法令・告示・通達

生活環境審議会廃棄物処理部会浄化槽専門委員会第二次報告書について

公布日:昭和63年06月02日
衛浄35号

(各都道府県浄化槽行政主管部(局)長あて厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課浄化槽対策室長通知)

 浄化槽行政の推進については、かねてより御尽力を賜つているところである。
 さて、生活環境審議会廃棄物処理部会浄化槽専門委員会において、生活排水処理体系の中での浄化槽のあり方について検討を行い、今般、別添のとおり報告書がとりまとめられたので、参考のためこれを送付する。
 また、貴管下市町村(ただし、政令市を除く)及び保健所にも同報告書を配布し、周知徹底を図るとともに、今後とも合併処理浄化槽の適正な普及と浄化槽法の円滑な運用を図るため、関係者に対する指導方よろしくお願いする。

別添〔後掲〕

別表

  生活排水処理体系の中での浄化層のあり方
  浄化槽専門委員会第2次報告書

(昭和63年6月2日)
(生活環境審議会廃棄物処理部会)
(浄化槽専門委員会)

1 はじめに

  浄化槽は現在全国で554万基が設置され、なお毎年約30万基程度増加している。浄化槽使用人口は、定住人口で国民の4人に1人にあたる約3,232万人にも達し、浄化槽の生活環境基盤施設としての重要性は極めて大きなものとなつている。(表―1、図―1)
  浄化槽の重要な役割の一つは、便所の水洗化を行うことにより、国民の快適な生活環境を確保することにある。我が国では、未だに多くの人々が汲み取り便所を使用しているが、国民の水洗化の要望が強く、今後とも国民生活の質的向上を図る上で浄化槽が水洗化の担い手として果たすべき役割はきわめて大きい。
  一方、河川や湖沼、海などの水の汚れが大きな社会問題となつており、その汚れの原因として、生活排水、特に台所の排水などの生活雑排水が大きくクローズアップされている。例えば、東京湾の汚染源のうち約5割が、また、千葉県の手賀沼では約7割がそれぞれ生活雑排水によるものとされており、身近な生活環境や公共用水域の水質を保全、向上させるうえで生活雑排水対策の必要性がますます高まつてきている。(図―2)
  このようななかで、近年、家庭用の浄化槽においても、し尿と生活雑排水を併せて処理する高性能の合併処理浄化槽が開発・実用化され、生活排水対策及び快適な生活環境の確保の有効な一手段として、社会的に大きな注目と期待を集めるようになつてきた。(図―3)
  快適な生活と美しい水環境を確保する上で各種の生活排水処理施設の整備を進めることは極めて有効であり、合併処理浄化槽は国の公害防止計画においても有力な生活排水対策の手段として位置づけられており、また、合併処理浄化槽の設置者に補助金を交付する市町村に対する国の助成制度(合併処理浄化槽設置整備事業)も創設された。
  このような合併処理浄化槽に対する認識の高まりと制度の整備により、合併処理浄化槽設置整備事業を行う市町村数は今後増大していくことが見込まれ、中には、町全体に家庭用合併処理浄化槽を設置する計画を有する市町村も出てきている。このように近年の動向は、浄化槽に生活排水対策の一つの柱としての役割を期待するようになつてきており、浄化槽行政にも新しいアプローチが求められている。
  こうした新しい段階における浄化槽行政を進めるにあたつては、現在までの生活排水処理対策の歴史を振り返りつつ、特に合併処理浄化槽を生活排水処理の体系の中でどのように位置づけ、かつ、整備を推進していくかについて重点を置きながら、今後の生活排水処理対策のあるべき方向を検討し、長期的ビジョンを持つて対策を講じていくことが必要である。
  このような状況を踏まえ、当専門委員会では、昭和62年6月9日の第1回会合以来8回にわたり、生活排水処理体系の中での浄化槽のあり方について検討を重ね(昭和62年11月には、その一部を「既設浄化槽対策について」として報告)、今般、第二次報告書として、将来にわたつて浄化槽の生活排水処理施設として担うべき役割についてとりまとめることとしたものである。

2 生活排水処理の現状と課題

  昭和60年度の我が国のし尿処理の状況をみると、総人口12,127万入のうち、市町村等による一般廃棄物処理計画が定められている区域内の人口(いわゆる計画処理人口)は、12,109万人であり、その約56%に当たる6,787万人は水洗便所を使用しており、残りの約44%に当たる5,322万人は汲み取り便所を使用している。また、汲み取りし尿の約88%はし尿処理施設などで衛生的に処理されている。
  水洗化人口のうち、52%は公共下水道によるものであり、48%は浄化槽によるものである。なお、浄化槽の設置基数は、昭和60年度には約554万基であるが、そのほとんどはし尿のみを処理する単独処理浄化槽である。
  一方、環境庁によれは、し尿以外の生活雑排水(台所、洗濯場、浴室排水等)については、約6割が未処理のまま河川等に排出されている状況にあるとしている。
  国レベルの計画に基づき生活環境施設の整備が進められたのは、昭和38年の「生活環境施設整備緊急措置法」の制定に始まる。それ以降、我が国では、高度経済成長期とそれに続く安定経済成長期へという社会的な変遷を経験しており、これに対応して講じられてきた生活排水処理対策の経緯を総括しつつ、生活排水処理の現状と課題を整理することとする。

 (1) 都市化の進展と生活排水

   昭和30年代から40年代なかばにかけての高度経済成長の過程で、大都市圏、地方圏ともに都市化が進展し、この結果、全国の人口集中地区(DID)人口は、昭和35年が約4,083万人であつたものが昭和45年には約5,600万人となつた。(図―4)
   このような状況のもとで、すでに述べたように昭和38年には「生活環境施設整備緊急措置法」が定められた。この法律は生活環境施設(公共下水道、し尿処理施設及びごみ処理施設)の緊急かつ計画的な整備を目的とするものである。
   昭和40年8月27日に同法に基づき閣議決定された「生活環境施設整備5箇年計画」においては、昭和42年度における下水道人口を2,500万人、し尿処理施設利用人口を4,940万人、し尿浄化槽人口を560万人とする目標をおき、昭和38年度からの5年間に新たに1,800万人分の下水道終末処理場と2,935kl/日の処理能力を有するし尿処理施設を整備することとされた。
   ところが、実際には、下水道人口は、昭和38年度の約550万人から昭和42年度には約691万人にわずか141万人増加したにとどまる一方、浄化槽人口が約434万人から約880万人と446万入増加する結果になつた。また、汲み取りし尿は新たに約2,520kl/日がし尿処理施設で処理されることとなつた。
   昭和42年度の総人口は9,960万人、うち水洗化人口は1,571万人であり、「清掃法」の特別清掃地域の非水洗化人口5,558万人の7,837kl/日の汲み取りし尿のうち、し尿処理施設等で衛生的に処理された率は60%であつた。
   このように生活環境施設の整備が遅れたこともあり、生活排水による水質汚濁等の問題が発生したが、産業公害による水俣病などの深刻な健康被害の発生もあり、産業排水に対する規制及びその対策が優先され、いわゆる生活型公害に対しての対策は後日にゆだねられた。
   一方、この時期、昭和41年8月に公害審議会下水清掃部会がまとめた「し尿処理の施設基準ならびに維持管理基準」の「序説」では、「国民総水洗化」を標榜し、この目標を達成するために「公共下水道を軸とし、さらにこれを補足するコミュニティープラント及び浄化槽を将来の地域開発を展望し長期総合計画に基づいて促進しなければならない」とし、地域の事情の多様性を考慮した方策をとるべきことが指摘されていたことは注目に値する。

 (2) 生活型環境問題と生活排水

   昭和48年の第一次石油危機を契機に経済は安定成長期に入り、大都市圏の人口集中の沈静化と産業の地方分散が見られた。
   この時期には、すでに昭和45年のいわかる公害国会において、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」や「水質汚濁防止法」の制定、「下水道法」の改正など法制度が整備され、廃棄物や工場・事業場排水に対する規制が強化された。
   また、50年代に入つても依然として都市化は進行し、昭和60年には、全国のDID人口は7,334万人であり、大都市圏で81%、地方圏で44%の人々がDIDに居住するようになつた。
   一方、国民の生活様式も都市化し生活水準も向上した。消費活動の高度化、国民意識の多様化が進むなかで、産業公害が一時の危機的状況を脱したことも相挨つて、大都市圏においても地方圏においても生活排水による水質汚濁など、いわゆる生活型公害が大きくクローズアップされてくるとともに、都市環境の質の向上が求められるようになつてきた。
   地域的には、都市地域のみならず、拡散的な市街化や農地との混在化の進行がみられる都市近郊においても生活雑排水による水質汚濁を生じ、水道水源の水質悪化や身近な生活環境の悪化が問題となつた。また、農村地域においても都市的生活様式の普及により生活雑排水が水質汚濁を生じさせるようになつてきた。
   さらに、生活環境の質的向上が求められるなかで、都市部、農村部を通じて身近な水域を、うるおいや、やすらぎの得られる貴重液ものとして見直そうという傾向も強くみられるようになつた。
   このように、生活排水、特に生活雑排水の適正処理は全国的に緊急に必要であると認識されるようになつてきている。

