■ ICRIとは
背景
熱帯の浅海域では、色とりどりのサンゴや魚たちが棲む「サンゴ礁」を見ることができます。日本でも、琉球列島を中心に南の海に広く分布しています。
サンゴ礁は、熱帯雨林とならび、地球上で最も生物多様性が高い場所の一つです。サンゴ礁生態系は、海産資源、観光、娯楽、景観、沿岸保護など、私たちに様々な恩恵をもたらしてくれていて、熱帯の沿岸域に住む人々の生活を支えています。そのため、サンゴ礁の存在は、貴重な生態系としてだけでなく、その国や地域全体において、経済的、社会的、および文化的にも非常に重要です。サンゴ礁は熱帯の沿岸域の多くの人々の生活を維持するための重要なシステムになっているのです。
現在、サンゴ礁は様々な要因によって世界的に衰退傾向にあり、特に人口密集地近くで深刻です。そして、世界中の58%ものサンゴ礁が過度の衰退か、あるいは危機に直面していると推定されています(Reefs at Risk, 1998)。もしこのような事態が今後も続くと、今世紀中に世界中のサンゴ礁の資源の大半が失われる可能性があると指摘されています。
サンゴ礁およびその資源のこのような衰退が続くと、それらを利用する人々の間で軋轢が生じ、環境や食料の安全保障をも脅かすことになりかねません。
ICRIとは
1992年の国連環境開発会議(地球サミット)において採択された「アジェンダ21行動計画」では、サンゴ礁保護の重要性が強調されて、このようなサンゴ礁を取り巻く現状が世界的に認知されるようになりました。これを契機に、サンゴ礁と関連生態系(マングローブや海草藻場を含む)の世界的な衰退に歯止めをかけ、健全な状態に回復させることを目的に、国際サンゴ礁イニシアティブ(International Coral Reef Initiative: ICRI)を設立することが、1994年に開催された第1回生物多様性条約締約国会議(CBD-COP1)において初めて公表されました。
ICRIは当初アメリカ合衆国、イギリス、オーストラリア、ジャマイカ、スウェーデン、日本、フィリピン、フランスの8ヶ国の政府によって開始されました。その後、その他の国の政府、国連組織、国際開発銀行、環境や開発関係のNGO、その他民間機関なども加わって、現在のICRIを形作っています。
1995年には、ICRIの最初のワークショップがフィリピンのドゥマゲティ市で開催されました。このワークショップでは、各国政府、資金援助機関、開発関係機関、NGO、研究機関、民間機関などの代表者が一同に会して、サンゴ礁生態系の持続的な管理を達成するための体制を構築することを目的に活発な議論が行われました。その結果、ワークショップの参加者によって、サンゴ礁の重要性を喚起して、関係者が協力して保全に取り組むことを呼びかけた「行動の呼びかけ」 (Call to Action)と、それを実現するための理念と行動のための指針を示し、様々な活動を奨励した 「行動の枠組み」(Framework for Action)が採択されました。これらは、その後ICRIの基本政策として重要な役割を担っています。
ICRIの仕組
ICRIは、サンゴ礁の持続的利用と保全に関わる全ての関係者が対等な協力関係のもとで集い議論することができる、ユニークな環境国際パートナーシップです。メンバーは、数々の国際および地域のワークショップなどを通して、熱帯のサンゴ礁および関連資源を保全するための最適な方法を検討し、それを実行に移しています。
ICRIはボランティアベースのパートナーシップで、メンバー国の持ち回りで2年ごとに交代する事務局によって運営されています。これまでの事務局は、1994〜1996年の第1期目をアメリカ合衆国が、1997〜1998年はオーストラリア、1999〜2000年はフランスが担当しました。近年では、途上国の意見をより反映させていくという観点から、途上国と先進国が共同で事務局を引き受けていて、2001〜2002年はスウェーデンとフィリピンが、2003年〜2005年はイギリスとセイシェルが担当しています。そして、2004年7月に沖縄で開催されたICRI総会において、2005年7月〜2007年6月の2年間、日本とパラオ共和国が担当することが決定されました。
事務局は、ICRI総会を年1〜2回開催・運営して、国際的なサンゴ礁保全・管理についての指針を策定すること、そしてその方針を各国で実行するための支援を行うことなどを通じて、世界のサンゴ礁保全・管理をリードすることが求められています。日本では、環境省が主体となって、(財)自然環境研究センターがこれをサポートし、その他関係機関や関係者の協力を得ながら運営にあたっています。
またICRIは、公式ホームページ(ICRIForum)を運営しています。ICRIForumは、ICRIに関する全ての情報発信や交換、公式文書(総会議事録や決議文書など)の保管などの役割を果たしています。
地域ワークショップ
1995年のICRIの最初のワークショップにおいて、各地域でワークショップを開催することが奨励され、それに基づいて、1998年までに熱帯アメリカ地域、太平洋地域、南アジア地域、東アジア地域、東アフリカ・西インド洋地域、中近東地域で相次いでワークショップが開催され、地域ごとに地域戦略が策定されました。日本を含む東アジア海地域(東アジアと東南アジアを含む地域)では、1996年に第1回ワークショップがインドネシアのバリで開催され、「ICRI東アジア海域戦略」が採択されました。また、1997年には第2回ワークショップが沖縄で開催されて、「ICRI沖縄宣言」が採択されました。その後、2001年には第3回ワークショップがフィリピンのセブで開催されています。
オペレーショナル・ネットワーク
世界のサンゴ礁保全は緊急を要する事項であるため、研究や管理においてあらゆる関連機関の連携が重要です。ICRIは、「行動の呼びかけ」に対応し、「行動の枠組み」の実施を推進するために、国際サンゴ礁行動ネットワーク(International Coral Reef Action Network: ICRAN)や地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(Global Coral Reef Monitoring Network: GCRMN)など、いくつかの運営組織(オペレーショナル・ネットワーク)を設立しました。特にGCRMNの活動は重要で、世界各地のサンゴ礁の現状をモニタリングすることによって、サンゴ礁の保全と持続的な利用を達成することを目的に構築されました。各地域にはモニタリングの拠点(node)が設置され、それが世界的なネットワークによって結ばれています。東アジア海地域では、石垣島にある国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターと、マレーシアにあるワールドフィッシュ・センターが拠点の役割を果たしています。
ITMEMS
サンゴ礁と関連生態系に関する学際的な国際シンポジウムとして、国際サンゴ礁シンポジウム(International Coral Reef Symposium: ICRS)が4年に1回開催されています。一方、保全と管理を主目的にした、特にICRIの「行動の枠組み」の実施状況を評価し、得られた知見を共有して議論するためのシンポジウムとして、国際熱帯海洋生態系管理シンポジウム(International Tropical Marine Environment Management Symposium: ITMEMS)があります。ITMEMSはICRIが中心となって4年に1回開催され、サンゴ礁の保全・管理に携わる関係者が主に参加して議論を行っています。第1回大会は1998年にオーストラリアのタウンズビルで開催され、「新・行動の呼びかけ」(Renewed call to action)が採択されました。これは、1995年の「行動の呼びかけ」の重要性を再確認するとともに、その後増大する脅威に対して対策を強化・継続することを呼びかけたものです。