(別添)

悪臭防止対策の強化のため講ずべき方策の在り方について

(答申)

平成12年3月8日

中央環境審議会


I.悪臭問題の現状等

1.悪臭苦情等の現状

 悪臭に関する苦情件数は、典型7公害の中でも常に上位を占めているが、ここ数年は増加傾向となっており、特に、平成9年度及び10年度は急激に増加している(図1)。この原因は、廃棄物の野外焼却の増加とダイオキシン問題等を契機として臭気問題に対する国民の意識が高まったことによるものと考えられる。

2.悪臭防止法の規制対象外の悪臭発生源

 悪臭防止法においては、都道府県知事が指定した規制地域において、工場その他の事業場(以下「事業場」という。)の事業活動に伴って排出される悪臭が規制対象とされている。同法に基づく規制地域は、平成10年度末現在で全国の52%の市町村で指定されているが、残りの市町村においては指定が行われておらず、同法の規制対象地域はない。また、一時的に設置される作業現場等、一般に事業場の概念に含まれない事業活動に伴う悪臭についても、規制対象とはなっていない。

 平成10年度に全国の市町村に寄せられた悪臭苦情(表1)の総件数は20,092件であるが、このうち同法の規制地域内の事業場(規制対象となる発生源)に対する苦情件数は全体の55%であった。これに対し、規制対象外の事業活動に係る悪臭苦情の割合は全体の22%であり、その内訳は、規制地域内ではあるが規制対象外の事業活動に係る苦情が同7%、規制地域外の事業場に係る苦情が同15%であった。

 以上から、事業活動に係る悪臭苦情のうち、同法の規制対象外の苦情割合を求めると、約3割を占めている。

3.野外における物の燃焼に伴い発生する悪臭

(1) 野外における物の燃焼に伴う悪臭発生事例
 野外における物の燃焼に伴い発生する悪臭には、主に以下のようなものがある。
[1] 建設廃材及び廃油並びにゴム、皮革、合成樹脂等の廃棄物を、意図的に多量に焼却するケース(廃棄物の野外焼却)
[2] 廃電線、廃自動車等を意図的に多量に焼却し、金属を有価物として回収する事業を行うケース(有価物の野外焼却)
[3] 中古タイヤ集積場、シュレッダーダスト集積場等において非意図的に発生する火災事故のケース(野外の火災事故)
 このうち、[1]廃棄物の野外焼却に伴う苦情が近年急増しているほか、[3]野外での火災事故に伴う悪臭苦情も各地で発生しており、行政による対応の強化が求められているところである。

(2) 野外焼却に係る悪臭苦情の発生状況
 平成10年度に全国の市町村に報告された野外焼却に係る悪臭苦情件数は5,881件であり、平成9年度の約6倍と急増している。このうち悪臭防止法による規制地域内における件数は全体の約8割であり、同法に基づく規制地域の指定は主として住居が集合している地域であることから、全体の約2割については、住居が集合していない地域における野外焼却行為に係る苦情であったと推定される。

(3) 悪臭を生ずる物の野外焼却の禁止に係る条例の制定状況
 環境庁が、自治体を対象に平成11年12月に行った調査(表2)によると、都道府県において悪臭を生ずる物の野外焼却の禁止に係る条例を制定しているのは35団体であり、このうち行政措置を伴う規定がある条例の制定は26団体となっている。

4.事業場の事故時に発生する悪臭

 事業活動に係る悪臭には、通常の事業活動に伴って継続的に悪臭が発生するものと、事故時に発生するものに大別される。事故時のケースとしては、工場等におけるタンクや配管等の破損や脱臭塔のトラブルのほか、野外の中古タイヤ集積場やシュレッダーダスト等の火災事故がある。事故時の悪臭被害については、一時的に多量の悪臭物質が放出され、被害が大きくなる傾向にあることや、原因が不明で住民に不安が広がるなどの特性がある。
 このような事故時における悪臭原因物の排出に伴う周辺地域の住民の被害を防止するため、市町村の環境行政部局は、事故に関する情報を直ちに把握し的確な措置を講じていくことが求められている。

5.臭気指数測定体制の現状

 臭気指数規制は、平成7年の悪臭防止法の改正において、複合臭問題等へ効果的に対応することを目的として導入されている。

 同法では、規制基準を3つの形態により定めることとしており、これまでに敷地境界線及び気体排出口における規制基準が設定されている。残る排出水の規制基準については、平成12年2月10日の「悪臭防止対策の今後のあり方について」に関する第三次答申に基づき近く設定される運びであることから、臭気指数規制に係る規制基準が全て整備されることになる。これを受けて、臭気指数規制の普及推進に向けて臭気指数測定体制の充実強化が求められている。

 国においては、臭気指数測定体制の整備を図るため、地方自治体職員に対し、嗅覚測定法に基づく測定手法の研修を実施してきている。また、同法施行規則に基づく臭気判定士免状を受けた者は約1,600人(平成12年2月末現在)となっている。

 また、「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」の平成12年4月の施行に伴い、悪臭防止法の規制及び測定に関する事務が市町村長の自治事務となり、市町村職員による悪臭苦情の処理に当たって、今後、一層の専門的知識が要求されることから、市町村職員の臭気指数測定等に関する資質の向上、測定体制の整備が求められているところである。

