環境省自然環境・自然公園特定外来生物等の選定について

第2回 特定外来生物等分類群専門家グループ会合(昆虫類)議事録


1. 日時 平成16年12月15日(水)10:00~12:00
2. 場所 経済産業省別館11階 1111会議室
3. 出席者  
   (座長) 石井  実
   (委員) 高桑 正敏  桐谷 圭治
五箇 公一  梅谷 献二
小倉勘二郎  荒谷 邦雄
   (利用関係者) 小島 啓史  藤田  宏
   (環境省) 名執野生生物課長
上杉生物多様性企画官
堀上野生生物課課長補佐
更田農薬環境管理室室長補佐
   (農林水産省) 東野農薬対策室課長補佐
岡田野菜課課長補佐
   (独立行政法人)  曽根農薬検査所検査部生物課長
5. 議事  

【環境省 堀上補佐】 それでは予定の時刻になりましたので、特定外来生物等分類群専門家グループ会合(昆虫類)の第2回会合を開催したいと存じます。 前回の会合でクワガタ類につきまして関係者からヒアリングする必要性についてご指摘がありましたので、今回、九州大学大学院の荒谷助教授に来ていただいております。それからニフティ昆虫フォーラムサブマネジャーの小島さんに来ていただいております。それから、有限会社むし社代表取締役の藤田さんにもお越しいただきました。どうぞよろしくお願いいたします。 それから、同じく天敵農薬の扱いについて説明の必要性についてのご指摘がございましたので、今回、農林水産省の方から農薬対策室の東野補佐に来ていただいております。それから、独立行政法人農薬検査所の検査部の曽根生物課長にもお越しいただきました。それから、環境省の方で農薬を担当しております農薬環境管理室の更田補佐でございます。 続いてお手元にお配りした資料の確認をさせていただきます。環境省の方でご用意しておりますのが、委員名簿がありまして、資料1-1が特定外来生物等の選定の作業手順、資料1-2が、外来生物(昆虫類)の特徴と選定に際しての留意点、これは基本的に前回お出しした資料そのままでございます。それから資料2-1が、天敵の農薬取締法上の扱い、それから資料2-2が外来クワガタムシ類の特徴と取扱いに係る留意点(案)、参考資料が1から3までございまして、すべて議事概要でありますが、参考資料の1が、前回第1回の昆虫類の議事概要、参考資料2が第1回セイヨウオオマルハナバチ小グループ会合の議事概要、参考資料3が第2回のマルハナバチ小グループ会合の議事概要となっております。 それから、今日お越しいただきました先生方から資料をいただいておりまして、1つは、参考資料3の下に、小島さんからいただきました第2回昆虫類専門家グループ会合配付資料というものと、もう1つ、飼育モラル普及協議会という資料。それから、実は今日いただきました荒谷先生からの資料が「日本産クワガタムシ類の特性と外国産種の定着可能性・影響予測について」というA3の資料なのですが、ちょっと会場の方、コピーが間に合いませんで、途中からお配りいたしますのでご容赦願います。それと、もう1つの資料がテーブルの方にはこのA3の横長の資料で、「外国の生き物を野山に放さないで!」という資料を藤田さんの方からいただいております。これも後ほどコピーして会場の方にはお配りいたしますので、ご容赦いただきたいと思います。もし資料に不備がございましたら、事務局の方にお申し出いただければと思います。 それでは、議事進行につきましては、石井座長、どうぞよろしくお願いいたします。

【石井座長】 皆様、おはようございます。早速始めさせていただきたいと思います。 本日は先ほどご紹介ありましたように、天敵農薬及びクワガタについてのヒアリングを行うということでございます。議題の1は、特定外来生物(昆虫類)の選定についてということになっておりますけれども、前回の会合で天敵農薬にかかる制度についての説明と、クワガタ類について関係者からヒアリングする必要があるということが指摘されておりました。 それでは、まず農林水産省の方から天敵農薬に関して説明していただきたいと思います。よろしくお願いします。

【農水省 東野補佐】 それではお手元の資料2-1に従いまして、天敵農薬の農薬取締法上の扱いにつきまして簡単にご説明をさせていただきます。天敵農薬につきましては、農薬取締法におきまして天敵は農薬というふうにみなしまして、農林水産大臣の登録を受けなければ、製造及び輸入してはならないというふうにして運用しておるところでございます。その下に参考で、農薬取締法の条文の抜粋をつけてございます。第1条の2は定義でございます。この法律において、「農薬」とは、農作物、農作物とは通常田んぼ、畑に植わっております一般の農作物以外にも公園の樹木ですとか街路樹、それからゴルフ場の芝、およそ人の手の加わっている植物をすべて農薬取締法では農作物というふうにして運用しておるわけですが、その農作物の防除に用いられる薬剤につきましては、農薬というふうに定義をしてございます。第1条の2の第2項でございますが、こういった農作物の防除のために利用される天敵につきましては、この法律の適用につきましては農薬とみなすということになってございます。第2条でございますが、製造者又は輸入者は、農薬について、農林水産大臣の登録を受けなければ、これを製造し若しくは加工し、又は輸入してはならないというふうにしてございます。これは法律上の扱いでございます。 その次のページごらんいただきまして、天敵農薬の登録の流れでございます。農薬の製造者・輸入者、これはもちろん天敵の輸入者もここに含まれるわけでございますが、天敵の昆虫を輸入したいということであれば、農林水産省に登録の申請というのを出していただく。農林水産省はその登録の申請に基づきまして、独立行政法人農薬検査所に検査を指示いたします。農薬検査所では環境省でこれまでにおつくりいただいております天敵農薬にかかる環境影響評価ガイドラインに基づきまして検査をいたします。必要があれば専門家から意見の聴取などもいたしまして、登録できるかどうかという判断をするわけでございます。検査結果の報告を農林水産省に返していただきまして、登録が妥当だということであれば登録をさせていただく。これによって初めて輸入が可能になるということでございます 。
 次のページは現在までに登録されております天敵農薬の一覧表をつけてございます。簡単ではございますが、天敵農薬の登録の仕組みについて説明をさせていただきました。

【石井座長】 どうもありがとうございました。では、ただいまの説明に関しまして何かご質問ありましたらお願いいたします。

【五箇委員】 今、聞いたところによれば、環境省の方の天敵農薬による環境影響評価ガイドライン、これに沿ってということなのですけれども、実際に具体的な評価の内容というものは、何か短くでも結構ですので、少し端的に説明していただければと思います。

【東野補佐】 大きく申し上げて3点ございまして、1つは情報調査、文献調査のところがございまして、天敵生物に関する情報、標的害虫、雑草に関する情報、非標的生物種に関する情報、天敵生物の生態学的影響の分析に関する情報、その他関連する項目というのを文献調査をする。それから、試験方法につきましては、大きく3点ございまして、1つはホストの特異性の試験をする、それから2つ目につきましては、休眠性の試験をする、それから3つ目は交雑性の試験をするということになってございます。これらにつきましては、すべて試験でできるものもあれば一部文献調査に頼らざるを得ない部分もございますが、大きく試験項目としてはこの3点がございます。このガイドラインにつきましては、環境省のホームページで公開されているということでございます。

【五箇委員】 実際に、では、今これ販売されているものについては、これらの影響評価はなされているというふうに判断してよろしいのでしょうか。

【東野補佐】 はい。

【梅谷委員】 知らなかったのですが、明治以来の既存の天敵、例えばベタリアテントウ、ああいうものも今はもう輸入できないのだそうですね。国内に既にいて、増殖しているものはいいけれども、新たに輸入するときはこの許可に入ってないというから、かなり厳しくなったなという感じです。これとか、クリタマバチの天敵なども登録になってないそうです。

【五箇委員】 登録制になっているから、登録を受けてないものは今まで使っていたものでも輸入ができる。

【梅谷委員】 今まで使っていたもので国内で増殖したものは使えるが、新たに輸入しようとしたときには、これに該当してだめなんだそうです。

【石井座長】 もう既に定着していると考えてられていても。

【梅谷委員】 いても、そうなんだそうです。

【石井座長】 それ正しいですね。

【東野補佐】 平成14年に農薬取締法を大改正いたしまして、それまでの農薬取締法は国内で販売しなければ製造しても輸入しても、あるいはこれを使用しても特に罰則がなかったということで、我々としては売られていないものを使えないだろう。あるいは売れないのだからつくらないだろう、あるいは輸入できないだろうということで運用しておったわけですが、法律の網をくぐるような事例が見られましたので、14年に大改正をいたしまして、そもそも登録がなければ製造も輸入も、それから飼養のところも罰則をもって禁止したということでございます。

【石井座長】 ありがとうございました。ほかの点、何かございますでしょうか。 ちょっと私から聞きたいのですけれど、この天敵の中で、種とか亜種とか、その辺、変種とかありますけれども、あるいは地域個体群ですね、そのあたりの扱いはどんなふうになっているのでしょう。

【独立行政法人 曽根課長】 これら登録になっておりますものにつきましては、元種というのですか、それが決められていまして、メーカーさんの方が申請するときにこういうものを使いますといったことで、その細かな亜種まできちっとできているものとできてないものがあろうかと思います。私どもの方としては最初に出てきたものの種の元種というのですか、それの特徴、それを全部調べ上げて、それが輸入されたり販売されるというのを確認しております。

【石井座長】 ちょっとその辺が心配なのですけれども、最初にそれをチェックすると。それで、それがチェックされてオーケーとなったらば、その後入ってくるものについては、もうチェックしませんよね。

【曽根課長】 それは、実際に売られているもの、あるは輸入段階ということもあり得ますけれども、通常は販売されている段階のところで、私どもの方は収集しております。そこで、農薬登録申請にきたものとの同一性、この場合には同一性になりますけれども、そこの確認というのはしております。

【五箇委員】 今の質問と関連して、例えばこの中にミヤコカブリダニありますよね。スパイカルと名前がついているの。これ日本にもいる種類というか、日本にも在来としている種類ですけれども、これは多分輸入されているのはドイツ産とか、違う国のものとか、いわゆるヨーロッパ産のものなのですよね。この辺に関してはどのような概念でとらえられているかということですね。要するに日本のものとの区別はされるのか、それともこれは同じ種だから、そういった検査に関しては同一性とみなされてスルーパスしてしまうのかということですね。

【曽根課長】 まず私も説明すればよかったのですが、もともと農薬登録するときには、化学合成品もそうですけれども、つくる場所、製造場所というのが、これも登録の中に含まれております。ですから、同じ生物がもしも、例えばどこそこのA工場でつくりますと言っていたのをほかのところでつくったりすると、それは農薬取締法上の違反になります。同じ届け出が出された登録された場所で、決められた製造法というのですか、培養法ですね、この場合には。増殖法でやったもの以外は禁止品になると。今の区別の話なのですけれども、私どもの日本のものと今すぐにミヤコカブリダニの場合にどうなのかというと、ちょっと私手元資料ないのですけれども、基本は農薬登録申請に来て、検査のときに出てきた見込み金というのを提出していただきますけれども、それとの同一性ということでずっと見ております。ですから、日本のとも見ることもあるのですけれども、今ちょっとここでどの点が違っているとか、そこは申しわけないのですがお答えできない状況です。

【高桑委員】 この登録されている15種類なのですけれども、これは実際に野生化するかどうかということの観点からも影響評価されているわけでしょうか。

【曽根課長】 先ほど農薬対策室の方からも説明ございましたけれども、やはり温度耐性とか、やはりあと休眠の有無等、その辺も見ております。ですから、そこから越冬の可能性を見たりとかするわけですけれども、中には越冬の可能性があり得るものもあります、この中にも。しかし、あとほか全体のこれ検査するときには、まず寄生習性とか、捕食特性とか、習性とか、そういった情報から、まずは外来生物の捕食についての把握ということがあろうかと思います。 それから次に、先ほど言った温度耐性とか、あと休眠の有無とか、越冬の可能性を、そこで主に文献になるわけですけれども、それを見ております。またあと、発生時期が今回登録するものはどういったときに発生する時期的な話、それから繁殖特性、病的な話も含めて、それからあとは生息場所とか、そういったところからそういう生態特性、そういったところから競争種と他の相互作用はどうなのかという観点も見ております。あとは、交雑性の可能性というのも検討しているのですけれども、在来生物に近縁種が含まれるかとか、あるかどうか、外来種にいるかどうかとか、近縁種とのそれこそ生態的特性、発生時期どうかとか、そういったことを比較するとともに、今回登録申請に上がっているものについての繁殖性、強さがどうなのかとか、そこを見て判断をしております。

【高桑委員】 結局、追跡調査をこれはされていますか。つまり、現実として野生化しているものもあるかないか、私よくこの仲間知らないのですけれども、現実として野生化しているものもあるのかどうか。もし、野生化しているならば、それは自然界の中でどういうふうなところにまで入り込んでいるのか。その辺のことはどうでしょうか。

【曽根課長】 野生化の確認自体は、私どものところでは今まだやっておりません。情報としては、一部文献等でチリカブリダニですか、それがこの、実は農薬登録云々のものとは別の、もっと前に入れられて一部、それが一部地域で越冬したり残っているのではないかというような文献も一部あることは承知しております。しかしながら、一般論的に考えますと、実際これ、すべて今のここに登録になっているものは使う場所は施設、ハウスの中でございます。実際効果をあらわすには、やはり野外でやるとどうしても移動がございますので、効果が出ないということで、使う場所としてはハウスということが今の登録では限定されております 。
 実際、越冬とか残る話がもしもそこに定着してしまうと、本当言うとこれらはメーカーも売れなくなるもの、販売しなくてもいいわけですから、になろうかと思います。今までのところそういったような、今まで使っていたハウス周辺に定着しているから使わなくても済むというような情報というのは、私ども入手はしておりません。

