法令・告示・通達

動物の保護及び管理に関する法律の一部を改正する法律(動物の愛護及び管理に関する法律)の施行について

公布日:平成12年11月10日
総管505号

(各都道府県知事・各政令市長あて内閣総理大臣官房管理室長)
 動物の保護及び管理に関する法律の一部を改正する法律(平成一一年法律第二二一号。以下「改正法」という。)は、第一四六回臨時国会において成立し、平成一一年一二月二二日に公布されました。本法は、動物の保護及び管理に関する法律の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成一二年六月三〇日政令第三六七号)により、平成一二年一二月一日から施行されることになっています。
 この改正法の施行に向けて、動物の保護及び管理に関する法律施行令等の一部を改正する政令(平成一二年六月三〇日政令第三六八号)、動物取扱業者に係る飼養施設の構造及び動物の管理の方法等に係る基準(平成一二年六月三〇日総理府令第七三号)、動物の愛護及び管理に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成一二年九月二九日政令第四三七号。以下「施行令」という。)及び動物の愛護及び管理に関する法律施行規則(平成一二年一〇月一七日総理府令第一一七号。以下「施行規則」という。)が制定され、いずれも改正法の施行の日から施行されることになっています。
 この改正法の制定の趣旨及び改正の内容等は、左記のとおりでありますので、これらについて御了知の上、改正法の適切な施行に努められますようお願いします。
 なお、機関委任事務の廃止に伴い、動物の保護及び管理に関する法律に基づき都道府県知事又は政令で定める市の長が処理することとされている事務はすべて都道府県知事又は当該政令で定める市の長が処理する自治事務となったことから、これまで動物の保護及び管理に関する法律の施行のために出された機関委任事務に係る通達は、すべて地方自治法(昭和二二年法律第六七号)第二四五条の四第一項に定める技術的助言として取扱うこととします。

第一 改正法制定の趣旨
  都市化の進展や核家族化、さらには近年の社会の少子高齢化への流れを背景として、ペット動物の飼養に対する志向が広がるとともに、飼い主の生活におけるペット動物の重要性が高まってきている。その一方で、ペット動物等の虐待事件が社会的に注目されたり、飼い主の不適正な飼養により飼い主以外の者との意識の相違が助長され、ペット動物を巡るトラブルが近隣の迷惑問題として顕在化している。このような状況を踏まえて、ペット動物の飼養をより適正なものにすることによって、今後のペット動物の飼養の重要性に対応した人とペット動物とのより良い関係づくりを進めること及びそのことを通じて生命尊重や友愛等の情操面の豊かさを実現していくことが、社会全体から求められてきている。
  このような社会的な要請に応えるため、以下に記している規定が盛り込まれた改正法の制定が議員立法により行われたものである。
第二 改正の内容等
 一 法の名称、目的等の改正
  (一) 法の名称及び目的(第一条関係)
    法律の名称中及び第一条(目的)中の「保護」が「愛護」に改められているが、この趣旨は、改正前の「保護」は虐待の防止や適正な取り扱い、飼養等をその内容としており、「愛護」はそれらを言い表し得るのみならず、さらに改正法の目指すところである人と動物とのより良い関係づくりを通じた生命尊重、友愛等の情操の涵養ということによりふさわしいと考えられることによるものである。
  (二) 基本原則(第二条関係)
    冒頭に「動物が命あるものであることにかんがみ、」を加えて、命ある動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、動物の習性を考慮して適正に取り扱うことを求めるとともに、その際における「人と動物の共生に配慮しつつ、」を加えることにより、それらのことがすべての人と動物とのより良い関係づくりに資することを明確にして、近年の生活におけるペット動物の飼養の重要性の高まりに社会全体で適切に対応していこうとするものである。なお、ここでいう人と動物の共生には、人間社会の中において動物をそれぞれの役割に応じて適正に利用していくことも含まれるものである。
