法令・告示・通達

農用地の土壌の汚染防止等に関する法律の施行について

公布日:昭和46年06月30日
46農政3341号

(各地方農政局長・各都道府県知事あて農林事務次官通達)

 農用地の土壌の汚染防止等に関する法律(昭和四十五年法律第百三十九号。以下「法」という。)は、第六十四回臨時国会において成立し、昭和四十六年六月五日付けで施行され、これに伴い、土壌汚染対策審議会令(昭和四十六年政令第百七十六号)が同日付けで施行されるとともに、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律施行令(昭和四十六年政令第二百四号。以下「令」という。)、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律施行規則(昭和四十六年農林省令第四十六号。以下「規則」という。)および農用地土壌汚染対策地域の指定要件に係るカドミウムの量の検定の方法を定める省令(昭和四十六年農林省令第四十七号。以下「検定省令」という。)が、それぞれ、昭和四十六年六月二十四日付けで施行されたので、左記事項にご留意のうえ、これらの法令に基づく制度の適切かつ円滑な運用に遺憾のないようにされたい。
 以上、命により通達する。

第一 本法制定の趣旨

 近年、産業活動の著しい進展等に伴い、水質の汚濁、大気の汚染等による公害が各地で発生しているが、カドミウム、銅等重金属類による農用地の土壌の汚染も、人為的汚染あるいは自然的汚染との重複の形で各地で顕在化しており、人の健康の保護および生活環境の保全の観点からきわめて大きな社会問題となつている。
 農用地の土壌の汚染は、そのほとんどが水質の汚濁あるいは大気の汚染を通じて土壌が汚染されるという過程を経るものであり、従来から公共用水域の水質の保全に関する法律(昭和三十三年法律第百八十一号、大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)等によりこれに対処してきたところである。
 しかしながら、重金属類による土壌の汚染は、ひとたび汚染されると特定有害物質が土壌中に蓄積したままほとんど流失しないという性格があるので、工場あるいは事業場からの排出水、ばい煙等を規制するのみでは必ずしも十分な対策とはいえず、これらの規制措置を有機的な関連のもとに、土壌の汚染防止のための事業の実施、汚染された農用地の復旧等の措置を講ずることが必要である。
 このような見地から、農用地の土壌の汚染の防止および除去ならびに汚染された農用地の利用の合理化を図るために必要な措置を講ずることにより、人の健康をそこなうおそれがある農畜産物が生産されまたは農作物等の生育が阻害されることを防止するため、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律が制定されたものである。

第二 特定有害物質の指定

 本法において対象とする土壌の汚染の原因となる物質は、法第二条第三項の規定により、特定有害物質として政令で指定されることになつており、政令では、カドミウムおよびその化合物が指定されている(令第一条)。
 このような物質としては、カドミウムのほか、銅、亜鉛等が考えられるのであるが、当面、緊急性の高いカドミウムをまず指定したものであり、銅および亜鉛等の指定についても、可及的すみやかに追加指定するべき検討を進めているところである。

第三 農用地土壌汚染対策地域の指定

 一 農用地土壌汚染対策地域の指定の要件

  農用地土壌汚染対策地域(以下「対策地域」という。)の指定は、法第三条第一項の規定により、その農用地の利用に起因して人の健康をそこなうおそれがある農畜産物が生産され、もしくは当該農用地における農作物等の生育が阻害されると認められる地域またはそれらのおそれが著しいと認められる地域として政令で定める要件に該当する地域について行なうこととされており、令第二条に対策地域の指定の要件が定められているが、その運用に当たつては、次の事項に留意するものとする。