 なお、臭気判定士試験は、現在、悪臭防止法施行規則に基づき指定機関において行われているが、「公益法人の設立許可及び指導監督基準」及び「公益法人に対する検査等の委託等に関する基準」(平成8年9月20日閣議決定)により、公益法人に委託等を行う場合は、委託等を行う事務の基本的内容及び事務の委託等を行うことのできる公益法人の基準を法律で定めること等が求められている。

II.悪臭防止対策の強化のため講ずべき方策

1.事業者が悪臭の発生の防止に努める責務の明確化

 現行の悪臭防止法においては、規制地域内に事業場を設置している事業者に対し、規制基準の遵守義務規定が設けられている。さらに、同法においては、国及び地方公共団体並びに国民の責務規定、悪臭が生ずる物の焼却禁止及び水路等における悪臭の防止に係る責務規定が設けられているが、事業者の事業活動一般に対する責務規定は設けられていない。環境基本法の趣旨及び悪臭苦情の現状を踏まえ、事業活動に係る悪臭による住民の生活環境の支障を防止する観点から、事業者が悪臭の発生の防止に努める責務の明確化を図ることが必要である。

2.悪臭を生ずる物の野外焼却禁止に係る対策の強化

 悪臭防止法における悪臭を生ずる物の焼却の禁止規定について、規制地域以外での野外焼却に係る苦情の状況、自治体における悪臭が生ずる物の野外焼却禁止に係る条例の制定状況に鑑み、現行法では住居が集合している地域に適用が限定されているものを、当該地域以外でも住民の生活環境が影響を受ける場合には対応ができるようにすることが必要である。

 なお、廃棄物の焼却行為は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)において、廃棄物の適正処理の観点からの規制が行われており、廃掃法に基づく廃棄物の不適正処理の防止対策の関連にも留意することが望ましい。

3.事故時に発生する悪臭への対応の強化

 悪臭防止法の規制地域内の事業場において悪臭発生を伴う事故が発生した場合、現行法においては、事故に対する応急措置及びその事故の速やかな復旧措置に係る規定が設けられているのみであり、その事故の状況について、当該事業場の設置者から市町村の環境部局に通報する仕組みになっていない。その結果、環境部局による初動体制が確保されず、周辺住民の悪臭に係る被害が発生し、又は被害が拡大するという問題が生じている。

 また、当該事故時において、当該事業場設置者が適切な応急措置を講じない場合、住民の生活環境を保全するため、行政が法に基づく何らかの措置を講じる必要があるが、このような緊急を要する場合においては、現行法の改善勧告・命令の発動による対応は有効に機能しないという問題が生じている。

 以上の問題点を踏まえ、事業場において悪臭発生を伴う事故が発生した場合、当該事業場設置者が、直ちに市町村長へ通報しなければならないことを義務付けるとともに、当該事業者が悪臭原因物の排出の防止のための応急措置を講じない場合において、市町村長が当該事業場設置者に対し当該応急措置に係る命令を行うことができるよう、新たな仕組みを設けることが必要である。

4.臭気指数測定体制の充実強化

 臭気指数に係る規制基準が整備されることにより、臭気指数規制地域の増加が見込まれること、並びに、平成12年4月から悪臭防止法の規制及び測定に関する事務が市町村長の自治事務になることから、市町村による臭気指数測定体制の充実強化を早急に図る必要がある。このため、国による市町村職員に対する必要な研修体制の整備、臭気指数測定マニュアルの作成等を行うことが必要である。

 また、同法施行規則に基づき指定機関で実施されている臭気判定士試験については、平成8年9月の閣議決定に基づき、今後も臭気判定士を国家資格とし、かつ指定機関制度を維持するため、法律で試験等実施機関の適切な位置付けを行うことが必要である。

5.その他

 臭気指数に係る規制基準が平成12年度に全て整備されることから、地方自治体が臭気指数規制の導入を円滑に実施できるよう国が適切な支援を行う必要がある。特に臭気指数規制が複合臭等の問題に適切に対応する方式であり、苦情の実態によく合致するものであることをより積極的に広報し、関係者の理解を得るよう努めることが肝要である。

 また、悪臭苦情の処理には専門的知識が要求されることから、今後、市町村において測定業務の委託にとどまらず、専門的知識を有する者として臭気判定士を活用することが考えられるため、臭気判定士の積極的活用方策について検討していくことが必要である。具体的には、臭気判定士は臭気に関して唯一認められた資格者であることから、その専門性を活用し、悪臭苦情処理の援助、悪臭処理対策等に活躍できる方策を行政施策の一環として推進していくことが大切である。

 一方、近年の悪臭苦情の状況をみると、いわゆる近隣型の悪臭苦情と考えられるものも増加しており、こうした悪臭の未然防止に積極的に取り組むよう、国及び地方公共団体が悪臭防止対策に係る知識の普及啓発を推進していく必要がある。

 さらに、近年は国民の間で生活環境における快適性(アメニティ)を求める傾向が強まっており、今後は、各主体が、悪臭を防止するだけでなく、地域における快適なにおい環境の創造に向け、におい環境指針の作成等様々な取組を推進していくことが望まれる。

(平成11年12月環境庁調べ)