 (3) 生活排水処理の課題

   我が国の国民一人当たりのGNPは、昭和62年(歴年)には1万9,642ドル(1ドル143.86円として換算)に達し、米国(昭和62年(歴年)1万8,412ドル)を上回り世界のトップクラスの水準となつている。
   このように、国際的に見ても我が国の国民は経済的に豊かになり、一方で国内の文化的生活レベルの均質化が急速に進展したことも相挨つて、水洗便所を使用することは、都市部のみならず国内一般に、贅沢なことではなくなつた。
   ところが、生活雑排水についてみると、公共下水道、地域し尿処理施設又は合併処理浄化槽を使用している家庭については処理されているものの、汲み取り便所や単独処理浄化槽を使用している家庭については、ほとんどが未処理のまま放流されている。このことは従来、一般家庭から排出される程度のものであれば、公共用水域の汚濁原因とはならないとして、多くの地域で許容されてきたことによるものである。
   しかし、近年における生活水準の向上に伴う、水使用量の増加及び食生活の多様化、排出される厨芥の性状変化などにより、生活雑排水の汚濁負荷量はますます増加する傾向にある。国民一人が一日あたりに排出する水質汚濁物質量を生物化学的酸素要求量(BOD)でみると、水洗便所として排出する量が13gであるのに対し、生活雑排水として排出される量は27gといわれている。
   このため、公共用水域の汚濁の原因として、未処理の生活雑排水が大きな問題となつてきており、一般家庭であるからといつて無処理のままの放流が、無制限には許容されないということが、国民の中にも次第に意識されるようになつてきている。
   我が国の一般的な衛生水準は、水道普及率がほぼ94%に達するとともに、し尿の衛生処理率が約88%になるなど、廃棄物の適正処理のための体制や施設整備がかなり進んだことなどを背景に、国際的にみても遜色ないところまできている。しかしながら、前述のごとく生活の質的水準を表わす一つの指標であると考えられる水洗化率がまだ56%であり、昭和38年から5次にわたる施設整備計画を進めながら、なお約5,300万人もの非水洗化人口を残している。また、生活雑排水については、6割程度が未処理のまま放流されている。
   現在進められている計画では、下水道(公共下水道、流域下水道及び都市下水路)については、第6次下水道整備5箇年計画で昭和61年度から昭和65年度までの5年間に、下水道処理人口を1,106万人増加させることとしており、このため必要な事業費の投資額は約12兆2,000億円である。地域し尿処理施設については、第6次廃棄物処理施設整備計画では、昭和61年度から昭和65年度までの5年間に214億円を投資して20万人分の施設整備を行うこととしている。
   一方、昭和50年代後半になつて、高性能の家庭用の合併処理浄化槽が開発・実用化され、生活排水対策及び快適な生活環境の確保の有効な手段として評価されるようになつてきた。
   今後は、公共下水道や地域し尿処理施設の整備計画の推進に加えて、昭和41年当時目標としていた「国民総水洗化」を早期に達成するとともに、併せて、生活雑排水の処理率を高めるべく、民間活力活用型の合併処理浄化槽も含めて、生活環境施設の整備を地域の実情に応じて最も適切かつ早急に行えるよう、生活排水処理の計画的推進を図らねばならない。
   また、国民の生活環境の質に対する要求が高度化していることを踏まえ、生活排水処理の推進にあたり、環境の快適性を高めるための快適環境づくりの施策として、身近な水や緑を保全・整備し、景観などにも配慮した快適な生活空間が確保できるように必要な施策を講じるべきである。

3 生活排水の処理施設の現状

 (1) 生活排水の処理施設の種類

   生活排水処理施設には種々のものがあり、処理の対象となる排水の種類、事業主体、施設整備規模及び施設対象区域等について、各々特長を有している。
   表―2は、各処理施設の処理の対象となる排水の種類についてまとめたものである。便所の水洗化と併せて生活雑排水の処理も行うこともできる施設は、地域し尿処理施設、合併処理浄化槽(農業集落排水施設を含む。)及び公共下水道である。し尿処理施設及び単独処理浄化槽はし尿のみを、生活排水処理施設は生活雑排水のみを処理対象とする施設である。
   表―3は、し尿と併せて生活雑排水も処理する施設について、その国庫補助による整備事業という観点から整理したものである。
   まず、国庫補助を受ける事業主体については、流域下水道が都道府県、農業集落排水事業が市町村、土地改良区等であること以外は、全て市町村である。合併処理浄化槽については、一般家庭等民間ベースで設置するものに対して市町村が補助金を交付する場合、その市町村に対して国庫補助金が交付されるしくみとなつている。
   計画人口については、各事業とも国庫補助の採択基準として範囲が設けられているが、合併処理浄化槽については、特に制限は設けられていない。事業対象区域は、各々の事業の趣旨に対応して定められているが、地域し尿処理施設は特に制限が設けられていない。合併処理浄化槽は、下水道認可区域以外で生活雑排水対策が必要な区域を対象に整備が行われる。

 (2) 各種の生活排水の処理施設の整備の現状

   昭和61年度末現在、公共下水道は特定環境保全公共下水道及び簡易な下水道を含め、全国で1,008箇所で事業が実施されており、そのうち609箇所で処理が開始されている。なお、実処理人口は、昭和60年度末現在、3,554万人である。
   農業集落排水施設は、昭和63年3月末現在、582地区・920施設で事業が行われている。なお、昭和61年3月末現在、92地区で供用が開始されており、実処理人口は、5.4万人である。
   地域し尿処理施設は、昭和60年度末現在、642施設の整備が行われている(着工ベース)。なお、実処理人口は、昭和60年度末現在、82万人である。
   合併処理浄化槽の設置基数は、昭和60年度末現在、75,189基である。なお、昭和62年度合併処理浄化槽設置整備事業の国庫補助対象として整備された施設数は556である。
   一方、これらの施設整備のための昭和63年度予算をみると、公共下水道は特定環境保全公共下水道及び簡易な下水道を含め5,494億円(国費ベース)で、流域下水道等を含めた下水道全体の予算額は7,976億円(国費ベース)である。農業集落排水施設は208億円(国費ベース。この他に農村総合整備モデル事業又は農村基盤総合整備事業の中に計上されている予算がある。)、地域し尿処理施設は8億円である。また、合併処理浄化槽は5億円で、2.5万人分の施設整備を行うこととしている。
   合併処理浄化槽設置整備事業については、昭和62年度には18都県50市町村(3一部事務組合を含む)が国庫補助に対応した事業を実施していたが、昭和63年度には27都県、118市町村(3一部事務組合を含む)が実施することとしており(昭和63年1月現在ですでに実施を予定していた市町村数)、全国的な広がりを見せはじめている。
   この内訳をみると、3つの一部事務組合はいずれも郡部の町である。残りの115のうち市は45、町が58、村が12となつており、市のうち県庁所在地が9市みられる一方大都市圏の宅地開発が進んでいる市町、あるいは農業中心の町村など様々な類型の市町村が見られる。
   特に、合併処理浄化槽の放流水を身近な水域の水質・水量保全のために活用し、ふるさと創造の基本的な資源として還元しようと計画している香川県の寒川町や兵庫県の青垣町などのようなところが見られるようになつている。

 (3) 各種の生活排水の処理施設の特徴

   表―4は、各種の生活排水の処理施設の特徴を、その事業の進め方と、普及している地域、又は普及しやすいと考えられる地域の面から整理したものであるが、合併処理浄化槽による施設整備の特徴として次の事項が挙げられる。

  1.   ① 建築物の新設又は改築に併せて、あるいはこれらの工事とは別に施設整備が可能であること。これは投資効果が直ちに発揮されるものであること。
  2.   ② 他の施設が面整備方式であるのに対し、各戸ごとの小規模な施設整備方式や面整備方式も可能であり、設置者の事情に合わせて整備方式を選択できること。
  3.   ③ 民間活力を活用した施設整備であること。

   一方、公共下水道は、既成都市の中心部等人口密集地区から面整備を行う事業であり、一般に、施設整備には長期間を要する。また、生活排水の処理に加えて、工場排水の処理や雨水の排除も目的とすることに特徴がある。
   表―5は、社会的要因等の面から、公共下水道、農業集落排水施設及び合併処理浄化槽について整理したものである。
   これらをもとに、定性的に公共下水道と小規模な合併処理浄化槽について、生活排水処理面での特徴を整理すれば、以下のとおりである。

  1.   ① 公共下水道
    1.    a 地方公共団体により計画的な事業遂行が図れる。
    2.    b 利用者は、下水道を整備する際の受益者負担金及び下水道使用料を負担するが、維持管理の手間がかからない。
    3.    c 大きな用地を必要とし、用地取得が困難な場合もある。
    4.    d 処理施設の設置、管渠の敷設、民家への接続に5~10年単位の期間が必要で、事業着手から効果が発揮されるまでに時間の遅れが大きい。
  2.   ② 小規模な合併処理浄化槽
    1.    a 設置者の意向によるところが大きいので、行政による誘導施策が必要である。
    2.    b 設置者が維持管理を行う義務を負うこととなるので、その周知徹底を図るとともに、関係業界に対する指導も重要である。
    3.    c 宅地内に設置するので、敷地に若干の余裕があればよい。
    4.    d 浄化槽設置と同時(建築物の使用開始と同時)に効果が期待できる。また、各戸単位で槽容量(能力)を検討でき、規模に無駄が少ない。
    5.    e 設置を希望する者から順に利用することが可能で、事業の円滑な遂行が期待できる。

