法令・告示・通達

湖沼水質保全基本方針

  • 公布日:平成18年1月26日
  • 環境省告示29号

 湖沼水質保全基本方針(昭和五十九年十二月総理府告示第三十四号)の全部に変更があったので、湖沼水質保全特別措置法(昭和五十九年法律第六十一号)第二条第六項の規定に基づき、次のように公表する。

   湖沼水質保全基本方針

第1 湖沼の水質の保全に関する基本構想

 湖沼は、古来人々の生活と生産活動を支えてきたかけがえのない国民的資産である。我が国の湖沼のなかには、天然の湖沼のほか人工の湖も数多く存在し、これらの湖沼は、水道水源となる等水資源の安定的な確保に重要な役割を果たしているほか、豊かな水産資源を育み、あるいは周辺の自然環境と一体となって良好な景観を構成するとともに、沿岸の遊歩、自然探勝等の野外レクリエーションの場となっている。また、これらの湖沼は、治水等の面でも重要な機能を有しており、更に固有の生態系を形成する等学術上価値の高いものも少なくない。
 このように湖沼のもたらす多様な恵沢は、湖沼が陸水域のなかで水を貯える器としての役割を果たしていることに由来するものであるが、一方、水が滞留するという閉鎖的な水理上の特性から、そこでは流入した汚濁物質が蓄積しやすく、このため、湖沼は、その水質の汚濁が進みやすい上に、いったん水質が汚濁するとその改善が容易でないという性格を本来有している。湖沼の集水域で発生する汚濁の負荷が自然の浄化能力の範囲にある場合には、湖沼の水質は良好な状態を維持することができるが、自然的に生ずる負荷に加え、社会・経済活動の発展に伴って湖沼に流入する汚濁の負荷が増大したことにより、湖沼の水質の汚濁が進行してきた。排水規制、下水道の普及等により水質が改善しつつある湖沼もあるものの、湖沼の水質環境基準の達成状況は、河川及び海域に対して著しく低く、顕著な改善傾向が見られない状況にあり、利水その他の水域の利用上支障を生じている湖沼も相当数に及んでいる。
 このような状況を踏まえると、貴重な湖沼の水質を汚濁の進行から守り、既に汚濁の進んだ湖沼については着実な水質の改善を図ることにより、国民が湖沼のもたらす多様な恵沢を将来にわたって享受することができるようにすることが極めて重要である。もとより、湖沼の水質の状況、利水等水域利用のあり方、あるいは水質汚濁の要因はそれぞれの湖沼及びこれを取りまく地域の有する自然的・社会的諸条件によって異なるものであるから、湖沼の水質の保全を図るためには、それぞれの湖沼の特性に応じた的確な対策を講ずることが必要であり、また一の湖沼についてみると、水質の汚濁原因は湖沼の集水域で営まれる諸産業の事業活動から人々の日常生活に至るまで多岐にわたるものであるから、それぞれの汚濁原因に対応した各般の対策を組み合わせて、総合的にその推進を図ることが肝要である。
 以上の認識に立ち、今後の湖沼水質保全施策の基本的な方向を展望すれば次のとおりである。