【桐谷委員】 今、この挙げられた天敵のいろいろなキャラクターですね。ホストレンジとか、あるいは交雑性とか、こういうものを実際に使って輸入をしないとか、そういうことを決めるためにこれ使っているのか、これは天敵の1つのキャラクターリスティックになりますね、天敵として有効性があるかどうかというための判断に使っているのか、これにどれかひっかかればそれはもう輸入はできないという立場で、これ決められているのか、ちょっとその辺がはっきりしない。

【東野補佐】 登録に当たっての環境への影響を評価するガイドラインですから、重大な欠陥があればガイドラインに適合しないということになれば、登録自体ができないということですので、製造も輸入も禁止するという立場で見ております。

【桐谷委員】 今までにそれを拒否したというような事例、何かございますか。

【東野補佐】 これは法律、14年改正しまして、15年の3月からでございます。今のところはございません。

【石井座長】 ほかございますでしょうか。

【五箇委員】 ちょっとしつこいようであれなのですけれども、ヤマトクサカゲロウもこれ在来でして、これ多分学会レベルではたしか交雑実験もされているのですよね。たしか雑種ができるというような発表もあったと思うのですけれども、これは一応交雑性ありというふうな判定は、その場合には出ないのですかね。

【桐谷委員】 これ同種でしょう。

【五箇委員】 同種なのですけれども、輸入品ですよね、このカゲロウそのものも。向こうの工場で生産されているので、ヤマトクサカゲロウも一応ヨーロッパにも分布しているはずなのですね、このカゲロウは。いわゆる形態的には同種とされるものは。由来そのものはよくわかってない状況になっていますから、その辺、これ実際もう既に登録して売られているということなのですが、その辺の、要するに今おっしゃられましたそういう影響評価ガイドラインの上では、どのような評価のもとでこれはパスしているのかなというのが少し気になったのですけれども。

【曽根課長】 交雑の可能性はこの場合には否定できないと思っています、私どもの方も。しかし全体のほかの規制範囲、それから交雑ですから、あと競争種等の話からみれば、現実的な状況としては大きな問題ないのではないのだろうかという、そういう判断でございます。

【石井座長】 では、下から5番目のナミテントウですけれども、これも外来のものを入れているわけでしょうか。

【曽根課長】 ナミテントウは国産でございます。国産というか、もともと茨城の方からとった原産のものでございます。日本産。

【石井座長】 日本国内でもその茨城のものだけが使われているという意味ですね。

【曽根課長】 登録するときに、どこの元生物かというのが決められておりますので、ナミテントウの場合には日本のナミテントウを由来としております。

【石井座長】 国内の外来の問題はちょっとこの法律は扱わないことになっていますから、何とも言えませんけれども、なかなか難しいところがありそうですね。ほかにございますでしょうか。

【五箇委員】 実際問題、天敵農薬そのものはまだシェアが非常に小さいというか、輸入量の方も考えなければいけない状況で、実際輸入量がどれぐらいか把握されておられるのであれば、その辺も数字で出していただければということと、あと今ハウス内で使うからというのもあるのですが、実際は午後にも分科会がありますけれども、マルハナバチもハウス内で使うことを前提にしていながらも、結局は野生化という問題が起きてしまっているということを考えると、そういったこと自体は余り言い訳にはならないだろうというふうには考えられるということ 。
 それと、先ほど質問したように、実際に輸入量とか使用量の問題、これはまだまだ小さいものですから、今、僕個人的にはセイヨウオオマルなどに比べれば、インパクトというものはそれほど大きいものではないだろうというふうには考えられるのですが、将来的に産業そのものが成長するということを考えれば、できればきちんとした評価ガイドラインと同時に、モニタリングシステムというのは将来的には必要になってくるのではないかなという気はします 。
 一応、質問としては輸入量使用量に関して大体どれぐらいのものなのかということを把握されているのであれば。

【東野補佐】 では、後日。

【石井座長】 五箇委員がまとめてくださったようなので、ちょっと今日は時間がタイトになっていまして、私の進行表によりますとそろそろ時間切れということであります。どうも農水省の方ありがとうございました。
 それでは、続いてクワガタ類についての議論をしたいと思います。ご用意いただいた資料について説明していただきたいと思いますけれども、まず最初に事務局の方から、概要について説明お願いします。

【堀上補佐】 それでは資料2-2に基づきまして説明をさせていただきます。前回、クワガタムシにつきましては、社会的に関心が高いということで、特に輸入量が多いということと、飼われている方が非常に多いということで、飼養等の関係者の方々からヒアリングを行った上で検討を進めるということにされてございます。
 もう1つは、指定されるかどうかにかかわらず、利用者に対してきちんと外来生物問題の意味について普及啓発していくことが重要であるということがご指摘あったところです。そういうことを踏まえまして、事務局の方で資料2-2の中で外来クワガタムシ類の特徴と取扱いにかかる留意点ということで、概略的にまとめさせていただいております 。
 まず1番ですが、利用等の実態でございますけれども、1999年以降、植物防疫法の有害動物に該当しないとされまして、外来のクワガタムシ、あるいはカブトムシがペットの、あるいは観賞用の目的で多量に輸入され、国内で流通されているという状況でございます。現在、輸入されていると言われております外来のクワガタムシ類につきましては、これはカブトムシも含めてですが、2001年の輸入総数で200万頭を超えるというふうに言われておりまして、特にその中でも輸入数が多いとされておりますのが、ここで挙げております4つの種類です。アトラスオオカブトについては20万頭以上、オオヒラタクワガタは10万頭、コーカサスオオカブトについては6万頭以上、アルキデスヒラタクワガタは5万頭以上と、これは後ろに書いてありますが、参考文献6番のトラフィックイーストアジアジャパンの方でまとめております市場調査の結果から、一応こういった数が出ておるところでございます 。
 それで、国内の流通量、飼養者数の実態そのものは、実は明らかではありませんが、非常に簡単にもう入手できる状況にあるということで、近年におきましては意図的と考えられる放虫、遺棄してしまう事例も報告されているということで、逃げ出したり、逃がしたりといったことでいろいろな影響が出るのではないかということが懸念されているところでございます。その影響につきましては、2番の方で取りまとめておりまして、ここでは特に3つの観点で挙げております。1つは遺伝子汚染、もう1つは競合、それから随伴生物による影響ということで掲げております 。
 最初の○につきましては、ヒラタクワガタなど在来種、亜種と近縁なものについて、屋内の実験ですが交雑が確認されておりまして、遺伝子汚染が出てきてしまう可能性があると。ここで挙げております幾つかの種類については既にF1個体が確認されていたり、そのF1個体もさらに稔性が確認されているというような状況でありまして、それが野外でどうなるかというのは、はっきりしているところではないわけですけれども、実験下ではそういった事例が確認されていると。スマトラオオヒラタクワガタにつきましては在来亜種のヒラタクワガタとの雑種が野外で発見されているという状況でございます 。
 もう1つは競合ということなのですが、成虫あるいは幼虫が在来のクワガタムシと競争することによりまして、在来種の生態的地位を脅かす可能性があるということの指摘もございます 。
 それから、外来クワガタムシ類に随伴して導入されるダニとか、寄生虫、それが国内の在来のクワガタムシにどういう影響を与えていくのかと。そこがはっきりしてないのですが、そういった被害を及ぼす可能性も指摘されているところでございます。国内に入ってくるそういったクワガタムシ類につきましては、さまざまな地域から輸入されておるわけですけれども、温帯の生息種だけではなくて、国内におきましては沖縄ですとか小笠原といったところは、熱帯、亜熱帯に生息する種も越年が可能ではないか、越冬するのではないかということがありまして、その定着の可能性ということも指摘されているところでございます。ただ、定着実績にかかるデータというのはまだ示されていないと、そういう状況にございます 。
 3番に取扱いに係る留意点としてまとめておりますのは、1つは、そういった室内実験で交雑が確認されておりますヒラタクワガタの仲間については、その生態系への被害のおそれというものが指摘をされてございまして、その取扱いについて十分検討していく必要があるであろうということが1つ。もう1つは、定着にかかるデータというのが野外でのデータがございませんので、その調査の実施ということも検討していく必要があろうと。裏にいきまして、一方で非常にたくさん流通して、非常にたくさんの方々が既に飼育しているという状況にありまして、小さなお子さんも多く含まれているということでありますので、きちんと問題の所在、内容について普及啓発していくことが重要であろうということも掲げてございます。その他の留意事項としましては、本来輸入が認められてない種、カブトムシ等についてはそういうものもあると思いますが、そういったものも販売されているということが見受けられていると。それから原産国、この法律自体は国内での生態系影響ですけれども、原産国において乱獲されたり、個体数が減少していくことによって、原産国での影響というのが一方で指摘されていると。そういう社会的な背景がございます 。
 事務局の方でまとめた資料は以上でございます。

【石井座長】 ありがとうございました。ただいまのところ余り質疑を追っていかない方がいいのかな、ここで。何かあったら特段お願いしたいと思うのですけれども 。
 なければ、時間もありますので、続きまして、まず荒谷先生の方からご発表お願いいたします。