  このような各処理施設の特徴を踏まえ、地域の特性に応じた適切な役割分担を行つて施設整備を進める必要がある。

4 生活排水処理対策の今後の進め方

  生活排水の適正処理は、国民全体の共有財産である清冽で豊かな水環境を保全し、公共の福祉を増進する上で不可欠である。自然の恵みとして自分が利用した水については、これを浄化した上で、元の自然に戻すことについて国民一人一人が認識を持ち、自らの問題として取り組んでいくことが重要である。
  2の「生活排水処理の現状と課題」では、我が国においては、都市部、農村部を問わず全国的に都市的な生活様式が普及・定着した中で、生活水準の向上を背景として、今後とも変わらない便所水洗化の要望に応えるうえでも、国際社会に占める我が国の地位に相応しい生活水準を確保するうえでも、「国民総水洗化」を早期に達成することが課題であり、また、生活雑排水の適正処理が生活環境保全の上で重要な課題となつていることを述べた。
  上記の課題に対応するためには、水洗便所排水と生活雑排水を併せて処理する施設の整備が必要である。
  3の「生活排水の処理施設の現状」においては、すでに様々な特徴を有している各種の生活排水の処理施設があり、生活排水の適正処理のための手段が整つていることを述べた。
  以上のことから、今後は、全ての国民に水洗便所の使用を可能ならしめ併せて、生活雑排水を適正に処理することを目標として設定し、これを達成するために、既に述べた各種の生活排水の処理施設の各々の特徴を生かしつつ、適正に組み合わせて効率よく計画的に整備を推進することが必要である。
  特に急激な高齢化社会への移行を控えて、次世代の負担をできる限り軽減する意味においても、迅速な対応が求められている。
  水洗化と生活雑排水の適正処理という目標を迅速に達成し、また、国民全体の共有財産である清冽で豊かな水環境を保全するためには、官民一体となつて、これに取り組まなければならない。
  合併処理浄化槽は、公共下水道等の公共施設と同様に、生活環境の保全や公共用水域の水質汚濁防止に寄与しているという観点から、その設置等に要する費用について十分な助成を行い、便所の水洗化と生活雑排水処理を適正に行う民活施設として設置を推進することが必要である。
  既に設置されている浄化槽についても、合併処理化の推進や改築などにより、生活排水の適正な処理を行えるような措置を講じることが必要である。
  今後の生活排水の処理を計画的かつ合理的に行うためには、このような観点について可能な限りきめ細かな配慮を行いつつ、生活排水の処理施設の将来を見越した整備の計画を市町村ごとに立案することが必要である。
  このような計画に従来の公共事業とともに、民間活力を生かす合併処理浄化槽設置整備事業を総合的に盛り込むことにより、限られた行・財政資源を最大限に有効に活用することができる。また、このような計画を具現化していくうえで、計画実現のために、誘導措置を講じることが必要である。
  なお、生活排水について各種の援助措置を講じながら計画的に処理対策を進め、生活環境の保全と公共用水域の水質保全を図つていくことが必要となつてきた以上、排水規制の対象となつていない小規模の事業活動に伴う排水についても、家庭排水対策との均衡上、所要の排水対策を講じていくことを検討すべき段階に至つていることを付言する。

5 生活排水処理計画の策定

  既に述べたように生活排水の処理施設には種々のものがあり、それぞれ処理の対象となる排水の種類、事業の進め方、建設等に要する費用、管理主体等に特徴を有している。これらの施設を整備すべき市町村または地域についても、その地理的条件、財政状況、人口密集度等について各々特徴を有している。
  生活排水の処理施設の整備を行うに当たつては、これら相互の特徴を考慮した生活排水処理計画を策定し、それに基づき事業を計画的かつ円滑に推進する必要がある。
  この計画の策定に当たつては、次の事項を総合的に検討する必要がある。

  1.  ① 既存施設及び既存計画との整合性の検討
       既存施設の整備状況や既存計画を勘案し、処理の対象とすべき排水の種類及び施設整備を必要とする地域を定めなければならない。既存計画との整合については、生活排水処理の緊急性、処理技術の進歩、社会情勢の変化等をも検討し、必要に応じて既存計画の見直しを行うことも肝要である。
  2.  ② 経済的要因の検討
       施設整備の対象となる地域の地理的条件、人口密集度等を勘案し、集合処理とすべきか、個別処理とすべきかを検討しなければならない。個別処理とする場合は、合併処理浄化槽の整備を推進することとなるが、集合処理とする場合は、大規模な合併処理浄化槽の整備も含めて、各処理施設の利害得失を十分に比較して、どの施設を選定するか判断しなければならない。
       すなわち、市町村の財政状況を考慮しつつ、各施設の建設や管理に要する費用、国庫補助率、国庫補助の対象範囲、起債充当率、起債償還のための財政負担、交付税措置の状況等を検討し、処理施設を選定しなければならない。また、合併処理浄化槽の整備は、民間活力を活用したものであり、この点は市町村財源の投資効果を検討する上で重要な要素である。
  3.  ③ 社会的要因の検討
       実際に施設の選定を行うに当たつては、社会的要因への配慮が重要であり、特に住民の合意形成の問題が大きな比重を占めるものと思われる。
       仮に、個別処理よりも集合処理の方が経済的である地域についても、地域のすべての合意が容易には得られない場合があり、このような地域において住民の水洗化の要望が強く、生活雑排水対策の緊急性が高い場合などは、順次個別に合併処理浄化槽の整備を推進することが効果的である。
       住民の合意形成が比較的容易な場合には、地域し尿処理施設などが有用であると考えられる。
  4.  ④ 投資効果発現の迅速性の検討
       建設に要する期間等を考慮し、水洗化の要望への対応や生活雑排水対策の効果がいつの時点で期待できるのかを検討しなければならない。前述のように、合併処理浄化槽は建築物の新築や改築と併せて、あるいは、これらの工事とは別に設置され、建築物の使用開始と同時にその機能が発揮されること、合併処理浄化槽の設置に要する期間は3~5日であることから、投資効果の発現が極めて速い施設である。地域し尿処理施設も通常1~3年で供用開始となるので、投資効果の発現が比較的速い施設と言える。
  5.  ⑤ 地域環境保全効果の検討
       処理施設における処理水質レベルのみならず、個別処理の場合は、処理施設から直接処理水が小水路や小河川に放流されるため、それらの小水域での自然浄化能力を十分に活用することができる点にも配慮する必要がある。そのことは、地域の小河川や水路の水量確保にも役立ち、身近なうるおいのある生活環境を呼びもどす効果も期待できる。
  6.  ⑥ 将来見通しの検討
       将来、施設の拡張等を必要とするか否かの見通しを立てることも重要である。公共下水道は将来の人口増加等を見込むことが一般的である。これに対し、農業集落排水施設や地域し尿処理施設は通常、現状に対応した施設整備を行うので、将来の人口増加が見込まれない場合に導入される場合が多い。この点が前述の投資効果発現の迅速性にも関連する要因となつている。
       合併処理浄化槽は、個別処理も集合処理もいずれの方式も可能であることから、現状対応として投資効果を早期に発現されることができる上、将来、仮に施設整備の拡大が必要な場合でも比較的容易に対応が可能である。
       以上述べてきたような、合併処理浄化槽を含めた各種の生活排水の処理施設の整備を総合的にとらえた生活排水処理計画を立案できるよう、当面、計画目標の設定手法、計画策定の主体、計画の対象とする事項の範囲、他の事業計画との整合を図る手段、計画達成に必要な財源措置など、必要な項目を検討するとともに、具体的な計画策定の手法を開発し、提示することが望まれる。
       併せて、生活排水処理計画は、地域の実情に応じた、言わば、地域属性の高いものでなければ実効が上がらないものであるから、地域の類型に応じた生活排水処理計画の策定事例を積み上げることが必要である。
       このため、国は、生活排水処理計画に係る技術的マニュアルを作成し、地方公共団体に示すとともに、それを実証するための複数のモデル事業を計画し、実施することも検討する必要がある。
       生活排水処理計画を着実に実施するためには、合併処理浄化槽については設置者の負担軽減や市町村に対する財政措置を含め、行・財政的な関与を強化するなど必要な措置を講じ、民活施設としての利点を生かしながらその整備を計画的に推進できるようにしなければならない。
       将来的には生活排水処理計画は法的根拠に基づくものとすることが、計画の内容を効率的・効果的に実現していくうえで望ましい。

6 今後の浄化槽行政のあり方

  今後の浄化槽行政の重要な課題のひとつは、合併処理浄化槽の計画的整備の推進であり、このためには生活排水処理計画の策定を推進するとともに、合併処理浄化槽設置整備事業を強化・充実し、国民、市町村、都道府県の要請、要望に応えられるようにすることが、第一に必要である。
  このように合併処理浄化槽を生活排水処理対策の柱として位置づけ、生活排水処理の計画的な推進を図るためには、更に解決すべきいくつかの課題があり、浄化槽行政としてこれらの課題に対して早急に取り組む必要がある。

