法令・告示・通達

温泉の利用基準について

  • 公布日:昭和50年7月12日
  • 環自企424号

(各都道府県知事あて環境庁自然保護局長通知)

 温泉の療養効果については、近代医学においても高く評価されているところであり、例えば、含硫化水素酸性緑ばん泉等の浴用利用により卓越した医療効果が得られることが医学的にも実証されているところである。また、温泉の飲用についても多くの医治効能が期待できるものであり、温泉を適正に利用することは、国民の保健休養上極めて有益である。しかしながら、一方、温泉には種々の成分が含有されており、その利用方法を誤つたり、或いは、温泉の利用施設等の管理が適切でない等のため、人体に思わぬ障害を与える場合がある。そのため、温泉の利用は、でき得る限り医師の適切な指導の下に行われることが要請されているところであり、また、温泉利用施設等についても、その適切な管理が強く望まれているところである。しかし、通常の温泉利用においては、医師の指導によらず多くの利用がなされているのが現状であり、又温泉利用施設の整備及びその管理についても十分であるとは言えない状況にある。
 このようなことから、特に人体に対する障害が危惧されるひ素等を含有する温泉の飲用許可の取り扱いについては、既に、昭和三一年九月三日国発第四七三号厚生大臣官房国立公園部長通知「ひ素含有温泉の飲用について」及び昭和四二年一二月二五日国管発第一〇〇号厚生省国立公園局管理課長通知「ひ素等を含有する温泉の飲用許可について」により、とくに慎重を期されるよう指示してきたところであるが、その他の温泉についても、不適切な利用等によつては、人体に対する障害のおそれが皆無とはいえず、前記通達以外の成分も含めた総合的な温泉利用基準の設定が望まれていたところである。
 以上のような観点に立つて、医師の適正な指導によらず行われる一般の温泉利用について、さらに利用者の一層の安全確保と温泉の有する医治効能の積極的な活用をはかるため、今般、別紙のとおり、わが国における普遍的な泉質である硫化水素含有泉の浴用利用基準を中心として温泉利用基準をとりまとめたので通知する。
 今後、温泉の利用許可にあたつては、本基準に添つた適正な温泉の利用が行われるよう慎重を期されるとともに、既に許可済みのものについても、温泉利用施設の関係者等を十分指導される等特段の御配慮をお願いする。
 また、本基準において硫化水素を含有する温泉の浴用利用基準において、温泉利用施設管理者は、浴室内等における空気中の硫化水素濃度を測定することとしているので、当該管理者に硫化水素の測定技術の習得が図られるよう適宜講習会を開催する等適切な御配慮を願いたい。
 なお、本基準は、一か月程度温泉地に滞在する通常一般の温泉利用者を対象として設定されたものであるので、長期に亘り温泉を利用する地域住民等については、本基準は必ずしも適合しないから、その利用実態に応じ別途考慮されたい。
 おつて、昭和三一年九月三日国発第四七三号厚生大臣官房国立公園部長通知「ひ素含有温泉の飲用について」及び昭和四二年一二月二五日国管発第一〇〇号厚生省国立公園局管理課長通知「ひ素等を含有する温泉の飲用許可について」は、廃止する。

別表
  温泉利用基準

第一 浴用利用基準

 1 基準の適用対象となる温泉の種類

   総硫黄(総硫化水素+チオ硫酸に対応するもの)が2mg/kg以上含まれる温泉(例えば、含食塩硫黄泉、含石膏硫黄泉、単純硫黄泉、酸性硫化水素泉、含硫化水素酸性緑ばん泉等)

 2 利用施設の構造

   施設管理者(温泉法第十二条の規定による許可を受け、もしくは受けようとする者をいう。以下同じ。)は、硫化水素による事故の事前防止のため、利用施設の構造を次のようにすること。

  (1) 換気構造
  1.    ア 浴室(露天風呂の場合は利用空間をいう。以下同じ。)に換気孔又は換気装置(以下「換気構造」という。)を設け、浴室内の大気中の硫化水素濃度が、次に掲げる数値を超えないようにすること。
    1.     (ア) 浴槽湯面から上位10cmの位置の濃度 20ppm
    2.     (イ) 浴室床面から上位70cmの位置の濃度 10ppm
  2.    イ 換気構造を設けたにもかかわらず、浴室内の空気中の硫化水素の濃度が、アに定める数値を超える場合、施設管理者は、源泉から浴室までの間に、湯畑その他の曝気装置等を設けることにより、温泉中の硫化水素の含有量を減少させ浴室内の大気中の硫化水素の濃度が前記の数値を超えないようにすること。
  3.    ウ 換気構造の開口部を二箇所以上設け、かつ、そのうち一箇所は、浴室床面と同じ水準に設けること。(別図1参照)
  (2) 浴槽
  1.    ア 浴槽湯面が浴室床面より高くなるように設けること。(別図2参照)
  2.    イ 浴槽に温泉を入れる注入口は、浴槽湯面より上部に設けること。(別図3参照)
 3 浴室等の管理