【荒谷委員】 どうも初めまして、荒谷と申します。座ったままで失礼させていただきます。
 私の方から一応、日本産クワガタの種類の特性と、外国産種の定着可能性・影響予測ということで、今から少しお話をさせていただきますが、今日、私どのような立場で呼ばれたのかがいま一つわかっておりませんで、とりあえず皆さんが思っている以上にクワガタムシというのは非常におもしろい、また且つほとんどわかっていない部分が多い、それゆえにこうした問題を取り扱うときにはより慎重な態度が必要であるということを含めまして、最初、ご存じの方も多いかとは思うのですけれども、日本産のクワガタムシについて、クワガタムシというのはこういうものだぞという意味を含めまして、少しご紹介をしながら話を進めてまいりたいと思います 。
 お手元の資料、2つ用意させていただきました。A3版2枚なのですけれども、片方が表の面だけ、片方が両面になっております。ちょっと汚いコピーで申しわけありません。手書きなども加わっておりますがご容赦ください。まず日本産のクワガタの種類の特性ということで、世界にはクワガタムシが約1,200種類、ところがこの種類数というのも研究者によってまちまちになります。先ほど天敵農薬のところでも問題になっておりましたが、どこまでを1つの種類と見るか、どこまでを1つの亜種と見るか。実はこのあたりのことがこうした外来種問題を含めて、ある種について検討する場合に非常に重要にもなりますし問題にもなります。こうした意味であえて書かせていただきましたが、世界の1,200種類としたところで、日本産のクワガタムシの種数が一応39種類、そうした意味では1,200分の39ですから、決して種の多様性というレベルではそう高いものではありません。ただ、日本のクワガタムシ層がいかにおもしろく貴重であるのかということを少し強調させていただきます 。
 まず1つは、日本は大陸から分かれた島国であります。そうした意味で非常に固有性が高いということ。39種類のうち一応20種類、日本産の固有種と、ほかの国には産していないものというとらえ方ができます。その中でも特に伊豆の御蔵島とか、神津島などにおりますミクラミヤマクワガタと呼ばれているものなどは、近縁種は中国大陸のごく内陸の奥地の方にいるだけというような、非常に古い時代には広く分布していたものが、周り全部いなくなってしまって、今はなぜか伊豆諸島だけにぽつんと残っているという、いわゆる遺存固有の例とされるようなものもあるというイメージです 。
 それから、お手元の資料で図の[1]ということで用意させていただきましたが、これはミトコンドリアのDNAを使って我々の研究室で書いた日本産のクワガタを含めた世界のクワガタの主だった属を取り出してきたものの系統樹です。丸で囲ってありますのが日本産のクワガタが入れてあるわけですけれども、これを見ていただきますと、この系統樹、下にいくほど古いもの、より古い系統群だとお考えいただいたらいいのですけれども、クワガタの中で一番最初に分かれたぐらいのマグソクワガタとか、ツヤハダクワガタと呼ばれているものから、比較的最近になって非常に多様性を増したであろうというノコギリクワガタ、シカクワガタに至るまで、非常に何と申しますか、バランスよく日本には産しているのだなというイメージがわかっていただけるかと思います。これが日本産のクワガタの大きな特徴です。 もう少し申しますと、先ほど種の多様性は余り高くないと申しましたが、分類学的で言うところの非常に高い分類レベルですね、いわゆるトライブと呼ばれている族、あるいはサブファミリーと呼ばれている亜科、このレベルで非常に多様性が高い、いろいろなものが産しているという特徴が日本で挙げられます。要はそれは世界の族とか、サブファミリーで言いますと、大体半分以上のものが日本にいる、南半球特産の小さなものを除けば、小さなグループを除けば、実は日本に8割近いクワガタの大きなグループが産しております。つまり言い方を変えると、日本はクワガタのまさに世界の縮図であるという言い方ができます。これは結局日本が旧北区と東洋区という大きな生物地理区の境界にあるというところが非常に大きな影響を与えるということで、軽くこの辺は話をさせていただいております 。
 あともう1つ、日本の大きな特徴、日本は山国でもあり島国でもあり、そのことが非常によくあらわれているのが、亜種だとか地域個体群レベルでの非常に多様性が高いということ、遺伝的な多様性をも含んでおります。それが資料で用意させていただきました[2]から、今度別の紙になります[2]、[3]、[4]のところで用意させていただきましたが、五箇委員の方がよくやられておりますヒラタクワガタのそれぞれの島ごとの地域個体群がきちんとあらわれているというのが同じ状況であらわれているのが、例えばノコギリクワガタの分、これが[2]です。それぞれの島ごとに琉球列島の地史を反映してきれいにクレードが分かれております。それから島だけではございません。日本の高い山に分布しておりますツヤハダクワガタと呼ばれている、いわゆる内陸の種ですけれども、これも実は山ごと、山塊ごとにかなり遺伝的な分化を示している。亜種として明確に区別できるだけでなく、遺伝的にもかなり、例えばフォッサマグナですとか、中央構造線などを境にした地域個体群をはっきり認識できるというものが3番、4番であります。この日本産のクワガタムシというのは、種としての多様性はともかく、大きな意味での大きな分類単位での多様性、そして遺伝的多様性をも含む非常に小さなレベルでの生物多様性を保持しているという意味で、非常に貴重であるということができると思います 。
 このような認識をもとに、今回のようなこういう外来のクワガタがどのような影響を与えるか、ただでさえクワガタムシの生息地というのはいろいろな意味で狭められております。いろいろな意味で、ちょっと過剰な商業的なブームなどもありまして、行き過ぎた採集などもあります。そういう中で最後だめを押しているのがこうした外来種の問題かもしれないということを念頭に話を進めてまいります 。
 先ほど年間の輸入量その他の話、事務局の方が用意してくれた資料の中にもありますけれども、私が現在までに把握している、野外でこんな外国産のものがとれちゃったよというもの、一応62件ほど把握しております。ただ、これはあくまで私が把握しているだけなので、当然もっと氷山の一角であろうと思われます。その中でやはり一番多いのが先ほどの輸入量の多さを反映して、クワガタムシではオオヒラタクワガタ、そしてカブトムシではアトラスオオカブトムシです。 ところがこれ、少しおもしろい傾向がございまして、詳しくは省略させていただきますが、2001年から2002年ぐらいをピークに、大体この年は年間で20件ほどそういう話があったのですけれども、ここ2年ほどは実はかなり沈静化しております。昨年に至っては実は5件しか私のところに情報として入っておりません。ただ、これをどうとらえていいのかというのが非常に微妙だということです。ブーム自体が沈静化して、ある程度こういうものの流通が少なくなった可能性もあります。それから、一番怖いのが今さら取れてしまってももう話題にならないというような部分があって、昔でしたらこんなものをとっちゃったという人が喜んで新聞社に売り込んだりしていたのが、そういうのがなくなってしまった可能性もある。それ以外に私はこれを信じたいのですけれども、やはりここにおられる委員の方々、あるいはアマチュアの方々、業者の方々を含む啓蒙活動の結果として、ある程度こういうのが行き渡ってきたのではないかという期待もいたしております。ただ、その影でもう1つ記憶してなくてはいけないのは、ブームが沈静化してきておりますので、実際に非常に言葉は悪いのですけれども、業者が淘汰されてきておりまして、一部業者が、はっきり申し上げたらつぶれたりとかするのですね。そういった場合に、飼っていた虫を一気に大量放棄するという可能性が最近出てきております。千葉の方で、あれは死体でしたけれども、ドラム缶いっぱいの外国産の虫が何か放置されていたとか、そんな話も伝え聞いておりますので、今後ブームの沈静化に伴って、場合によっては大量放棄が一気に起こるかもしれないということは危惧する点だと思います 。
 続きまして、定着はあり得るかということで話を進めさせていただきますが、先ほど事務局の資料の中で、定着の可能性について幾つかお話がありました。私としては結論から申し上げたら、熱帯産と呼ばれているクワガタでも恐らく日本の本土の大部分で定着でき得るであろうという気がしております。その根拠といたしまして、資料の方で用意いたしました5、6、7番、これはただ単に大体クワガタの産地と申しますか、名所とされているマレーシアのキャメロンハイランドですとか、アンタエウスオオクワガタなどで有名なネパールのカトマンズ、そのあたりの単純にその気候の気温ですね、そのデータを持ってきているだけです。 何を申し上げたいかと申しますと、熱帯と申し上げてもクワガタの多様性が一番高いのは、やはり標高1,000メートル以上のカシ林なのですね。そうなりますと、例えばキャメロンハイランドのこの気温を見ていただきますと、最低気温、特に今までに記録された一番低い気温などというのになると、何と2度というような記録があるのですね。こういうところに産しているクワガタですから、恐らく日本の暖帯であれば、小笠原とか沖縄に限らず定着するものがかなり出てくる可能性はあろうと。カトマンズについては言うに及びません。もうヒマラヤのふもとですから、下手することこの辺より寒いかもしれません。そういう気候です。 私がこの場で1つ定着可能性についておもしろい指標となり得るのかなということで用意させていただいたのが、[8]と[9]です。一つ一つについては例えば休眠の可能性とか、温度耐性などを調べていけば、確かに言うことはないのですが、今現在クワガタが輸入されている量、あるいは種類数を見渡しますに、一つ一つ検証することはまず不可能です。そういった場合に、1つ目安になろうかなというのが、要するにさなぎの期間の有効積算温度ですね。さなぎの期間が例えば20度で一体何日さなぎの期間があったか。それを1つの指標として持ってまいります。これクワガタの大きさが小さいと当然早く羽化しますし、大きいと時間がかかります。ですから、ここに書いてあるグラフは横軸の方に目安として幼虫の頭幅を大きさの目安としてとっております。縦軸にその有効積算温度ということで、ある温度で何日かかったかということを掛け算した値ですね。右側の8番を見ていただきますと、これ日本産のクワガタをだあっと並べてあります。マダラクワガタ、ルリクワガタなんていう非常に小さなものから、マルバネクワガタなんていう最大部分まで、右上がりの直線を示すということは先ほど申し上げたとおり、大きなものほど時間がかかるという単純な傾向をあらわしております。ただその中で、●であらわしております、いわゆるヒラタクワガタのたぐいですね、これを見ていただきますと、やや微妙な部分はありますけれども、大まかな傾向として本土のヒラタから、アマミ、オキノエラブ、オキナワ、そしてサキシマと、南の方に行くほど有効積算温度が余分にかかっている。大きさを反映しつつも、南のものほど少し時間がかかるよと、これは明確にあらわれております。クワガタの幼虫期間というのは、実はえさ条件によってめちゃくちゃ変わります。場合によっては2、3カ月で親になったり、それが2、3年かかったり。それに対して、このさなぎの期間というのはかなり安定しているというのを経験上、我々も経験しておりますので、こんな値を考えてみました。 それをもとに、9番の方でちょっと問題になりそうなクワガタ、外国産のクワガタについてパプアキンイロですとか、ヨツバオオクワガタですとか、そんなものがどれぐらいの位置になるかなというのを、これを大きな▲印であらわしております。点線で囲んでおりますのが日本産のものの範囲です。そうすると、例えばアカアシツヤクワガタ、オドントラビス属のこうした巨大なものは、さすがに有効積算温度から考えても日本ではつらそうですけれども、点線の中に入るものはもしかしたら定着し得る可能性があるのではないかという、一つの目安になるのではないかとお話です。ただ、これもそれぞれの種に対して検討する必要がありますので、まだまだこれから先データの蓄積が必要かと思います。 こうした外国産の定着の問題を考えますときに、日本でも実は既に国内移入で幾つか定着したクワガタ・カブトの話がございます。それについて今後の動向の予想ということで少し話をさせていただきます。取り上げたいのが、これはまず皆さんよくご存じだと思いますが、北海道でのカブトムシの事例、北海道にはもともとカブトムシ、いわゆるカブトムシはもともと産しておりませんでした。ところが1970年代、80年代ぐらいに、子どもに夢をかなえようということで、大量に北海道で飼育を試み、それが結局飼育場が放棄されたという現状があります。その結果、今北海道では知床まで、あるいは稚内の先っぽまで、知床のはさすがにこの中に記録として出ておりませんが、私が実はとっております。それから、稚内の先っぽまでもうカブトムシが、夏、灯りがついていれば飛んでくる、そういう状況になっております。潜在的な昆虫の持つ順応性の高さというものを本当に示しているのではないかと思います。 そしてクワガタにつきましても、最近宮古島、あるいは喜界島で今まで全く記録のなかったヒラタクワガタが大量にとれるという事例が発生しております。その中で特に宮古島について、これ私自身がちょっと調査した結果なのですけれども、ちょっと地図が見にくくなって申しわけないのですが、[10]の地図で宮古島の上の半島の付け根のあたりに大きく○で囲ってあるあたり、このあたりでヒラタクワガタが今大量にとれます。そのヒラタクワガタについて形態的な部分、それから遺伝的な部分で見たのが[11]ですけれども、これ沖縄のヒラタクワガタに間違いありません。つまり、本来いないはずの沖縄のヒラタクワガタを数年前にだれかが持ち込んで、少なくとも宮古島のこのエリアでは完全に定着しているということです。 こうした事例から考えますと、外国産のクワガタ、あるいはカブトムシが定着した場合に、思いのほか早く分布の拡大、あるいはずっと発生を続ける、そういったことが予想できるのではないかというお話です。 ちょっといろいろな話が混じりますので、はしょって申しわけないのですが、もしそのように外国産種が定着した場合に、いわゆる在来生態系、あるいは在来種に対してどういう影響があるかということを最後に軽くまとめさせていただきます。 事務局の方のお話にも、あるいは後からお2人が話される部分でもかなりふれられると思いますが、まず植物への加害、これは別に農作物に限らず、植物へ加害するであろうというクワガタが意外に多うございます。実際にはそこにも書いてございますが、ヒラタクワガタとかツヤクワガタ、あるいはホソアカクワガタ、そして今回、13番ということで実際に私が実験をしてみました。パプアキンイロクワガタですね、このあたりのクワガタというのは実は野外でも木の枝先を削って樹液を出したり、あるいはパプアキンイロクワガタに至ってはキク科植物の茎をちょんちょんちょん切って、そこから出る汁をなめると、実験的にやりますと、もうイチゴからソラマメから日々草から、もうどんどんどんどんやってくれるのですね。こういう事例がございますので、植物防疫法のもとで決して害虫にならないだろうと言われているクワガタの中にも、もしかしたらなり得る可能性があるというものが含まれているということをあえてご指摘させていただいております。 それから、今回の環境省からの側面ということですので、主に環境に対する評価ということでは、やはり生態的なニッチ(生態系の中での位置)が類似した在来種への影響ということを真剣に考えなくてはいけないということです。その中で、えさ資源をめぐる在来種の競合ということが成虫の場合、非常にイメージがしやすいかと思うのですが、クワガタの場合、1つ気をつけなくてはならないことがあります。それは結構身の周りのクワガタというのは、案外うまく棲み分けたり、食い分けたりしているのですね。例えばノコギリクワガタとミヤマクワガタ、あるいはオオクワガタとヒラタクワガタ、非常に生態的ニッチもよく似て見えます。ところが実際には、例えばノコギリとミヤマというのは微妙に、例えば関東ではノコギリが割と低地に多くて、関西では割と低地にはミヤマがいるとか、そういう微妙な住み違いもあります。それから、実はノコギリとかミヤマというのは、結構昼行性、割と昼間活動する傾向が強くて、そのほかのいわゆる黒い平たいオオクワガタとかコクワガタ系とは、結構(時間的に)棲み分けているのですね。それからオオクワガタと実はヒラタクワガタというのも、同じところでとれる場所も結構ありますけれども、大きな分布で見たら、かなり側所的で、棲み分けているとまでは言いませんが、かなりきれいに分かれているのですね。そういった意味で結構あいつらはうまくやり分けています。そこに外国産種が入ることで、そのバランスが崩れてしまうという可能性は非常にあります。しかも、これは後からまたふれさせていただきますが、クワガタの場合、非常に種内多型、個体変異が高うございます。その個体変異がもたらす予期せぬ影響というのがあり得るという部分もあるということです。 この話の前に、成虫とともに幼虫について少しちょっとお話をさせていただきたいと思います。幼虫の場合には実はこうした外来種との競争が起こったときに、成虫よりももっと深刻な可能性が出てくるということを指摘させていただきたいと思います。資料の方の2枚目、ちょっと裏返していただきまして、実はクワガタの幼虫の食性というのがもともと私、専門なものですから、つい話が膨らんでしまうのですがなるべく簡潔にまとめます。ご容赦ください。実はクワガタの幼虫というのは皆さんご存じのとおり、腐った木を、あるいは腐った木由来のデトリタスなどとよばれる腐食物を含むものを食べております。ところが、山にある木だったら何でもいいか、決してそうではありません。例えば[14]ということで用意させていただいたのは、日本のブナ帯のクワガタの幼虫が、どんな腐朽型、腐朽型と申しますのは、同じブナの材でも、つくキノコが異なると腐り方が変わってまいります。抹茶色になって簡単にブロック状に割れるような褐色腐朽とか、皆さんがよく知っているオオクワガタなどが入るのは例えば白色腐朽です。これ実は成分科学的にも(木材の細胞壁に含まれている)リグニンが残存するとか、セルロースが結構残っているとか、全然違ったえさ資源になります。同じ樹種であってもつくキノコによって全く違ったえさ資源になります。しかもそれがタイムスケールのもとで時間とともに、例えばシュウ酸の蓄積などがあって酸性度が変わったりして、本当にクワガタが利用できる材の状態というのは、材が例えば倒れて腐っていく中の、本当に時間断面で言うとごく一瞬でしかないのですね。そういう意味では、朽木資源というのは森林の中で無尽蔵にあるように見えて、実はかなり限られております。しかも幼虫の場合、親に卵として生まれて、そこから発生すると、チョウの幼虫とかと違って自分でのこのこと材からはい出して、次の材に行くことはできません。つまり、例えば成虫の場合でしたら樹液で自分より強いでっかいクワガタとかカブトが来たら飛んで逃げることもできましょう。でも幼虫の場合には、そこに大きな外国産の例えば幼虫がいたとしたらもうやられるしかないのですね。ちょっと言葉悪いかもしれませんが、そういう側面があります。 その辺、[14]で用意したのはブナ帯のクワガタの腐朽材の特性に対する選好性ですね。それから[15]で簡単にシェマ(図)で用意したのが、これ実はヤンバルテナガコガネなどもそうなのですが、マルバネクワガタとか呼ばれるたぐいは、実は沖縄などの非常に大きな直径のカシとかシイの木のしかも樹洞ですね、ほらがあって、そのほらにゴキブリとか、シロアリが巣くっていて、そこから木くずが生産されて、その木くずがほどよく腐ったという条件がようやく重なって発生できます。こういうところに同じようなニッチを好む外国産、例えばテナガコガネなんかが入ってきたり、あるいはマルバネクワガタのたぐいが入ってきたら、かなり深刻なダメージを受けます。しかもそれ(食性の進化)が系統的にちゃんと反映されているのだよという話が[16]ですね。 そのようなイメージで私が強調したかったのは、競合という意味で成虫についての影響というのは皆さん割とイメージしやすいのですが、実は幼虫の方が深刻であると。もう1つ申し上げますと、森林の中でその木材の資源というのが意外に無尽蔵ではないよということに関連して申し上げれば、外国産の巨大な幼虫が入り込んで、物理的にトンネル掘ってがばがばがばがばやっていくだけで、木材の腐朽のスピードというのは格段に上がってしまうのですね。好気性の条件ができ上がりますし、菌糸がはびこりやすいトンネルができます。そうすると、本来だったら日本のクワガタだったら10年かけて分解していたような、10世代かけて極端に言えば利用していたような木が、2、3年でだめになってしまうかもしれない。そういうスピード的な物理的な分解のスピードの意味でも、外国産のクワガタが入ることで(日本産の)幼虫の立場はなくなるかもしれないということです。 あと、成虫についての部分で、種内多型がもたらす予測できない競合の可能性ということで、[17]、[18]のような資料を用意させていただきました。これはどういうことかと申しますと、クワガタの場合、大型のクワガタの中で、幼虫のときのえさ条件が悪かったりするとどうしても小型でしかなれない例えば個体が出たとします。そういう個体はけんかしてもどうせむだですから、小さな体、小さなあごしかない割に、例えば後ろ翅が相対的に大きくなっている。移動能力にかけてメスを探すような戦略をとる、例えばそういう戦略の切りかえをすることが知られております。しかもそれがもっと大きな地理的な側面を背景に出てきているのが、例えば[17]、[18]で、DNAなどをやっていろいろ系統関係を調べてまいりますと、例えば日本のアマミミヤマという固有種は、台湾のタイワンミヤマ、それからインドシナにいるこのヘルマンミヤマですね、この系統の一群です。これらはちょうど北に上がるごとに体が小型化して、上あごが小さくなっていて、生態もかなり変わってきています。 同じようにマレーシアあたりの、いわゆるヨツバヒラタクワガタ、ライヒヒラタクワガタと呼ばれているやつですけれども、これもマレーシアからインドシナ、そして台湾にいくとセスジオオクワガタということで、これ遺伝的にはかなり近いものなのですけれども、見たところ、いわゆるオオクワガタサイズからスジクワガタサイズにまで変化しております。北に定着することでこういう小型の個体群として定着するのですね。そうすると、例えば原産地で、こいつは大きなクワガタだから、日本に入ってきたらオオクワガタとかヒラタクワガタと競合するに違いないと思ってみたら、定着してふたをあけてみたら、小さな個体群として定着して、コクワガタとかスジクワガタとの競合が起こる可能性が出てくるわけです。 そうした意味で、原産地の単純な生態を見ているだけでは、日本で定着した場合の予測ができないということをどうかご留意ください。 クワガタの場合にはこうした幼虫だとか、成虫の場合の多型ということが予期せぬ影響を与えるということです。それから、事務局の方の方の話の中で、捕食についての可能性の指摘がなかったのですが、実はクワガタの幼虫、腐朽材関係を食べるといっても、結構肉食性が強いものがあります。特にツヤクワガタと呼ばれているオドントラビス属などは、これ実は[19]の写真がそうなのですけれども、共食いもしますし、ほかの幼虫を入れておくと他種の幼虫を食います。というのは腐朽材資源というのはもともと窒素分をかなり少ないですから、やつらにしてみると窒素を補給するために結構ほかの虫を捕食するということはやり得るのですね。こういった意味でクワガタ、特にカブトムシとかハナムグリの幼虫はばんばん捕食します。そういう意味で、この捕食という影響も実はあり得るんだということをちょっとここで強調させておいてください。 あと、4番、5番の寄生虫とか病原性媒介について、あるいは遺伝子汚染については、もう既に五箇先生のお話、その他でいろいろ事務局の資料の中にも入っておりますので、詳しくはふれません。割愛させていただきます。ただ、その交雑実験について、一々いろいろなタクサ(種や亜種)を取り上げてやるのはなかなか物理的にも辛うございます。そういう中で、1つ目安になるのが、染色体様式などを調べてみると、少なくとも必要条件みたいなものはわかるのではないかというのが、その[20]の図です。日本産のクワガタでいろいろ染色体様式、特に2nイコール幾つというのと、さらに性染色体のy染色体の形がちょっと違うのですね。xypとか、xyrとか、ちょっと見にくいですけれども、そんなふうにあらわしているものです。 実際に例えば[20]の中で、上の方のコクワガタとリュウキュウコクワとオオクワガタのあたりというのは実は簡単に雑種が実は野外でもできています。リュウキュウコクワとコクワ、同所的にいませんから人工的なものですけれども、オオクワとコクワというのは、実は雑種が野外でもちょこちょことれているのですね。これは実は染色体様式が全く一緒であるということにかなり起因している部分はあると思います。ですから、あくまで1つの目安、染色体が違っていても実は交雑は起こり得ますし、一緒だからといって起こらないかもしれませんけれども、ある意味必要条件として注意事項として見るのには損はなかろうというデータとして少し提供させていただきました。 以上、いろいろ申し上げてきたのですけれども、ここで最後にクワガタというのがある意味、今までの私の話で非常におもしろい、でも意外にわかっていないのだなということがある程度わかっていただけたとともに、先ほどの天敵農薬のところでも問題になりましたけれども、こういう外国産種云々、その種ということを問題にするときに考えていただきたいのが、クワガタの場合には系統分類学的なそういう混乱というのが非常に大きいということ、例えば今一番問題になっている雑種がとれているよなんていう、スマトラオオヒラタクワガタ、でも分類学的にちゃんといったときにスマトラオオヒラタクワガタの学名は、ある意味確定していません。ティタヌスティタヌス(titanus titanus)という原名亜種をあてるしかないという議論になりますが、実際には確定していません。これは後からむし社の藤田さんの方からおそらく詳しいお話があると思いますが、私が21番ということで転用させていただいたのも、実は藤田さんがお持ちのきれいなカラー資料のがありますから、そちらの方で見てあげた方がいいと思うのですが、例えばオオヒラタクワガタと呼ばれているのは、種で言えばドルクスティタヌスになります。ティタヌスのタイプロカリティ(模式産地:ホロタイプが採れた場所)はセレベス(スラウェシ)のマナドだということがわかっておりますので、ここにあるヒガシスラウェシヒラタというのが一応ティタヌスティタヌスという原名亜種に相当する、これは多分確かでしょう。 ところが、その前にみんなティタヌスはて(?)はて(?)はて(?)はて(?)というの(地域)がずっと連続してまいります。どこまでをティタヌスティタヌスの範囲と見るか大問題です。それによってはスマトラオオヒラタクワガタは極端な話、スマトラ、例えばティタヌススマトラヌスなんていうのができるかもしれないし、ティタヌスティタヌスでおさまるかもしれないし、それは五箇先生のやっておられたこの遺伝的のやつを見ても、それぞれの島がいろいろな意味でクラスターをつくるのは確かなのです。ところがその島の相互の関係まで至ったときに、どこまでを1つの亜種と見るか、種と見るかというのが非常に困るのですね。もっと言うとオオヒラタクワガタと呼ばれている中に、実はダイオオヒラタ、今これ完全に別種とされているものが完全に22番の図で見ていただければわかりますが、入り込んできています。むしろインドシナとか中国大陸のやつらが別のクラスターをつくっています。例えばここにウエスタマーニーなんていう種名をあてると、日本産のものはドルクスウエスタマーニーピリファー(Dorcus westermani pilifer)というふうに分類学的に整理がつくかもしれません。そうなると、オオヒラタクワガタということでティタヌス云々とかいった問題はとんでしまうのですね。ですから、こういったクワガタの場合には実は種内多型が多いということも含めて、なかなか分類学的な整理というのが全然できておりません。このあたりのことをきちんとおさえていかないと、ある意味縛りもきませんし、とんでもない間違った議論をする可能性があるということです。 そしてもう1つ問題なのが、23番のところにあえてこれ出させていただきましたが、今、和名だけが先行したいろいろな産地のクワガタのブランド化ですね。そういうものが起こっています。例えば、ヒラタクワガタで海王ヒラタだ、帝王ヒラタだ、これはもう既にこの亜種名で記載しようかなどという動きがあったという話も聞いておりますが、こんな和名だけが先行してブランド名として定着しているのですね。でもこいつら、いざ、では何か例えば、規制をかけようとか云々とかいうときに、学名としての規制がかけようがないのです。そういう現状が出てまいります。 ですから、申し上げたかったのはクワガタの場合には今の現状を考えるに、これだけ流通している、出回っているものを例えば一気に規制をかけようとかいうのは、ほとんど不可能に近いし、僕は正直、あえてこの立場で言わせていただいていいのかわかりませんが、ナンセンスに近いものがあると思います。むしろクワガタについては、より基本的な情報、基礎的なデータですね、それを蓄積するとき、そのときには実際に飼っておられるアマチュアの方とか何かからの意見の吸い上げですね。実際に例えば交雑実験その他はアマチュアの方の方がよほどやっておられるはずです。ところが、それを公開できるような土壌にない、悪く言えば後ろめたさがあるような部分があるかと思うのですね。そういうのを素直に提供していただけるような場をつくるとともに、我々研究者相互とうまく連絡しあってやっていかないと、現状はなかなかわかりません。 さらに飼育の場合には例えばマット産みなどと呼ばれている、木くずの中に卵を生むやつが、野外では木くずの中に卵を生むことはあり得ないのですね。そういう意味では飼育で得られた経験というのが、実は野外とは違うという注意も必要です。そういったことも含めて、先ほど申し上げたように野外での生態を見なくてはいけない。でも野外での生態がそのまま通用しない、飼育で見たデータが野外とも違うかもしれない。そういう矛盾を抱えながら、とにかくクワガタについては今基礎的なデータをためる時期だということに注意していただきたいと思います。 そして、一番、では目先として何ができるかということに対しては、私は各研究機関とか、あるいはショップの方、あるいはそれぞれの博物館レベルの方にリサイクルと申し上げたら言葉が悪いのですが、不用になった、余ったクワガタを引き取るような、例えばそういうシステムみたいなものをつくっていただく。極端な話、不用になった余ったものをちょっとでも小遣い浮かせようと思って、今インターネットでネット通販があります。あれは非常にまずい問題があると思うのですね。あるいは先ほど申し上げた、大量廃棄の問題にもつながる部分があります。日本人の美徳として、かわいそうだから逃がしてあげよう、虫についてはこれはとんでもないことだというのは皆さんご存じのとおりです。 そういった意味で、そういうのの受け皿になるようなシステムですね、あるいは博物館レベルで標本をつくる、殺して標本をつくるということを積極的に推奨する、そういった土壌をいろいろつくっていく。そういった部分で規制の前にすべきことがあるのではないかということで、私の立場として不穏当かもしれませんが発言させていただいた上で、発言を終わります。ありがとうございました。