 (1) 放流同意問題の解決と「無届浄化槽」の解消

   浄化槽を設置する際、放流先水域の管理者や水利権者、付近住民の代表者などの同意を必要とする地域があり、この同意を放流同意と称している。
   放流同意は、かつて、単独処理浄化槽で性能等の悪いものが存在し、苦情の絶えなかつた時期に発したものであるが、今日では、不合理となつている面がある。この問題の解決は、今後、合併処理浄化槽の普及を図る上で避けて通ることのできない課題となつている。
   合併処理浄化槽を設置する場合には、放流同意を要しないこととする地域も増えてきているが、国及び地方公共団体は、本問題の経緯等を十分踏まえながら、今後その適切な解決に努めていく必要がある。
   放流同意の問題とも関連して、設置の届出を行つていない浄化槽が数多く存在すると言われているが、浄化槽法の適正な運用を確保する上で、浄化槽法に関する知識の普及を図ることなどにより、いわゆる「無届浄化槽」の解消に努めることが重要である。

 (2) 設置者の信頼に応え得る浄化槽の確保

   合併処理浄化槽の設置に対して公共が補助を行うこととなつたことから、設置者の信頼に応え得る浄化槽の製造、施工、管理を確保することはますます重要となつてきた。
   浄化槽の製造については建築基準法の体系から構造基準が定められ、浄化槽法第13条の規定により工場生産の浄化槽については型式認定の制度が設けられている。しかし、同一の構造基準に従つて製造された浄化槽であつても、保守点検・清掃の容易さやそれに必要な経費の観点からみて、製造者によつて、かなりの差異があることも考えられる。
   したがつて、国は、合併処理浄化槽設置整備事業を推進するにあたつて、生活環境を保全するという目的を十分に果たし、設置者の負担を可能な限り軽減する観点から、その信頼に応え得る浄化槽の確保を図り、地方公共団体が行う本事業を支援する必要がある。
   また、浄化槽の製造、施工、維持管理等の不適正によつて浄化槽の機能に支障が生じた場合、これを的確に改善する「保証制度」など、浄化槽の設置者等が、より一層安心して浄化槽を利用できる仕組みについて、国は、地方公共団体及び業界団体の協力を得てその確立に努めるべきである。

 (3) 法定検査の徹底

   浄化槽が生活排水処理対策の重要な手段として位置づけられたことにより、浄化槽法第7条及び第11条に定められている法定検査は、浄化槽の施工及び維持管理の適正を確保するための担保としてこれまで以上に重要な役割を担うこととなる。このため、その受検率を高め、検査の実施を徹底することが必要である。法定検査は、浄化槽法では浄化槽管理者の義務として位置づけられているが、受検率は依然低迷している。
   このようなことから、国及び都道府県は、今後受検率を向上させるために行政指導の強化や啓発活動など必要な措置について検討すべきである。また、検査結果に基づいて速やかに改善措置等が講ぜられるようにすべきである。

 (4) 広報・啓発活動の展開

   生活排水処理計画の推進には、地域住民の理解と協力が不可欠である。このため、国は、浄化槽相談員を活用するとともに、報道機関、地方公共団体、関係業界団体、教育機関等の協力を得て、生活排水対策の重要性と浄化槽の役割などに関する広報、啓発活動を協力に展開する必要がある。
   また、今後、各家庭レベルでの合併処理浄化槽の設置が進むことに鑑み、「殺虫剤、洗剤、防臭剤、油脂類、紙おむつ、衛生用品等であつて、浄化槽の正常な機能を妨げるもの」についての判断基準、試験方法等を早急に定め、関係業界を指導するとともに、使用者に浄化槽の正しい使用方法が確実に理解されるよう努めなければならない。

 (5) 浄化槽に関する技術の集積と活用

   以上のような個別の課題に有効・適切に対処するためには、浄化槽に係る知識・技術の集積及び活用の核となるべき機関が不可欠である。
   浄化槽の調査研究、地方公共団体技術者の養成・訓練を行う厚生省の施設等機関としては国立公衆衛生院があり、その機能を十分発揮できるよう措置することが必要である。
   一方、もつぱら浄化槽に関する調査研究、技術者の養成・訓練を行う民間の機関としては、(財)日本環境整備教育センターがある。同センターは、国立公衆衛生院等との共同研究をはじめとして、すでに多くの浄化槽に係る調査・研究の実績もあり、技術情報も集積されているが、国としても、同センターを浄化槽に関する技術の核としてその強化・充実を図ることが必要である。なお、同センターは、浄化槽業務の現場の技術者への技術移転の核としても重要であるので、その調査・研究の成果が実地に還元できるよう留意する必要がある。
   同センターとともに(財)浄化槽設備士センターの活用により、浄化槽技術者を養成し、併せて資質の向上を図り、浄化槽の信頼度を高めなければならない。
   また、合併処理浄化槽の処理性能の高度化のための研究を推進するとともに、水資源対策の一環として処理水の積極的有効利用の方途を検討すべきである。
   今後、合併処理浄化槽の普及が進むことから、浄化槽汚泥の処理のあり方について検討することが必要である。すなわち、浄化槽汚泥の処理は、現在のし尿処理施設の技術レベルで十分対応が可能であるが、更に、農園、緑地等への汚泥の有効利用も可能であることを考慮した処理システムのあり方を検討すべきである。
   生活排水処理に係る欧米先進国の状況については、今後の我が国の生活排水処理の体系を考えるうえで参考とすべきことであり、今後、情報を集積、解析することが必要である。このため、国は、必要な調査を行うべきである。

 (6) 浄化槽高普及時代に対応した情報管理

   今後、浄化槽の高普及時代を迎えるに当たり、浄化槽の設置状況や管理状況等を常に把握しておく必要がますます高まつてきている。
   浄化槽一般のデータベースとしては、(社)全国浄化槽団体連合会が全国ネットで整備を進めつつあるコンピューター情報管理システムなどがあるが、浄化槽に係る情報量の増大に対応し、また、情報流通の迅速性が重要となつてきていることを踏まえ、浄化槽に係る情報を整備し、その管理及び流通のシステムを整えることに努めることが必要である。
   併せて浄化槽関係業界の健全な経営に資する情報の集積を行い、浄化槽関係業界の発展を図ることにより、浄化槽の適正な設置及び管理を推進することが重要である。
   今後の浄化槽行政のとるべき方向は、以上のとおりであり、国は、国民総水洗化と生活雑排水の適正処理の確保を基本とし、地方公共団体が生活排水処理計画を速やかに策定して、必要な対策を計画的かつ迅速に講じることができるよう、各種行・財政的援助の強化・充実を図るとともに、浄化槽行政の諸課題を早急かつ適切に解決するよう努めなければならない。
   特に、合併処理浄化槽については、浄化槽関係業界の育成・指導や浄化槽に関する一層の広報・啓発に努めることなどにより、さらに適正な設置及び管理の確保を行いつつ、下水道と並ぶ恒久的施設として位置づけ、生活排水対策を早急に講じるため、全国的な広がりで計画的に整備を進めるべきである。
   一方で、単独処理浄化槽については、便所の水洗化の実現のために歴史的使命を果たしてきたが、今後の生活排水処理体系の中では、特に生活雑排水の問題がない用途の建築物などにおける特殊なもの、又はそれ以外の建築物においては暫定的なものとして位置づけるべきものである。

表―1 水洗化人口と浄化槽設置状況(60年度末)
総人口
(千人)
121,267
(比率%)
100.0
水洗化人口
浄化槽
32,323
26.7
下水道
35,542
29.3
67,865
56.0
 
浄化槽設置基数
5,541,517
100.0
単独処理浄化槽
5,466,328
98.6
合併処理浄化槽
75,189
1.4

図―1 水洗化人口等の推移

図―1:水洗化人口等の推移

図―2 生活雑排水による汚濁負荷量の現況について

図―2:生活雑排水による汚濁負荷量の現況について

図―3 合併処理浄化槽と単独処理浄化槽の比較

図―3:合併処理浄化槽と単独処理浄化槽の比較

図―4 DID人口でみた都市化の状況

図―4:DID人口でみた都市化の状況

表―2 生活排水の処理施設の処理対象
 
処理対象
 
し尿
生活雑排水
し尿処理施設(厚生省補助)
汲み取り
地域し尿処理施設(厚生省補助)
水洗便所
浄化槽
   
 ・合併処理浄化槽(厚生省補助)
水洗便所
 ・農業集落排水施設(農水省補助)
水洗便所
 ・単独処理浄化槽
水洗便所
公共下水道(建設省補助)
水洗便所
生活排水処理施設(厚生省補助)

表―3 生活排水処理事業の国庫補助採択基準および補助金等
61年度
整備事業
位置づけ
所管
事業主体
事業の趣旨
計画人口
対象区域
補助金等
流域下水道
下水道法
建設省
・水域内の水質保全
・生活環境の改善(便所の水洗化)
・河川湖沼等の流域が一体となつた下水道整備
(第1種) 15万人以上、当分の間は10万人以上
(第2種) 3万人以上、15万人未満
2以上の市町村の区域
国庫補助率
 1種:3/4.2/3(6/10.5.5/10)
 2種:2/3.6/10(5.5/10.5/10)
起債充当率
 補助 75%
 単独 90%
公共下水道
   
