自然共生サイトってなんだろう?

今月のテーマ

つなぐ森
[野村不動産ホールディングス株式会社]

つなぐ森

生物多様性の保全は企業経営にとっても重要な課題の一つになっています。その課題解決に向けて野村不動産グループでは、東京都・奥多摩町の森林(実測面積約130ha)を取得し、『つなぐ森』と名付け、循環する森づくりと事業活動を連動させる「森を、つなぐ」東京プロジェクトに取り組んでいます。

野村不動産グループはこれまでも、建物の「省エネ」「低炭素化」「再エネ」の推進など、二酸化炭素(以下、CO₂)総排出量の削減に向けて取り組んできましたが、生物多様性の観点でのさらなるサステナビリティの推進に向けて、主要事業エリアである東京の川と海につながり、自然の循環の中で重要な役割を果たす『東京の森』に着目しました。

つなぐ森の樹木の様子。

つなぐ森の樹木の様子。

日本の森林では、伐採に適した時期を迎えながらも、輸入材の増加などを背景に放置される樹木が多い状況です。放置された森林では、地面まで太陽の光が行き届かず下草が成長しないため、生息できる生物種が限られてしまい、また、土壌が脆弱になり土砂崩れの原因にもなります。さらに、樹木の高齢化によってCO₂の吸収量が落ちるなど、さまざまな弊害をもたらします。そこで、生物多様性の保全にも貢献する『つなぐ森』での循環する森づくりと、東京都心部での不動産開発などによる木材活用とを連携させた、ランドスケープアプローチ(※)による不動産デベロッパーならではのプロジェクトが始まりました。

※一定の地域や空間において多様な人間活動と自然環境を総合的に取り扱い、課題解決を導き出す手法。

つなぐ森での伐採の様子。

つなぐ森での伐採の様子。

ランドスケープアプローチのイメージ。

ランドスケープアプローチのイメージ。

『つなぐ森』の特徴について、野村不動産ホールディングス(以下、野村不動産HD)サステナビリティ推進部の榊間綾乃さんにお話を伺いました。

「日本に数多くある森林の中でも、東京都心から電車で1時間半ほどの立地にあること、東京圏の最寄りの自然であることが『つなぐ森』の独自性の一つだと思っています。また、木材生産やワサビ栽培などの森林資源活用や、既存の登山道や新設の歩道を活かしたレクリエーションなど、多様な生態系サービスを有している森林でもあります。そのため、ただ保全するだけにとどまらず、東京圏の方々を中心に、自然と都市の共生の場としての価値があると思っています」

絶滅危惧種のヒガシヒダサンショウウオ(左)とギンラン(右)。

絶滅危惧種のヒガシヒダサンショウウオ(左)とギンラン(右)。

「今年度から開始した生態系調査ではすでに42種の重要種の生息が確認されており、それらの種の保全と森林経営を両立させるため、森林の伐採方法については、毎年、離れたエリアを小規模な範囲で順番に伐採する『小規模モザイク状皆伐(かいばつ)』を採用しています。皆伐とは一定区画の木をまとめて伐採することですが、一度に広範囲を皆伐すると、突然の大きな環境変化によって生息していた生き物が順応できなくなってしまうのです。植林については、今は針葉樹が7割超占めているところを、伐採と植林の過程で一部に広葉樹の苗木を植えて育て、将来的には異なる高さの樹木で構成される『複層林』を目指しています。そうすることで、森林全体に日光があたり、生物多様性保全とCO₂吸収量の増加も見込めます」

伐採跡地群落とマキノスミレ

スギやヒノキの人工林が成立しており、モザイク状に伐採された箇所に低木が侵入し伐採跡地群落が成立(左)。在来種の一つのマキノスミレ(右)。

短期的利益を求めると、企業による森林経営と生物多様性保全の共存が難しく感じられますが、これらの活動を後押しするのが国際的組織 TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures=自然関連財務情報開示タスクフォース)です。野村不動産HDもフォーラムメンバーとして参画しています。TNFDとは自然に関連する企業の取り組みを適切に評価し、生物多様性保全の活動に資金の流れをもたらすことを目的とした組織です。国内では野村不動産HDのほか、環境省や金融庁などの省庁、メガバンクなどがメンバーになっており、自然を適切に理解し、自社の自然への課題に取り組む企業が増えています。

『つなぐ森』の具体的な活動についても伺いました。

「『つなぐ森』では、東京圏の最寄りの自然である立地を活かし、生態系サービスの活用を図ること、つまり『生物多様性をビジネスで解く』ことでネイチャーポジティブにつなげられないかと考えています。私たちは、『つなぐ森』で得たスギなどの木材を無駄なく活用し、自然と都市の間に新しい経済活動を生み出すことを目指しています。例えば、木材の部位に応じて建材用や家具用、そしてバイオマス燃料用など用途を分け、木材を余すことなく利用するカスケード利用(多段階的に使うこと)に挑戦しています。木材そのものの価値を高めることが、木材生産に依存しない生物多様性豊かな森づくりにつながります。すでに自社グループ内で利用する建築物で試用を始めており、2025年に本社移転を予定する芝浦プロジェクト(東京都港区)でも『つなぐ森』の木材を使用する予定です。その後は、店舗や住宅などの不動産商品へも活用先を広げていきたいと思っています」

浜松町トライアルオフィスでの木材活用。

浜松町トライアルオフィスでの木材活用。

最後に今後の目標についてお話しいただきました。

「『森を、つなぐ』東京プロジェクトは、世界中を見ても例の少ない取り組みです。すべては始めたばかりで数十年先を見据えた構想なので、私たちがトップランナーとしてノウハウを蓄積し、他の地域の模範となるモデルケースを目指していきたいと思います。とても大きなミッションではありますが、地域や有識者の方々などいろんな方から学びを得て、生物多様性の保全に挑戦していきたいと思います」

【データ】

名前 :つなぐ森
住所 :東京都西多摩郡奥多摩町
TEL :03-3348-8208
(野村不動産ホールディングス
株式会社 サステナビリティ推進部)

CATEGORY