【石井座長】 どうもありがとうございました。時間の関係もあるので、3名の方のご報告を伺ってから質疑応答をしたいと思います。
 それでは、続きまして@ニフティ昆虫フォーラムの小島さんからお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【@ニフティ昆虫フォーラム 小島氏】 どうも小島でございます。私の方は、荒谷先生とか、むし社の藤田さんのように専門家ではありませんで、あくまでアマチュアの研究者ということでこちらに来させていただいております。ある意味、ユーザー側の立場のような話で話を進めさせていただきます 。
 配付資料の方、第2回昆虫類専門家グループ会合(配付資料)というものがお手元にいっていると思いますが、この中からピックアップしながらお話をしたいと思います。私の方も今回のクワガタムシ、カブトムシの輸入種に関して感じているような懸念はほとんど荒谷先生が網羅してくださいましたので、私の方は具体的な、ではマニアは何をやっているか、愛好家が何をしているかというお話と、それから私は多国籍企業に勤める普通の会社員ですので、むしろ経済的な効果とか、その辺の方も含めてお話をしたいと思います 。
 まず、一番最初、◎飼育愛好家達の飼育の実態という部分ですね。まずクワガタ・カブトムシ、これは繁殖飼育を楽しむために購入されるのがほとんどです。例えばブラックバスとか、ブルーギルとかのように、放流するために繁殖するというような危ないことをやっている人は余りいないのですね。飼って楽しむために飼っている、購入する、飼育する、それから次世代でもって、もっと大きな個体をかえそうとか、個体変異の幅の中のものを全部発現させようとかというような、個人的な興味で飼われている方がほとんどだと思います。中にはそれを増やして売ってやろうというところまで言及してしまう人も出てくるのですけれども、その辺が今後問題になるであろうと。 ちょっと飛びますけれども、今、荒谷さんの方からブランド個体の話とかいろいろ出て来ましたが、その辺は飛ばしまして、発現型の話も出ましたね。 次に、飼育愛好家が現時点で逃亡防止及び生態影響回避にどのような努力を払っているか、裏側の方になります、資料の方の真ん中あたりになります。横棒がついてしまっているのですけれども、現実に逃亡防止ということで考えますと、飼育容器の発達が一番大きいと思います。以前、私がもうこのクワガタムシを飼うようになって40年経っているのですが、昔は虫かごで飼っていて逃げられてしまったことがあったのですけれども、今はアクリル製のプラスチック容器で飼われる例が多くなっています。このところ出てきておりますのは、クワガタ・カブトムシ専用ということで、容器のふたの強度が非常に高いものが出回り始めています。例えばコバエシャッターとかいろいろな言い方をしているのですけれども、こういった容器で飼育をちゃんとしている限り、クワガタムシの逃亡はほとんどあり得ません。従来型のプラスチック容器ですと上の金網の部分をクワガタムシが食い破って逃げるというのが結構ありました。ここのところそういった飼育容器の普及によってかなり逃亡の可能性は減ってきた。とすると、危険なのは意図的な遺棄、あるいは放虫、放生という行為であるというふうに考えております。 では、世の中でたくさん飼われていて、個人的に余ってしまったやつをどういうふうにするかという、受け皿の方の問題なのですが、その同じページの下の方、私がスタッフをやっております昆虫フォーラムでは、開設当時から遺棄される可能性のある余剰品ですね、これの受け皿として無償の里子里親制度というのをやっています。フォーラムというのはインターネット上にあるいわゆる掲示板なのですが、例えばAさんという人がオオクワガタがたくさん孵ってしまって飼い切れないから、誰か要りませんか?と書き込むと、次の日のうちには、私がほしい私がほしいというのがわあっと書き込まれるのですね。そこで、絶対に放さないでください、殺して標本にするのは構いません、というような条件をいろいろつけて、送料だけを負担していただいて無償で提供するものを受けとる、というような受け皿をつくっておくというようなことをやっております。 こういったことは、インターネット上で有償無償問わず、かなり行われていることです。ただ、ここで荒谷先生からご指摘があったように、どこのものかわからないものを提供してしまう人が出てくるという危険性はあると思います。 それから、次のページですね。★をつけています。クワガタ・カブトの輸入及び飼養規制に関する個人的な見解なのですが、はっきり言って、もう手おくれです。これから輸入規制、飼養規制をやった場合どうなるか。まず経済的なインパクトを考えてください。延べ5億匹輸入されています。みんな繁殖を目的に飼っています。10倍にふえたらどうでしょうか、50億匹延べで民間に飼われているのです。これ一律で飼養規制したらどうなりますかね、50億匹下手すれば捨てられますよね。そうなってしまった場合、一体どうやって日本の生態系を守ることができるのか。これもう1つ、いい方向もあるのですよね。飼われているものですから、そのまま飼い続けてもらって死ぬまで飼ってもらえれば、不発弾のままで終わらせることができます。しかしここで、強引な飼養規制をやってしまえば、カミツキガメでありましたように、ある一定以上の飼育装置を持たない限り飼ってはいけないとやった途端捨てられて、巨大な肉食の凶暴なカメが路上に捨てられているという事態、結構ありました。クワガタムシは、もし森の中に捨てられたら多分回収不可能です。荒谷先生もおっしゃったように、彼ら(輸入許可種)には日本の風土に適応できるような種類がたくさん含まれています。そういったものが姿を変え、ある意味では個体変幅の下の方で小さな個体群になってしまって野外に出てしまったら、もうこれは回収も不可能、防止することも不可能ということがありますので、このあたりをよく考えていただいて、マスの大きさ、既にここまでやってしまったものに関して、どうやったら軟着陸させられるかということを考えていただきたいと思います。 それから、次の裏側のページになります。こちらにおられる藤田さんの方もやられていますけれども、飼育モラルを普及させるという運動も業者間、ないしは私たちのような愛好家団体の間でも起こりつつあります。添付資料の方、参考資料としまして四角で囲った、これは東海ネットメディアさんの方からのご提供なのですけれども、飼育モラル普及委員会というものが立ち上がりまして、日本全国で活動されています。これはメンバーとして登録してもらって、そこに情報を与えてどういう飼い方をしなければいけない、あるいはどのようなことをしたら危険だといったようなことを、一般の飼育者に知らしめていくということをやられています。これは藤田さんの方からも詳しく出ると思いますけれども、例えばむし社がやっているものは外国の生き物を野山に放さないという、こういったキャンペーンをかなり早くからやられています。 それと、余り時間をとってもなんなので、個人的に考えている外国産カブトムシ・クワガタムシの問題点なのですが、外国産のクワガタムシが定着した場合の問題点、今、荒谷先生の方からお話がありました。それからもう1つ、今回話題になっています国内種と交雑して継続稔性のある子孫を残してしまう亜種がいるという、これは五箇先生の方から繰り返し発表があるのですが、実は、この資料、資料2-2、今日配っていただいたやつ、この中に私が確認できない情報がありましたので、ソースがありましたら教えていただきたいんですが、現在、完全に継続稔性が確認されているのは、スマトラオオヒラタのサウスと呼ばれる、南方のスマトラのオオヒラタと、日本の対馬系のヒラタクワガタの交雑のみです。それ以外は継続稔性、国立環境研究所でさんざんやったのですけれども、余り出ておりません。むしろF1で終わってしまう例が多い。F1で終わってしまうということは、ある意味、先ほどお話のあった一種の生物農薬ですね、外国産を野に放すことによって稔性のない子孫ができることによって、現地のクワガタの個体数が減る可能性はありますが、雑種ばかりがふえていくことによって、遺伝子汚染がひたすら進むという図式には余りない。今わかっているのは、このスマトラオオヒラタと、ツシマヒラタの遺伝子と同じものを持っている本土の九州産及び山口産のヒラタクワガタのみです。それ以外はほとんどF1で終わります。 それから、ここに指摘されていますグランディスオオクワガタと日本のオオクワガタの雑種もF1で終わります。F2以降はほとんど死亡してしまって育ちません。あと、生息環境が非常に特殊なために、日本の環境で果たして生きていけるかどうか難しいところがあると思います。 それから、ちょっとこの資料の方、たびたび指摘させていただいて申しわけないのですが、4種類、非常にたくさん輸入されているというのを挙げているのですが、このうちアトラスオオカブト、コーカサスオオカブトは、私どものグループ内の実験で16度ないしは20度を切った場合、幼虫の死亡率が非常に高くなりますので、日本の温帯の、冬に雪が降るようなところでは繁殖できないのではないかというような見方をしています。ただし、現在の温暖化の状況、ヒートアイランドの状況を考えますと、気温が16度を切らない地域は非常にふえておりますので、こういったところでの野生化は可能性があると思います。アルキデスヒラタクワガタまたはアンタエウスオオクワガタかな、これは逆に荒谷先生のご指摘になったように、非常に高いところに棲んでいますので、25度以上になると死にます。ですから、東京では冷房なしに飼えません。ですからこんなものは(日本本土に)定着する可能性はないと考えます。 では、オオヒラタクワガタはどうかというと、これは幼虫に耐寒越冬特性がありません。クワガタムシ、温帯に住んでいる個体の多くは、幼虫のときに冬越しをするときに体内の腐植物をすべて排出し体液をグリセリンのような不凍液に変えて生き延びます。ヒラタクワガタは実はこれが(でき)ないのですね。ですから、このオオヒラタクワガタが定着できる場所は日本でヒラタクワガタが既に棲んでいる場所に限定されると思います。高い山の上とか、そういったところには多分棲みつけません。いわゆる凍結深度が深い場所ですね、今このオオヒラタ(の仲間)は棲めません。ですから、むしろ荒谷先生がご指摘になったように、こういう種類よりもマイナーなというか、小さくて原産地で高い山に棲んでいる熱帯産が危ないのではないかなというふうに考えます。 それからもう1つ、外来クワガタの種類の生態系への影響というところで、実際に見つかっている例は雑種だとはっきりわかったのは、タイ産のヒラタクワガタと日本産のヒラタクワガタの雑種です。これも五箇先生の方の発表に何度も出てくるので皆さんご存じだと思っていのたですが、スマトラオオヒラタと日本のヒラタクワガタの雑種かどうかということが確認できているのは、ちょっと私の方ではわかっておりませんので、これはソースのチェックをお願いします。この辺というのは危険性がクローズアップされるとき、余りに安易に情報を流してしまうと、あれもだめこれもだめというのがどんどん広まってくるのですね。実際にはきちんと実験を行って荒谷先生がおっしゃったような稔性が確認できるような最低条件、あるいは実際に五箇さんのところでやっているように、大量の種類になるのですけれども、交雑をやってみて本当に稔性が出るかどうかのチェックをするといったことを繰り返して、これを一般に啓蒙周知徹底していくことが必要だと思います。このようなことを私の方では今考えております。 あと、海外で害虫として認識されているものが輸入許可になっているとか、その辺の話は荒谷先生の方からお話をしていただきました。 あと、これは今回の課題とはちょっと関係ないかもしれないのですが、原産国で保護生物に指定されている種が輸入許可になっているのはこれはいただけないと思います。これは見方を変えると、日本のヤンバルテナガコガネを日本以外の国が輸入して売っていいよと言っているのと同じなのですよね。例えば台湾の台湾オオクワガタは現地で採集したら即逮捕の生き物です。シエンクリクワガタもそうです。ヨーロッパミヤマクワガタに関しては、ヨーロッパのフランスとドイツでは天然記念物になっています。こういったものが輸入許可になっているのですね。これは、余り放置しておくと国際問題になるのではないかなと。現地で保護しているものを輸入許可しているということは、日本の姿勢が問われると思うのですね。これはぜひWTOなどの方もきちんとその辺レポート上げていると思いますので、輸入許可を出している種類の見直しをされるときには参考にしていただきたいと思います。 というようなことで、私の説明を終わらせていただきます。あえて述べれば、今ここで極端な輸入禁止、飼養禁止をやってしまうと、むしろ危機的な状況があっという間に広がりますよというのが私どものユーザー、愛好家、マニア関係の方のイメージです。これでよろしいでしょうか。