市町村
・水質保全
・生活環境の改善(便所の水洗化)
10,000人以上
主として市街地
国庫補助率 2/3.6/10(5.5/10.5/10)
起債充当率
 補助 85%
 単独 95%
                 
 
特定環境保全公共下水道
     
・自然公園区域内の河川湖沼等の水質保全
・農山漁村集落の生活環境の改善(便所の水洗化)
1,000人~10,000人
自然公園区域および農山漁村
国庫補助率 2/3.6/10(5.5/10.5/10)
起債充当率
 補助 85%
 単独 95%
                   
   
簡易な下水道
     
・自然公園区域内の河川湖沼等の水質保全
・農山漁村集落の生活環境の改善(便所の水洗化)
1,000人未満
水質保全上特に緊急を要する地域(閉鎖性水域又は上水道水源の上流域等)
国庫補助率 2/3.6/10(5.5/10.5/10)
起債充当率
 補助 85%
 単独 95%
農業集落排水事業
土地改良法農業集落排水事業実施要綱等
農林水産省
市町村土地改良区等
・農業用用排水の水質保全(公共用水域の水質保全)
・農業用用排水施設の機能維持
・農村生活環境の改善(便所の水洗化)
1,000人程度以下
農業振興地域内の農業集落
国庫補助率 5.5/10.5/10
起債充当率 85%
地域し尿処理施設
廃棄物の処理及び清掃に関する法律
 
市町村
・廃棄物の処理
・生活環境の保全
・公衆衛生の向上
101人~30,000人未満
特に制限なし
国庫補助率 1/3
起債充当率 75%
合併処理浄化槽
 
厚生省
市町村
・生活雑排水の処理
・生活環境の保全
・公衆衛生の向上
特に制限なし
下水道認可区域以外で生活雑排水対策が特に必要な区域
S62年度から予算化
国庫補助率 1/3

表―4 排水処理施設の特徴
流域下水道
公共下水道
特定環境保全公共下水道、簡易な下水道
農業集落排水事業
地域し尿処理施設
合併処理浄化槽
事業の進め方の特徴
河川の両岸、国道等に幹線を敷設し、幹線や終末処理場に近い都市から面整備を進める。
都市の市街地、団地、住宅地等の人口密集地区から面整備を進める。
自然公園、水源地等農山漁村の集落の面整備を進める。
農業振興地域内の集落の面整備を行う。
新規に開発される団地や住宅地、農山漁村の既存の小集落等の面整備を行う。
新規に開発される団地、新築建物等に設置する。また、既存の住宅、建物の汲取り便所、単独処理浄化槽を布設替えする。各戸別の小規模なものから大規模なものまで、設置者の事情に合わせて選択できる。
普及している地域、または普及し易いと考えられる地域
  • ・規模の大きい河川や湖沼の流域に都市が発達している地域
  • ・公共下水道を建設していない都市が近接している地域
  • ・既成都市の中心部
  • ・都市の宅地等の開発が進められている地域
  • ・流域下水道の幹線が敷設されている都市
  • ・河川や山の傾斜地に沿つて集落が発達している地域
  • ・農業振興地域内に集落が発達している地域
  • ・新規に団地等が開発される地域
  • ・下水道の建設が遅くなる地域の集落
  • ・地域あるいは集落毎に生活排水を処理することが適当な地域
  • ・新規に団地等が開発される地域
  • ・増改築が行われる建物等
  • ・地域あるいは集落毎にもしくは各戸毎に生活排水を処理することが適当な地域
  • ・民間活力の導入が生活排水処理の推進に必要な地域

表―5 社会的な要因等の検討
検討要因
公共下水道、農業集落排水施設及び合併処理浄化槽の特徴
自然環境への影響
 
 ①河川の水質
 現在では、各方式ともにBOD20ppm以下の水質を保持できる。
 ②河川の水量
 公共下水道は、管渠で集水し、一地点より放流されるのに対し、農業集落排水施設では集落単位で、また合併処理浄化槽は各戸単位で放流されるため、河川流域全体の水量維持に役立つ。
生活環境への影響
 
 ③水洗化
 各方式とも水洗化と雑排水処理を果たす。
 ④雑排水対策
 
 ⑤周辺環境(臭気等)
 公共下水道、農業集落排水施設では、居住地区から離して施設を設置できるのに対し、合併処理浄化槽は各戸に設置されるためバキュームカーによる汚でい引き抜き時の臭気等が若干残ることもある。
 ⑥建設時の影響
 施設規模が大きいほど建設時の周囲への影響は大きくなり、合併処理浄化槽は各戸単位で建設されるので周囲への影響は小さい。
 ⑦工場排水処理
 公共下水道のみ、工場排水も併せて処理することができる。
自治体への影響
 
 ⑧財政への影響
 公共下水道、農業集落排水施設では負担が大きく、合併処理浄化槽は民間活力を活用することもあり、負担が少ない。
 ⑨事業執行体制
 
  ・用地確保
 合併処理浄化槽は宅地内に設置するので、敷地に若干の余裕があればよい。公共下水道では大きな用地を必要とし、用地取得が困難な場合もある。
  ・実施の容易性(住民の同意等)
 合併処理浄化槽は家庭単位で同意を取ればよいが、農業集落排水施設は集落単位での合意が必要となる。また、公共下水道は、用地取得に難点があるものの、公共事業として自治体の意志で実施できる。
  ・事業の計画的遂行
 公共下水道は法律に基づき、財政事情が許せば計画的に遂行できるが、農業集落排水施設は集落単位の総意により、また合併処理浄化槽は住民の意志が大きく影響する。
住民の意識(波及的効果)
 
 ⑩水環境への認識度
 合併処理浄化槽では家の前の側溝から、農業集落排水施設では水路、小川から住民の関心の対象となるのに対し、公共下水道では住民から離れた処理場から河川等に放流されるため、水環境への認識度が低くなる。
 ⑪コミュニティ意識
 農業集落排水処理施設では、施設の建設、維持管理に集落の協力が必要であるのに対し、公共下水道ではコミュニティ意識を育てる要素がない。各戸別の合併処理浄化槽でも身近な水路を使用することから、コミュニティ意識を育てることもできる。

年代
法律・規則等
内容
明治33年
 汚物掃除法(法律第31号)制定
 この法律の制定により、我が国の近代し尿処理行政が始まつた。この法律は公衆衛生の見地から、「塵芥溝渠便所ニ於ケル管理ノ責任ヲ明ニシ費用ノ負担ヲ定メ以テ掃除ノ周到ヲ期セン」とするものであつた。
大正9年
 汚物掃除法施行規則の一部改正
 汚物掃除法の規定により、水洗式便所の場合、汚水溜を設けて便所の汚水を貯え随時汲取りを行つていたが、汚物掃除法の施行規則の改正により、「汚物処理槽」で処理したものは、公共の水域に放流できるようになつた。
大正10年
 水槽便所取締規則(警視庁令第13号)制定
 汚物処理槽の大きさや放流水の条件が定まつた。
 また、この規則に類似した内容で各府県において独自の構造が制定された。
昭和25年
 建築基準法(法律第201号)制定
 全国で制定されていた条例を統合して共通の基準が定められ、汚物処理槽の構造基準が定められた。しかし、特定行政庁がこの性能と同等以上であると認めれば、基準以外のものが設置できた。
 このため、基準型に変わつて特殊型と呼ばれるいわゆる平面酸化型の浄化槽が全国で200種類以上でき、昭和37年には、基準型の設置数をうわまわつた。
 
 汚物掃除法一部改正
 汚物掃除法に基づく汚物処理槽の構造は建設省の所管となり、管理面は厚生省の所管となつた。
昭和29年
 清掃法(法律第72号)制定
 清掃法の制定を機に「汚物処理槽」を「し尿浄化槽」に改め、設置の届出方法、維持管理基準が定められた。これまでの設置届出方法は、建築基準法で建築主事の確認を要し、汚物掃除法では都道府県知事の許可が必要であり、行政上重複した手続きが必要であつたので、新築時に設置される場合は建築主事が確認し、その他の場合は清掃法で扱うことに統一した。
昭和35年
 し尿浄化槽容量算定基準(JIS―A―3302)制定
 始めてし尿浄化槽の規模算定がJISで規定され、浄化槽の容量を使用人数で呼称していたものを建築物の大きさや用途から算定することとした。
昭和35年頃
 
 プラスチツク製(主にFRP)の浄化槽が作られるようになり、「ばっ気型」の浄化槽が出現した。
昭和40年
 清掃法施行規則の一部改正
・合併処理浄化槽や活性汚泥法等新しい技術を取り入れるとともに、放流先の条件により放流水のBODの水質基準を設けた。
・構造及び設備について定期的に専門的知識、技能及び相当の経験を有する者による検査を受ける等施設の機能を維持するために必要な措置を講ずる旨の規定が設けられた。
昭和44年
 建築基準法施行令の一部改正構造基準を告示により制定(建設省告示第1726号)
 各々の特定行政庁が衛生上の観点から区分する区域特性と処理対象人員に応じて、処理水BOD濃度とその除去率の基準を段階的に設け、それぞれの処理方式のし尿浄化槽の構造基準を定めることとした。
 また、特定行政庁が規則で指定する「衛生上特に支障のある区域」では、101人槽以上から合併処理浄化槽で対応することとなつた。
昭和44年
 し尿浄化槽の処理対象人員算定基準(JIS―A―3302)の改定
 
