愛知県の知多半島に、地元大学生や複数の企業、団体が関わっている自然共生サイト『知多半島グリーンベルト』があります。知多半島は古くより窯業や醸造業などの産業が盛んで、高度経済成長期以降は工場地帯や住宅地として開発が進み、現在は名古屋への通勤圏として市街地の拡大が進んでいます。知多半島グリーンベルトは今から50年以上前に海を埋め立てて造られた知多半島の臨海工業地帯に位置し、この地に進出した企業が、住宅地と工業地帯を分けるために設置した緩衝緑地帯です。幅約100m、長さ約10kmにわたる広大な緑地帯の木々は、半世紀の間に高さ15mにも成長しました。

モニタリングで確認されたノシメトンボ（2019年）。

当初、緑地の管理については各企業がそれぞれ行っていましたが、2011年に11の企業、自治体、NPO、大学などが連携するための仕組み・仕掛けづくりとして『命をつなぐPROJECT』が、NPO法人日本エコロジスト支援協会により提唱されました。そして単に緩衝地帯としてだけではなく、緑地の質的向上や新たな生物の生息地の創出など、生物多様性を意識した広域的な連携の取り組みが始まったのです。

自動撮影カメラで確認されたオオタカ（2021年）。

企業間緑地群を舞台に生物多様性向上と次世代の担い手育成を目指す『命をつなぐPROJECT』の事務局である日本エコロジスト支援協会の北村秀行さんに、活動の内容について詳しくお話を伺いました。

「住宅地と工業地帯を分ける緩衝のために造られた緑地は、早く成長することを第一の目的で植栽されたので、地域の在来種のほかに外来の樹種や園芸品種などが含まれていました。そこで、緑地の質的向上を図るために外来の樹木の除伐などを進めました。

また、企業、NPO、住民、地元大学生、自治体、そして専門家がそれぞれの立場で保全・支援・啓発活動、場所の提供、情報提供などを行い、緑地の維持管理だけではなく、水辺のビオトープなどの整備を継続して行ってきました。定期的に開催する情報交換会では、すべての関係者が集まり、課題や対策を共有しています。その結果、かつては知多半島の里山で暮らしていたキツネが確認されるなど、さまざまな生き物が生息するようになりました」

東邦ガスの緑地で撮影されたキツネとアニマルパスを通過するキツネ（いずれも2020年）。

「現在は、毎年9月に12社の企業の協力のもと、緑地見学会を開催し、多くの方に参加していただいています。参加した子どもたちは、カブトムシやバッタ、野ウサギを初めて見るなど、貴重な体験をしています。

そして私が特に言いたいのは、多くの企業が関わる知多半島グリーンベルトの『命をつなぐPROJECT』の活動には、地元大学生の働きかけが大きく影響してきたことです」

地域の学生と連携した企業緑地のウシガエル駆除（2019年）。

「最初、企業の担当者は、緑地保全活動と企業活動をどのように連携すべきか迷っているように感じました。ところが、地元大学生によるフリーペーパーやWebサイトでの情報発信、企業に実際に出向いて活動することによって、緑地保全活動の内容が明確になり、企業の担当者の意識が徐々に変わっていきました。そして企業内での理解も深まっていったのです。大学生は最大で約100人以上の参加者がありましたし、次世代の担い手でもある学生たちが先導的な役割を担っていくようになり、むしろ私たち大人が引っ張ってもらいました。

企業のなかには、担当者が会社から緑地保全活動を認められて社長賞をもらい、担当部門が注目を集めたといううれしい報告もありました。また、転勤や卒業でこの地を離れたあとも、企業人や大学生としてではなく、個人として私たちの日本エコロジスト支援協会に入り、活動を継続している方もいらっしゃいます」

学生・企業が連携した地域住民向け緑地見学会の集合写真（2022年）。

最後に今後の目標についてお話しいただきました。

「生物多様性を考えたとき、私たち知多半島グリーンベルトの『命をつなぐPROJECT』の活動だけでは貢献度が足りないと感じています。もっと活動へのモチベーションを高めていき、周りにも活動のネットワークを広げ、地域から国、世界につながるようにしたいと考えています。いかに点から線、線から面へと広げていくかが、これからの目標です。そのためにも、この自然共生サイトに登録された仲間の中で交流を広げていきたいと思っています」

下記の「関連リンク」に「命をつなぐPROJECT」のホームページがありますので、興味がある方はご覧ください。