1 日時 |
平成16年11月15日14時~16時 |
2 場所 |
経済産業省別館第1111会議室 |
3 出席者 |
(委員)土田 浩治(座長)、池田 二三高、小野 正人、五箇 公一、横山 潤 |
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(利用関係者)マルハナバチ利用普及会 光畑 雅宏 |
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(環境省)野生生物課長、生物多様性企画官 |
(農林水産省)生産局野菜課課長補佐 |
4 議事概要 |
(事務局、横山委員、光畑氏より資料を用いて説明し、質疑応答)
(委員からの主な意見)
〔セイヨウオオマルハナバチ小グループの位置付けについて〕
- 座長は12月より出席できないので、五箇委員を座長代理としたい。
(了承)
〔セイヨウオオマルハナバチの取扱いについて〕
- 事務局資料2に記載されている7万コロニーというのは年間の輸入量で間違いないか。また輸入元にノルウェーが含まれているがこれはイギリスではないか。
(事務局)これは流通・利用量の誤りである。輸入元については確認しておきたい。
<野生化の状況>
- 資料説明では静岡県での野生営巣と女王バチ捕獲について言及されたが、これに関する事実確認として、越冬の事実はあるのか。
- 女王が採取されていることは確実であるが、越冬しているかどうかは不明であり、捕獲も低頻度である。
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用語について、野生化と定着という言葉の定義に混乱が生じているようであり、しっかりと解釈して言葉を統一する必要がある。また横山委員の資料では数字が出ており、これに反論しうる事実もあると思うが確かなデータはないのが現状である。先ほどの静岡の女王バチで言えば、発見場所の付近に本当にハウスが無かったのかどうか。現場では家庭菜園などの小規模な利用も見られる。
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横山委員の資料の空間分布と資源利用パターンの重なりの図では、花のある場所に4種が集中している状況が示されているということで、他には花が全くないということか?
- 利用可能な植物はないということ。
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こういうデータでは単位面積当たりの花の量、花粉量などが重要である。難しい面もあるが、生息の基盤は食べ物、餌であるので、単位範囲内にどれだけの資源があるのかを示すことは重要。
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何をもって科学データとするか、その信頼性のレベルを定めることが難しい。セイヨウオオマルハナバチについては、急激な野生化に対して調査を開始したばかりであり、データの収集が追いついていない。しかし、現時点で数が増加しつつあることは間違いないため、この事実がどういう影響を及ぼし得るのか、そのリスクをどう判断するのか各方面からご意見をいただく必要がある。
- 定着の問題についてひとつひとつ確認する必要があるが、横山委員の資料において目撃採集頭数の根拠となっているのは何か。
- ボランティア調査も含め、保全生態学研究会に寄せられた情報全てを集計している。
- 資料では北海道内の目撃採集頭数が示されているが、これと利用実態との関連はどうなっているのか。
- 函館、渡島、美瑛など道南の点は、それらの地域で多く利用されていることと関連があると思う。特に静内は大きな産地となっている。
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この図はセイヨウオオマルハナバチだけに関するものである。在来種の分布も明らかになっていなければ影響の評価は難しく、今後もモニタリングが必要な点である。在来種のデータはほとんどない。今後はそれらの情報も含め、評価をすることが必要。
- 横山委員の資料における自然巣の発見状況を具体的に説明して欲しい。
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多くはオープンな環境で営巣が見られる。恵庭では民家の縁の下、旭川では河畔林であったが、どちらもネズミの古巣を利用していた。島根では、ビニールハウスの内部の藁ゴミにできかけの巣が発見された。
- 自然巣からの新女王と雄バチの発生状況は?
