法令・告示・通達

トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンによる大気汚染の防止について

公布日:平成5年04月09日
環大企193号

環境庁大気保全局長から各都道府県知事あて

 トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについては、我が国の大気において低濃度ながら広い範囲で検出されているほか、環境庁が行った「未規制大気汚染物質規制基準検討調査」等によると、その発生源の周辺では、局所的ではあるものの比較的高い濃度が検出される事例があることが判明している。
 環境庁では平成2年3月に「有機塩素化合物対策検討会」を設置し、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンによる大気汚染の防止について検討してきたが、このたび、この結果がとりまとめられたところである。
 この結果に基づき、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについて、人の健康を保護するうえで維持されることが望ましい指針として、別表のとおり、大気環境指針(暫定値)を定め、また、別紙のとおり、「トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンの大気中への排出に係る暫定対策ガイドライン」についてとりまとめた。
 ついては、おって示す報告様式により、当面、下記のとおり実態の把握に当たられたい。
 なお、大気汚染防止法第31条の規定に基づく政令市の長、その他関係部局との連絡を密にする等により円滑な実態把握の実施に十分配慮されたい。

  1. ① 貴都道府県内のトリクロロエチレン又はテトラクロロエチレンを大気中に排出すると考えられる工場及び事業場について、関係部局間の連絡を密にする等により、その所在等について、5年度中に把握すること。
  2. ② 把握した所在等の実態に基づき、発生源の種類や規模、その他一般公衆が通常生活している地域又は場所か否か等を考慮し、別紙の事項を参考とし、適宜、周辺環境における濃度測定を実施し、また、事業者の協力を得たうえで大気への排出口における濃度測定を実施すること。
  3. ③ 濃度の測定結果に合わせ、周辺環境への影響、排出実態や規模等の発生源の特性及び技術水準等を考慮し、大気環境指針が確保されるうえで必要と認められる場合は、当該工場又は事業場に対して、別紙の事項を参考とし、大気中への排出の抑制を計画的に進めるよう協力を求めること。


別表

トリクロロエチレン
年平均値として250μg/m3以下(注1)
テトラクロロエチレン(別名パークロロエチレン)
年平均値として230μg/m3以下(注2)

 備考

  1.    1 この指針は、人の健康を保護するうえで維持されることが望ましい指針として定めたものであり、指針が確保されない状況があっても、直ちに疾病又はそれにつながる影響が現れるものではない。
  2.    2 この大気環境指針は、大気への排出口、工場・事業場の敷地境界内、その他一般公衆が通常生活していない地域又は場所については、適用しない。
  3.  注1 温度25℃、圧力1気圧のもとでは47ppbに相当する。
  4.  注2 温度25℃、圧力1気圧のもとでは34ppbに相当する。

[別紙]


   トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンの大気中への排出に係る暫定対策ガイドライン

1 濃度の測定

  トリクロロエチレン等の濃度の測定に当たっては、別表に示した測定方法等を参考にして行うこと。
  周辺環境の測定を行う場合には、施設の稼動状況や気象条件も十分考慮して、当該工場又は事業場の敷地境界外で、かつ、一般公衆が通常生活している地域又は場所において測定することを基本とし、日平均値が大気環境指針値を超過すると考えられる場合には、試料の捕集時間をなるべく長くする等の工夫をしたうえでさらに測定を実施するものとする。なお、濃度は施設の稼動状況や気象条件により大きく変動することが考えられるため、年平均値の算出に当たって、客観的に年間を通じて平均的な濃度値を算出することができるよう、必要に応じてこれらの諸条件が異なる状況のもとでできるだけ多くの回数にわたり測定を行うこと。
  また、大気への排出口等における測定を行う場合には、各施設の排出特性を考慮し、その工程を適切に代表するような期間において実施することとし、採取時間等を考慮して試料を複数回、捕集するものとする。採取場所は、ダクトの屈曲部分や断面形状の急激に変化する部分等を避けておこなうものとする。なお、小規模の発生源については、検知管法等の簡易測定法もスクリーニングの手法として有効である。

2 大気中への排出抑制対策

  トリクロロエチレン等の濃度の測定結果に合わせ、周辺環境への影響、排出実態や規模等の発生源の特性及び技術水準等を考慮し、大気環境指針が確保されるうえで必要と認められる場合は、当該工場又は事業場において、大気中への排出の抑制を計画的に進めることが重要である。具体的には、以下の事項が考えられる。

