第1 課題と新たな流れ
地域からの働きかけで制定された瀬戸内海環境保全臨時措置法(後に特別措置法)は先駆的な内容も含んでいる。
瀬戸内海は、我が国において、生活、生産、交通、憩いの場として重要な海域である。
(1) | 水質 瀬戸内法施行時に比べ、COD汚濁発生負荷量は大幅に減少し、赤潮についても、かつての4割程度に減少し、一時期の危機的な状況からは脱したものと考えられるが、近年、環境基準の達成率、赤潮の年間発生件数ともやや横這い傾向にあり、水質の改善は必ずしもはかばかしくない状況にある。 |
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(2) | 藻場、干潟 瀬戸内法施行以降、藻場・干潟の消失速度は鈍化しつつあるものの、昭和53年からの15年間に、藻場については約1,300ha、干潟については約800haが、埋立てや浚渫等の人工改変により、それぞれ消失した。 |
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(3) | 景観 瀬戸内海の景観を構成する島しょ部では、過疎化・高齢化が進行し、一方、自然海岸は開発に伴い少しずつ減少を続けている。人文的な景観も、徐々に減少してきている。 |
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(4) | 埋立て 瀬戸内法施行前と後とでは、埋立て免許面積は大きく減少し、抑制の効果は現れているが、なお埋立面積は年平均 400haを上回っている。 |
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(5) | 新たな課題
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国連環境開発会議以降、環境への負荷が少ない持続的発展が可能な社会の構築及びそのための地域レベルでの取組みの必要性が世界の共通認識として定着しつつある。
我が国では、平成5年に環境基本法が制定され、平成6年には環境基本計画が策定された。環境基本法の基本理念のもとに、平成9年には環境影響評価法が制定された。
このような流れを受けて、環境問題について国民の関心は大きくなっている。
第2 瀬戸内海における今後の環境保全の取組みに対する基本的な考え方
「瀬戸内海が、我が国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地として、また、国民にとって貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきもの」であることは不変であり、瀬戸内海は、生活、産業等を含む人間と自然との共生の場として、海域毎の地理的、自然的、社会経済的な条件を考慮しつつ、今後とも一体的、総合的に保全されていくことが求められている。
今後の瀬戸内海における環境保全施策については、これまでの施策の結果やその検証を踏まえ、既に得られた知見と技術を最大限に活用し、次のことを基本的な考え方として取り組むことが必要である。
瀬戸内海にふさわしい環境を確保し、これを将来に継承するためには、何よりもまず、現在残されている自然環境を極力保全するとともに、発生負荷の抑制と物質循環を促進させ、人間に起因する環境への負荷をさらに削減することが必要である。このため、規制を中心とする保全型施策をさらに充実させるとともに、下水道等の環境負荷低減施設の一層の整備を推進することが必要である。
規制を中心とする保全型施策の充実だけでは、これまでの開発等に伴い既に消失した藻場、干潟をはじめとする浅海域、自然海浜等のふれあいの場等の物理的・生態学的な回復は困難である。瀬戸内海にふさわしい多様な環境を確保するには、これらの失われた良好な環境を回復させ、積極的に環境を整備して将来の世代に継承する観点に立った施策の展開が必要である。
多くの人々が生活を営み、多岐にわたる利用がなされている瀬戸内海において、自然環境を保全し、環境への負荷を低減するとともに、良好な環境の回復を図るには、関係する人々が瀬戸内海の環境に対する理解を深め、積極的に各種施策に取り組むことが求められ、これまで以上に幅広く、緊密な連携を図りながら計画的に推進することが重要である。このためには、地域相互間、主体相互間及び世代相互間の連携の強化が肝要である。
第3 今後の環境施策の展開
(1) | 総合的な水質保全対策の推進 COD汚濁発生負荷量の削減を進めるとともに、CODの内部生産や赤潮の原因となるプランクトンの増殖に影響を与える窒素、燐の負荷量削減を総合的に進めることが重要であり、そのための枠組みについて早急に検討し、対応することが必要である。 |
(2) | 藻場、干潟、自然海浜の保全 藻場、干潟、自然海浜は多様な生物の重要な生息・生育空間、水質浄化、自然とのふれあいの場所などとしても重要である。このことを認識し、埋立て、浚渫等の人為的な直接改変に対し、現存する藻場、干潟、自然海浜を保全する方策を検討するとともに、これらの価値を適切に評価するための方策について検討することが必要である。 |
(3) | 自然とのふれあいの確保・推進と景観の保全 自然との適切なふれあいを通じて瀬戸内海の環境の価値の理解を一層深めることが求められる。このため、施設の整備や自然とのふれあいのための活動を推進していくことが必要である。また、瀬戸内海各地に点在する漁港、段々畑、町並みなどの人文的な景観についても、適切に保全されるよう配慮することが必要である。 |
(4) | 埋立ての抑制 埋立てを抑制するための方策を幅広く検討することが必要であり、陸上残土や浚渫土砂等の搬出抑制、有効利用等の方策を検討するとともに、廃棄物の発生抑制、減量化、リサイクルの促進を図ることが必要である。 一方、やむを得ず埋立てを行う場合においても、環境の劣化を極力防ぐことが必要であり、環境への影響の回避、低減を十分検討した上で、適切な代償措置を検討することが必要である。その際には、浅海域は重要な場であることを考慮しなければならない。 |