  1.   (一) 令第二条第一項第一号に規定する「その地域内の農用地において生産される米に含まれるカドミウムの量が米一キログラムにつき一ミリグラム以上であると認められる地域であること」とは、現在検定省令による検定の結果一・〇ppm以上のカドミウムを含有すると認められる米が生産され、または検定省令と実質的に同一であると認められる測定方法により過去数年間に一度以上一・〇ppm以上のカドミウムを含有すると認められる米が生産されたと認められる地域とする。
  2.   (二) 令第二条第一項第二号の「前号の地域の近傍の地域」とは、「同項第一号に掲げる要件に該当する地域(以下「一号地域」という。)に囲まれた地域や一号地域のすぐ隣の地域のほか、一号地域と水系または汚染原因が同一であると認められる地域等をいうものとする。
  3.   (三) 令第二条第一項第二号のイの「その地域内の農用地の土壌に含まれるカドミウムの量が前号の地域内の農用地の土壌に含まれるカドミウムの量と同程度以上であること」とは、一号地域の土壌に含まれるカドミウムの量とくらべて、その地域内の農用地の土壌に含まれるカドミウムの量が同程度であるかまたはこれより多い地域をいう。
        この場合において、一号地域の土壌に含まれるカドミウムの量にかなりの巾があるときは、これらの量のうち極端に低いものを除いた残りのうちの低いものを基準として判断するものとする。
  4.   (四) 令第二条第一項第二号のロの「農用地の土性がおおむね同一である」か否かを判断するに当たつては、その地域の土壌と一号地域の土壌が、粒径分析の結果から別表に定める分類方法により分類した場合に、同一の区分に属するか否かによつて判断するものとする。
  5.   (五) 令第二条第一項第二号の要件については、当面、一号地域に囲まれた地域や一号地域のすぐ隣の地域等にあつては、同項第二号のイおよびロに掲げる要件に該当する場合は、その地域内の農用地において生産される米に含まれるカドミウムの量が一・〇ppmよりある程度低いものであつても、同号に掲げる要件に該当するもの(以下「二号地域」という。)と解することとし、それら以外の地域にあつては、その地域内の農用地において生産される米に含まれるカドミウムの量が天候、水利状況等の条件如何によつては、一・〇ppm以上となるであろうことも考えられるような比較的一・〇ppmに近い程度でなければたとえ同号のイおよびロに掲げる要件に該当しても二号地域とは解さないものとする。
 二 カドミウムの検定の方法

   令第二条第一項の各号のカドミウムの、含有量の検定の方法は、検定省令に基づいて行なうこととされているが、この場合における米および土壌の試料の採取は、次により行なうものとする。

  1.   (一) 縮尺三千分の一程度の平面図をペースマツプとして、一区面がおおむね二・五ヘクタールとなるように方眼を組み、その交点を仮調査地点とする。
  2.   (二) 仮調査地点を含む農用地の区画の中央部を調査地点とする。
  3.   (三) 各調査地点における稲の採取は、当該調査地点上に立毛している稲二十株前後(玄米として約五百g~一kg)から行なうものとする。
        ただし、調査地点上の立毛からの採取が不可能な場合は、調査地点のある農用地の区画の平均的稲をもつてこれに代えるものとする。
  4.   (四) 各調査地点における土壌の採取については、稲を採取した地点において、地表から地表下十五cmまで(耕盤等が地表下十五cm以内に出現する場合にあつては、耕盤等まで)の土壌を垂直に切り取り、これを十分混合して四分法により均一な土壌約一kgを採取するものとする。
        この場合において、畦立等でほ場表面が不均一なときは、畦内畦間を均一にならして採土するものとする。

第四 農用地土壌汚染対策計画の策定

 農用地土壌汚染対策計画(以下「対策計画」という。)は、対策地域の区域内にある農用地の土壌の汚染の防止もしくは除去、またはその汚染に係る農用地の利用を図るための計画であつて、法第五条第二項の規定により、その内容は、①対策地域の区域内にある農用地についての利用上の区分およびその区分ごとのその農用地の利用に関する基本方針、②対策地域の区域内にある農用地事業に関する事項、③対策地域の区域内にある農用地の土壌の汚染の状況の調査測定に関する事項および④その他必要な事項とされているが、これらの計画の内容とすべき事項および策定にあたつての留意事項は、次のとおりとする。