【石井座長】 どうもありがとうございました。
 それでは、続きましてむし社の藤田さんからお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【むし社 藤田氏】 藤田です。どうもこんにちは。
 まずお話を始める前に、私自身の立場がちょっと複雑な立場でございまして、仕事としては有限会社むし社という会社を経営していまして、名前のとおり虫のことは何でも扱っている仕事なのです。虫の採集用品から飼育用品、それから雑誌とか図鑑も出していまして、あとはもちろんペットとしての生き虫も扱っています。業者の顔もあるのですが、クワガタムシに関しましては、個人のテーマでもう何十年も研究しておりまして、日本鞘翅学会という甲虫の学会の創立のときからの幹事でもあります 。
 日本のクワガタムシは亜種で90近いのですけれども、そのうちの23を私が新種新亜種として発見して名前をつけました。業者でもあるし、日本人のクワガタ研究者としてはかなりいろいろなことをやってきたという立場で、両方の面からお話ししなければならない、ちょっと複雑な立場なのです 。
 そもそもクワガタブームというのは、うちの「月刊むし」という本がありまして、これは34年ぐらい続いている専門誌なのですけれども、これのクワガタ特集に端を発してブームができてしまったみたいで、今、この「BE・KUWA」という別の雑誌も出しております。それと、これは10年前に当社でつくった、ちょっと重いので中身は持ってこなかったのですけれども、「世界のクワガタムシ大図鑑」という本で、これが出るまでは、世界のクワガタムシをカラーでまとめた本が世界中になかったものです。1,200種類いるクワガタのうち約800種類を載せた本で、植防の99年の法律改正で輸入許可が出た時点で、植防の検疫所の方々にもほとんど買っていただきました。要するにこれがないとできないということで 。
 10年前の本でもう大分古くなったので、先ほどの荒谷さんの資料では1,200種と言われているのですけれども、今、世界のクワガタは1,500種ぐらいまでいくのではないかと思います。今度は1,200種ぐらい載った本をつくっておりまして、それと同時に日本のクワガタムシ大図鑑というのも、両方とも私が著者で書いております。 研究者の立場からすると、先ほど荒谷さんが言われたように、外国のものが日本にどんどん入って野生化したり、それから日本国内でも宮古島でクワガタなんか採れちゃうのは大変困ったことで、自分の研究ができないし、それぞれの場所によって形態が違うことに意味があるのに、それがめちゃくちゃになってしまうということを危惧する一方で、はっきり言って業者でもあるという、非常に何か自己矛盾的な立場なのです。 それで、まずこの今回の放虫問題なのですけれども、最初にこのパンフレットをお配りしたように、この内容をよく読んでいただけるとわかるのですが、99年に輸入規制が一部解けた直後にこのポスターができたもので、これからこういうふうに広がる恐れがあるというような口調になっています。これは当社で出していたクワガタ関係の雑誌に、ずっと本が出るたびに出ていたものを今回ポスターの形にして、少し前に当社と取り引きのある全国の約500店舗近いペットショップ等にこれを配って、ショップはもちろんお客さん方にも、くれぐれも虫を放さないようにしてくださいと、そういう啓蒙普及活動をこれから進めたいということで配りました。それとやはりこういう子どもの本も出しておりまして、子どもの本にはお子さんにはちょっとわかりにくいと思うので、こういう形で漫画で1ページを使って、これ毎回漫画を変えています。ちょっと漫画なので表現がオーバーになっていますけれども、外国のクワガタムシを放すとどういうことになるかということを、漫画でもやめてくださいというふうに主張しています。 それと、今回一番問題になっているヒラタクワガタのことなのですが、今回、お手元にお配りした資料にヒラタクワガタといってもどんな複雑なことか、ちょっとご理解いただきにくいと思いますので、私が去年、この「BE・KUWA」という雑誌の巻頭に書きました、世界のヒラタクワガタの解説をコピーいたしましたので、ごらんください。一番最初のところに世界の地図があって、ヒラタクワガタの分布が出ているのですけれども、ごらんのようにヒラタクワガタというのはものすごく広い分布をしていまして、日本から朝鮮半島、中国のほぼ全土、それからインドシナ半島からインド、インドネシアとかフィリピンの島々ほぼ全域にいるのです。それで、この黒い字で学名がついているものが、現在までに亜種として学名が登録されている立場が割とはっきりしたものなのですけれども、それ以外の青い字のものはみんな?を私がつけただけで、まだ分類的な立場が定まっていないものなのです。学名もしたがってありません。今回、よく取りざたされているスマトラのヒラタも名前がついてないので、とりあえずスラウェシから記載されたものに含めるしかありません。将来の研究では、この青字のものも独立した亜種になる可能性があります。そういう意味で青と黒で分けてあるのです。 それで、その後ずっと地域ごとにヒラタクワガタがどんな顔で変化するというのを長々とまとめていまして、ヒラタクワガタの中の一番大型個体を図示しました。というのはクワガタというのは大型ほど特徴がよく出るのです。これをごらんになって、ヒラタクワガタ1個の写真を見て、このクワガタはどこのヒラタだということは言える方はほとんどいらっしゃらないと思うのですけれども、極めて軽微な差なのですね。これだけ大きな個体でもほとんど差がないわけですから。実際にはこれはもう山のてっぺんのような大きな個体なので、その下にいる中小型個体とか、メスに至っては、私でも区別ができない。これでもし例えばスマトラヒラタを特定外来生物に指定した場合、スマトラヒラタとほかの地域のヒラタを現場で区別できる人は恐らくこの世にいないだろうと思います。ヒラタクワガタ全部を指定したとしても、ヒラタの近縁種というのが別にいろいろいまして、ここに挙げた以外のものですけれども、それらもまた大変よく似ているものが多いので区別は大変です。先ほど小島さんも言われたのですけれども、これはもともと5年前に入れない方が本当はよかったのではないかなと。もうこれだけ国内にものすごい数が蔓延してしまったものを、今さらどうしたらいいのかなと。 一応当社で把握している虫の好きな人の人数なのですけれども、標本をつくったりとか、そういう昔ながらの博物学的な趣味を楽しんでおられる人は、学者まで含めて日本に約1万人から2万人おられるということです。それで、ペットとしてのクワガタを楽しんでいる人は10倍の約10万人ぐらいいる。それで、さらにそれは大人の数で、お子さんまで含めると100万人単位の人数の方がクワガタムシに慣れ親しんでいます。規制の緩和以降はうちのような専門店以外でも、アトラスオオカブトとかはホームセンターでも普通に売っていまして、夏のギフトとか、そんなカタログの中にも出ています。 これだけ広まったので、当社でも土・日とか、夏休みになるとほとんど見えるのは、家族連れの、要するにお母さんと子どもとかいうのがほとんどなのですね。要するに5年前に国が許可して、輸入していいよ、とやったものの末裔がもう国内にめちゃくちゃいる中で、例えば子どもさんが今は冬ですから、菌糸びんというびんの中で幼虫を飼っていると思うのです。「たまごっち」というのが昔ありましたけど、ああいうものと比べて、菌糸びんでクワガタを飼うというのは卵から幼虫、さなぎ、成虫になるという、自然界の姿をちょうどびんの中で見られるので、そういう情操教育といいますか、たまごっちとかコンピュータゲームよりはるかに自然を知るためのいい機会だと思っています。それがたくさん蔓延したところで、例えば特定外来生物という網をかけて、あなたたちが飼っているものをF2から全部殺すなりなんなりしなさいということをやった場合、相当むごい教育効果になると思うのです。 さらに、先ほどからも指摘されましたけれども、ブラックバスなどと違って、クワガタムシは室内で飼うことを目的に飼われているものですから、それが例えば非常に高額な罰金が科せられるようなものだというふうに認知されれば、今日本じゅうで飼われているものすごい数の昆虫を、やっぱりほとんどの人がそんなものは嫌だから放してしまおうということになると思うのですね。殺せはしないと思うのです。そうすると、今はまだ一部逃げてしまったくらいで済んでいるのですけれども、全国の人が一斉に放した場合、一気に法律の趣旨とは逆に放されたものによる圧力がものすごく高まってしまうと。それは現実問題として起こると思います。 ですから、いろいろなことを考えますと、やっぱり室内で飼うのが本筋のものですので、逃がさないようにということを普及させるのが一番効果的であり、日本の自然に対して影響を与えない方法です。もう5年間、これだけの数が飼われているものを、例えば1種、2種を指定することで、効果がある規制ができるとはちょっと思えません。

