環境省
VOLUME.74
2019年12月・2020年1月号

エコジンインタビュー/肉眼では見えない小さな生き物に負けたことが研究者人生の転換期でした。/五箇公一

五箇公一

オールブラックの服にサングラスというハードな風貌が
トレードマークとなっている生物多様性の専門家・五箇公一さん。
異色の学者がどのように研究への道を歩んだのか、
そして人間と生態系との関係を含めた環境を守る術について伺いました。

「ダニ博士」、「外来種バスター」の異名を持つ五箇公一さんが生き物の面白さに目覚めたのは、幼少の頃。故郷の富山県の野原でさまざまな昆虫やカナヘビを捕り、川ではザリガニや亀を捕獲し、それらを家に持ち帰り飼育していたと言います。
「人間とは全く異なる姿形をした生き物の生態に対する興味が強かったですね。だから捕まえて標本にするのではなく、ペアリングして増やすなど、もっぱら育てることを楽しんでいました」

  成長した五箇青年は、その頃盛んだったバイオテクノロジーに興味を持ち、京都大学の農学部に進学。しかしそこでダニに巡り合い、心を鷲づかみにされてしまいます。そしてバイオテクノロジーに背を向け、ダニの研究に没頭していきました。一体、ダニの何が五箇さんの心を捉えて離さなかったのでしょう。
「こればっかりは、ただ面白かったから、と言うしかないよね。人の肉眼では見えないのに、顕微鏡をのぞけばダニは確かにそこに存在して生きている。説明なんてできないけど、ミクロの世界にロマンを感じたってことかな」

 卒業後は農薬会社に就職し、ダニを駆除する農薬開発などに従事した五箇さん。「ダニのような小さな生物は世代交代が早く、ゲノムの構造も比較的簡単だから、進化速度が速いのです。つまり環境の変化にすぐに適応し、薬剤に対してもすぐに抵抗性を発達させます」。そのため、いくら農薬を開発してもすぐに効かなくなるイタチごっこだったと振り返ります。
「害虫に負けた、と思いました。それがきっかけで、研究者人生の方向を大きく転換したのです」

グローバルに人も物も生物も行き来する時代 大切なのは地域の固有性を守ること

 現在在籍する国立環境研究所では、侵略的外来生物のリスク評価と対策手法の開発を研究しています。今、日本を脅かしているヒアリに関しても、五箇さんは10年以上も前からそのリスクを呼びかけていました。
「これだけグローバルにモノが移動する世の中ですから、外来生物の侵入を人為的に食い止めることはほとんど不可能と言っていい。ヒアリのように物流に乗ってやって来るものへの対策は非常に難しいです。本来、生態系はその土地で進化した生物たちによってしっかりと築き上げられているもので、外から侵入してきた生物が簡単に根付くことはできません。ではなぜ外来生物が増えているのかと言えば、人間の活動によって生まれた生態系のほころびに入り込んでくるからです」

 人間が存在する限り、生態系は崩れ続けるという衝撃的な言葉。では私たちが生態系を守るためにできることはないのでしょうか。
「江戸時代の日本のように鎖国すれば、外来種の問題はそれほど派手にはならないでしょうが、それは非現実的です。ではどうすべきなのか。先ほども少し述べたように、生物というのは、その地域の環境に根差して進化したものが最強なのです。国が玄関を閉ざさずとも、各地域の自然や風土といった固有性を大切にすることが、その地域にすむ生物を守り、生態系を守ることにつながるはずです。昨今は田舎への移住がトレンドになってきていますが、地方に注目している人たちは、その土地ならではの自然の恵みに気づいていて、それを大切にしていこうとしているのではないでしょうか。こうした動きが土地ごとの固有性を高めていくと感じています」

 かく言う五箇さんも、旅に出ればその土地のものを味わって、ローカリティの素晴らしさを確認していると言います。
「地方に行けば、その土地でとれたものを食べておいしさを満喫しています。人を動かす原動力はやっぱり楽しさ。研究を続けてきたのも『好き』とか『楽しい』って感情があったから続けられた気がします」

 

profile

五箇公一

富山県出身。高校時代は登山部に所属。京都大学農学部に入学後もサークル活動として登山する傍ら、オフロードバイクにはまって日本一周をする。京都大学大学院修士課程修了後、山口県にある農薬会社に勤務。その後京都大学に戻り博士号を取得し国立環境研究所に入所。多才で、趣味としてCGで生き物の絵を見事に描く。

PRESENT

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写真/有坂政晴

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