  1.  ① 湖沼においては水質の汚濁が進みやすく、いったん汚濁の進んだ水質を改善することは必ずしも容易でないことにかんがみ、水域の利用上望ましい水質が保たれている湖沼については、その状態を維持することができるように努めるものとする。一方、水域の利用上望ましい水質が現に確保されておらず、又は確保されないこととなるおそれが著しい湖沼については、所要の水質保全対策の充実・強化に努めるものとし、このうち水の利用状況、水質汚濁の推移等からみて特に水質保全対策を総合的に講ずる必要のあるものについては、重点的な対策の推進を図るものとする。
  2.  ② 湖沼の水質にとっては、有機物の流入等による有機汚濁と栄養塩類の流入に起因する藻類増殖を通じての富栄養化が特に重大な問題である。これらは密接にかかわり合いながら湖沼の水質に影響を及ぼすものであるから、湖沼の水質汚濁を効果的に防止し、改善するため、関連するそれぞれの水質項目に関し、順次適切な施策体系の下で所要の措置を講じていくものとする。
  3.  ③ 湖沼の水質汚濁の発生原因は多岐にわたっていることから、特定の分野の汚濁源のみに着目して負荷の削減を求めても、必ずしも効果的に湖沼の水質を保全することはできない。このため、湖沼の水質保全を図るに当たっては、各分野における関係者の広範な協力を得つつ、全体として均衡のある対策を推進するものとする。
       また、湖沼の集水域に存在する森林、農用地等の緑地その他湖辺の自然環境については、その生態系を構成する動植物、土壌等による水質保全上の機能に着目し、このような自然の有する機能に配意した取組を図るものとする。
     湖沼は、国民の健康で文化的な生活の確保に重要な役割を果たしており、現在及び将来の国民がその恵沢を享受することができるように湖沼の水質の保全を図っていくことが肝要である。湖沼の水質の保全を図るためには、湖沼の有する治水、利水、水産その他の公益的機能に十分配慮しつつ、湖沼の特性及び汚濁原因に応じた均衡ある水質保全対策を適切に講じなければならず、このような対策を総合的に実施するに当たっては、国、地方公共団体、事業者、住民等の緊密な協力が必要である。今後の湖沼水質保全対策は、この基本方針にのっとり、関係機関及び関係者の幅広い合意と協力の下で、強力に推進されなければならない。

第2 湖沼水質保全計画の策定その他指定湖沼の水質保全のための施策に関する基本的事項

1 湖沼水質保全計画の策定に関する基本的事項

  湖沼水質保全特別措置法(以下「法」という。)第4条の規定に基づく湖沼水質保全計画は、①から③に係る調査検討を経て、④及び⑤により策定するものとする。

  1.  ① 湖沼特性を踏まえ、望ましい湖沼の水環境及び流域の状況等に係る将来像を明らかにした長期ビジョンについて関係機関や関係者と共有すること。
  2.  ② 法第7条第1項の水質項目に関し、現状における指定湖沼の水質及び指定地域内において公共用水域に排出される汚濁負荷量を把握するとともに、人口、産業等の動向を勘案して将来における汚濁負荷量の推移を推計し、これに伴う指定湖沼の水質への影響を予測すること。その際には、可能な限り指定地域内の水環境の状況や汚濁負荷発生源を的確に把握すること。
  3.  ③ 指定湖沼における水質環境基準の確保を目途としつつ、計画期間を設定し、当該計画期間内に指定地域において実施することが可能な水質保全対策を総合的に検討し、これによる水質保全上の効果を推計すること。その際には、水質保全効果のある水循環回復・生態系保全に係る対策も検討の対象とすること。
  4.  ④ 湖沼水質保全計画においては、計画期間、計画期間内に達成すべき目標、目標を達成するために実施すべき対策を盛り込むこと。
       計画期間については、湖沼特性等を踏まえ、関係する諸計画との整合性を図りつつ、適切な期間を設定し、5年を超える長期の期間とする場合には、5年を目途に計画の進捗状況の評価及び効果の検証を行い、必要に応じて、計画の見直しを行うこと。
       また、計画の目標及び対策と長期ビジョンとをつなぐ道筋を示すこと。
       対策に関しては、対策ごとに可能な限り定量的な目標を設定することとし、定性的な目標を設定した場合であっても、具体的な実績を把握することにより、可能な限り対策の効果を定量的に評価できるようにすること。また、対策については、可能な限り実施主体、実施時期、対策地域、対策内容を明記すること。その際には、行政主体の対策だけでなく、地域住民等の関係者による取組及び関係主体の協働による取組も計画の中に位置付けること。
  5.  ⑤ 湖沼水質保全計画の策定に当たっては、指定湖沼の有する治水、利水、水産その他の公益的機能の確保に関する行政施策に十分配慮するとともに、指定地域の開発に係る諸計画について十分配慮し、これら諸計画との整合が図られるようにするものとすること。また、流域別下水道整備総合計画が定められている場合にはこれに適合して下水道の整備に関する事項を定める等指定湖沼の水質保全対策に関連する諸計画との整合が図られるようにするものとすること。
       また、計画の策定に当たっては、指定地域の住民等の意見を広く聴取するものとすること。さらに、計画に基づく事業の実施及び計画の評価の段階において、指定地域の住民等が参加できる仕組みを構築するよう努めるものとすること。

