高いが、クモテナガコガネ属は、樹洞を利用するのか根際の腐植質を利用するのか分からない種であり、どちらとも競合する可能性がある。
- 沖縄での腐植質を巡る状態は微妙であり、樹洞の腐植質をヤンバルテナガコガネが利用し、根際をマルバネクワガタ類とオキナワカブトが微妙に時期を違えて利用している。そこに、これら2属が入ってくると、競合する可能性は大いにある。
- 本州に入っても、希少性の高い甲虫類と競合する可能性が高い。
- 実際に現在、対象の2属を飼育している人数等の情報はあるか。
- (事務局)数については把握していないが、テナガコガネ属を飼育している人数よりは少ないと考えている。
- クモテナガコガネ属とテナガコガネ属の交尾器の形は違うが、ヒメテナガコガネ属とテナガコガネ属はほとんど同じである。実際に子孫ができるかどうかは別の話であるが。
- (事務局)競合の結果、ヤンバルテナガコガネが絶滅するかどうかについてはどうか。
- 予測は難しいが絶滅するおそれがあるということでよいのではないか。
- ヒメテナガコガネ属は体は小さいが、産卵数、繁殖力を考慮するとヤンバルテナガコガネの存続を十分脅かす可能性がある。
- 資料3より、ヤンバルテナガコガネを絶滅させるおそれがあるため、特定外来生物に指定するということでよいか。
(よい)
〔今後のスケジュール〕
- (事務局)この後、全体会合委員に本日の結論について文書による照会をし、その後、パブリックコメントやWTO通報の手続を行うこととしたい。
〔その他〕
- 今回の対象種等は、原産国で保護されていないのか。
- ヒメテナガコガネはトルコで保護種である。他には、パリーテナガコガネとゲストロテナガコガネがタイで保護されている。
- 地球温暖化と生物多様性を関連付ける話題として、アフリカ原産のミナミアオカメムシが北上し、在来のアオクサカメムシが置き換えられた事例がある。これは、大量のミナミアオカメムシがアオクサカメムシと交尾し、不妊化させることでアオクサカメムシを駆逐している現象で、遺伝子かく乱以外の「絶滅のおそれ」を示唆している。ここに、温暖化という、南方の種が北上しやすい状況が生じていることも視野に入れておくべき。
- 一般には、生殖器の形が違うというのは生殖隔離として大きく働くと考えられるが、甲虫の場合、大きさにはかなり個体差があり、それでも交尾は可能である。
- さらには、明らかに見た目、大きさなどが違い、遺伝的に遠い種であっても、生殖器が同じ形状のまま分化したことによる交雑可能性を持った種もあることから、一つ一つの事例を丹念に調べる必要もある。
(文責:環境省自然環境局野生生物課 速報のため事後修正の可能性あり)