  (三) 普及啓発(第三条関係)
    改正前には動物愛護週間における国及び地方公共団体の普及啓発行事のみが規定されていたが、生命尊重、友愛等の情操の涵養の面で、特に子どもが心豊かに育っていく上において、動物との触れ合いや動物の適正な飼養の経験が重要であることが近年指摘されてきており、国及び地方公共団体をはじめとした関係者の連携協力の下にさまざまな機会をとらえて教育活動や広報活動等におけるこれらの取組を進めることが、動物の愛護と適正な飼養に関する有効な普及啓発になると考えられるため、本規定が設けられたものである。
 二 飼い主責任の強化とその確保
  (一) 動物の所有者又は占有者の責務等(第五条関係)
   ア 第一項中に「命あるものである動物の所有者又は占有者としての責任を十分に自覚して、」が加えられたが、これは、第二条の基本原則の改正を受けて動物の命を預かる飼い主の責任とその自覚を明記することにより、飼い主責任の徹底に寄与していこうという趣旨である。
   イ 第二項は、動物に起因する感染性の疾病(人畜共通感染症)が、動物の飼養に密接な関係を有することから、飼い主やその周囲の人々の感染の防止を図るため、人畜共通感染症に関する正しい知識の修得を飼い主責任として求めるものである。
   ウ 第三項は、自己の所有に係る動物であることを明示することによって、当該動物の飼い主責任の所在を明らかにするとともに、逸走した動物の飼い主発見の促進や飼養する動物の遺棄の防止の徹底を図っていこうとするものである。
  (二) 動物販売業者の責務(第六条関係)
    飼い主の適正な飼養に係る責任を確保するためには、動物の購入に当たって、その動物の習性や特性、適正な飼養方法などについて、販売業者からの適切な説明が必要であるが、説明が不十分で購入者の理解がないまま飼養されることが、その後の不適正な飼養や飼養放棄の一因となっている。特に、近年新たにペットとして飼養されるようになった爬虫類や哺乳類に属する動物種の増加に伴い、この問題が注目されている。これらを踏まえ、動物販売業者の責務として、購入者に適正な飼養保管方法について説明し、理解させるよう努めることを求めているものである。なお、この責務の対象には、飼養施設を有せずに動物を販売する業者も含まれる。
  (三) 地方公共団体の措置(第七条関係)
    飼い主の無責任な飼養により他者に迷惑を及ぼしているような事態が、飼い主以外の者も含めたすべての人と動物との共生ということの支障となっていることにかんがみ、地方公共団体が条例により適切な対応をとり得ることが確認的に規定されているものである。
 三 動物取扱業に対する規制措置
  (一) 規制措置新設の趣旨
    ペット動物の飼養や動物との関わり合いによる情操面での豊かさ等を社会が広く享受していくためには、動物の飼養や取り扱いが社会全体で適正になされていく必要がある。特に業として動物を継続反復して取り扱っているペットショップや動物園などの動物取扱業者は、動物の愛護と飼養のあり方について業務を通じて広くまた密接に関係していくことになるため、動物の健康及び安全を保持するための適正な飼養の確保に対する社会的な役割は大きくまたその責任は極めて重いものとなっている。この責任等を制度的に確保するため、新たに動物取扱業に対する規制措置が設けられたものである。
  (二) 規制措置の対象(第八条関係)
   ア この動物取扱業の規制措置の対象となる動物は、哺乳類、鳥類及び爬虫類に属する動物であって、畜産農業に係る動物すなわち乳、肉、卵、羽毛、皮革、毛皮等の畜産物の生産及び乗用、役用、競争用等の畜力の利用を目的として飼養又は繁殖されているもの並びに試験研究等に利用されることを目的に飼養又は繁殖されているものを除く動物である。
   イ 規制措置の対象となる動物取扱業は、前記動物を飼養施設(飼養又は保管のための構造物のみならず飼養のための設備等を備えた事業所内の区画又は領域を含む)で飼養しながら、販売、保管、貸出し、訓練、展示その他政令で定める動物の取り扱いを業として継続反復して行うものである。したがって、社会通念上業とは認められないものは含まれない。
  (三) 届出の義務付け(第八条、附則第四条、第九条及び第一〇条関係)