2 流出水対策地区の指定に関する基本的事項

  法第25条に規定する流出水対策地区は、流出水対策を重点的、集中的に進めていくため、次に定めるところにより指定するものとする。

  1.  ① 流出水の汚濁負荷量の指定湖沼の汚濁負荷量に占める割合が大きい地区であって、汚濁負荷削減対策を実施することが可能な地区について順次指定を行うこと。なお、流出水対策地区の指定に当たっては、森林等自然的負荷のみの流出と認められる地区は対象としない。
  2.  ② 流出水対策地区は、一の流入河川の流域等のまとまった流域を最大限として指定すること。
  3.  ③ 流出水対策地区の指定に当たっては、地域住民等の理解が得られるように努めること。

3 湖辺環境保護地区の指定に関する基本的事項

 湖沼の水辺地及びこれに隣接する水域の植生による水質浄化機能を維持又は増大させていくため、法第29条に規定する湖辺環境保護地区は、次に定めるところにより指定するものとする。

  1.  ① 湖辺環境保護地区は、湖沼、湖岸から湖沼と一体で存在する湿地帯、流入河川河口部、内湖等において植生が一体として保護できるような区域を指定すること。なお、ここでいう植生とは、湖沼の水質の改善に資する水生植物(湿生植物を含む。)で構成されるものをいい、同地区には森林等は含まれない。
  2.  ② 保護の対象とする自然環境は、自然の植生だけでなく人為的に再生又は創出された植生も含むものとし、生態系等に係る被害を及ぼし、又は及ぼすおそれのある外来植物で主に構成される植生を含まないものとする。
  3.  ③ 湖辺環境保護地区の指定に当たっては、指定地域の住民等の意見を取り入れるよう努めること。

4 指定湖沼の水質保全のための施策に関する基本的事項

  (1) 下水道、農業集落排水施設、浄化槽等の整備

    生活排水に係る汚濁負荷の削減の見地から地域の特性に応じ、下水道、農業集落排水施設、浄化槽等の整備を図るものとする。その際には、合流式下水道の改善並びに下水道、農業集落排水施設及び浄化槽における窒素・りんの高度処理を推進するものとする。

  (2) 工場・事業場排水対策

    特定事業場である工場・事業場について、所要の排水規制、湖沼特定施設に係る汚濁負荷量の規制等を行うとともに、これらの規制の対象とならない工場・事業場についても、所要の汚濁負荷の抑制に関する指導等を行うものとする。また、下水道等の整備による工場・事業場排水対策も推進するものとする。

  (3) 生活排水対策

    (1)に掲げる施策を推進するとともに、各家庭において発生する汚濁負荷の削減に資するよう、食物残さの流出防止等を促すものとする。
    また、生活排水対策の実施を推進することが必要であると認める時は、指定地域内に水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)に基づく生活排水対策重点地域の指定を行い、生活排水対策推進計画に基づき、対策を進めるものとする。

  (4) 畜産業に係る汚濁負荷対策

    畜舎について、その規模に応じ所要の排水規制、管理に関する規制等を行い、またこれらとあわせて家畜ふん尿処理施設の整備等を推進し、畜産業に伴う汚濁負荷の削減を図るものとする。

  (5) 魚類養殖に係る汚濁負荷対策

    魚類養殖施設について所要の管理に関する規制等を行い、魚類養殖業に伴う汚濁負荷の削減を図るものとする。

  (6) 流出水対策

    農地から流出する汚濁負荷については、その実態把握に努めつつ、営農の実情に即して適切な措置を講ずるものとする。また、市街地等から降雨等に伴い流出する汚濁負荷についても、実態把握に努めつつ実施可能な対策を検討の上、必要な措置を講ずるものとする。
    特に、法第25条の規定に基づき流出水対策地区の指定を順次行い、法第26条に基づき定める流出水対策推進計画に基づき、農地や市街地等からの汚濁負荷削減のための対策の重点的、集中的な実施を図るものとする。