  1.  ① トリクロロエチレン等を製造している工場にあっては、塩素化反応施設、蒸留塔、貯留タンク及び充填所等の各施設からの排出特性に応じた、凝縮、吸着、洗浄及び熱分解等の各種抑制対策の適切な実施。
  2.  ② 洗浄用途に使用している各種工場については、洗浄槽について密閉化など設備・構造面からの排出抑制対策の強化。また、排出ガスについては、ダクトの適切な設置、及び必要に応じて処理に際しての活性炭吸着処理設備等の適切な設置及び維持管理。
  3.  ③ クリーニング所にあっては必要に応じて活性炭吸着処理設備等の適切な設置及び維持管理。
      なお、活性炭吸着処理設備等の適切な設置及び維持管理が行われれば、一般的には大気環境指針(暫定値)が確保されるものと考えられる。
      また、活性炭吸着処理設備を設置し、維持管理を行う場合の目標については、現在、検討中であることを申し添える。

 1) 大気への排出口等における濃度の測定


試料の捕集方法
分析方法
 次のいずれかの方法により、捕集を行う。なお、試料の捕集に際しては、チューブ等への吸着等により試料の損失に注意する必要がある。
  1. ①真空瓶による方法
      0.1~1l/分程度の試料採取速度で、一分程度かけて試料の捕集を行う。
  2. ②テドラーバッグによる方法
      0.1~1l/分程度の試料採取速度で、数分~十数分かけて試料の捕集を行う。
  3. ③常温吸着による方法
      活性炭などの吸着剤をステンレス製又はガラス製の捕集管に充填し、0.1~1l/分程度の試料採取速度で、予想される濃度に応じて数分~数時間かけて試料を捕集する。捕集後の吸着剤からトルエン、ヘキサンなどの溶媒によって対象成分を抽出する。
  なお、捕集後は早期に分析することとし、その間は吸着剤を冷暗所に密閉して保存すること。
 ガスクロマトグラフを用い、次に定めるところにより分析を行う。
  1. ①水素炎イオン化検出器(FID)を用いた方法
      この分析方法は、約1mg/m3以上の排出口等における濃度の測定に適用できる。
  2. ②電子捕獲型検出器(ECD)を用いた方法
      この分析方法は、約1μg/m3以上の排出口等における濃度の測定に適用できる。
  3. ③ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC―MS)
      この分析方法は、排出ガス中に多数の共存物質が含まれるおそれがある場合には特に適しており、約1μg/m3以上の排出口等における濃度の測定に適用できる。

 2) 周辺環境濃度の測定


試料の捕集方法
分析方法
 次のいずれかの吸着剤を用いた常温吸着による方法により捕集を行う。なお、試料の捕集に際しては、チューブ等への吸着等による試料の損失に注意する必要がある。また、捕集後は早期に分析することとし、その間は吸着剤を冷暗所に密閉して保存すること。
  1. ①ポーラスポリマービーズなどを利用する方法
      吸着剤をステンレス製又はガラス製の捕集管に充填し、0.1~1l/分程度の試料採取速度で数十分~1時間程度かけて試料を捕集する。捕集後の吸着剤を加熱し、対象成分を気化させる。この捕集方法は、比較的濃度が低い場合に適する。
  2. ②活性炭などを利用する方法
      吸着剤をステンレス製又はガラス製の捕集管に充填し、0.1~1l/分程度の試料採取速度で、予想される濃度に応じて数十分~24時間程度かけて試料を捕集する。捕集後の吸着剤からトルエン、ヘキサンなどの溶媒によって対象成分を抽出する。この捕集方法は、濃度が低い場合から比較的高い場合まで適用できる。
 ガスクロマトグラフを用い、次に定めるところにより分析を行う。
  1. ①電子捕獲型検出器(ECD)を用いた方法
      吸着剤を加熱脱離して得られた試料空気、又は溶媒により抽出した試料液を適当に希釈して注入し、対象成分の定性及び定量を行う。この分析方法は、約0.1~1μg/m3以上の周辺環境濃度の測定に適用できる。
  2. ②ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC―MS)
      吸着剤を加熱脱離して得られた試料空気、又は溶媒により抽出した試料液を適当に希釈して注入し、対象成分の定性及び定量を行う。この分析方法は、排出ガス中に多数の共存物質が含まれるおそれがある場合には特に適しており、約0.1~1μg/m3以上の周辺環境濃度の測定に適用できる。