   ア 動物取扱業者に対して、飼養施設を設置している事業所ごとにその所在地の都道府県知事等への届出義務が、全国一律に課されているが、これは、行政による動物取扱業の実態把握を目的とするものである。なお、これらの届出は、届出書の記載漏れ等形式審査の上受理するものである。また、施行規則第五条において、届出は届出書の正本にその写し一通を添えることとされているのは、受理印等を押した上で写しを届出をした者に返却し保管してもらうことを想定していることによるものである。
   イ 施行規則の様式第一及び第八の「主として取り扱う動物の種類及び数」については、それぞれの様式の備考の三に記載する事項の「種類」には、品種名は用いずに、犬、ねこ、フェレット、ニホンザル、トラ、鶏、フィンチ、インコ、オウム、カメ、トカゲ、ヘビ等取り扱う動物が具体的にわかる一般名又は種名を用い、また、「数」には、届出に係る事業所において常時取り扱っている標準的な数(改正法施行時に現に業を行っている事業所については、過去一年間の実績から標準的な常時取り扱う数の概数)を記載することが求められるものである。
   ウ 第九条第二項における事業所の所在地(前条第一項第二号)の変更とは、住居表示の変更を意味するものであり、事業所の移転の場合には、事前に第八条の新規の届出と事後に第九条第二項の届出に係る飼養施設の使用の廃止(届出に係る事業所の閉鎖を意味する)の届出が必要になるものである。
   エ 第一〇条第一項に「動物取扱業者の地位を承継する」とあるのは、届出に係る飼養施設を設置した事業所を受け継ぐことによりその動物取扱業を実質的に引き継ぐことを意味し、商法上の分割により承継が行われた場合も同様に解釈するものとする。
  (四) 基準遵守義務(第一一条関係)
    都道府県等は地域の自然的、社会的条件から必要があると判断される場合に、条例で総理府令に代えて適用する基準(総理府令の基準と同等以上の内容のもの)を定めることができる旨の規定が、第二項として置かれたが、これは、動物取扱業者の実態が地域によって異なること、また地域によって動物取扱業者に求める社会的な要請に差があり得ることなどによるものである。
  (五) 勧告及び命令並びに報告要求及び立入検査(第一二条及び第一三条関係)
    これらの行政措置は、動物取扱業者の基準遵守義務の実効性を担保するために定められたものである。命令は、勧告に対して正当な理由なく従わない場合に認められているものであり、報告要求や立入検査については、動物取扱業者の権利を制約するものであることにかんがみ、動物取扱業者の規制の実施に必要な限度に置いて認められ、濫用してはならないものであることが規定されたものである。
  (六) 条例による措置(第一四条関係)
    本法の第八条から第一三条までの規定に基づく動物取扱業者に対する全国一律の規制措置に代えて、都道府県等が必要があると認めるときは、条例で同等以上の内容を有する特別の規制措置を定めることができる旨の規定である。これは、地方分権の趣旨から、自治事務について地方自治体が条例により独自の取組を行うことを妨げるものではないことが、確認的に規定されたものである。
 四 周辺の生活環境の保全に係る措置(第一五条関係)
  (一) 本規定は、多数の動物(対象動物は三(二)に同じ)の不適正な飼養等に伴い生じている悪臭等により周辺の生活環境が損われている事態に対して、行政が有効適切に対応し得るようにするためのものである。
  (二) このような事態への行政の対応については、飼い主責任に対する啓発や指導によって事態の改善が図られることが本来望ましいと考えられるが、その事態を生じさせている者が事態の除去のための勧告に係る措置を正当な理由なくとらなかった場合において、周辺の生活環境の保全上特に必要があると認めるときには、その者に対して勧告に係る措置をとるべきことを命じることができる旨が第二項に規定されたものである。
  (三) このような事態は地域的なものとなる場合が多く、地元の市町村の協力を得なければ本措置の実効を期しがたいと考えられることから、市町村長に協力を求めることができる旨が第三項に規定されたものである。
 五 動物による人の生命等に対する侵害を防止するための措置(第一六条関係)