昭和45年
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(法律第137号)制定
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則において、昭和44年に改正された建築基準法施行令に示された屎尿浄化槽の性能と同様の放流水の水質基準が定められた。
 また、汚物取扱業者が行つていた維持管理業務を保守点検作業と清掃作業に分離し、保守点検については、し尿浄化槽清掃業者のほか、専門的知識、技能及び相当の経験を取得した設計、製造、施工業者等にも実施させることとした。
昭和45年
 水質汚濁防止法(法律第138号)制定建築基準法の一部改正
 水質汚濁防止法の上乗せ排水基準が定められた場合に対応できるし尿浄化槽の構造基準が定められた。
昭和53年
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則の一部改正
 処理対象人員が500人以下の施設にあつては、その維持管理について1年以内ごとに1回、定期的に、地方公共団体の機関又は厚生大臣の指定する者の検査を受ける旨の規定が設けられた(昭和55年1月より実施)
昭和55年
 建築基準法施行令の一部改正建設省告示改正(告示第1292号)
 「衛生上特に支障のある区域」における合併処理にしなければならない規模が101人以上から51人以上に改められた。また、単独処理浄化槽のうち平面酸化床や、活性汚泥方式のうち全ばつ気方式が廃止され、分離ばつ気方式も容積が大きくされ、新たに分離接触ばつ気方式の浄化槽が追加された。
 合併処理浄化槽に関しては活性汚泥法偏重を避け、回転板接触法、接触ばつ気法等の新しい処理方式が構造基準に追加された(昭和56年5月1日より適用)。
昭和56年
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則の一部改正
 構造基準の改正に伴い、放流水の水質基準を強化し、また、新たに加わつた処理方式に関する規定が追加された。(主に生物膜法に関する事項)
昭和58年
 浄化槽法(法律第43号)制定
 国家資格として浄化槽管理士制度及び浄化槽設備士制度が設けられたほか、定期的な保守点検及び清掃の実施、都道府県(又は政令市)の条例による保守点検業の登録制度に関する規定等が設けられた。また、規模にかかわらず、毎年1回厚生大臣又は都道府県知事が指定する者の検査を受けなければならない旨の規定が設けられた。(昭和60年10月1日より全面施行)
昭和63年
 建設省告示一部改正厚生省関係浄化槽法施行規則の一部改正
 し尿浄化槽の処理対象人員算定基準(JIS―A―3302)の改正
 処理対象人員50人以下の合併処理浄化槽の構造基準が追加され、これに伴い厚生省関係浄化槽法施行規則中の保守点検及び清掃の技術上の基準等が改正された。(昭和63年4月1日より運用)
 また、合併処理方式の浄化槽にも対応できるよう浄化槽の処理対象人員算定基準を定めたJISが改正された。

  生活環境審議会廃棄物処理部会浄化槽専門委員会委員名簿
(五十音順)
氏名
所属
委員長
工藤庄八
川崎市住宅供給公社理事長(元川崎市助役)
委員長代理
榊孝悌
公害健康被害補償不服審査会委員(元厚生省環境衛生局長)
委員
阿部泰隆
神戸大学法学部教授
委員
井上孝男
住友信託銀行顧問
委員
今井宏
草加市長
委員
大野茂
北里大学衛生学部教授
委員
柏谷衛
東京理科大学理工学部教授
委員
勝矢淳雄
京都産業大学教養部教授
委員
刈田嘉彦
大妻女子大学教授
委員
北尾高嶺
豊橋技術科学大学第六工学系教授
委員
坂本康實
上智大学経済学部教授
委員
柴山大五郎
(社)全国浄化槽団体連合会会長
委員
兵頭美代子
主婦連合会常任委員
委員
広瀬省
全国衛生部長会(栃木県衛生環境部長)
委員
真柄泰基
国立公衆衛生院衛生工学部長
委員
増保佳佑
全日本自治団体労働組合中央執行委員

  生活排水処理体系の中での浄化槽のあり方
  浄化槽専門委員会第2次報告書

  (用語集)

  •  注)・配列は50音順
  •    ・本文中*印の用語は本用語集に別途解説されている用語であることを示している。
 〔一般廃棄物〕
   廃棄物は、一般廃棄物と産業廃棄物に大別される。
   産業廃棄物とは、事業活動に伴つて生じた廃棄物のうち、特定の廃棄物をいう。
   一般廃棄物とは、産業廃棄物以外の廃棄物であり、その主なものは、日常生活に伴つて排出されるごみやし尿であるが、事務所ビル等から排出される紙くず等も含まれる。
 〔衛生処理率〕
   くみ取りし尿(浄化槽汚泥を含む。)のうち、し尿処理施設又は下水道投入により終末処理場で処理されるものの割合をいう。
   したがつて、これには水洗便所を使用し、浄化槽や公共下水道等によつて処理されているし尿は含まれていない。
   なお、くみ取りし尿(浄化槽汚泥を含む。)のうち、し尿処理施設又は下水道投入により終末処理場に処理されているもの以外のものは、農村還元や海洋投入等により処理されている。
 〔合併処理浄化槽・単独処理浄化槽〕
   浄化槽のうち、し尿だけを処理する浄化槽を単独処理浄化槽といい、し尿と生〈*〉活雑排水(台所等の排水)を併せて処理する浄化槽を合併処理浄化槽という。
   従来、合併処理浄化槽は主に大型のものであつたが、近年、各家庭ごとに設置できる小型のもので、B〈*〉OD除去率が90%以上、放流水質がB〈*〉OD20mg/l以下(これは下水道の高級処理と同等)という高性能の合併処理浄化槽が開発・実用化され普及してきている。
 〔合併処理浄化槽設置整備事業〕
   厚生省では、昭和62年度から合〈*〉併処理浄化槽の普及を促進するために合併処理浄化槽の設置に対する国庫補助制度を創設している。この国庫補助金は、直接、合併処理浄化槽の設置者に交付されるものではなく、合併処理浄化槽を設置しようとする人に対して、市町村が助成した場合、国がその市町村の補助事業に要した事業費に対して補助金を交付する仕組みとなつている。これらの国庫補助事業及び市町村の補助事業を合併処理浄化槽設置整備事業という。なお、都道府県によつては、市町村の補助事業に対する補助制度を設けているところもある。
 〔簡易な下水道〕
   特〈*〉定環境保全公共下水道のうち、水質保全上特に下水道整備を必要とする地区において、計画排水人口1,000人未満の規模で整備されるものをいう。
 〔下水道認可区域〕
   下水道法第4条及び第25条の3に基づき、公共下水道管理者及び流域下水道管理者は、公〈*〉共下水道及び流〈*〉域下水道を設置しようとする場合、事業計画を定め、建設大臣(一定規模以下の公共下水道については、都道府県知事)の認可を受けなければならない。この事業計画に定められた予定処理区域を通常、下水道認可区域と呼んでいる。
 〔公共下水道〕
   市町村が設置、管理する下水道のことで、通常、単に下水道といえば公共下水道を指す場合が多い。
   公共下水道は、主として市街地において発生する各家庭や工場、事業場等からの汚水や雨水を管路等によつて収集し、処理を行うものである。
 〔コミュニティープラント〕
   地〈*〉域し尿処理施設の通称で、単に「コミプラ」と言うこともある。
   なお、中規模以上の合併処理浄化槽を含め、住宅団地等からの汚水を共同で処理する施設のことを総称してコミュニティープラントと呼ぶことがある。
 〔し尿処理施設〕
   市町村が設置、管理する施設で、各家庭等から収集運搬されたくみ取りし尿と浄化槽汚泥を、主として微生物の働きにより処理を行い、放流する施設をいう。
 〔浄化槽〕
   し尿と、洗濯や風呂場等からの生〈*〉活雑排水を沈澱させたり、微生物の働きにより分解したりなどして、浄化し、きれいな水にして終末処理場のある公〈*〉共下水道以外に放流するための設備又は施設のことをいう。
   ただし、地〈*〉域し尿処理施設、公〈*〉共下水道、流〈*〉域下水道は含まれない。
 〔浄化槽汚泥〕
   浄〈*〉化槽で汚水を処理する過程において汚水中の浮遊物質が沈澱したり、有機物を分解した微生物が塊状となつて沈澱したりして泥状になつたものをいう。
 〔浄化槽管理者〕
   浄〈*〉化槽を所有している人など、浄化槽の管理について権原のある人のことをいい、例えば、各家庭に設置されている浄化槽の場合は、世帯主がこれに当たる。
   なお、浄化槽管理者は、浄化槽の保守点検、清掃を適切に実施することや浄〈*〉化槽法第7条及び第11条に定められている法定検査を受けることなどの義務がある。
 〔浄化槽相談員〕
   都道府県・政令市の委嘱等を受け、浄〈*〉化槽管理者等に対して浄〈*〉化槽及び浄化槽法についての正しい知識等の普及や浄化槽に関する一般の疑問、要望に応える等の相談活動を行う者をいう。
 〔浄化槽法第7条及び第11条に定められている法定検査〕
   浄〈*〉化槽を設置して、使用を開始した後6~8か月の間に、設置工事が適正に行われ、浄化槽が有効に働いているかどうかを確認するために行われる検査を浄化槽法第7条に定められている法定検査という。
   また、年1回、浄化槽の保守点検及び清掃が適正に実施されているかどうかを判断するために行われる検査を浄化槽法第11条に定められている法定検査という。
   これらの検査は、都道府県知事が指定した指定検査機関によつて行われる。
 〔水洗化率〕
   実際に、浄化槽又は下水道を利用している人口(水洗化人口)を総人口で除した率をいう。
   なお、下水道関係で用いられる処理人口普及率とは、下水道の供用開始の公示がされた区域全体の人口を総人口で除した率をいい、同区域内で未だ下水道に接続していない人口も含まれているものである。
 〔生活排水・生活雑排水〕
   生活排水とは、し尿と日常の生活に伴つて排出される台所、洗濯、風呂等からの排水をいう。
   また、生活雑排水とは、生活排水のうちし尿を除くものをいう。
 〔生物化学的酸素要求量(BOD:Biochemical Oxygen Demandの略)〕
   水中の有機物が、微生物の働きで分解されるときに消費される酸素の量で、有機性の汚れが大きければ、それだけ酸素要求量が多くなるので、BODは大きな数字になる。
   逆に、きれいな水はBODの値がそれだけ小さくなる。
 〔地域し尿処理施設〕
   し尿と生活雑排水を、各家庭や団地等から管路によつて収集し、処理する施設であり、市町村の清掃事業の一環として整備されるものをいう。コミュニティープラントあるいは略してコミプラともいわれている。
 〔人口集中地区(DID)〕
   人口密度が1km2当たり4,000人以上の国勢調査区が互いに隣接して、当該隣接する国勢調査区の合計人口が5,000人以上となる地域をいう。
 〔特定環境保全公共下水道〕
   公〈*〉共下水道の一種で、自然公園や農山漁村等、市街化区域以外の区域において設置される下水道のことをいう。
 〔都市下水路〕
   主として、市街地における雨水を排除するための下水道であり終末処理場のないものをいう。その設置や管理は市町村が行う。
 〔土地改良区〕
   一定の地域内の農業用用排水施設、農業用道路等の新設・管理、区画整理、農用地の造成等を実施するために、土地改良法に基づき、都道府県知事の認可を受けて設立される法人のことをいう。
 〔農業集落排水施設〕
   農業用用排水の水質保全、農業用用排水施設の機能維持並びに農村生活環境の改善を図り、併せて、公共用水域の水質保全に寄与するための、農業集落におけるし尿、生〈*〉活雑排水等を処理する施設をいう。
   なお、農業集落排水施設は、浄化槽法に規定する浄〈*〉化槽の一種である。
 〔農業集落排水事業〕
   農業振興地域における農業用用排水の水質保全、農業用用排水施設の機能維持を図ることを目的として、農業振興地域内の集落について、農業集落排水施設を単独で整備する事業である。
 〔農村基盤総合整備事業〕
   農業生産基盤の整備が遅れた、農業集落数か所を単位として、農業生産基盤の整備に重点を置きながら、直接関連をもつ農村生活環境の整備を総合的に実施するための事業のことをいう。
   なお、本事業は、昭和51年度から発足しており、農業集落排水施設の整備も事業の対象となつている。
 〔農村総合整備モデル事業〕
   概ね市町村を対象とし、農業生産基盤の整備と併せて、農業集落の生活環境整備を総合的に実施するための事業のことをいう。
   なお、本事業は、昭和48年度から発足しており、農業集落排水施設の整備も事業の対象となつている。
 〔面整備方式〕
   公〈*〉共下水道の整備方式などのように、各家庭からの汚水等を集水するため管渠等をある区域全体にめぐらし、施設を面的に整備していく方式のことをいう。
   これに対比される整備方式としては、小型の合併処理浄化槽を各戸単位に整備する方式がある。
 〔流域下水道〕
   二つ以上の市町村の区域から、各公〈*〉共下水道により排除される下水を受けて、終末処理場で処理する下水道をいい、その設置や管理は、都道府県が行う。
  本報告書に用いられている生活排水関係施設の分類