 一 「対策地域の区域内にある農用地についての利用上の区分およびその区分ごとのその農用地の利用に関する基本方針」について
  1.   (一) 法第五条第二項第一号の「対策地域の区域内にある農用地についての利用上の区分およびその区分ごとのその農用地の利用に関する基本方針」においては、おおむね次の事項を定めるものとする。
       ア 利用上の区分
    1.     (ア) 農用地として利用する土地
      1.      a 田
      2.      b 畑
      3.      c 樹園地
      4.      d 採草放牧地
    2.     (イ) 農用地以外のものとして利用する土地
      1.      a 宅地
      2.      b 工場等用地
      3.      c 緑地林地
      4.      d その他
       イ 利用上の区分ごとの利用の方法
         農用地として利用する土地にあつては、栽培作物の種類、栽培方法等を明らかにするものとし、農用地以外のものとして利用する土地にあつては、その具体的な利用計画を明らかにするものとする。
  2.   (二) 対策地域の区域内にある農用地の利用上の区分については、その農用地の自然的経済的社会的諸条件とくにその土壌の特定有害物質による汚染の程度およびその農用地の周辺の農業の動向等を勘案して、当該農用地の最も合理的な利用の方法を定めるように努めるものとする。
 二 「対策地域の区域内にある農用地に係る事業に関する事項」について
  1.   (一) 法第五条第二項第二号の「対策地域の区域内にある農用地に係る事業に関する事項」においては、同号のイからハまでに掲げる事項で必要なものにつき、それぞれ、次に掲げる事項を明らかにするものとする。
       ア 事業の実施地域
         事業の実施地域の区域ならびに地形、土壌、気象、水利状況、営農状況等のほか、当該農用地の土壌の汚染の状況につき明らかにするとともに、当該地域に係る事業計画の内容を明らかにするものとする。
       イ 事業の種類
         用水施設、排水施設、農用地整備施設、農用地造成等法第五条第二項第二号に掲げる事業のうち必要な事業の種類およびその工事計画を明らかにするものとする。
       ウ 事業費の概算
         事業計画の施行に係る費用の概算について、その総額および内訳(主要工事費、付帯工事額、その他)を明らかにするものとする。
         この場合において、事業費の積算の基礎となつた物価、賃金の水準が何年現在のものであるかを表示することとし、物価、賃金の変動による事業費の増減は、いわゆる「事業費の変更」として取り扱わないものとする。
       エ 事業の実施者
         都道府県営、市町村営等事業の実施者を明らかにするものとする。
  2.   (二) この事業計画は、その農用地の土壌の汚染の程度、その事業に要する費用、その事業の効果および緊要度等を勘案し、必要かつ適切と認められるものでなければならない(法第五条第四項)。
 三 「対策地域の区域内にある農用地の土壌の汚染の状況の調査測定に関する事項」について
  1.   (一) 法第五条第二項第三号の「対策地域内にある農用地の土壌の汚染の状況の調査測定に関する事項」は、対策地域内にある農用地の土壌の汚染の現状および進行状況をは握し、事業計画の策定のほか、法第七条に規定する排水基準設定等のための措置等に資するために定めるものであるが、その調査測定の実施は、別に定めるところにより行なうものとし、調査測定に関する事項においては、次の事項を明らかにするものとする。
       ア 調査測定地点の所在地および概況
         調査測定地点は、当該対策地域の地形、土壌、水利状況等のほか、当該農用地の土壌の汚染の状況を勘案して、対策地域の面積おおむね二十五ヘクタールに一点の割合で選定し、当該調査地点の所在地および概況を明らかにするものとする。
       イ 調査測定実施計画
         当該調査測定地点における土壌の汚染をは握するための調査測定の実施者および土壌、農作物、水等の採取、分析等の計画を明らかにするものとする。
  2.   (二) 調査測定の結果は、その農用地の土壌の汚染の原因を分析し、法第七条に規定する排水基準設定等のための措置をとるための基礎とするものであるから、調査測定は慎重に行なうものとする。
 四 「その他必要な事項」について

   法第五条第二項第四号の「その他必要な事項」においては、同項第一号から第三号までの事項以外の事項であつて、当該対策計画の達成に必要な事項および当該対策計画と密接な関係のある事項について明らかにするものとする。