(5) | 海砂利採取への対応 海砂利採取が環境に及ぼす影響の究明を促進するとともに、多様な環境を考慮した対策の検討を行うことが必要である。一方、海砂利の代替品の利用及び砂利に代わる骨材等の研究開発を促進し、海砂利への依存度合の低減を図ることが必要である。 |
(6) | 散乱ゴミへの対応 散乱ゴミは、行政における適切な対応とともに、住民や事業者等においてゴミを散乱させないよう注意することが重要である。このため、広報活動、住民参加による散乱ゴミの実態調査等を通じ、散乱ゴミの問題についての意識の向上を図ることが必要である。 |
(7) | 油流出事故対策の推進 これまでの事故等で得られたノウハウを新たな知見を踏まえて適宜修正しながら継承していくことが求められる。その際、事故発生時における保全対象等について検討を進める必要がある。また、環境への影響の少ない防除技術の研究の推進も必要である。一方、事故の影響評価のため平常時の自然環境等の情報の蓄積に努めなければならない。 |
(8) | 島しょ部の環境の保全 島しょ部の環境保全は、瀬戸内海の良好な環境を保全・継承する意味では、瀬戸内海全体の問題であることを、すべての関係者が共通認識として持つことが重要である。住民だけによる保全活動には制約が大きいことから関連する島しょの集合体あるいは市町村・府県全体として島しょ部の環境保全に取り組む必要がある。 |
(1) | 基本的考え方
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(2) | 具体的施策 次の観点から、具体的な施策を進めることが求められる。 (a)自然浄化能力の向上 (b)生物の生息・生育環境の創出 (c)親水性の向上 (d)景観の改善 |
(1) | 「瀬戸内基本計画」、「埋立ての基本方針」及び「瀬戸内府県計画」の見直し | ||||||||||||||||||||||||||||||
(2) | 沿岸域環境の保全・回復計画の策定 沿岸域の保全すべき環境、回復させるべき環境の具体的な目標を設定し、計画的な実施を図っていくことが必要であり、このための行動計画の導入を検討すべきである。 |
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(3) | 制度、事業等における対応 瀬戸内法に規定されている規制措置の見直しの検討が必要である。また、生活排水処理施設の普及及び高度処理導入の促進、養殖、畜産等からの負荷削減対策の推進を図るとともに、環境の保全・回復の観点に合致する事業の推進を図ることが必要である。 |
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(4) | 住民参加の推進 水質改善に向けて住民が負荷量削減に積極的に取り組むとともに、廃棄物の発生の抑制、リサイクルの推進に取り組むことが必要である。また、住民参加の活動を通して、環境保全に関する理解の推進を図ることが求められる。さらに、環境保全のための施策の策定に当たっては、住民の意見を反映する方策について検討を行うべきである。 |
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(5) | 環境教育・環境学習の充実 海とのふれあいを確保し、その健全な利用を促進するために必要な施設や自然環境等の理解を促進させるプログラム等の整備を促進することが必要である。また、瀬戸内海には環境学習の素材が豊富であり、体験的学習の機会を提供するとともに、これを支援するための人材育成について検討することも必要である。 |
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(6) | 調査・研究、技術開発の推進 専門的な調査研究や技術開発を進めるとともに、多様な分野の研究成果や情報を集約し、効率的に施策に活用するため、環境情報や研究、技術開発の成果等のデータベースを整備することにより、情報の共有化等を促進し、研究実施の効率化、連携の強化を支援する。また、環境データを収集するためのモニタリングの充実方策、新技術の効果を確認するためのフィールドにおける実証実験等について検討を進めることも必要である。 |
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(7) | 情報提供、広報の充実 住民参加等を進めるためには、正確な環境に関する情報をわかりやすく公開することが必要であり、環境、社会経済等多様な情報を蓄積し、広く提供するシステムの構築を進めるとともに、広報誌、マスメディア等を通じた広報に努めることも必要である。 |
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(8) | 広域的連携の強化
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(9) | 各主体間の連携と役割 施策の策定・推進に当たっては、住民や事業者等の幅広い意見を調整し、施策に反映するための仕組みづくりが必要である。また、今後の環境保全には、各主体が自主的、積極的に取り組むことが求められ、その際の役割としては以下の項目が考えられる。
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(10) | 海外の閉鎖性海域との連携 環境を保全し、回復させるための先駆的な取組みを進めるとともに、閉鎖性海域に関する国際会議等の開催の支援及び積極的な参加、人的交流、技術開発や施策に関する情報のデータベース化と発信等を促進することが必要である。 |