【石井座長】 どうもありがとうございました。
 荒谷先生からは研究者の立場で幅広く、それから小島さんの方からはどちらかというとユーザーの立場、それから藤田さんはご自分でおっしゃっているように複雑な立場ということでお話をいただきました。お三方ともそれぞれに提言まで含んでいたと思うのですけれども、クワガタに関しては本会の委員でもあります、やっぱり五箇さんからもまず最初にコメントをいただいた方がいいと思うので、最初に五箇さん、口火を切っていただいて。

【五箇委員】 クワガタムシについては僕自身も国立環境研究所の方でリスク評価研究をやらせてもらってますが、実際のところは実はここにいらっしゃるお三方の後ろ盾でやらせていただいているという、実は僕自身は2年ちょっと、クワガタ研究2年足らずの、実は物すごい彼らから見るとひよっ子みたいなものでして、大変恐縮しているところですけれども 。
 まず最初に、意見の前に、今の小島さんの方からご指摘ありました資料の点、資料の特に交雑の部分に関して、若干ちょっと訂正というか、すみません、先週末まで僕自身がちょっと国外に出張しておりましたもので、チェックができてなかった部分もありまして、実はこのヒラタクワガタにおける雑種の指摘についてですが、パラワンオオヒラタ及びダイヒラタに関しましては、インターネット情報に基づいているということで、科学的知見ではございません。一応、整理します。うちの研究所で今のところやっておりまして、雑種が確認されたというものにつきましては、まずスマトラオオヒラタと対馬型日本産ヒラタクワガタ、これは現時点ではアップトゥデイトでF3まで幼虫が得られております 。
 それから、スマトラオオヒラタクワガタと本土ですね、本土型日本産ヒラタクワガタ、これは現在交雑実験中でして、F1幼虫まで今得られております。 それから、アルキデスヒラタクワガタですね、これと日本産のヒラタクワガタ、F1までできたのですが、F1はオス成虫のみで、次の世代は交雑不能ということになっております。 それからグランディスオオクワガタと日本産のオオクワガタは、先ほど小島さんがご指摘いただいたように、うちの研究室でもやりましたが、F1どまりです。F2までは得られておりません。それから、スマトラオオヒラタと在来種のヒラタクワガタの雑種の野外の件ですが、ミトコンドリアDNAレベルでスマトラオオヒラタと確認されるものが野外では見つかっておりますが、核ゲノムの解析が雑種判定には必要ということです。ただ、アロザイムレベルでヘテロ接合体であることが一応確認できていまして、ただし、アロザイムに関しても種内変異が把握できていないということから、これはまだ判定不能の状況になっておりまして、今後の研究課題となっております。その辺をお含み置きの上、この雑種の問題について整理しますと、まず室内レベルでいくつかのものについてはF1、もしくはF2、F3までいくものがいるということ、野外で外国産のミトコンドリアDNAを背負っている個体が見つかっているという状況でして、まだ今後詳しい研究解析が必要であるということをつけ加えておきます。 それで、今お三方からありましたように、聞いていて皆さん感じられたと思うのですが、実際、三者共通の意見として、もう既に輸入されて5年間の間に膨大な数が入っているということ、それから飼育目的で入っているということから、既にある意味規制するにしても、恐らく本気でやるとなると大変な労力、お金、それからいろいろなコストを払わなくてはならないだろうということが認識いただけたかと思います。それで、私自身もこの研究を始めた当時は、この法律ができるということは全く予想せずに研究を始めていまして、ただ問題となるのは、やはり逃がしたらこういうことが起こるであろうということは、早くからやっぱり研究成果を出して普及啓発することが必要だろうということで、こちらにいらっしゃるお三方にもご協力いただきまして、うちの研究所としても研究成果を発信してきたというところです。 正直なところ本当にこの問題についてどう結論を下せばいいかというのは、個人的には全くアンノウンです。本当にどういうふうな導き方をすればいいのかというのは非常に難しいと思っております。実際に輸入されている数も何百万匹と入っている上に、500種類以上もの種類が輸入可能という状況にあって、一体どれから規制すればいいのかということも含めて、実際はやはり科学的データをとにかくやっぱり蓄積していくことが必要であるということと同時に、現時点でそういったリスクがあるのだということをいかに一般の方々に理解していただくかということ。こちらの方に環境省や研究者も含めて現時点ではやるべきことではないかなというふうには考えております。

【石井座長】 ありがとうございました。ということで、何か先にもう結論が出てしまったようでやりくにいのですけれども、やはりちょっとその前に立ち戻りまして、根本的な問題としては、生態系への影響という観点だと思うのですけれども、お聞きしていますと、実際にどうなのかというのは最終的にちょっとあいまいかなと思うのですね。その辺のところから議論したいと思っております。桐谷先生、お願いします。

【桐谷委員】 今、お三方のお話も聞き、五箇さんのお話も聞いたのですけれども、わからんということは、確かにいろいろな事例がたくさん出てきて、皆さんちょっと混乱してくると思うのです。 ですけど、私、大きなルートとしては、まず原産地の問題がありますよね。そこではもう既に何かの種が保護されている。この保護されているのとは別に、今以上にますます規制が厳しくなったり、いろいろな他の国が(新たに)やるかもわからないです。ですからこの問題はそれはそれとして、将来、現状とはまた違うという形で見る必要がある。それから、原産地から今度は持ってくるというのはこれは輸入のパスウェイの段階で、パスウェイのところで規制するかどうかというのは、また日本の国内に入ってからとは別のことだと思います。国内に入っているのはこれどうするのかと。やはりそういうのはある程度三つに分けてやらないと、今の話で全部一緒になると、一つどこかでひっかかったら全部そのまま丸ごといいのか悪いのかという議論が混乱してしまうと思うので、私は個人としてはそういう段階を3つに分けて物を考えるべきだと思うのです。

【石井座長】 ありがとうございます。そのとおりだと思います。やはりここのところは時間もないこともありまして、国内での問題を重点的にやりたいなというふうに思っているわけですけれども、何かこの点についてご意見。

【荒谷委員】 交雑に関してあえてちょっと申し上げたいことがありまして、いわゆる遺伝子汚染ということを厳密に考えた場合に、確かにF1以降のF2、F3の稔性というのが問題になりますが、むしろ戻し交雑的な意味でのF1からもともとの親だった、種親ですね、そちらの方との交雑によって結果的にずっとその遺伝子が消えないで残っていくというのが本来の意味の遺伝子汚染の一番怖いところですので、そういう意味ではもちろんF2からF3への稔性を試すのはもちろんですけれども、本来は一度交雑が起これば恐らく消えないものではないかというふうに私は懸念いたします。その点は誤解しない方がいいじゃないかと思います。

【石井座長】 なるほど、F2ができるとかいう観点よりも、戻し交雑という形が起こって、いつまでもその遺伝子が残ってしまうのではないかということですね。

【五箇委員】 もう1回追加で、実は戻し交雑実験も1件だけちょっとやっておりまして、先ほどのスマトラ、対馬型のF1に対して、対馬型のオスをかけあわせるという交雑した結果、やはり戻し交雑のB1と言いますけれども、B1世代もやはり得られておりますので、今おっしゃられたとおり、戻し交雑というものも含めて評価はしていかなくてはならないだろうということはつけ加えておきます。科学的知見としてそういうことは今あるということです。

【石井座長】 それはかなりもう可能性として高いというふうに考えて、野外でも。

【五箇委員】 普通に交雑実験としては普通の数で子どもが得られる、生まれてくるということですね。いわゆる科学的用語で言いますと生殖隔離という系統間の間での生殖を妨げるメカニズムというのはほとんどないに等しいというふうに、今のところ結論づけています。