  (7) 緑地の保全その他湖辺の自然環境の保護

    以上のような各種汚濁源対策等とあいまって湖沼の水質の保全に資するよう、自然環境保全法(昭和47年法律第85号)、自然公園法(昭和32年法律第161号)、森林法(昭和26年法律第249号)、都市計画法(昭和43年法律第100号)、都市緑地法(昭和48年法律第72号)、河川法(昭和39年法律第167号)、自然再生推進法(平成14年法律第148号)、海岸法(昭和31年法律第101号)等の関係諸制度の的確な運用を通じて配意し、緑地の保全その他湖沼の水辺地の自然環境の保護に努めるものとする。
    特に、指定湖沼の水辺地及びこれに隣接する水域の植生による水質浄化を進めていくため、法第29条の規定に基づき湖辺環境保護地区の指定を順次行い、湖辺環境の保護を図るものとする。その際には、必要に応じ、当該地区の植生を適正に保全、維持管理していくための計画を策定するものとする。

  (8) 湖沼の浄化対策

    湖内又は流入河川内に堆積した有機物を多量に含む底質等に起因する汚濁が著しく、その防除が特に必要な場合には、状況に応じ、しゅんせつ、ばっ気、導水、水草除去等について、対策の効果と影響を検証しつつ、実施するものとする。

  (9) 水循環回復等の対策

    湖沼の水質保全効果のある、湧水の保全及び再生、市街地における雨水浸透の促進等の水循環回復に係る対策、湖沼と地域住民とのふれあいを通じた意識啓発に係る対策等の推進に努めるものとする。

第3 その他湖沼の水質保全に関する重要事項

1 指定湖沼以外の湖沼に関する水質保全対策

  指定湖沼以外の湖沼についても、水域の利用上望ましい水質が現に確保されておらず、又は確保されないこととなるおそれのある場合には、第2に示した指定湖沼に係る対策に準じ、それぞれの湖沼の特性及び汚濁原因に応じた所要の水質保全対策を講ずるものとする。

2 水質の監視測定等

  湖沼及びその集水域の水質の状態を的確に把握するため、水質の監視測定を実施するとともに、必要に応じ監視測定施設・設備の整備並びに地域住民の協力及び参加も得た監視測定体制の確立・充実を図るものとする。
  地域住民の理解及び施策への参加を促進する観点から、湖沼の利用目的等の特性に応じて、水質環境基準項目と関係のある地域住民にも分かりやすい指標等を設けて、水質の監視測定に活用するものとする。
  また、監視測定結果は、平易な解析結果を付す等、地域住民に対する情報発信を行うものとする。

3 調査研究の推進と技術の開発

  国、地方公共団体その他関係研究機関の連携の下に、湖沼水質に係る表面流出、地下浸透を含めた水収支及び汚濁物質収支の把握、湖沼の汚濁メカニズムの定量的な解明、湖沼の生態系の把握、淡水赤潮等の発生機構の究明、山林、農地、市街地等からの流出負荷の実態の把握及び農地、市街地等における対策効果の定量的把握、緑地・水域での自然浄化機能の評価等湖沼の水質保全に関する調査研究を推進するとともに、湖沼の水質汚濁の原因となる各種排水等の処理、湖沼の水質浄化対策及び水質監視測定に関する技術の開発を図るものとする。

4 知識の普及と意識の高揚

  湖沼水質保全対策を推進するに当たっては、生活排水等を含めた総合的な対策が必要であり、その実効を期するためには、国、地方公共団体等がその責務を果たすことはもちろんのこと、地域住民を始め国民の理解と協力が不可欠であり、このため湖沼の水質保全に関する知識の普及及び意識の高揚を図るものとする。

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