- 2003年のケースでは、新女王が営巣から100頭前後放出されようとしている状態であった。周年的に生活史を全うできる状況にあると考えている。
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横山委員の資料では、発見地点をプロットするのではなく、行政区分ごとに塗りつぶしている。これは外来種が非常に多いという誤解を与えかねないので、発見地点の状況をもっと詳細に説明してほしい。
- 門別や旭川などでは、水田等の耕作地や川の付近など開けた環境、これは人間が手を加えた環境であると言えるが、そこにおいて野生化・定着が見られる。
<海外事例>
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セイヨウミツバチの場合には日本の天然林には定着できないということが生態学者の共通理解であるが、セイヨウオオマルハナバチの定着の可能性についてはどうか。海外の事例などと比較しながら検討したい。
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イスラエルでは在来ハナバチ類が衰退したと考えられる事例がある。セイヨウミツバチを含めたハナバチ類の個体数が減少し、セイヨウオオマルハナバチが増加している。セイヨウオオマルハナバチは日周活動の上で早い時間から活動し始めることから、他のハナバチの活動を阻害していると考えられる。
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またタスマニアの事例では、セイヨウオオマルハナバチが在来植物に訪花している。かなり定着していると見られるが、その影響はもう少し時間が経過しないとわからない。
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イスラエルの事例については、1990年代より始まった商業利用からの逸出という観点に立った研究であるが、その背景として山火事によって裸地が生じたという状況も考えなくてはならない。またイスラエルにはもともと本種が生息しているため、自然に分布を拡大した可能性もあり、判断が難しい。全般に導入はしていても定着し始めていない国はたくさん見られる。確実に定着しているのはニュージーランド、タスマニアである。
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ニュージーランドでは、ダーウィンの時代から牧草受粉のために10回以上導入を試みてやっと定着させており、現在ではセイヨウオオマルハナバチが優占種となっている。タスマニアにはニュージーランドから意図的に導入されたと考えられる。現地には在来のマルハナバチは存在しない。
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実はオーストラリア本土でもセイヨウオオマルハナバチが導入されようとしている。当局はそのための評価を実施しているが、現時点での結論としては、セイヨウオオマルハナバチの影響はunknownということである。セイヨウオオマルハナバチを評価するとすれば、日本が世界で最初になるかもしれない。
<営巣場所を巡る競合>
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今回の選定で問題となるのは、侵略的かどうかという点である。分布拡大によって在来種にどんな影響があるか。逆に言えば仮に定着しなくとも、大量に流通・逸出して在来生態系に影響を与えるとすれば侵略的である。
- 日本と比較検討する海外事例もまだ少ないかもしれない。競合という点では営巣場所を巡る競合しかまだはっきりとは見えていない。
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営巣場所を巡る競合は問題である。セイヨウオオマルハナバチはエゾオオマルハナバチよりも早く営巣場所を占拠してしまう。定着域に前者の女王バチが大量に出現し、まず生息域を押さえてしまう。
- この点についても在来種のデータは乏しい。在来マルハナバチの巣の観察も少ない。今後充実を図らなければならない点である。
<ネット展張による逸出防止>
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餌資源の競争について、ネットを掛けることでハウス内の採餌効率が上がるということを調べることで逆説的に野外の植物に被害を与えているということを調べることがきるのではないか。
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ネット展張について、資料説明では保護という観点から説明したが、生産者に対する説明では利用上のメリットにも重点を置いて説明する。セイヨウオオマルハナバチにとって、トマト・ナスは採餌効率の良い餌ではなく、野外により効率の良い餌があれば野外に行ってしまう。特に北海道では、短期間に一斉に開花するので、その重要な時期に野外に他の花で採餌してしまうと、トマト・ナスの受粉効率も低下する。セイヨウオオマルハナバチが採餌した花では、バイトマーク(噛み痕)がつくので、バイトマークの濃度を観察することでハチがちゃんと働いているかどうかを判断できる。ネットがあった方がバイトマークが濃くなる上に、モズなどの天敵からハチを守る効果もある。
- ネット展張の効果と生産効率は比例するようだが、そのデータはないのか。比較的とりやすそうな印象を受けるが。
- そのようなデータはない。必要性は感じている。