【石井座長】 遺伝的なレベルの話、ほかにございますでしょうか。
 あとは、さまざまな観点があったと思うのですけれども、例えば藤田さんのやつがわかりやすいですけれども、この絵なんか見るとえさを占領する、要するに競合ということが出ているわけですけれども、このあたりの可能性などはいかがでしょうか。

【小島氏】 夏休みぐらいにNHKの「サイエンスゼロ」という3チャンネルの番組に出させていただいたのですけれども、そこでもしかしたらこの席にいらっしゃる方でごらんになった方もいらっしゃるかと思うのですが、台湾産のオニツヤクワガタという普通種、85ミリに達するかなり大きな種類なのですが、この幼虫とカブトムシの幼虫、荒谷さんがやったのと同じように私も同居させて飼いました。はっきり言いまして、成虫同士の競合よりも幼虫の競合の方がはるかに厳しいなというのがわかりました。ですから、オニツヤクワガタというのは日本で言うカブトムシとほぼ同じニッチェで幼虫時代をすごすのですね。いわゆる腐食の中、あるいは大樹の中、朽ち落ちてうろにたまった腐朽材の中ですね。ですから、競合関係を考えるのであれば、成虫同士の競合はもうある意味サイズで決まってしまいますので、これは実験室レベルでやるものでは余りないかな?というのもあるのですけれども、まず幼虫同士の競合ですね、それがどれぐらい起きるかということを、具体的なデータを示して学術的な内容でちゃんと発表するというのが必要ではないかなと 。
 それともう1つ、その同じサイエンスゼロで私の方がNHKに頼まれてやってみせたのが、今、五箇さんからお話があった、グランディスオオクワガタと日本のオオクワガタの雑種を日本産のオオクワガタと闘わせるという、非常に趣味的な内容だったのですが、日本産のオオクワガタはっきり言ってぼろ負けです。日本産のオオクワガタはなぜか非常にけんかしないクワガタなのですね。彼らが闘うのはメスがいて自分の棲家があってえさがあって、3つそろわないと闘わないのですね。シェーンカムバックという映画がありましたけれども、強いのだけれども闘わないところみたいなのがあるのですね。ところが外国産のオオクワガタ、ヒラタクワガタの仲間というのは、相手が死ぬまでやります。これは恐らく彼らの住んでいる生息環境が多数の競合種で囲まれているために、闘い残らなければ自分の子孫を残せないというような淘汰圧が働いているのではないかと思います。日本産のオオクワガタはある意味、独特のニッチェを押さえてしまっているために余り闘う必要がない、あるいはメスと1回つがいを形成すると死ぬまで一緒にいるとか、そういう性質があって余り闘わないのではないかなと。ということは、外国産の昆虫の成虫同士、あるいは国内のものを放した場合、ニッチェが近ければ完全に競合するであろうことははっきりします。ということは、外国産のクワガタムシが日本国内で定着できるかどうかというチェックですね。荒谷先生がおしゃっていましたけれども、耐寒温度、それから有効積算温量、そういったものを日本の環境をシュミレーションした環境で外国産のクワガタを飼ってみて、果たしてどんな姿形になるか。あるいは、日本の冬を本当に数多くの種が越えられるのかどうかいう、具体的な学術的なチェックも必要なのではないかなと。そういったことも同じように一般公開していく必要があるかなと。 このとき、私どもがよくやっているのは、インターネット上の情報チェックなのですけれども、だれかが例えば新しく輸入された珍しい種の飼育に成功すると、みんなインターネットに報告出すのですね。あるいは私どもが持っているような昆虫フォーラムのボードにも書き込まれます。そうするとそれは、一夜のうちに数百人の人がチェックをして、みんなが同じように見ることができる。ということは、私たちが今持っている手段としてテレビ、ラジオ、一般の公開メディア、新聞ですね、そういったものもあるのですが、それ以外にこういった情報をきちんと公開できるようなインターネットのホームページですね、これを今回のこの委員の方たちが書き込めるボードとしてつくっていただいて、ここに一般の愛好家からも情報を吸い上げられるような、荒谷先生がおっしゃっていたような受け皿をつくってあげて、相互に警告しあう、あるいは情報を提供しあうといったような場を、いち早く創るべきではないかなというふうに考えております 。
 ともかく一般に対する啓蒙を進めて周知徹底しないと、このままでは輸入規制をかけてもかけなくてもとんでもないことになるというのが私の実感です。このように考えております。

【石井座長】 ありがとうございました。後段の方は置いておきまして、幼虫と成虫の話が重要だと、競合の場合は。荒谷さんもその辺指摘されていましたけれども、どっちからいきましょうかね、成虫は今のお話は、言葉悪いですけれども、やらせという形で例えばNHKでやられたということだと思うのですけれども、これは野外でも起こることなのでしょうか、起こり得るのですね。だから、やはり成虫の樹液という場所におけるニッチェの争いですね。これはあり得るということですか。

【小島氏】 あり得ますが、ただ荒谷先生がおっしゃったように、成虫は飛んで逃げることができますから、1カ所の樹液で取り合ってやられたら、ほかに逃げて生き延びることはできるのですよね。ただ、荒谷先生がおっしゃったように幼虫は逃げられないですね、卵を生んだ場所から余り移動せずに暮らしますから、そこに強力な外来種が入ってしまえば、あっという間に駆逐されてしまう 。
 これ、日本産でも実はあるのですね。シロテンハナムグリという地味なハナムグリがいますけれども、シロテンハナムグリとカブトムシを一緒に飼って、先にシロテンハナムグリの幼虫が孵るとカブトムシの幼虫は1匹も育ちません。シロテンハナムグリが成長の過程で、初齢から終齢にかけてカブトムシの初齢幼虫を捕食しまくるのですね。その結果、強いはずのカブトムシとシロテンハナムグリを一緒に飼っていると幼虫時代はシロテンハナムグリの方が先にかえるために強いということが起こって、最後にはカブトムシを飼うはずだったところにシロテンハナムグリのメスが1匹いるだけで、1匹もカブトムシとれないで終わると。こういう競合が国内でも起こっているのですね。ですから、同じようなえさ資源を確保するために闘いをするクワガタムシの幼虫に関しては、はっきり言って成虫よりも危険だろうなという認識があります。

【荒谷氏】 私も今のことにちょっとつけ加えさせていただいて、この後さっきの私の中の発表と同じなのですけれども、幼虫の場合もう1つの観点として、窒素源の補給ということでかなり広く捕食をする可能性があるということは申し上げておきます。そして、今回クワガタに限った方がいいかなと思ってあえてふれませんでしたけれども、例えばハナムグリ、本来は輸入禁止になっておりますので密輸状態ですけれども、かなり国内に蔓延しております。その愛好家の中でよくわかっている話が、アフリカのゴライヤスハナムグリという非常に大きなハナムグリがありますが、あの幼虫を飼うのにヌードマウスを与えると一番いいと。生きたねずみを与えると一番よく育つと、あるいはもうドックフードとか干し肉とか、実際にいろいろ観察していると、どうやらオウヒョウタンゴムシの幼虫みたいに、あいつら引きずりこんで食べると。そんなようなことまで観察されているのですね。ですから、たかが腐朽材食性、土ぐいの虫たちという観点はちょっとやばいです。ということをちょっとつけ加えさせていただきます 。
 それから、成虫絡みで言いますと、もう1つ思いましたのが、実はニッチェが同じような在来種云々だけの問題ではなくて、日本の樹液というのはそれだけで立派なコミュニティができ上がっているわけですよね。要するに最初にシロスジカミキリが傷をつける、そこにボクトウガが入り込んだり、あるいはヨツボシケシキスイが入り込んで恒常的に樹液が出る、そこにチョウチョウがくる、それからスズメバチがくる、そしてカナブンがくる、カブトムシがくる、クワガタがくるというふうに、あそこで1つの本当に食物生態系ができているわけです。そこに全然違う虫が入り込むと、それ自体が崩れる可能性があるのですね。ですから、そういう意味で実はニッチェが似た種間ももちろんですけれども、樹液をめぐる1つの生態系みたいなものが大きく壊れる可能性もあるということもこの機会に観点に入れてもよろしいのではないかと思います。

【石井座長】 今のところ遺伝のお話、遺伝汚染という言葉、使っていいのでしたっけ、遺伝子汚染。これはかく乱の方がベターなのですよね、多分。

【五箇委員】 遺伝子汚染、英語で直訳してしまうと、ジーンポリューションになってしまうのですよね。ジェネティックポリューションというのもたまに論文にも出てきますが、これはどうもむしろ日本人がつくった言葉のようでして、正確にはジェネティックイントログレッションとか、ジェネティックディスターバンスという言葉で、遺伝的かく乱、もしくは遺伝浸食、遺伝子浸透、こちらの方が遺伝学的には正しい用語ということになりますので、遺伝子汚染というよりは、むしろ遺伝的かく乱、もしくは遺伝的浸透というような言葉に置きかえて今後使っていただければいいかと思います。

【石井座長】 ちょっと汚染という言葉が、遺伝子の場合は。

【五箇委員】 ちょっと余り使いません。少なくとも遺伝学の世界ではそういう言葉はありません。

【石井座長】 それで、指摘があったのが遺伝的なかく乱の話と、それから競合の話ですね。それはちょっと幅広いところがあって幼虫と成虫の両方だということなのですけれども。ここの委員会で特定外来種を選定する場合に重要なポイントとしては、実際にデータがあるかどうかというところなのですね。可能性はたくさん指摘していただいたのですけれども、その辺の観点からいかがでしょうか。

【五箇委員】 これ昆虫のグループ会合の冒頭で私もその点指摘したように、要するにクワガタに限らず、昆虫、特定外来生物に指定しようとした場合、何を持って科学的根拠とするかという、その線引きをどうしますかというのを一番最初に質問させていただいて、このクワガタの場合も実際のところは特に私などの方は遺伝子解析を中心にやっているのですが、実は今のところきちんとした原著としてはまだ公表はしていないという状況であると。そういった中で、証拠品はあるのですが、それを科学的根拠とみなすかどうかというところですよね 。
 あと、今お三方の方からの説明がありましたように、成虫レベル、幼虫レベルの競合といった部分に関しても、データそのものは確かに実在するのですが、それがいわゆる科学ジャーナルとしてレビュアーがついているような科学ジャーナル、しかもそれが国際的にオーソライズされるレベルまでというのは、今のところは皆無に等しいという状況でして、もちろんそれは我々研究者自身が文献化するのも急がなければいけない状況ですけれども、現実問題としてはこの問題をどうするかというところの方が先んじちゃっていて、ちょっと追いついていないという状況もあるのですよね。その部分に関してどう判断するかというところは、むしろこの委員会の方で判断していただくしかないかなというふうには考えています。

【石井座長】 全くそのとおりで、限られた時間があと6分ぐらいという感じなのですけれども、きょう最終的な結論を出さなくても、もう1回だけこの委員会予定されていまして、そのときに持ち込もうかなと思っていますけれど、関係の方々がおられるうちにできるだけ情報は吸収しておきたいなというふうに思っております 。
 そこで、お三方に改めてお伺いしますけれども、リスクについて実際に野外におけるデータが科学的な根拠を持ったデータがあるかどうかのポイントについてちょっとお聞きしたいのですけれども。

【荒谷氏】 まず私の方から口火を切らせていただきますと、今、まさに五箇さんがおっしゃったとおりで、例えばこのクワガタ・カブトに関する問題について、一番豊かなリソースはインターネットです。ただし我々がいわゆるインターナショナルな雑誌はもちろんですけれども、普通に書こうと思ったときでも、ネット情報というのはなかなか引用文献として引用しにくい状況にありますよね。それをまさに科学的根拠に基づいて、みなして、それに基づいて何かをするということがどこまで許されるのか。ただし、非常に情報は豊かですし、実際に見ておられるアマチュアの方というのは、多分我々研究者よりよっぽどよくご存じだという部分があるのですね 。
 それともう1つは、こういうどちらかといえば限りなく灰色に近いものはある意味黒と見た方がいいという立場も例えば1つあるでしょう。現実問題、そのカブトムシの定着性云々について言えば、北海道でなぜこれだけのカブトムシが定着したかということで考えれば、実はこれは丸瀬布の学芸員がよくやられているのですが、北海道にはなぜか大量に食菌業者が放置したような、そういうおがくずが大量に山積みにされていたりとかで、発酵熱で実はあの中、下手すると30度、40度ぐらいになって湯気が立っているのですね。そういう状況があると、実はとんでもない話なのですが、アトラスオオカブトが北海道で先に定着するかもしれないのですね。だから、日本には実は野外風土だけではなくてそういう特殊な要素があって、そこに定着みたいなことが絡むとさらにまたわけがわからなくなる。ただしそこも科学的な今のところ根拠がないです 。
 そういった部分もあるということを含めて、コメントになっているかどうかわかりませんがさせていただきます。