図:本報告書に用いられている生活排水関係施設の分類

  合併処理浄化槽の普及と生活排水対策
 ―生活排水処理計画の策定―

  (浄化槽専門委員会第2次報告書要旨)

1 はじめに

  我が国の国民一人当たりのGNPは、昭和62年(暦年)には1万9,642ドルに達し、米国(昭和62年(暦年)1万8,412ドル)を上回り世界のトップクラスの水準となつている。
  このように、我が国は国際的にみても経済的に豊かになり、生活環境の充実をはじめ、豊かさを実感できる国民生活の質の向上が求められている。
  生活の質的水準を表す指標の一つと考えられる水洗化率はまだ56%であり、国民の半数近くは汲み取り便所を使用している。
  また、従来、一般家庭から排出される生活雑排水(台所、洗濯場、浴室排水等)については、一般家庭から排出される程度のものであれば、多くの地域において無処理の放流が許可されてきたが、食生活や生活様式の変化等により生活雑排水が質量ともに変化し、川、湖、海の汚濁の原因として大きな問題となつてきた。
  便所の水洗化と生活雑排水の処理を推進する方策としては、従来は公共下水道の整備が中心であつたが、公共下水道の場合は、都市部においては効率的施設であるが、他の地域では敷設に多額の投資と長い期間を要し、必ずしも効率的でない場合も多い。

  合併処理浄化槽と単独処理浄化槽の比較

図:合併処理浄化槽と単独処理浄化槽の比較

  このようななかで、近年、家庭用の浄化槽においてもし尿と生活雑排水を併せて処理する高性能の合併処理浄化槽が開発・実用化され生活排水対策及び快適な生活環境の確保の有効な一手段として社会的に大きな注目と関心を集めるようになつてきた。
  このため、合併処理浄化槽を下水道と並ぶ恒久的施設として位置づけ、国民総水洗化と生活雑排水の適正処理を図るため、全国的な広がりで計画的に整備を進める必要がある。

2 生活排水処理の現状と課題
 ○ 水洗化の状況

   昭和60年度の我が国のし尿処理の状況をみると、総人口の約56%が水洗便所を使用しているが、残りの44%は汲み取り便所を使用している。
   また、水洗化人口のうち、約半分が公共下水道を使用しており、約半分が浄化槽を使用していることから、浄化槽は水洗化を図るうえで、重要な役割を担つている。

  水洗化人口等の推移

図:水洗化人口等の推移

 ○ 生活雑排水処理の状況

   川、湖、海などの汚濁が社会的な問題となつているが、この原因として一般家庭から排出される生活排水、特に生活雑排水がクローズアップされてきており、例えば東京湾の汚染源のうち約5割が、また、千葉県の手賀沼では、約7割が生活雑排水によるものとされている。

  生活雑排水による汚濁負荷量の現況について

図:生活雑排水による汚濁負荷量の現況について

   生活排水は、し尿と生活雑排水(台所、洗濯場、浴室排水等)に大別される。このうち、生活雑排水は、し尿と比べ2倍以上の汚濁負荷があるにもかかわらず環境庁によれば、生活雑排水の約6割が未処理のまま河川等に排出されている状況にある。

  1人が1日あたりに排出する生活雑排水中のBOD負荷割合

図:1人が1日あたりに排出する生活雑排水中のBOD負荷割合

 ○ 生活排水処理の課題

   前述のように、国際的に見ても我が国は経済的に豊かになり、国内の文化的生活レベルの均質化が急速に進展したことも相挨つて、水洗便所を使用することが、都市部のみならず国内一般に贅沢なことではなく、普通のこととなつた。
   また、産業公害が一時の危機的状況を脱したことも相挨つて、都市地域のみならず、農村地域においても生活排水による水質汚濁など、いわゆる生活型公害が大きくクローズアップされてきた。
   このため、生活排水対策を進めるに当たつては、国民総水洗化の早期達成と生活雑排水の処理率の向上を前提として、あわせて快適な生活環境が確保されるよう生活環境施設の整備を適切かつ早急に行つていくことが重要な課題となつてきている。

図:生活排水処理の課題

3 生活排水の処理施設の現状

  生活排水の処理施設には表―1に示す種々のものがあり、処理の対象となる排水の種類、事業主体、施設整備規模、施設対象区域等について、各々特徴を有している。
  表―2は社会的要因等の面から公共下水道、農業集落排水施設及び合併処理浄化槽について、整理したものである。
  今後の課題である国民総水洗化と生活雑排水の処理を迅速に実現していくためには、各施設の特徴及び社会的要因等を検討し、地域の特性に応じた適切な役割分担を行つて施設整備を進める必要がある。

図:生活排水の処理施設の現状

表―1 主な生活排水関係施設
処理施設の種類
対象となる排水の種類
事業主体
施設整備規模(計画人口)
対象区域
整備状況等
浄化槽
合併処理浄化槽
し尿・生活雑排水
市町村
合併処理浄化槽設置基数 75,189基(昭和60年度末現在)
合併処理浄化槽設置整備事業
 昭和62年度 50市町村 556基
 昭和63年度 約200市町村
 
農業集落排水施設
し尿・生活雑排水
市町村・土地改良区等
1,000人程度以下
農業振興地域内の農業集落
事業実施地区 582地区(昭和62年度末現在)
実処理人口 5万4千人(昭和60年度末現在)
 