第五 排水基準設定等のための措置

  1.  一 法第七条の規定により、都道府県知事は、対策地域内の土壌の汚染の防止のため必要と認めるときは、水質汚濁防止法(昭和四十五年法律第百三十八号)または大気汚染防止法の規定による排水基準の変更等のために必要な措置をとることとされている。一般に、水質の汚濁または大気の汚染の防止のための措置については、水質汚濁防止法第三条第三項または大気汚染防止法第四条第一項の規定により、工場または事業場からの排水、ばい煙等について全国的に一率の基準が定められるとともに、この一率の基準では規制が十分でないと認められる地域については、さらに都道府県が条例で、これより厳しい特別の基準を定めることができることになつているが、土壌の汚染が進行している地域においては、土壌の汚染の防止の観点からこの特別の基準を定め、水質の汚濁または大気の汚染を通じて土壌が汚染されることを防止する必要がある。このような見地から法第七条の規定が置かれたものである。
  2.  二 法第七条の「必要な措置」とは、都道府県知事が、土壌の汚染の防止の観点から全国一率の排水基準等より厳しい特別の排水基準等を定めるため、またはこれらの特別の排水基準等がすでに定められている場合にあつては、これらの基準を変更してさらに厳しい基準とするための条例案を作成し、都道府県の議会に提出する等そのような内容の条例の制定のために必要な措置をいう。
  3.  三 水質汚濁防止法第三条第三項および大気汚染防止法第四条第一項においては、これらの特別の排水基準等の設定、変更は政令で定める基準に従い、または政令で定めるところにより、行なうこととされており、これをうけた水質汚濁防止法施行令(昭和四十六年政令第百八十八号)第四条および大気汚染防止法施行令(昭和四十三年政令第三百二十九号)第七条においては、土壌の汚染の防止の観点からする特別の排水基準等の設定、変更については、従うべき政令の基準が積極的に定められていないが、土壌の汚染に係る有害物質についての水質環境基準(水質の汚濁に係る環境上の条件についての公害対策基本法(昭和四十二年法律第百三十二号)第九条第一項の基準をいう。以下同じ。)および大気環境基準(大気の汚染に係る環境上の条件についての同項の基準をいう。以下同じ。)が定められていない場合ならびに水質の汚濁および大気の汚染を通ずる土壌の汚染を考慮しない水質環境基準および大気環境基準が定められている場合においても、水質汚濁防止法第三条第三項および大気汚染防止法第四条第一項の規定により土壌の汚染の防止の観点からより厳しい排水基準等を有効に定めることができるものであり、このことについては関係省庁と協議済みである。
       なお、土壌の汚染の防止の観点からする特別の排水基準等の設定、変更等については、当面、農用地の土壌の汚染の程度が一・〇ppm以上のカドミウムを含有する米が生産されることがないように維持されるため必要かつ十分な程度の許容限度を定めるものとする。

第六 特別地区の指定等

  1.  一 特別地区の指定は、一号地域について行なうものとする。
  2.  二 指定農作物等(法第八条第一項に規定する指定農作物等をいう。)の指定は、当面、水稲および陸稲に限るものとする。
  3.  三 特別地区を指定した場合において、当該特別地区の区域内にある農用地において当該特別地区に係る指定農作物等の作付けをし、またはしようとする者があるときは、都道府県知事は法第十条の規定により、すみやかに当該指定農作物等の作付けをしないよう勧告するものとし、勧告どおり実施されたことが明らかになるまで、当該地域について厳重に監視するものとする。
  4.  四 特別地区の指定を行なつた場合において、対策計画の実施等によりその区域内にある農用地の土壌の汚染が除去されたときは、特別地区の指定を解除するものとする。

第七 環境庁の設置に伴う所管の変更等

  1.  一 公害対策を強力に推進するため、第六十五回通常国会において環境庁設置法(昭和四十六年法律第八十八号)が成立し、昭和四十六年七月一日から施行されることとなつた。これに伴い、同法の附則で農用地の土壌の汚染防止等に関する法律の一部が改正され、七月一日から農用地の土壌の防止対策は、農林省と環境庁が相当に協力しつつ実施することとなつたが、それぞれの所管する事項は、おおむね次のとおりである。
    1.   (一) 土壌の汚染に係る環境基準の設定その他土壌の汚染防止のための規制措置に関することは環境庁が行なうこと。
    2.   (二) 土壌の汚染の防止および除去ならびに汚染された農用地の利用の合理化に関する事業の実施は、農林省が行なうこと。
          なお、対策計画は、これらの事業に関する事項ばかりでなく土壌の汚染防止のための規制措置を講ずるための調査測定に関する事項をも内容としているので、対策計画は、農林大臣と環境庁長官の両者の承認を要すること。
    3.   (三) 農用地への立入調査は、農林大臣もしくは環境庁長官または都道府県知事のいずれも行なうことができること。
    4.   (四) 農林省に置かれている土壌汚染対策審議会は、廃止されるとともに、環境庁に所属する中央公害対策審議会に土壌汚染に関する部会がおかれ、土壌汚染対策審議会の権限と構成員がこの部会に、そのまま引き継がれること。

別表

土性区分
分類基準
一 微粒質
(土層(作土〇~五cm)の粘土含量) 二五%以上
二 細粒質
〃 一五~二五%
三 中粒質
〃 〇~一五%(ただし砂含量八五%以下)
四 粗粒質
〃 〇~一五%(ただし砂含量八五%以上)
  •  (注) この表中の粘土および砂の定義ならびにそれらの含量の測定方法は、国際土壌学会で定めた方法による。