【石井座長】 小島さん、いかがですか。実際に先ほど言った競合とか遺伝子かく乱の話で。

【小島氏】 リスクの問題ははっきり言いまして、日本の四季のある環境で保温とか冷房とかをかけずに飼える外国産のクワガタムシは恐らく定着可能であるというふうにみなすべきだと思うのですね。ただし、非常に特殊な産卵環境でないと生まないという種類もいます。例えばグランディスオオクワガタというクワガタムシは白色腐朽材で直径が50センチ以上あって、中にメスが穿孔できる木がないと卵を生まないのですね。ですから、日本産のオオクワガタのように、小さい細いほだ木の廃木を入れておけば卵を生むというのとはちょっと違って、その特殊な生息環境が日本国内にない限り定着は非常に難しかろうという種類もいます 。
 そういった情報は今荒谷先生がおっしゃったように、インターネットであるとか、あるいは昆虫の専門誌、こちらのむし社などがやられているような専門誌に有象無象たくさんあります。ただ玉石混合の状態なのですね。ですから、ある意味情報収集をするようなことをやった上で、専門の機関がどうしてもこれはと思うものは追試していかなければいけないというのが今後の必要なことかなと思います 。
 それからもう1つ、今ちょっと荒谷先生もおっしゃったので、私の方は言わなかったのですけれども、海外で害虫として認知されているものが輸入許可になっていますよね。例えばアボカドの大害虫、クビボソクワガタ、それからちょっとこれ未確認情報でもあるのですけれども、実際にテストをすると何でも茎を切ってしまうパプアキンイロクワガタ、これは私も実際に実験してびっくりしたのですけれども、花屋さんで売っている普通の花卉園芸の植物、全部切ります。5分に1回切ります。ですから、それから日本の冬も超えることができます。成虫も幼虫も、あんな金ぴかな虫ですから熱帯の環境しか棲めないのかなと思っていたのですけれども、そういうものもある意味、こういう危険性があるよということをはっきり公開していかないと、きれいな虫でかわいいからなんていうことで放したりしたらとんでもないことになるなというようなことがあると思います 。
 ですから、海外現地の保護種の問題は別として、海外で害虫として認知されている、あるいは侵入害虫として一度でも活動した可能性のあるものというものは、今後、許可種をふやすとか、見直す場合にはちょっとこれは考慮する必要があるのかなと、むしろ日本の農業を守る意味で。日本の生態系以前に植物防疫法の原点に立ち返ってごらんいただいた方がいいのではないかなというふうに感じます 。
 リスクはあるのですけれども、先ほど申し上げたように、そのリスクがあるからということで一律輸入禁止、飼養禁止をやるとえらいことになるというのも事実ですので、このあたりはもう皆様、甘く考えずにというと失礼なのですけれども、実態を十分把握した上で動かれるようなことをお願いしたいと思います。

【石井座長】 では、藤田さん。お願いします。

【藤田氏】 実際に野外に今どういう、どれほど外国のものが逃げているかということなのですけれども、私どもいろいろな雑誌をつくったりして情報を収集する立場にあるのですが、先ほどお手元に配ったポスターがありまして、これは5年前に99年の規制緩和直後につくった案なのですけど、そこでヘラクレスオオカブトが日本のカブトムシをけちらしている漫画があるのですが、あれから5年たって、とんでもない数の外国産クワガタ・カブトが日本に入ってきたにしては、たまに新聞に出たりとか、そういうのが出るだけです。我々の仲間は日本中にしょっちゅう採集に行くのですけれども、例えばどこかの山に行ったら、この漫画に書いたような外国のものと日本のものが樹液を争っているとか、そういう行動を見た人というのはほとんどいないのですね。だから、ものすごい量が入ったにしては、5年前に我々が危惧してイラストを書いたような、この漫画のような状況はまだ日本ではほとんど起こっていません。 この辺が先ほども申し上げたように、日本の池や川の75%のところにもう棲んでいて、すぐ捕れてしまうブラックバスの野外における進出度と、外来のクワガタの野外における進出度とは天と地の開きがあると思うのですね。だから、ブラックバスはだれがやっても、今、日本の川や池で捕れますけれども、このポスターに書いたような日本のクワガタやカブトと外国のクワガタ・カブトの争いが、では一体どこで見られるのかといった場合、ほとんど見られない。ですから、その実証ができてないような浸透率の低さだと思います。

【石井座長】 大体一わたり聞きましたけれども、私の印象ですけれども、定着性に関してはかなりあるのではないかと。それで定着した場合に起こることとしては遺伝子のかく乱、それから競合の問題というのがありそうだと。それからもう1つは、種によっては害虫化というのもあるのではないかという指摘がありましたね 。
 ですけれども、さっきの藤田さんの言葉にあったように、定着性の可能性は指摘されるけれども、では実際そのヘラクレスがたくさんふえたかというとそんなことは今のところないのだというような状況ですね。野外で持っている今のところのデータとしては、遺伝子かく乱はヒラタクワガタ系ではありそうだ。これはよろしいですかね、五箇さん。

【五箇委員】 現時点ではタイのヒラタクワガタについてはそういうものが幾つか違った地点で見つかっているということもありますから、かなりそういうのは広く出回ってしまった結果としてそういうのが出ているのであろうというふうには結論づけられるとは思うのです。ただ、本当に注意しなくてはならないのは、結局つくったものが逃がされたのか、それとも逃げてつくったのかという区別は、やっぱりこの遺伝子レベルでは区別はつかないということもあるので。だから、どのみち調査はもっと必要になるのですね。実際に遺伝的浸食というものがどれだけ起こっているかどうかというのは、もっとやっぱりサンプルもふやさなければならないですし、より高精度に解析する必要もある。だから、実際問題として、定着の問題も含めて、この法律そのものは予防原則が理想とはされるのですが、今、こちらお三方からの説明あったように、本当に影響は大きい、販売数も含めて、輸入数も含めて非常に影響の大きいことを考えれば、余計に十分な科学的知見の蓄積がまず前提となるであろうということ。それが今は過渡期にあるということがまず研究者自身として感じるということですね 。
 それと、もう1つは定着そのものの問題については、越冬できるかできないかとか、その生息環境が合うか合わないかという問題以前に、やっぱり商品として輸入されているという性格はやっぱり考慮に入れる必要がある。だから逃がしてしまえば一斉に逃がされればやっぱり定着するしないにかかわらず、非常にインパクトはそのとき瞬間に大きく起こってしまう。それが毎年もし行われるようなことがあれば、やはり非常に定着の可能性以前の問題として、侵入圧と言うのですけれども、その一時一時に入ってくる生態系に負荷を加える力というのは、その瞬間物すごい大きい力が加わるということはやっぱり考慮に入れなくてはならない。その意味ではやっぱり逃がさないということを前提にするということをアピールしていく必要があるだろうと、今、特に今日お話聞いていて感じたところです。

【高桑委員】 今、定着するかしないかというのがちょっと問題になっていると思うのですけれども、私のうろ覚えなのですけれども、今度のデータでBE・KUWAで、場所はどこでしたかと、とにかく海外産のクワガタの幼虫が複数見つかったという、そういうのがあったと思います。そうですね。タイワンオオクワですか。そうするとそれが見つかったということは、それはどういうことなのか、だれかが幼虫をそこにわざと植えつけたのか、朽木に植えつけたのか、それとも野外に出てしまったメスが生んでしまったのか。どういう可能性があるのか。ちょっと教えていただければありがたいと思います。

【藤田氏】 わからないですけど、一番可能性があるのは交尾済みで卵を持ったメスを故意か故意ではないかわかりませんが、野外に放されて、それが卵を生んでふえたのではないかと。幼虫を植えつけるような面倒くさいことをする人はいないと思うのですけれども。

【石井座長】 定着しなくても繰り返し繰り返し同じ場所に、もう恒常的に放されれば疑似定着ということになりますのでインパクトがあるということは考えられますよね 。
 桐谷委員、どうぞ。

【桐谷委員】 定着するか、越冬できるかどうかということは割合問題にされていますけれども、例えば日本のウンカなどというのはこれ大害虫ですけれども、全然日本に定着してないのですよね。(海外から飛来して)稲田に入ってくるのです。だから今各種のパスウェイで、どんどんどんどん入ってきているというのは、ちょうどウンカの状況なのです。それをとめるかどうかという問題は、中に入っているやつはウンカでも、もしそれが定着すれば我々はどうするかという問題とは別だと思うのです。だからこの辺のことも。 それから温度もどんどんどんどん温暖化しているのです。カメムシは果樹でも稲でも大害虫になっていますけれども、私が分析してみたら、やっぱりこれは温暖化が物すごいきいているのですね。だから、こういう状況ですから、現状だけで判断してしまったら、後5年、10年たったときにはみんな間違っていたということがおこる。ちょうどクワガタはいっぱい5年前に入れたと、今どなたかも前にあれ禁止すべきだったと、入れてしまってからこうでしょう。それから、カブトムシも北海道も入った、あのときは梅谷さんも何ともないと言っていたんだよ。だけど後から彼訂正した。そのぐらい、専門家ですら予測できないのですよ。そういう場所というのを単なる温度だけではなしに、ミクリクリマも地球温暖化もあればいろいろな状況が入ってきますから。ですから、議論を何か変なずっと細かいところだけに押し込んでしまうと、方向を誤ってしまうような気がするのです。

【石井座長】 ありがとうございました。梅谷先生、何か一言言いますか。

【梅谷委員】 やはり趣味家にいろいろな人がいますから、故意的に放すというのがどう規制してもこれは止められない。特にチョウなどはおよそ定着の予想がつきますし、ですからいわゆる確信犯には対策がありません。これクワガタもかなり確信犯がもう既にいるのではないかなと。特にアカホシゴマダラなども定着したし、ホソオチョウだってそうだし、しかもこれらは輸入禁止しているものですしね。そういうことを考えたらもうちょっと歴史的というか、長期的な目で見たら定着するものはしてしまうのでしょう。どう遅らせるかが問題だと思いますね。それから規制というのも現実的には難しいでしょう。

【桐谷委員】 輸入禁止はできる。

【梅谷委員】 輸入禁止しても、その前に既に入れたものの累代飼育で十分賄えるし。それから、内緒で入れたものを累代系統だと言われたら、ほかにも例があるけれども、それはもう調べようがないわけですよ。

【桐谷委員】 だからこのぐらいの問題は別にもう一度考えようと。

【石井座長】 小倉委員、せっかくですから、何かありましたらお願いします。

【小倉委員】 結論は出たような感じがしますけれども、輸入禁止とかその辺の措置はできるかもわからないけれども、今入っているものはどうしようもないし。  もう1つ、さっき遺伝的な問題でF1ができて生殖能力を持つということになると、これは雑種ができて子孫が残せるということですよね。亜種問題、全部考え直す必要がある。普通はF1というのは、生殖能力がないのが普通ですけれども、種は新たにできるときにどういうふうな条件でできるか考えると、物すごく確率が低くても突然変異でできたもの同士がたまたま子孫を残すということになると、この新たな亜種なり、あるいは新たなヒラタクワガタができてしまうという可能性はあると思います。 小鳥などでもよくヒナを拾わないでくださいとか、そういうふうなアピールをして、最近割と届け出も少なくなっていますね。だから、それと同じような形で外国産の虫も屋外に逃がさないでくださいというキャンペーン、これをもっともっと推し進めていくような形になっていくのではないですかね。 カブトムシも確かに輸入解禁になった当初、多摩動物公園でも子どもが拾いましたと言って結構持ってきましたけれども、最近は逃げられないせいか、余り報告例もないですけれども、やっぱり逃がさないようにという啓蒙をしていくしかない気がします。梅谷さんも言ったように確信犯で逃がしたりするのがどうしても出てくると思いますけれども、例えば川なんかでヤマメ、絶対こんなところにいるわけないと思う場所にいるのですよね。これ自分だけのために稚魚を放して釣って楽しんでいるとか、そのようなのが必ずいますから、モラルの問題でしょうけれども、逃がすな、捨てるな、を一生懸命アピールしていくのがいいのではないかと思います。

【石井座長】 ありがとうございました。完全に時間がなくなってしまいました。
 それでは、最後のその他ですけれども、この際ですので何かあったら、五箇さんどうぞ。

【五箇委員】 環境省の方にちょっとお伺いしたいのですけれども、11月22日付けの毎日新聞で「環境省が輸入量が多いオオヒラタクワガタ類を特定外来生物に指定する方針だが」と書いてあるのですけれども、これ決まってしまっているのでしょうか。決まっているのでしたら、この委員会また無意味になりますので、よろしくお願いします。

【環境省 上杉企画官】 その記事は非常に正確でない情報がかなり入っていると思います。候補種リストにそもそも出ているところで、全然こちらが資料で出してないものが引用されたりしておりますので、基本的に何も決まってないといいましょうか、この会合での結論を踏まえて方針を決めていくということになりますので、何ら決まっているものではないです。

【五箇委員】 結構です。

【石井座長】 ほかにございませんでしょうか。
 なければ、事務局何かありますでしょうか。

【堀上補佐】 今日は第2回ということなのですが、もう1回予定をしておりまして、もう1つセイヨウマルハナバチの小グループが別途進んでおりますので、それが実はきょう午後から第3回ということであります。マルハナバチの小グループの経過を見ながら、次に第3回のこのワーキンググループをやりたいと思っておりますので、また座長と相談して次の日取りは決めたいと思いますが、今のところ、全体会合をやっぱり1月中には開いて案を固めたいと思っておりますので、この会合については1月中旬ぐらいにはやりたいというふうに思っております 。
 一応13日で皆さんの予定がつくというふうに聞いておりますので、その線でいきたいと思っておりますが、またご相談しながらということで。

【石井座長】 ほかはよろしいでしょうか。
 なければ、ちょっともたもたしましたけれども、ちょっと過ぎて申しわけございません。なければこれで閉会にしたいと思います。 どうもありがとうございました。お三方、どうもありがとうございました。