   施設の管理者は利用者の安全を確保するため、浴室等において自ら次の業務を行うか、又は、この業務を行う浴場管理人を置くこと。

  (1) 換気状態の監視

    浴室内の硫化水素濃度が常に適正に維持されるよう換気構造に対する監視を怠らないこと。とくに、積雪の多い地方については、積雪により換気構造の適切な稼動が妨げられることのないように十分留意すること。また、周囲の地形、積雪等により硫化水素が滞留するおそれがある露天風呂を利用に供している場合は、風速、風向等の気象条件の状況及び変化等を十分に配慮すること。

  (2) 濃度の測定

    濃度の測定について、都道府県知事が必要と認めたときは、浴室内の大気中の硫化水素濃度を検知管法又はこれと同等以上の方法により、原則として毎日二回以上測定し、濃度に異常のないことを確認すること。
    なお、この測定のうち一回は、朝の浴室利用開始前に行うこと。

  (3) 測定結果の記録及びその保持

    硫化水素の測定結果について都道府県知事より報告を求められたとき、直ちに提出できるようにその記録を保持しておくこと。

  (4) その他
  1.    ア 浴室が利用に供されている間常に浴槽に温泉が満ちているようにすること。
  2.    イ 利用者の安全を図るため、温泉の利用状態に常時気をくばること。
 4 保安設備の設置

   源泉設備、湯畑その他の曝気装置、パイプラインの排気装置、中継槽、貯湯槽等の管理者は、硫化水素による中毒事故の防止に対する十分な保安設備、例えば、立入禁止柵、施錠設備、注意書を明示した立札を設けることの他、特に高濃度又は大規模な貯湯槽等の場合は、動力その他による拡散装置等を設けること。

第二 飲用利用基準

 1 基準の適用対象となる温泉水の成分の種類

   ひ素、銅、ふつ素、鉛 水銀、遊離炭酸

 2 飲用許容量

   湯治のため温泉を飲用に供しようとする場合においての飲用量は、次に掲げる量を超えないこと。

  (1) 大人(一六歳以上の者)
  1.    ア ひ素を含有する温泉水(1日につき)
        飲用の総量 (0.3/A×1000)ml
        成分の総摂取量 0.3mg
  2.    イ 銅を含有する温泉水(1日につき)
        飲用の総量 (2.0/A×1000)ml
        成分の総摂取量 2mg
  3.    ウ ふつ素を含有する温泉水(1日につき)
        飲用の総量 (1.6/A×1000)ml
        成分の総摂取量 1.6mg
  4.    エ 鉛を含有する温泉水(1日につき)
        飲用の総量 (0.2/A×1000)ml
        成分の総摂取量 0.2mg
  5.    オ 水銀を含有する温泉水(1日につき)
        飲用の総量 (0.002/A×1000)ml
        成分の総摂取量 0.002mg
  6.    カ 遊離炭酸を含有する温泉水(単純炭酸泉、含炭酸重曹泉等)
        成分の総摂取量 1000mg(1回につき)
  •     ※ Aは当該温泉の1kg中に含まれる成分の重量(mg単位)の数値
  (2) 小人(一五歳以下の者)
     一五歳から八歳まで
      大人を一とした場合の二分の一量
     七歳から五歳まで
      大人を一とした場合の三分の一量
     四歳から三歳まで
      大人を一とした場合の六分の一量
     二歳以下
      大人を一とした場合の一〇分の一量
 3 施設の管理等
  (1) 衛生管理

    飲用に供する温泉水が周辺環境から汚染されないよう源泉及び附帯施設の衛生管理を十分行うこと。

  (2) 飲用場所の限定

    飲用に供する湯栓等は限定し、その場所を明確に表示すること。

  (3) 飲用許容量等の明示

    飲用場所に飲用許容量その他必要となる飲用上の注意を掲示すること。とくに、炭酸ガスを含有する温泉については、大量の炭酸の飲用吸収による鉱泉酩酊について十分な注意を促すこと。
    また、掲示にあたつては、例えば「この容器で一回につき三杯まで」等飲用者に分り易い方法も併せて示すこと。

第三 分析基準

  第二の1に掲げた成分の分析は、鉱泉中分析法により行うこと。
  なお、鉱泉中分析法に規定のない鉛、水銀、ふつ素については、検体の泉質に照らし所要の前処理を行つたうえ、当分の間、日本薬学会「衛生試験法」(一九七三年)有害性元素試験法を参照して行うこととするが、ふつ素については、アルミニユームなどの分析妨害がない場合に限り、イオン電極法によつても差しつかえないこと。


図1:換気構造の開口部を二箇所以上設け、かつ、そのうち一箇所は、浴室床面と同じ水準に設ける

図2:浴槽湯面が浴室床面より高くなるように設ける

図3:浴槽に温泉を入れる注入口は、浴槽湯面より上部に設ける

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