単独処理浄化槽
し尿
単独処理浄化槽設置基数 5,466,328基(昭和60年度末現在)
下水道
公共下水道
し尿・生活雑排水・工場排水・雨水等
市町村
10,000人以上
主として市街地
事業実施箇所 1,008箇所(昭和61年度末現在)
実処理人口 3,554万人(昭和60年度末現在)
 
流域下水道
都道府県
(第1種)15万人以上当分の間は、10万人以上
(第2種)3万人以上、15万人未満
2以上の市町村の区域
事業実施箇所 84箇所(昭和61年度末現在)
コミュニティープラント(地域し尿処理施設)
し尿・生活雑排水
市町村
101人~3万人未満
特に制限なし
事業実施箇所 642施設(昭和60年度末現在)
実処理人口 82万人(昭和60年度末現在)
生活排水処理施設
生活雑排水
市町村
101人以上
特に制限なし
昭和62年度末現在(国庫補助対象事業) 4施設
昭和63年度予定(国庫補助対象事業) 5施設

表―2 社会的な要因等の検討
検討要因
公共下水道、農業集落排水施設及び合併処理浄化槽の特徴
自然環境への影響
 
 ① 河川の水質
 現在では、各方式ともにBOD20ppm以下の水質を保持できる。
 ② 河川の水量
 公共下水道は、管渠で集水し、一地点より放流されるのに対し、農業集落排水施設では集落単位で、また合併処理浄化槽は各戸単位で放流されるため、河川流域全体の水量維持に役立つ。
 生活環境への影響
 
 ③ 水洗化
 各方式とも水洗化と雑排水処理を果たす。
 ④ 雑排水対策
 ⑤ 周辺環境(臭気等)
 公共下水道、農業集落排水施設では、居住地区から離して施設を設置できるのに対し、合併処理浄化槽は各戸に設置されるためバキュームカーによる汚でい引き抜き時の臭気等が若干残ることもある。
 ⑥ 建設時の影響
 施設規模が大きいほど建設時の周囲への影響は大きくなり、合併処理浄化槽は各戸単位で建設されるので周囲への影響は小さい。
 ⑦ 工場排水処理
 公共下水道のみ、工場排水も併せて処理することができる。
自治体への影響
 
 ⑧ 財政への影響
 公共下水道、農業集落排水施設では負担が大きく、合併処理浄化槽は民間活力を活用することもあり、負担が少ない。
 ⑨ 事業執行体制
 
  ・用地確保
 合併処理浄化槽は宅地内に設置するので、敷地に若干の余裕があればよい。公共下水道では大きな用地を必要とし、用地取得が困難な場合もある。
  ・実施の容易性(住民の同意等)
 合併処理浄化槽は家庭単位で同意を取ればよいが、農業集落排水施設は集落単位での合意が必要となる。また、公共下水道は、用地取得に難点があるものの、公共事業として自治体の意志で実施できる。
  ・事業の計画的遂行
 公共下水道は法律に基づき、財政事情が許せば計画的に遂行できるが、農業集落排水施設は集落単位の総意により、また合併処理浄化槽は住民の意志が大きく影響する。
住民の意識(波及的効果)
 
 ⑩ 水環境への認識度
 合併処理浄化槽では家の前の側溝から、農業集落排水施設では水路、小川からの住民の関心の対象となるのに対し、公共下水道では住居から離れた処理場から河川等に放流されるため、水環境への認識度が低くなる。
 ⑪ コミュニティ意識
 農業集落排水処理施設では、施設の建設、維持管理に集落の協力が必要であるのに対し、公共下水道ではコミュニティ意識を育てる要素がない。各戸別の合併処理浄化槽でも身近な水路を使用することから、コミュニティ意識を育てることもできる。

  表―3は、合併処理浄化槽及び公共下水道による施設整備の特徴をまとめたものである。

表―3 合併処理浄化槽及び公共下水道の施設整備の特徴
 
合併処理浄化槽
公共下水道
計画的な施設整備の実施
 民間活力を活用した施設整備であり、設置者の意向によるところが大きいので、行政による誘導施策が必要である。
 地方公共団体により計画的な事業遂行が図れる。
維持管理の費用と手間
 設置者が維持管理を行う義務を負うこととなるので、その周知徹底を図るとともに、関係業界に対する指導も重要である。
 利用者は、下水道を整備する際の受益者負担金及び下水道使用料を負担するが、維持管理の手間がかからない。
施設用地の問題
 宅地内に設置するので、敷地に若干の余裕があればよい。
 大きな用地を必要とし、用地取得が困難な場合もある。
投資効果発現の迅速性等
 浄化槽設置と同時(建築物の使用開始と同時)に効果が期待できる。また、各戸単位で槽容量(能力)を検討でき、規模に無駄が少ない。
 設置を希望する者から順に利用することが可能で、事業の円滑な遂行が期待できる。
 処理施設の設置、管渠の敷設、民家への接続に5~10年単位の期間が必要で、事業着手から効果が発揮されるまでに時間の遅れが大きい。

4 生活排水処理計画の策定

  生活排水の適正処理は、国民全体の共有財産である清冽で豊かな水環境を保全し、公共の福祉を推進する上で不可欠である。自然の恵みとして自分が利用した水については、これを浄化した上で、元の自然に戻すことについて国民一人一人が認識を持ち、自らの問題として取り組んでいくことが重要である。
  そこで、国民総水洗化と、生活雑排水の処理という課題を迅速に達成するためには、各種の生活排水処理施設の特徴とこれらの施設を整備すべき地域の特徴を考慮した生活排水処理計画を市町村ごとに策定し、官民一体となつて合理的かつ計画的に施設の整備を図つていく必要がある。
  その際、これまでは、ともすれば公共下水道偏重となりがちであつたが、様々な特徴を有する各種の生活排水の処理施設があり、生活排水の適正処理のための手段が整つている今日においては、公共下水道のみではなく、とりわけ、民間活力活用型の合併処理浄化槽を積極的に活用していくことが肝要である。
  生活排水処理計画の策定に当たつては、表―4の事項を総合的に検討する必要がある。
  このような事項を検討して作成した生活排水処理計画に従来の公共事業とともに、民間活力を生かす合併処理浄化槽設置整備事業を総合的に盛り込むことにより、限られた行・財政資源を最大限に有効に活用することができる。

表―4 生活排水処理計画の策定に当たつて検討する事項
検討要因
主な内容
① 既存施設及び既存計画との整合性
 既存施設の整備状況や既存計画を勘案し、処理の対象とすべき排水の種類、施設整備を必要とする地域を決定する。必要に応じて、既存計画の見直しも肝要である。
② 経済的要因
 施設整備を図る地域の地理的条件、人口密集度等を勘案し、集合処理とすべきか個別処理とすべきかについて決定する。集合処理とする場合は、各処理施設の利害得失を十分比較する必要があり、民間活力型の合併処理浄化槽を活用した場合の市町村財源の投資効果も重要な要素となる。
③ 社会的要因
 住民の合意形成の問題が大きな比重を占める。仮に、個別処理よりも集合処理のほうが経済的である地域でも、地域のすべての合意が容易には得られない場合には、個別に合併処理浄化槽を整備することが効果的である。合意形成が比較的容易な場合には、地域し尿処理施設が有用である。
④ 投資効果発現の迅速性
 合併処理浄化槽は、建築物の使用開始と同時に機能が発揮され、設置に要する期間が3~5日であることから、投資効果の発現が極めて早い。地域し尿処理施設も、通常1~3年で供用開始になり、投資効果の発現が比較的早い。
⑤ 地域環境保全効果
 処理施設における処理水質レベルのみならず、小河川等の自然浄化能力の活用可能性や小河川等の水量確保等についても、勘案することが必要である。
⑥ 将来見通し
 公共下水道は、将来の人口増加等を見込むことが一般的である。農業集落排水施設は、通常、現状に対応した施設整備を行う。合併処理浄化槽は、現状対応と将来の施設整備の拡大への対応も可能である。

 ○国が講ずべき施策

  生活排水処理計画を着実に実施するため、国は次の施策を講じるべきである。

  1.    ① 合併処理浄化槽について、設置者の負担軽減や市町村に対する財政措置を含めた行・財政的な関与の強化
  2.    ② 生活排水処理計画策定のための技術マニュアルの作成
  3.    ③ 生活排水処理計画策定についての複数のモデル事業の実施
  4.    ④ 将来的には生活排水処理計画を法的根拠に基づくものとすること
5 今後の浄化槽行政のあり方

  今後の浄化槽行政の重要な課題のひとつは、合併処理浄化槽の計画的整備の推進であり、また、合併処理浄化槽を生活排水処理対策の柱として位置づけ、生活排水処理の計画的推進を図ることであるが、更に解決すべきいくつかの課題があり、行政として早急に取り組む必要がある。

  1.   ① 放流同意問題の解決と「無届浄化槽」の解消
  2.   ② 浄化槽設置者の信頼に応え得る浄化槽の製造、施工、管理を確保できる仕組みの確立
  3.   ③ 浄化槽の施工及び維持管理の適正を確保するための担保として実施される法定検査の徹底
  4.   ④ 広報啓発活動の展開
  5.   ⑤ 浄化槽に関する技術の集積と活用
  6.   ⑥ 浄化槽高普及時代に対応した情報管理