   人の生命、身体及び財産に害を加えるおそれがある動物について政令で定める旨が加えられたが、これは、動物による人の生命、身体又は財産への危害を防止するために、地方公共団体が、条例で飼養の許可制等の措置を講ずる場合の対象として原則として指定すべきと考える動物を、政令で定めることにより、地方公共団体による全国的に整合のとれた対応に寄与していこうという趣旨である。なお、本条文の構造及び地方分権の観点から、合理的な理由や必要性がある場合には、施行令で指定された動物の一部を条例で指定しないこと又は施行令で指定された動物以外の動物を条例で指定することができるものである。
 六 動物愛護管理担当職員(第一七条関係)
   動物愛護管理行政における専門職員の配置の必要性を踏まえて新設された規定である。第一項においては、改正法で新設された動物取扱業者の事業所への立入検査や第一六条の立入調査その他の動物の愛護及び管理に関する事務の執行に当たっては動物の適正な飼養及び保管に関する専門的な知識が必要であることから、それらの業務を担当する職員について、地方公共団体は条例の定めるところにより動物愛護管理員等の職名を有する職員を置くことができることとされ、第二項では、そのような職名を有する職員には獣医師等を充てることとされているが、これは、原則として獣医師の資格を持つ者を充てることが望まれるが、それが困難な場合には学校教育法(昭和二二年法律第二六号)に基づく大学において獣医学又は畜産学の課程を修めて卒業した者を充てることを求めているものである。
 七 犬及びねこの繁殖制限(第二〇条関係)
   飼い主の繁殖制限の責務規定に新たに第二項を設け、都道府県等は、犬又はねこの引き取り等に際して、飼い主による犬又はねこの生殖を不能にする手術その他の措置が適切になされるよう、必要な指導及び助言を行うよう努めることが定められた。これは、第一八条第一項の都道府県等による犬及びねこの引き取り措置は、飼い主の終生飼養の責務に反するやむを得ない事態への対応としての緊急避難措置として位置付けられるものであり、今後の飼い主責任の更なる普及徹底に伴いその必要性は減じていくべきものであるが、現状においては依然多くの犬及びねこの引き取りを行わざるを得ない事態が続いていることから、引き取りに係る子犬及び子ねこの数を減少させる上で有効なその親犬及び親ねこの繁殖を防止するための措置が飼い主によって適切に行われるよう、都道府県等が引き取りに際しての指導等を行うべきことが規定されたものである。
 八 動物愛護推進員の委嘱と協議会の組織化
  (一) 動物愛護推進員の委嘱(第二一条関係)
    この動物愛護推進員の委嘱及びその任務の規定の新設は、法目的としての動物の愛護と管理、その中核的な内容としての動物の適正な飼養を推進するためには、飼い主責任が適切に確保されることが必要不可欠であり、そのためには民間の有識者等による活動が極めて重要であることから、第一七条の動物愛護管理員等との適切な連携協力とともに、次条の協議会の活用と合わせて、行政も含めた動物の愛護と適正な飼養に関する有識者等のネットワークが地域レベルで作られていくことに制度的に寄与していこうというものである。
  (二) 協議会の組織化(第二二条関係)
    動物愛護推進員の委嘱及び同推進員の活動をより有効なものにしていくための支援等を進めるためには、同推進員の委嘱主体である都道府県等と同推進員の推薦母体となり得る動物愛護を目的とする公益法人、獣医師の団体その他の都道府県等の施策に協力し動物愛護の普及啓発等に実績のある団体などとの連携協力の体制をつくり出すことが求められる。このため、これらによって協議会を組織することができる旨の規定が上記の動物愛護推進員の規定と合わせて新設されたものである。この協議会には、条文上は明記されてはいないが、本規定の趣旨から、適正飼養の確保における動物取扱業者の役割や責任にかんがみ動物取扱業者の団体の参加や、住民により近い行政主体である関係市町村の参加が望まれるものである。
 九 虐待及び遺棄の罰則の強化(第二七条関係)
   みだりな殺傷、殺傷以外のみだりな虐待及び遺棄にそれぞれ項立てがなされ、その量刑が大幅に強化されるとともに、「愛護動物」に新たに人が占有している爬虫類が追加されたが、これは、改正前の罰則では動物の虐待や遺棄に対する有効な抑止力になっていないとの批判に対応するとともに、近年爬虫類のペット動物としての飼養が増加しその遺棄等が社会問題化していることによるものである。