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セイヨウオオマルハナバチはどの程度侵略的なのか。定着の可能性は低いにせよ、常に大量に利用されている。一方でネット普及も進んでいる。横山委員の資料では発見数は増加しているが、ネットが急速に普及すれば、いずれ野外での発見数も減少し落ち着くのだろうか。
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平取町ではネットの普及がすすんで、発見個体数は激減した。しかし、門別町などでは増加している。供給源はネットで押さえるにしても、既に大量の個体が野外に存在している。
- この先、全部のところでネットを張って、セイヨウオオマルハナバチが減少するかどうかという類推は可能か。
- 少なくとも門別・鵡川を見る限り、減少に転じる気配はない。ネットを展張しても、しばらくは増加傾向ではないか。
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継続的供給を絶てば野外個体は減るのかどうか。ネット展張後の侵入圧を除去した状態で野外個体群がどう変動するか、ダイナミクスをモニタリングすることが必要。
<天敵>
- これまでの話では、逸出は見られる、営巣はある、餌資源は大量にある、という状況だが、日本に天敵はいるのか。
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寄生という面では、スファイルラリア(Sphaerularia)という線虫や、ハエの仲間で寄生するものが考えられる。また海外では小さな寄生バチ、その他にもダニ類などが考えられるが、いずれも日本にいるかどうかは調べなくてはならない。
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セイヨウミツバチの場合、野生化しても、ダニやオオスズメバチなど天敵がいるので、一部の地域を除いて定着は無理である。ミツバチはアジアが分布の中心となっているため、欧州よりもアジアの方が天敵相が豊かである。一方、ヨーロッパを中心に分布するマルハナバチの場合は、日本より欧州の方が天敵相が豊かであると考え得る。
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一方、捕食という面では、ムシヒキアブ、カマキリ、鳥などが挙げられる。これらは個体レベルの天敵であり、寄生のようにコロニーの存続に関わるような天敵ではない。
- ムシヒキアブによる捕食は夏秋トマトの産地で大いに問題となっている。細かいネットを張ることで予防できる。
<巣の乗っ取りと交雑>
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もし定着し、増えるものであるならば、具体的な在来種への影響は何か。近縁種の営巣を乗っ取るという話もあるが、セイヨウオオマルハナバチの巣が元は在来マルハナバチの巣であったという証拠はあるのか。
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2003年の巣の調査では、営巣におけるエゾオオマルハナバチとセイヨウオオマルハナバチの共存が見られた。一時、双方の女王が共存していたが、やがてセイヨウオオマルハナバチに乗っ取られていった。近縁種の営巣に、まずセイヨウオオマルハナバチの働きバチが潜り込むところから乗っ取りが始まるようだ。
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実験室内では、セイヨウオオマルハナバチの乗っ取り・逆乗っ取りを観察したことがある。遺伝子マーカーによる交雑調査にでは変化が見つけられなかったとのことだが、むしろ在来女王バチの貯精嚢にセイヨウオオマルハナバチの精子が見られるかどうかが重要ではないか。
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貯精嚢の調査は野外では未実施である。閉鎖空間では異種間交配もありうるが、野外ではどうか判らない。セイヨウオオマルハナバチが多いところでは、その周辺の在来種ね貯精嚢の調査をすべきである。
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セイヨウオオマルハナバチの配偶行動について。日本の在来種であるクロマルハナバチとオオマルハナバチは、閉鎖空間では交雑するものの、野外では生殖隔離がなされている。これは雄の出す匂いの成分の違いによるものである。
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セイヨウオオマルハナバチの雄はクロマルハナバチとオオマルハナバチの両方の匂いを出している。閉鎖空間内では、一部在来種の女王も誘引される。貯精嚢における精子の調査は急務である。
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リスク評価において、室内での観察事例は野外にあてはまらない面もあるが、同所的種分化と異所的種分化の違いは考慮すべき。外来種は異所的種分化の問題であるため、生殖隔離が発達していない可能性が高い。これはクワガタにおいても同じ状況である。
<まとめ>
- 野生化・定着については、営巣と餌という二つの点で、在来種への影響、競合についての情報はまだ不十分である。
- ネットの効果について、また野外での交尾行動と生殖攪乱についてのデータが乏しいので、早急に調査する必要がある。
〔その他〕
- 次回は現場で実際に利用している人の意見を聴きたい。利用者側の代表として誰から意見を聴くかは、事務局と座長とで協議して決めたい。
(了承)